また会おう
これにて、番外編完結!
結論:――帰ってもいいか?
テストが終わった放課後、明日だってテストがあるというのに、どうして自分は何の変哲もない男子高校生を尾行しなければならなかったのか。
慶喜はここまでを通して、そんなことを思った。
「アンタがアイツのどこに惹かれたのかはわかった。だが、それだけだ。特に使えそうな情報を得られたわけじゃない」
「そうかしら?」
美島はすべてを見透かしているといわんばかりの微笑みでそう返した。
「使えそうな情報なんて端から期待していなかったんじゃないかしら?」
「……」
「あなたのことよ。情報が足りないとは思っていたのは本当だと思う。けど、その足りない情報でもうなんらかの糸口はあったのでしょう?」
「……はぁ」
慶喜は呆れたようにため息をついた。
まさに、その通りだったからだ。相変わらずこの美島という人物は計り知れない。
慶喜は、情報を集めるためにここに来た。しかし、それはもともとあった解決案の他に、よりよい解決案を探そうとしていただけである。端的に言えば、より具体性のある案を探しに来ただけだ。
その結果、そんな良案は見つからなかった。……いや、見つからなかった、というのも少し違う。
もともとあった案が良案であることを確信しただけだった。
しかし、だ。
「アンタだってわかっていたはずだ」
美島は表情を変えなかった。
すべてを見透かして、見通していたといった表情からまったく。
「アンタはいつもそうだ」
中学時代から、生徒会長だった美島はいつも生徒会役員でもない慶喜に相談していた。
生徒会長になる前だって、どうやったら当選できるかを相談していた。
生徒会長になったら、今度は何をすれば自分が学校の記録に残るのか、そんなことをいつも相談していた。
その度に「羨ましい」とか「なんでアイツが」と、自分が陰口を叩かれていたことも慶喜は知っていた。
にもかかわらず、そこまでされていつも出てくる結論は両者とも一致していた。
美島があらかじめ考えていたことに、慶喜があとから至るといったことを、いつも。
慶喜の周りではいつもマイナスだった。
だから一緒にいたくなかった。
「俺がこんな性格になったのは、アンタの影響も一つあるんだからな」
「いいえ。あなたはもとからそんな性格だったわ」
美島は嬉しかった。
自分はいつも他と違う目で見られていた。
自分の中では普通だと思っていたことを、周りは特別だと褒め称えた。
特別は孤独だった。
寂しいとはまた違った。寂しいとは思ったことはない。けど、ふと周りに目を向ければ、周りとは一歩距離を置かれていたように思えた。
そんなときに現れた後輩は、自分とは違う変わった考え方をする、しかし、周りから普通と思われていた人物だった。
少なくとも、特別な人間とは思われていなかった。
そんな彼は、遅れながらもいつも自分と同じ結論に至る。
彼は最後まで自分に近づくことはなかったが、一歩置くわけでもなく、ただ傍観していた。
だから互いの関係は変わらず、それが心地よかった。
「答え合わせといきましょう?」
けど、それもこれがきっと最後になる。
彼は相変わらず身勝手な傍観を誰かに向ける。その誰かは、もう美島ではない。
彼の居場所に、もう美島はいない。
そして、美島のいるところにももう彼はいない。その代わりに、特別だと思う人がいる。
「まったく……」
美島の特別な人に与える特別なもの。
それはまさに、美島が慶喜に与え、美島が慶喜に感じたもの。
「「非日常」」
平凡な男子高校生とは、代わり映えのない毎日を過ごしている。
そんな毎日を変えてやるのだ。
いつもドキドキして、いつもワクワクするそんな非日常を。
「別に世界をまるっきり変えようってわけじゃない」
「ただ、彼がドキドキするような、ワクワクするような些細なイベントを楽しませるだけ」
ファンタジーの世界なんて必要ない。
ただ毎日を特別に感じさせるだけ。それは難しいようで、そんなに難しいようなことじゃない。
「ほんのちょっと、日常ではしないことをするだけ」
普段しない挨拶をしてみるとか。いつもより近くて、見える場所にいるとか。一緒に石を集めようでもいい。
些細な変化の積み重ねは、いつしか特別なものになる。
「問題はそれをどうやってするか、だが」
さすがにいきなり一緒に石を拾おうなんて言うのはおかしすぎる。
特別な変化を与える、ちょっとしたきっかけが必要だ。
「アンタのことだ。もう決めているんだろ?」
「えぇ。あなたに会いに行ってよかったわ。おかげで、私にとっても特別なことになりそうだわ」
「俺は会いに来てほしくなかったけどな」
「相変わらずね」
「アンタも」
ようやく二人が一緒に笑った。
「さて、俺はもう帰るぞ」
「えぇ。またいつか会えたらいいわね」
「アンタのことだ。どうせ結婚式にでも呼ぶんだろ?」
「あら、結婚するって決めつけちゃっていいの?」
「当たり前だ」
狙った相手は逃さない。狙われた人だけが知ることだ。
慶喜はそう言った後、背中を向けて去っていく。振り返ることは当然しない。
ただ、ゆっくりと。
「……はぁ」
美島への、最後のため息をついた。
お気づきの方もいるかもしれませんが、こちらは下の「僕と彼女の恋のジャンケン」が始まる前の話となっております。
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では!