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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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昼食の場所を決めよう

 地下一階のレストランで昼食を取る。それが慶喜の予定だ。しかしここで慶喜が予想もしていないアクシデントが起きた。


「まさかこんなところで伏兵が現れるとは思っていなかった」

「は、ははは……」


 慶喜が仮面の下で真剣な表情をしているのに対して、美優は渇いた笑みを浮かべていた。

 二人の座っているテーブルには二つの料理が並べられていた。一つは慶喜が頼んだ醤油ラーメン、もう一つは美優が頼んだホットケーキ。醤油ラーメンの汁はいかにも醤油であることを強調しているかのように黒くて、これを飲む人は健康に気を付けるべきだ。

 話は戻して慶喜は真剣な表情をしていた。

 仮面の下・・・・で。


「どうやって俺は食べればいいんだ?」

「外しちゃった方が……」

「俺は顔を見られたくないんだ」


 そう。慶喜の予想外の出来事は自分が仮面を付けてきてしまったことだ。能面の所為で慶喜は人に顔を見られずに食べるということができなくなったのだ。完全に自業自得である。

 慶喜のラーメンはこうしている間にも伸び始めているが、慶喜が食えないほどではない。美優は先に食べていてもいいのだが、慶喜が食べない中、自分だけが食べるのもどうかと思い待っているのだ。


「仕方ない。口のところだけ上げるしかないか」

「それじゃ、ラーメンが見えないよ」

「ぐっ……」


 どうすることも出来なくて慶喜は固まっていた。端から見ればラーメンを必死に見ている能面の妖怪にしか見えない。


(……はぁ、仕方ない。少しというかだいぶ目立ってしまうが、ここは覚悟するか)


 慶喜は覚悟を決め美優に提案した。


「清河。ここは清河が俺に食べさせるしかない」

「え!?」


 美優が驚くのも無理はない。美優が慶喜に食べさせるとはつまりそういうことである。『あ~ん』である。


「ラーメンでそれはなかなか難しいが、今俺が考えられる方法はこれ以外ないんだ」

「で、でも! それだとまるで私達……!」

「彼氏彼女の関係だと思われることは多分ないはずだ」

「ど、どうしてですか!?」


 慶喜は美優を落ち着かせるような声で言った。


「能面とデートする奴がいると思うか?」

「いなくは……ないんじゃないかな」

「いないと俺は信じてる」


 ここで議論しても埒があかない。美優は覚悟を決め、自分の方にラーメンを引き寄せた。


「それじゃ、いくよ……」

「頼む」


 慶喜は能面を上にずらして、真っ暗の中、口だけを開けた。口の周りに暖かい空気があるのを感じ、少しすると口の中に箸らしきものとラーメンらしきものが入ってきた。


(目の前が真っ暗だと自分が食べているものがなにか分からないから怖いな……。いや、清河がそういうことをしない奴だとは分かってはいるけどさ)


 慶喜の前では美優が顔を真っ赤にしていたが、慶喜にはまったく見えなかった。

 そんな二人を見て、まわりの人達はどう反応していいか分からず、次々と店を出て行った。もちろん、店の人達はそんな二人を快く思っていないことは明らかであった。
















 なんとか昼食を食べ終わった二人は一休みにデザートを頼んだ。慶喜は頼まなかったが。

 美優がデザートを食べながら二人は適当に雑談をした。


「慶喜君って何の教科が得意なの?」

「数学」

「私はあまり得意じゃないかな。私が得意なのは」

「理科系だろ」

「違うよ。英語」


 慶喜は美優にこれまで理科系のことを教えてもらっていたから、てっきり理科系が得意だと思っていたがそうではなかったらしい。


「慶喜君の理科系がひどすぎるだけだよ」


 ぐうの音も言えないことが悔しい。実際、慶喜の高校入試の得点は理科が断トツに低かった。それ以外でなんとかカバーできたから良かったが、できていなかったら確実に落ちていた。慶喜の知らないことだが、理科の入試テストは新入生の中で下から一番目である。


「慶喜君の名前ってどうして徳川慶喜と同じ漢字なの?」

「俺の親というより先祖の所為だな」


 慶喜の先祖はうまく名前を付けるのができなかった。それで、自分が知っている人の名前の漢字を違う読みにして子どもにつけたそうだ。

 普通そこで子どもは自分が嫌だったことを自分の子にしないはずなのだが、さすが慶喜の先祖である。自分が嫌なことは自分の子にも味合わせる、最低きわまりないことをしたのだ。

 それが今も続いているそうで、人の嫌な思いは繋がることを慶喜は身をもって知っているわけだ。


「ちなみに俺の親族達もそんな感じだ」

「慶喜君も大変ですね」


 美優はそう言うが慶喜自身は別に特に何も思っていない。


(これのおかげで歴史の問題、特に江戸幕府は他の奴よりたくさんのことを覚えれたしな)


 一時期、自分の同じ漢字の奴が将軍なんてすげぇ、と思って調べに調べまくった子どもの頃を慶喜は懐かしんだ。


「清河は今まで何人から告白された?」

「え!?」


 純粋な質問だった。美優はその可愛さ故どれだけの人から告白されたのか気になったのだ。ちなみに慶喜の予想では二十人。


「わ、私は誰にも告白されたことない……よ?」

「あ~、そっち系か」


 予想は外れたが慶喜はなぜか納得していた。


(あまりの可愛さ故に自分には釣り合わないとか考えたんだろうな。もしくは天使や女神のように崇めて近づこうとはしなかったか)


 慶喜の知り合いにもそんな人がいるので、慶喜はすぐわかった。

 そこで美優が恐る恐る慶喜にも尋ねた。


「あの、慶喜君は……?」

「強いて言うなら、一人からあるな」

「え……」


 慶喜とは思えない発言だった。美優はあまりのショックに頭が真っ白になりかけたが、その前に慶喜がため息をついた。


「あれは告白と言うより遊びだな。ままごとみたいなやつだ」

「……ままごと?」

「本当は気がないくせにとりあえず言っておこう的な? 口癖だな、どっちかっていうと」

「?」


 よくわからないが、要するに告白はなかったらしい。美優はそれを聞いて安心した。


「さて、そろそろ行くか」

「次はどこでしたっけ?」

「ゲーセンだよ」


 慶喜達はそうしてゲーセンの階へと行った。

 二人がいなくなったことで店の人は心から喜んだという。



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