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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
番外編 ~彼と彼女の恋の相談~
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熱く語ろう

「確か、あなたの学校は明日から、テストよね?」


 どんな話から始まるのか、と身構えた慶喜だったのだが、美島は予想外の方向から切り出してきた。


 恋愛相談とテストに何の関係があるというのだろう。


「……それがなんだ?」


 彼女の言うとおり、慶喜の学校は明日の月曜から三日を通してテストを実施することになっている。


「テスト週間ってことは、午前中にテストして、午後は暇になるはずよね?」


 そうきたか。


「……テスト勉強したいんだが」

「テスト前日に勉強したことなんてあまり意味がないわ」


 彼女の言わんがすることを察して、先手を打った慶喜だが、その程度の返しでは意味がないことに、言ってから気付いてしまう。


「それに、あなたはいつもテスト前でも勉強しない人だというのは知ってるわ」

「高校生になってから……」

「まだ半年もしないうちに変われるのであれば人は苦労しないわ」

「……」


 やはりこの人は苦手だ……。


 と、珍しく慶喜がどうにもならないような顔をしていると、美島は慶喜の後ろにある何かを見ているようだった。


 それに気づいた慶喜が振り返るとと、そこには小学二年くらいだろうか、二人の男の子がジャンケンしているところだった。


 その二人のすぐ近くにはサッカーボールがある。


 大方、どっちがキーパーをやるのか争っている、というところだろう。


 運動はともかく、一人を好む慶喜には、くだらないと吐き出す程度のものであるが、美島はそうではなかった。


 ただ黙ってその様子をじっと見ていた。


「どうした?」


 慶喜がそう尋ねるが、美島は目も合わす余裕もないようで、ポツリと言った。


「私、やったことないのよ。あれ」

「あれ?」


 別にサッカーをやったことがない人なんていくらでもいるだろ。


 現に、慶喜だってしたことがない。


 そんなことで何をこんなにも夢中に見れるのか。


 しかし、美島は首を横に振った。


「サッカーではないわ。ジャンケンよ」

「……は?」


 さすがにそれは冗談だろう。


 そう思って見た美島の顔は、嘘のようには思えない。


 普段は人に心を読ませないようにしている仮面が、今回ばかりは本当だと告げているようだった。


「……マジか」


 自分でも妹子と何回かしたことがあるというのに。


 そう思った慶喜だが、考えてみれば美島に限ってだけ、それはありえる話かもしれない。


 何度も言うが、美島は全てにおいて完璧と言われるような女性だ。


 彼女が言うことは誰も否定せず、すべて正しかった。


 彼女がそこに存在するだけで、彼女の周りのものはすべて彼女のものとなる。


 すべて彼女に渡してしまう。


 ジャイアンも顔負けだ。


 誰も彼女に口答えはしない。誰も彼女に嫌われたくないから。


 と言っても、慶喜を除いて、だ。


 皮肉なことに、そんな慶喜だからこそ、彼女に気に入れられてしまったのだが。それに果たして、慶喜は気づいているのか。


「そんなことより」

「……えぇ、そうね」


 強引に慶喜が話を戻すと、美島は名残惜しそうな様子だった。


 別にジャンケンなんて楽しいものじゃないだろ、と慶喜は考える。


 あの子供たちのようにものや役割の取り合いであったり、いくつかのグループに分かれるであったりと。


 ジャンケンをする状況はあらかた決まっている。


 そして、ジャンケンは必ず勝者と敗者が決まってしまう。


 良いことがある反面、必ず悪い方も生まれてしまう。


「ジャンケンなんてやらない方がいいだろ」

「……」


 ボソッと呟くような慶喜の言葉に、美島は何も返さなかった。


 聞こえていなかったのか、聞こえた上で何も返さなかったのか。それは慶喜にもわからない。


「俺にいったいどんな相談なんだ?」


 話を戻すように慶喜がそう尋ねると、美島はいつもの様子で笑った。


「彼に何かをあげたいの」

「プレゼントしたいってことでいいのか?」

「ええ」

「そんなの勝手にすればいいだろ」


 何をあげたって美島があげたものだ。どんな男だろうが喜んでくれるはずだ。


 にもかかわらず。


「わかってないわね」


 と、なぜか相談に乗ったはずの慶喜が小馬鹿にされるという始末。


 どういうことだ、と慶喜が目で訴えると美島は。


「私でなくとも贈れるようなものではダメなのよ」

「なぜだ。別に喜んでくれるならそれでいいだろ?」

「それだと愛が伝わらないからよ」


 ……なんだって?


「誰でもできるようなことをして、その人に何がつたわるというのかしら? 特別な感情を普通の行動で100%伝わる? 私はそうは思わないわ。特別な感情だからこそ、私だけの特別な何かで伝えたいのよ」


 彼女にしては珍しく熱の入った演説だった。


 いつも余裕そうな笑みを浮かべている彼女が、本気の表情で何かを言うということは、それだけ彼女には譲れないものがあるということ。


 彼女の言い分が正しいかどうかはさておいて、少なくとも、慶喜を納得させるには充分すぎるほどだった。


「……本気、なんだな」

「最初からそう言ってるじゃない」

「まぁな」


 そうなると、本気でそれに答えるのが慶喜という人だ。


「だが、しかしなぁ……」


 特別な何かを贈りたいということはわかった。


 だが、そんな簡単に思いつくものでもないし、簡単に思いつくものが特別な何かとなるとは考えれない。


 何をするにも情報が足りない。


 美島のことはともかく、その想い人やらのことはまったく。


「だから、あなたに時間があるか、と尋ねたのよ」


 そこで、美島は不吉な笑みを浮べた。


「テストは午前だけ。午後は暇。情報が足りない。これだけ言えば、あなたならもうわかるわね?」

「……悲しいことに」


 情報を集めるために、午後は美島の学校で、その男子生徒を調べろ。そう言っているのだろう。


 要は。


 また慶喜がストーカーじみたことをしろ。


 結局、これになる。



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