歩くときは会話をしよう
今回は結構短めです。
昨日と同じ時間に慶喜は目が覚めた。昨日と同じように冷蔵庫を開け、昨日と同じような料理を作った。
テレビをかけると、昨日の予報通り今日も晴れるらしい。
「確か、待ち合わせは九時半だったよな……」
朝ご飯が終わった後、適当な服に着替え、小さな鞄に財布だけを入れてテレビを黙って見ていた。
(はぁ……。俺の休日が二日連続で潰されると萎えるな……。なんでこんな依頼受けちまったかな)
朝から鬱な気分になりながら、慶喜は九時に家を出た。
今回は能面は付けていない。
昨日の美優の連絡通り、美優は学校の校門前にいた。
(清河が最初か。女子を待たせるのは減点だぞ少年達)
するとすぐに亮雅とどこかで見たことがあるような男子生徒が来た。
(あいつって、確か俺に注意した奴じゃねぇか。は~、あいつサッカー部だったのか)
「おはよう、清河さん」
「お、おはようございます! き、清河さん!」
「お、おはよう……」
亮雅は美優と最近よく話している所為か、普段と変わらない様子だったが、隣の男子生徒は緊張しきっていた。
(そんなに清河と話すのがうれしいか? 俺はそんなの別にどうでもいいのだが)
「え、えっと、清河さん。その服……。に、似合っているね……!」
「そ、そうかな……!」
「バッチリっすよ!」
慶喜に忠告したときと口調が思いっきり変わっているが、それほどまでに緊張しているのだろう。だが、あまりに緊張具合に美優も少し困惑していた。
そんなとき、最後の人物が到着した。
「やっほー! もしかして待たせちゃった? 私が美麗唖だよ-!」
「ああ、君が……」
「そこは、僕も今来たところだよ、と言わないとダメだよ!」
「え? あ、あぁ……。そうだね」
突然のハイテンションぶりに亮雅は押されていた。それからもう一人の方にも挨拶し、美優とお互いに今日のことを話していた。
(うん。予想通りの奴だな。予想通りすぎて俺がエスパーだと錯覚したくらいだ)
すると亮雅がサトーヨーカドーに行く前に三人に提案した。
「皆集まったことだし、ここは自己紹介でもしていこうか」
亮雅はいかにもちゃんとしたこと言っていますよ感を出していたが、慶喜に言わせればその提案はバツだ。
(今自己紹介するってことは立ったままってことだろうが。女子を余計なことで立たせるな。まだまだ未熟だな若者。ラノベを読んでこい)
そんな慶喜を放っといて自己紹介が進んだ。
亮雅と美優はもう知っている。問題なのは……
「俺は! 僕は木村大地です。亮雅と同じサッカー部です! よ、よろしくお願いします!」
「私はさっきも言ったけど三上美麗唖だよ! 部活は無所属の元気が取り柄で~す!」
大地は美優の前だから口調も一人称も変えていたが、美麗唖は亮雅の前でも変に取り繕う気はないようだった。
亮雅も大地のその様子には気付いていて、
「大地、なに緊張してんだよ。いつも通りでいいんだって」
「お、おう」
一通り自己紹介が終わった一同はサトーヨーカドーまで歩くことになった。
歩いている最中も慶喜の予想通り亮雅は必死に美優に話しかけていた。
「清河さん、それであれから大丈夫かい?」
「何がですか?」
「ストーカーのことです」
亮雅にそう言われ今まで忘れていたことを思い出し、美優は悲しい顔をした。慶喜はそんなことをする人ではない、そう言いたいが慶喜には言わないように言われている。
それに対して亮雅はその顔を不安と受け取ったのだろう、真剣な目つきで言った。
「大丈夫! 僕が守ってあげるから」
「う、うん……。ありがとう……」
そんな会話を遠くからところとごろ聞いていた慶喜は、
(楽しく遊びましょうっていうときにそれを言うか普通? 亮雅……、お前はもう少し考えて行動した方がいい)
そんな中他の二人はと言うと……
「今日で清河さんと少しでも……!」
「ふむふむ……。なんだか楽しくなってきた!」
美麗唖は意外と鋭いらしく、美優の気持ちを大体察していた。美優の本命が亮雅ではないこともなんとなくわかっていて、それでも亮雅が頑張っている姿をニヤニヤしながら見ていた。
もう一人は話にならない。
(俺を睨んだ人物とは思えないくらい別人みたいだな。あれはある意味清河よりも恋愛相談部に来るべき人間だぞ)
それから四人の後をついていった慶喜だが、やはり聞こえてくるのは少しだけだった。かといって距離を詰めるとバレる可能性もあるので近づくこともできない。
「はぁ……。盗み聞きは諦めるか」
慶喜がそう言ったとき後ろから視線を感じた。さりげなく後ろを見たが、怪しい人は見つけられなかった。
(バレないように尾行していたつもりなのだが、誰かに見つかった? もしくは気のせいか。まぁ、小説じゃあるまいし、視線を感じるなんてことはありえないか)
そうして慶喜はさっきと同じように四人の尾行を続け、四人とともにサトーヨーカドーに着いたのだった。