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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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明日の準備をしよう

 しばらくゲームセンターで遊び、慶喜が時計を見ると四時となっていた。


「もう四時か。そろそろ帰るか」

「えっ、もう帰るんですか?」


 美優はまだまだ遊び足りないとでも言うかのような顔をした。実際は遊び足りないわけではなく、慶喜と一緒にいられないことが嫌なだけだが。


「これ以上俺の体力が保たないんだよ。休みの日に外出しただけでも褒めてほしいところだな」

「そうですか……。それならそうですね。帰りましょう」


 そうして二人はサトーヨーカドーを出て、朝の待ち合わせの場所へと移動した。

 最初は慣れていなかった慶喜の能面にも美優は慣れてきて、町の人達が見てくるのも気にしなくなっていた。


「それじゃ、ここで。今日見たところ変わったところは特にはなかった。あとは明日の待ち合わせ時間をちゃんと亮雅に伝えておくだけだ」

「わかりました。十時ですよね」


 慶喜は黙って頷いて肯定の意を示した。それから慶喜は自転車に乗って家へと向かった。

 その後ろ姿を名残惜しそうに美優は見つめていた。
















 家に帰ってきてから慶喜はすぐにベッドの上に倒れ込んだ。


(疲れた……。能面の中は汗で蒸れ始めていたし、久し振りに動いた所為で足が張ってんだけど……)


 我ながら体力がなさすぎだとは思うが、慶喜はそれでも改善しようとは思わなかった。


(だって改善しようと身体を動かすのがもう面倒くさいんだよなぁ……)


 そうしてベッドの上でぐったりしているといつの間にか慶喜の意識は夢の中へと吸い込まれていった。


 八時になると慶喜は腹が減って目が覚めた。


(なんか前にもこんなことがあったよな)


 慶喜は眠い中、冷蔵庫の中のものを取り出し軽く料理をした。具体的にはご飯の上にお茶をかけるだけ。ちなみに冷蔵庫の中から取りだしたのは昨日余ったご飯です。

 その後、テレビを見ていると電話がかかってきた。スマホの画面には清河と表示されていたが、慶喜はなぜ美優が電話してきたのかわからなかった。


(今更俺に何の電話だ? 俺に電話するくらいなら明日のことを考えた方がいいと思うんだが)


 慶喜はそう思いながらも通話ボタンを押した。それと同時にテレビの電源も消した。


『け、慶喜君。ちょっといいかな……』

「俺は別にいいが、一体何の用だ」

『用ってことでもないんだけど……』


プツッ。ツーツー……


 慶喜はため息をつくと、スマホをそのままずっと見ていた。間違いなくまた電話がかかってくることはわかっているからだ。

 すると慶喜の予想通りすぐスマホが鳴った。


「はい、もしもし」

『どうしていきなり切ったんですか!?』

「用ってことでもないんですけど、と言われれば誰でも切るだろ」

『切りませんよ!?』


(うんうん、なかなかいい反応をしてくれる。俺もやっと眠気が覚めてきたところだ)


 一通り美優で遊んだ慶喜は早速本題に入った。


「それでどうしたんだ? 何かあったのか?」

『実は十時に待ち合わせと連絡したのですが、九時はどうかと返信が来まして……』


 その内容に慶喜は思わず呆れた。


(別にどうでもいいだろ……。そんなことのためにいちいち連絡してきたのかよ。いや、まぁ、俺としてはありがたいんだけどさ)


 薄々気付いているとは思うが、慶喜は明日美優達を尾行しようと考えている。美優はあの性格上、予定外のことが起こった場合、対応できないと慶喜は考えている。そこで慶喜は美優達を尾行して、できることなら援護したいと考えていた。


(まぁ、援護なんて言っているけど、実際はどうやって援護すればいいかわからないんだけどな)


「サトーヨーカドーの開店時間っていつだ?」

『そういえば知りませんね』


 すると電話の奥からカチカチと音が聞こえはじめ、美優がパソコンで調べているのはすぐわかった。


(自分の部屋にパソコンがあるのはいいよな。俺はそもそもパソコンとか持っていないけど)


 しばらくしてから電話から美優の声が聞こえた。


『十時でした』

「なら九時に待ち合わせする意味がない。それなら九時五十分にでもしておけ」

『わかりました。それじゃ、いったん切りますね』

「ん? いったん?」


 慶喜の疑問は美優に聞こえなかったのか、美優は返答することなく電話を切ったようだった。

 しばらくするとまた電話が鳴った。


「今度はどうした?」


 慶喜は若干イラつきながら言うと、美優は本当に申し訳なさそうに言った。


『歩いて行かないかって……』

「はぁ? なんで……、いや、そういうことか」


 どうやら亮雅は美優と少しでも長く話すために歩いて行きたいようである。

 慶喜は少し考えてから、


「よしわかった。それなら九時半に待ち合わせにしよう。明日は歩いて行くか」

『自転車じゃなくていいんですか?』

「歩いている間に亮雅とちゃんと話せるようになるかもしれないからな」

『なるほど』


 そうしてまた美優は電話を切った。しかし、慶喜はなんとなく予感していた。あともう一回は最低でも来るはずだと。

 ということでまた鳴る。


『今度は能面の人は誰だって』

「亮雅面倒くせぇな……」

『まぁまぁそう言わずに』


 美優はそう言うが慶喜としては、清河もそれくらいなんとかしろよ、というのが本音であった。もちろん言わないが。


「適当に知り合いとでも言っておけ」


 慶喜は当たり前のように言ったが、美優はその言葉に引っかかった。


『知り合い、ですか? 友達ではないのですか?』

「どっちでもいい。しかし、友達と言うと評価が下がるかもしれないぞ」


 変人が友達と言うとその人も変人に付き合う一種の変人となってしまう。しかし、知り合いと言えば、いやいや付き合っていると勘違いしてくれるかもしれない。

 慶喜は美優にそう伝えると、


『それなら友達でいいです』


 即答だった。その様子に慶喜は驚きを隠せないでいると、


『これ以上慶喜君だけに嫌な思いはさせたくありませんから』


 まさに美優らしい解答だった。美優が言っているのは慶喜のストーカー疑惑のことだろう。


(いや、俺は別に嫌な思いはしていないのだが……)


 慶喜はそう思ったが、美優には言わず軽く笑った。


「勝手にしろ」

『うん……!』


 電話の奥で笑顔を浮かべているのがわかるような声で美優は返事して電話を切った。

 今度こそ電話が終わったと感じた慶喜は寝間着に着替えてベッドへと向かった。先ほど起きたばかりだったが慶喜はまたすぐに眠った。



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