表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
125/131

解決しよう

『恋愛相談部』で検索すると、ついにトップペーシの一番上に出てくるようになりました!

これも皆さんのおかげです。

これからもよろしくお願いします。

 教室から逃げるように立ち去った慶喜は、そのまま部室へと向かった。


 部室の戸を開けると、定位置の椅子に腰をかけた。


「……はぁ」


 一人、上を見上げて息を吐くと、ゆったりと窓の外を眺めて。


「疲れた……」


 これで瀬良の恋愛相談は解決。


「いや……違うな」


 また大きなため息をつく。


「お疲れ様です」

「……おぉ」


 入り口から聞こえたねぎらいの声に目を向けると、優しい表情をした倉間先生だった。


 慶喜は何も言わずに、倉間先生から視線を外すとポツリと呟いた。


「説教か?」

「いえ。……ただ、説明はしてほしいですね」


 倉間先生は慶喜と向かい合うような形で椅子に座ると、真っ直ぐな目で慶喜を見た。


 しかし、その目に責めるような感情はない。


「何か意味があってしたことなんでしょう?」

「どうしてそう思う?」

「まだ数ヶ月ですけど、それなりに慶喜君のことを知っていますから」

「なるほどな」


 慶喜はゆっくりと背伸びすると、いつものように淡々とした様子で説明を始めた。


「当初の予定とは確かに違う。というか、あんなのを予想できる方がおかしい」


 序盤のミスは慶喜だって予想外だった。病んでいるといっても、自分の計画を粉々に砕かれるとは誰も思わないだろう。


「だが、この方法も考えていなかったわけではなかった」

「途中でプランを変更したわけですね」

「ああ。俺だってさすがにこの方法がダメなことくらいわかっている。だが、これが最高の結果であることも確かだった。もう片方のプランが潰れたから、仕方なくこっちのプランに変更した」

「こちらの結果がベストであると思った理由は何ですか?」

「……告白はどうなった?」


 質問に質問で返した慶喜に眉をひそめた倉間先生だったが、すぐにその結果を伝えた。


 ダメだった、と。


「だろうな」


 だが、その結果を知っていたかのように慶喜は相槌を打った。


 まるで失恋することが本来の目的だったとでも言うように。


「失恋が目当てなんじゃない」


 しかし、それすらも慶喜は否定する。


「俺の目的は『先輩を戦場の舞台に上げる』ことだ」

「……?」

「これは恋愛相談された時から言っていることだが、最初のままではどうあがいたってヒロインには勝てなかった」


 あの時点で二三也とその恋人の話はとっくに完結していて、今さらしゃしゃり出てきた瀬良が告白したところで「ごめん」の三文字で断られただろう。


 だから、慶喜はその三文字を言われる場所、状況を変えることにした。


「あそこまで大がかりなフラれ方をしたんだ。フッた二三也もその相手を気にしてしまう」

「それは……たしかに」


 もっと簡単に言えば。


「俺は終わったはずの物語を再開する形にした。そして、その物語最初の相手が瀬良先輩になるようにした」

「戦場の舞台に上げる、そういうことでしたか」


 だから、これは問題を解決させたのではない。


 むしろ逆。問題を慶喜は始めさせたのだ。


 これまでモブのようだった人物を、ヒロインとまで行かなくても、サブヒロインの座まで上げさせたのだ。


「ま、ある意味、地獄に堕としたってのは間違いじゃないかもな」

「……そうですね。おそらく、これから彼女に待っているのは」

「修羅場。女の戦い。キャットファイト……は古い表現か」

「……私をバカにしていませんか?」

「いまさら?」

「えっ!? していたんですか!?」


(むしろ今まで気付いていなかったのかよ……)


 と、慶喜は慶喜で驚いていると、今度は廊下から騒がしい声が向かって来ているのに気付いた。


「ん? およよ? 倉間先生じゃん!」

「美麗唖さん」

「と、今さっき嫌われ者になったストーカー君」

「嫌われているのは前からだ」

「あらら。そうだった」


 美麗唖の後ろから部員達がぞろぞろとやって来たのを見て、慶喜はまた一つため息をつく。


(高校に入ってからため息の数が増えたのは気のせいか?)


「大変だったね、慶喜君」

「見てるこっちがハラハラしたよ。殴られないかって」

「でも、なんとかうまくいったね」


 美優、月葉、明人がそれぞれ感想を言いながら部室に入ってくると、慶喜と同じように、いつもの席へと着いた。


「よくここに来られたな」


 そう慶喜が言うと、三人は揃って「まぁね」と声を合わせた。


 あれほどのことをやれば、周りの生徒達に「あの部にはもう行くな」と言われると思っていた。しかし、この三人はその程度の障害を気にしもしなかった。


『そんなの関係ないから』


 その強い宣言を聞いて止める者は誰もいなかったらしい。


「どうせなら皆やめちまえば楽なんだけどな?」


(一人の部室を取り返せるからな)


「うん、慶喜君ならそう言うと思って残ることにしたんだ」

「質問と答えが合ってねぇ」


 うんざりした様子を見せる慶喜は、ふと何かを思い出して月葉を見た。


「そういえば、月葉の演技すげぇな」

「え、本当!?」

「この計画では月葉に限らず、三人の演技が結構重要だった。俺の計画を知った上で知らないふりするのは、難しいと思っていたんだが……」


 この三人にも秘密で動く予定だったのだが、プランを変えてすぐ、この三人にはバレてしまったのだ。


 おかげで、その演技が不安で仕方なかったのだが、杞憂に終わった。


「少しだけどドラマにも出てたからかな。慶喜くんの役に立ててよかった」

「明人も最初からよくやってくれた。妹子にこれから連絡してやる」

「え、本当!?」

「気にするな。俺からの謝礼だ」

「慶喜君、また悪い顔してる……」


(今回はいろいろ危ない橋を渡ったんだ。これくらいの褒美はいいだろ)


 と、妹子に嫌がらせの連絡をしようと思ったところで。


「ねぇ、ストーカー君。私は?」

「あぁ? 何が?」

「私も今回頑張ったでしょ?」

「何を?」

「美麗唖ちゃん、嘘はいけないよ」

「えっ!? 皆してその目は何!? 私もいい仕事したってことに気付いてないの!?」

「お前がしたことなんて、最後の『最っ低』くらいだろ」

「気付いてんじゃん! アレのおかげで周りの空気が一つになったんじゃん!」

「本心から言っただけだろ」

「いやそうだけども!」

「否定しねぇのかよ……」

「美麗唖ちゃん、それはひどいよ」

「うん。今のは慶喜くんに謝るべきかな」

「ぼ、僕もそう思うな」

「皆、本当に洗脳されてない!? 大丈夫!?」

「……はぁ。うるせぇ……」

「先生は賑やかでいいと思いますよ」


 また騒がしい毎日が始まるのかと思うとうんざりして仕方がない。いつになったら休めるのだろう。


 そんなことを考えながら、慶喜はまた一つ息をつく。



次章、私が書きたいと思っていた……まさかの番外編!


(この章だけで一年以上かかってるな)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ