試着で服を見せよう
サトーヨーカドーに着くとまず四人は何かを話し合っていたようだったが、大方最初にどこに行くかとでも話し合っていたのだろう。清河が何かを言うと、三人は肯定の意を示し三階へと向かっていた。
「まずは服屋で二時間か……。さて、その間俺は何をしてようか」
二時間服屋を見て回っている人というのも変である。かといってあの四人に見つかるとまたストーカーやらなんやらと言われかねない。
しかしなんとしてもあの四人の様子を見たい慶喜は何かいい方法がないかと考えた。
(あの四人が一緒に行動してくれればまだ可能性はあるか。だが、だとしても隠れる場所が少なすぎなんだよな、ここ)
すると慶喜の望み通り一緒に行動し始めた。どうやら美麗唖はまだしも、男子二人が美優の服を見たいがために一緒に行動したいようである。
「やはり声が聞こえないとなにかと不便だな」
そう言いつつも慶喜は四人の後を追った。
美優は慶喜と来たときから目を付けていた服屋に入った。そこで美麗唖は美優の肩を掴んで、
「美優ちゃんはいつもそんな白の服なんだよね~。この際に違う服の色でも買っちゃわない?」
「私は白以外似合いそうもないから……」
美優がそう言うと最初に反応したのは亮雅ではなく大地だった。
「まさか! 清河さんならどんな服でも似合いますよ!」
「確かに大地の言うとおりだね。ここは清河さんの服でも選んでみようか」
「それじゃ! 誰が一番美優ちゃんに合う服を選んでくるか勝負しようよ!」
「み、みっちゃん……!」
美優の制止も聞かず、三人で盛り上がり、結局美優もその勝負に加わることになった。
「勝負方法は簡単! この店で各自服を上下調達する。その後、美優ちゃんが試着してどれがいいか選んでもらう。負けた人は……」
「みっちゃん、罰ゲームで奢るとかはダメだよ」
「わかってるって! 罰ゲームは後で考えようか! それじゃ制限時間は一時間! それじゃ、始め!」
美麗唖のその合図に四人は四方八方へと散らばった。
だがすぐに美麗唖は帰ってきて、その手には適当に選んだ服があった。それからわかるとおり美麗唖は勝負に勝つ気はない。
(さてと、亮雅君のところに行って様子でも見てこようかな)
亮雅が行った方向へと向かい、五分ほど探していると真剣な顔をして悩んでいる亮雅を見つけた。
最初に言い出した美麗唖が言うのもなんだが、美優は白が一番似合うと思っていた。だからこそ、白以外の服を男子達はどういう風に選ぶのかが気になるのだ。
(亮雅君はピンクか。残念だけど女子はピンクっていう発想はあまりよくないんだよね~)
「清河さんはやっぱりワンピースが似合うと思うんだよな」
「ふむふむ……、さすがにそこはわかってはいるけど、君にワンピースを着てくることはないんじゃないかな。ワンピースって基本勝負服だし」
「アンタもなかなかの奴だな」
「にゃ!?」
美麗唖の奇声に亮雅は一瞬振り返ったが、気のせいということでまた服を探し始めた。
心臓がバクバクの美麗唖は必死に隠れてその場を過ごしたあと、すぐに声をかけてきた人物を見た。
「き、君は噂のストーカー君!?」
「声が大きい。亮雅にバレるぞ」
慶喜にそう言われ美麗唖は自分の口を塞いだ。それから小声で、
「まさか本当にストーキングしているとは思わなかったよ」
「ストーキングじゃねぇ。そんなこと言ったらお前が今やっているのもストーキングだ」
「それで、私に何の用かな? もしかして私を狙っていたとか?」
「死んでもないから安心しろ」
「私のピュアな心が傷ついた!」
何気に相性が合っている二人は亮雅を観察しながら話し合った。
具体的には美優が恋愛相談部に来たこと。その相談内容など。
一通り慶喜が説明した後、美麗唖はニヤリと笑った。
「そういうことか~。うんうん、なるほど」
「お前、今のだと三回納得した感じに聞こえるぞ」
話は少し戻って数十分前。
会話が聞こえない慶喜が思いついた案は『協力者を作る』ことだった。
その協力者として美麗唖が選ばれたのだが、その理由は消去法と勘だ。男子二人は慶喜のことを目の敵にしていることからボツ。美優は見られていることに緊張してしまう。となると余った美麗唖となる。
さらに美麗唖は慶喜が見たところ恋愛を見ることを楽しんでいるようなので、美麗唖なら説得できるかもと思ったのだ。
そして話を戻して今。
「わかったよ。協力してあげる。ときどきトイレにでも行って君に情報を伝えてあげるよ」
「助かる。それじゃ、俺はいったんここから離れる。見つかるとまずいし」
「了解~。君も頑張ってね」
「何をだよ……」
そう言って慶喜は亮雅に気付かれないようにその場を後にした。
(これは本格的に面白くなってきたな~。おっと、亮雅君がついに服を選んだか)
美麗唖はその服を確認した後、何事もなかったかのように集合場所まで戻った。
美麗唖、亮雅、美優、大地の順番で戻ってきたところで服選びは終了となった。
「それじゃ、まず私のから! はい、これ!」
「みっちゃん、変な服とかじゃないよね」
「私はそんなことしないよ!?」
(私ってそんな意地悪に見えるかな~? だとしても、今回はそんなことする暇なんてなかったから安心してよ、美優ちゃん!)
美麗唖から服を受け取り、美優は試着コーナーへと入っていくと服を脱ぐ音が聞こえた。
それだけで男子二人は顔を真っ赤にして、下やら横を向いていた。
(初心だな~。たぶんストーカー君は黙って待っていそうだけど)
そうしていると美優は着終わったみたいでカーテンを開けた。
そこには水色の長袖に黒のスカート。そのスカートには白の水玉模様が入っていた。
(自分で選んだものだけどやっぱり普通だな~。ま、今回は私がメインじゃないけど)
美麗唖が男子陣を見ると二人とも美優に見とれていた。
「ど、どうかな……!」
「美優ちゃん、それを決めるのは美優ちゃんなんだよ」
「う、うん……」
「それじゃ、次行ってみよう!」
次に着るのは美優が自分で選んだものだった。
カーテンが開くと、やっぱり美麗唖が想像していたとおり白の服に黄色のスカートだった。
「美優ちゃんはやっぱり白か~。それじゃ、次!」
次は大地だったが美麗唖はどうでもよかったんで割愛させていただきます。
結果でいえばザ・普通でした。
「これで最後! 亮雅君のです!」
美麗唖がそう言うと同時にカーテンが開き美優が現れた。
そこには薄いピンクのワンピースを着た美優がいて、似合ってはいるのだがどうも腑に落ちない感じではあった。
(やっぱりね~。美優ちゃんは基本的にどんな服でも似合っちゃうからね~。でもやっぱりピンクだと子どもっぽい感じがするよね~)
亮雅の服は美優にもあまり納得されず、結局勝者は美麗唖になった。
「君たちまだまだだね~。私はいつでも挑戦を待っているよ!」
「私はダメです!」
(いや~、まさか適当に選んだ服で勝利するとは思わなかったよ……)
それから四人は慶喜の予定通り昼食をすることになったのだが、ここで問題が起きた。
「お、俺が調べたところでは上の階のレストランがうまいらしいんだ! そこはどうですか!?」
「あ、俺もそこに行きたいかな」
「「え?」」