解決しよう
『恋愛相談部』で検索すると、ついにトップペーシの一番上に出てくるようになりました!
これも皆さんのおかげです。
これからもよろしくお願いします。
教室から逃げるように立ち去った慶喜は、そのまま部室へと向かった。
部室の戸を開けると、定位置の椅子に腰をかけた。
「……はぁ」
一人、上を見上げて息を吐くと、ゆったりと窓の外を眺めて。
「疲れた……」
これで瀬良の恋愛相談は解決。
「いや……違うな」
また大きなため息をつく。
「お疲れ様です」
「……おぉ」
入り口から聞こえた労いの声に目を向けると、優しい表情をした倉間先生だった。
慶喜は何も言わずに、倉間先生から視線を外すとポツリと呟いた。
「説教か?」
「いえ。……ただ、説明はしてほしいですね」
倉間先生は慶喜と向かい合うような形で椅子に座ると、真っ直ぐな目で慶喜を見た。
しかし、その目に責めるような感情はない。
「何か意味があってしたことなんでしょう?」
「どうしてそう思う?」
「まだ数ヶ月ですけど、それなりに慶喜君のことを知っていますから」
「なるほどな」
慶喜はゆっくりと背伸びすると、いつものように淡々とした様子で説明を始めた。
「当初の予定とは確かに違う。というか、あんなのを予想できる方がおかしい」
序盤のミスは慶喜だって予想外だった。病んでいるといっても、自分の計画を粉々に砕かれるとは誰も思わないだろう。
「だが、この方法も考えていなかったわけではなかった」
「途中でプランを変更したわけですね」
「ああ。俺だってさすがにこの方法がダメなことくらいわかっている。だが、これが最高の結果であることも確かだった。もう片方のプランが潰れたから、仕方なくこっちのプランに変更した」
「こちらの結果がベストであると思った理由は何ですか?」
「……告白はどうなった?」
質問に質問で返した慶喜に眉をひそめた倉間先生だったが、すぐにその結果を伝えた。
ダメだった、と。
「だろうな」
だが、その結果を知っていたかのように慶喜は相槌を打った。
まるで失恋することが本来の目的だったとでも言うように。
「失恋が目当てなんじゃない」
しかし、それすらも慶喜は否定する。
「俺の目的は『先輩を戦場の舞台に上げる』ことだ」
「……?」
「これは恋愛相談された時から言っていることだが、最初のままではどうあがいたってヒロインには勝てなかった」
あの時点で二三也とその恋人の話はとっくに完結していて、今さらしゃしゃり出てきた瀬良が告白したところで「ごめん」の三文字で断られただろう。
だから、慶喜はその三文字を言われる場所、状況を変えることにした。
「あそこまで大がかりなフラれ方をしたんだ。フッた二三也もその相手を気にしてしまう」
「それは……たしかに」
もっと簡単に言えば。
「俺は終わったはずの物語を再開する形にした。そして、その物語最初の相手が瀬良先輩になるようにした」
「戦場の舞台に上げる、そういうことでしたか」
だから、これは問題を解決させたのではない。
むしろ逆。問題を慶喜は始めさせたのだ。
これまでモブのようだった人物を、ヒロインとまで行かなくても、サブヒロインの座まで上げさせたのだ。
「ま、ある意味、地獄に堕としたってのは間違いじゃないかもな」
「……そうですね。おそらく、これから彼女に待っているのは」
「修羅場。女の戦い。キャットファイト……は古い表現か」
「……私をバカにしていませんか?」
「いまさら?」
「えっ!? していたんですか!?」
(むしろ今まで気付いていなかったのかよ……)
と、慶喜は慶喜で驚いていると、今度は廊下から騒がしい声が向かって来ているのに気付いた。
「ん? およよ? 倉間先生じゃん!」
「美麗唖さん」
「と、今さっき嫌われ者になったストーカー君」
「嫌われているのは前からだ」
「あらら。そうだった」
美麗唖の後ろから部員達がぞろぞろとやって来たのを見て、慶喜はまた一つため息をつく。
(高校に入ってからため息の数が増えたのは気のせいか?)
「大変だったね、慶喜君」
「見てるこっちがハラハラしたよ。殴られないかって」
「でも、なんとかうまくいったね」
美優、月葉、明人がそれぞれ感想を言いながら部室に入ってくると、慶喜と同じように、いつもの席へと着いた。
「よくここに来られたな」
そう慶喜が言うと、三人は揃って「まぁね」と声を合わせた。
あれほどのことをやれば、周りの生徒達に「あの部にはもう行くな」と言われると思っていた。しかし、この三人はその程度の障害を気にしもしなかった。
『そんなの関係ないから』
その強い宣言を聞いて止める者は誰もいなかったらしい。
「どうせなら皆やめちまえば楽なんだけどな?」
(一人の部室を取り返せるからな)
「うん、慶喜君ならそう言うと思って残ることにしたんだ」
「質問と答えが合ってねぇ」
うんざりした様子を見せる慶喜は、ふと何かを思い出して月葉を見た。
「そういえば、月葉の演技すげぇな」
「え、本当!?」
「この計画では月葉に限らず、三人の演技が結構重要だった。俺の計画を知った上で知らないふりするのは、難しいと思っていたんだが……」
この三人にも秘密で動く予定だったのだが、プランを変えてすぐ、この三人にはバレてしまったのだ。
おかげで、その演技が不安で仕方なかったのだが、杞憂に終わった。
「少しだけどドラマにも出てたからかな。慶喜くんの役に立ててよかった」
「明人も最初からよくやってくれた。妹子にこれから連絡してやる」
「え、本当!?」
「気にするな。俺からの謝礼だ」
「慶喜君、また悪い顔してる……」
(今回はいろいろ危ない橋を渡ったんだ。これくらいの褒美はいいだろ)
と、妹子に嫌がらせの連絡をしようと思ったところで。
「ねぇ、ストーカー君。私は?」
「あぁ? 何が?」
「私も今回頑張ったでしょ?」
「何を?」
「美麗唖ちゃん、嘘はいけないよ」
「えっ!? 皆してその目は何!? 私もいい仕事したってことに気付いてないの!?」
「お前がしたことなんて、最後の『最っ低』くらいだろ」
「気付いてんじゃん! アレのおかげで周りの空気が一つになったんじゃん!」
「本心から言っただけだろ」
「いやそうだけども!」
「否定しねぇのかよ……」
「美麗唖ちゃん、それはひどいよ」
「うん。今のは慶喜くんに謝るべきかな」
「ぼ、僕もそう思うな」
「皆、本当に洗脳されてない!? 大丈夫!?」
「……はぁ。うるせぇ……」
「先生は賑やかでいいと思いますよ」
また騒がしい毎日が始まるのかと思うとうんざりして仕方がない。いつになったら休めるのだろう。
そんなことを考えながら、慶喜はまた一つ息をつく。
次章、私が書きたいと思っていた……まさかの番外編!
(この章だけで一年以上かかってるな)