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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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店を下見しよう

 サトーヨーカドーの中に入ってからも慶喜は目立っていた。慶喜としては目立っているからこそ能面を外す気はないようである。


「け、慶喜君。店の中はさすがにダメだよ……」

「なぜだ? そんなルールはないはずだ。いいか、固定観念はあくまで観念であって守らなくてはいけないということはないのだ」

「それは……、そうだけど……」


 それではマナーも守らなくてもいいと言っているも同然なのだが、慶喜はそれはそれ、これはこれと、まさに自由すぎる考えを持っていた。


 サトーヨーカドーの中に入ってからまず、当初の予定通り三階の洋服フロアに行った。そこはエレベーターから出てすぐ目の前にマネキンが置いてあり、いくつかの店が並んでいた。


「さて、俺の予定ではここで二時間ほど皆で服を見回るつもりだ」

「え、短すぎませんか?」

「これで短いのか……」


 慶喜としては長く取ったつもりなのだが、美優にとってはそうでもないらしい。


(つうか、なんでたかが服ごときにそんな時間かけるんだよ。そもそも試着というのはサイズを測るためのものじゃないのかよ)


 普段慶喜は服を買うときパッと見て自分が好きな服を買うようにしている。

 だが、どうもラノベを読む限り、自分に合うかどうかを確認している。合う合わないかは相手が考えることなんだからどうでもいいだろ、というのが慶喜の本音である。


「今が十時半くらいだぞ。昼食のことも考えれば二時間が限界だ」

「そうですか……」


 それから二人は一通り三階を回ってみたが、特に買うことはなかった。今買うよりも明日買った方がいいと慶喜が言ったからだ。

 二人で歩いているとほぼすべての客や店員がやはり慶喜と美優を一度は見ていた。

 恥ずかしい美優は慶喜に話題を振った。


「そういえば、恋愛相談部って他の部員はいつも何しているんですか? あまり見かけないんですけど」

「見かけるどころかそもそもいない」

「えっ、一人なんですか?」

「そうだ」


 春月高校の校則では部活として認められるには部員が最低でも五人が必要だったはず。にもかかわらず、どうして部活として認められているのか、美優はそう聞くと慶喜は思わず呆れた。


「清河ってホントに真面目だな。校則を調べている奴はそういねぇよ」

「え、そうなんですか!?」


 この様子だとどうやら中学校の校則も暗記したのだろう。慶喜はいつも通りため息をつくと、さっきの質問に答えた。


「部活に関する規定第4条、一度部として認められた部の人数が上記の人数を満たない場合、二年間で部員の補充をしなければ廃部とする。今年がその二年目だ」

「慶喜君も校則を覚えているじゃないですか」


(本を忘れた日の休み時間とか、つまらない講話は暇つぶしに生徒手帳を読んでいるからな。もしかしたら校則の矛盾とか穴が見つかるかもしれないし。三年でなんとか見つけて指摘したいぜ)


「とにかく、このままだと恋愛相談部は廃部になるかもしれないんですか?」

「なるかもじゃなくてなるんだ」


 そう言われて美優は少しもったいないように感じた。慶喜のアドバイスは基本的には的を射ているのだ。慶喜は気付いていないかもしれないが、慶喜には才能があった。


「こんな辛気くさい話はやめようぜ。俺は別にそれでもいいし」

「それじゃ、なんで恋愛相談部に入部したの?」


 美優がそう尋ねると、慶喜は何でもない風に、しかし何かあるのは間違いないように答えた。


「特に深い意味はない」

「……そっか」


 その真剣な顔に美優は追求できなかった。誰にだって触れてほしくないことはある。それを触れるには慶喜と美優の関係は浅すぎる。

 しばらく服を見ていると美優はある服を見つけた。


「慶喜君、これ見て! 能面の服!」

「ちょっと待て。俺は今、能面をしているが能面が好きというわけではないぞ」

「でも能面好きに見えるよ!」

「だからなんだよ……」


 暗い雰囲気から急に明るい雰囲気になった。

 そこで美優は思い切って慶喜に訊いてみた。


「わ、私達って他の人達から、その……、どう見えているんだろうね……!」

「変人とその変人に付き合っている美少女」

「つ、付き合って……! び、美少女……!」


(何か変な妄想をしていないか……。付き合うはともかく、自分が美少女だというくらいそろそろ自覚しろよ。マネージャーの先輩にも言われただろ)


 美優はそのまま顔を赤くして動かず、それを慶喜は座りながら黙って見ていた。

 慶喜の顔は呆れていたが、能面の所為で美優を呪おうとしている人にしか見えなかった。


(それに俺は清河と付き合う気なんてさらさらないし。)


 特に今は慶喜にはストーカー疑惑があるのだ。そんな中美優と付き合ったら、間違いなく皆は美優が弱みを握られていると思うに違いない。つまり、付き合った時点で……


(俺の人生は終わりを迎える。いや、冗談じゃなく)


 しばらく座って美優を見ていると、美優はやっと元に戻り慶喜のそばに行った。

 慶喜はゆっくりと立ち上がると、時計を見た。時計はまだ十二時で予定よりも少し早かったが、慶喜は次の予定に入ることにした。


「それじゃ、次は昼食といこうか」

「はい」



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