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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
124/131

終わって始めよう

 慶喜はずっと笑っていた。


 監視しているようで、裏ではずっと笑っていたのだ。


 あまりに残念な瀬良の行動を。バカみたいに自分を信じ従う瀬良の行動を。


「ど、どういうこと?」


 状況に追いつけていない瀬良は、今にもパンクしそうな頭を働かせて、そう言った。


 志賀くんが私のことをずっと笑っていた?


 そんなわけがない。何かの勘違いだ。


 そう自分に言い聞かせようとして、それを確かめたくて、慶喜の顔を見た。


 すると。


「っ……!?」


 悪魔のような笑みだった。


 これまでどこか遠いところをみていた目は、闇を想起させるかのように真っ黒だった。どこか空虚だったはずの慶喜の顔は誰よりもあくどい笑みを浮かべていた。


なんだ(・・・)バレちまったのか(・・・・・・・・)


 その言葉はあまりにも決定的で、瀬良の内の何かが壊れるような音がした。


「テメェ!」

「殴りたければ殴ればいい。殴れるものならな」

「っ……テメェ。どこまで……」

「さぁ。どこまでだろうな?」


 挑発的な笑みを絶やさない。


 慶喜は知っている。二三也が自分を殴れないことを。


 殴ってしまったら、自分とヒロインとの間で交わした約束を破ってしまうから。それもすべて、慶喜は知っている。


「この野郎……!」


 だから二三也はその怒りをまっすぐに慶喜にぶつける。


 殴れないのなら違うことで怒りを晴らすしかない。


 その武器は誰でも持っている。


 言葉だ。


「テメェは瀬良さんの……俺への想いを利用して、そして踏みにじった」

「というと?」

「今さらとぼけるなよ。お前は瀬良さんを(・・・・・・・・)ストーカーにしたんだ(・・・・・・・・・・)


『朝に自分を待ち伏せするかのように教室にいる瀬良。


 これまでほとんど話したことがない相手から、毎朝声をかけられるようになった』


☆★☆


『休み時間は毎回のように自分のすぐ横を歩くようになった。


 最初はそれに気付かなかった。しかし、友人から「最近、よくお前のところにいないか?」と言われて、意識してみたらその通りだった。


 すごく気になって、そして、不気味に感じた』


☆★☆


『昼休みはそのことについて聞こうとするが、いつも彼女はいなかった。


 その代わりに、一年生のある女子二人と会うことが多くなった。


 たしか二人とも恋愛相談部だったはずだ。


 思えば、彼女は知り合ったときから少しおかしかった。


 そのときから恋愛相談部に通っていたのだろうか』


☆★☆


『放課後になると、自分が立ち上がると同時に立ち上がることにも気付くようになった。


 後ろをついてくるわけじゃない。だからこそ不気味だった。


 サッカー部が校庭を走っていると、意識し始めたせいか、彼女の帰宅姿がよく目につくようになった。


 しかし、それもよく考えてみればおかしいことなのかもしれない。


 彼女は前から校庭から見えるところを帰っていたかと聞かれると……違う気がする』


☆★☆


 だからおかしいと二三也は思った。


 彼女と何回か話した程度の関係だが、彼女はとても臆病で、こんなことをする人ではないとなんとなく感じていた。


 にもかかわらず、まるで彼女はストーカーのようだった。


 そんなとき、二三也は裏を見た。


 瀬良が何かをするとき、いつもすぐ近くに怪しげな男がいた。


 うまく隠れているようであったが、いつも瀬良のすぐ近くにいて、瀬良を見ては口もとに手を当てて笑っていた。


 直感した。


 コイツが瀬良を裏で操っているのだと。


 調べてみるとその男の正体はすぐにわかった。


 恋愛相談部というよくわからない部活の部長だった。


 明人や他の二人の女子部員も疑って、探りをかけたが、彼らは部長が何をしているのか、しようとしているのかまったくわからないといった様子だった。


 おそらく彼らも利用されている。


 何も聞かされずに指示だけされているのだ。


 まるで洗脳だ。宗教だ。


 彼らが悪いのではない。志賀慶喜という男子生徒がすべての元凶だった。


「人を道具のように使って、自分の欲求を満たす。テメェは本当に最低野郎だな」

「そりゃどうも」

「そ……、んな……。どう、して……?」

「瀬良さん!」


 瀬良が膝から崩れ落ち、二三也がそんな彼女を支える。


 それはまるで奇しくも主人公とヒロイン。瀬良が夢見た状況だった。


 けど、夢よりひどい現実だった。


「盛り上がってきたんじゃねぇの?」

「……なんだと?」


 そんな現実を作った慶喜は手を緩めない。


 ここは公開処刑の場。


 慶喜の、ではない。


 ここまで追い詰めて、初めて作り上げることができる場所。


「そうだ。俺はそこの先輩の想いを利用して、楽しむだけ楽しんだ。傷つけるだけ傷つけた」


 まだ終わりにはさせない。


 ここから始める。


「アンタもわかっているだろう? 先輩の気持ちに。なら、ちゃんとそれに答えないといけねぇだろ?」


 ここは誰でもない。山野瀬良の公開処刑の場だ。


 信じた相手から裏切られ、それでもなお残った気持ちに。恋心に。


 好きな相手からフラれる処刑場。


「最っ低ね」


 ポツリと呟かれた、誰かの声は全員の言葉だった。


「何とでも言え。この状況は誰も止められない」


 もう誰も止められない。


 この地獄を終わらせることは誰にもできない。


 ……唯一。唯一この地獄を終わらせる方法は。




「……………………………………………………………………………………ふみや、くん」




 この地獄を通り抜けること。


「わ、わたしね」

「……あぁ」


 今にも泣きそうな声……いや、泣いているのかもしれない。


 絞り出した小さな声に、この場の全ての意識が持っていかれた。


「ずっと、前から……ね。好、きな人がね……。……いたんだ」

「……あぁ」

「一目惚れ、だったんだ。ありきたりで、大した理由じゃなくて。……わかっているんだけど。それでも、一目惚れ……だったんだよ。私はこんなに、暗くて、臆病で、……バカだから。バカって……、言われちゃうかもしれないけど……。私は、その人が……誰よりも、明るく見えて、だから、一目で……好きだって、思っちゃったんだ。……バカだよね。その人には、好きな人がいるって、わかっていたんだけど。でも……だからこそ」

「……」




「ずっと……二三也くんのことが、好きでした」




 悲しく、きれいな告白だった。


 だから、時が止まったんだと思う。


「……はぁ」


 場の空気が変わったことが面白くないのか、慶喜はため息一つ漏らして教室を出て行く。


 そんな彼を誰も止めないのは、それほどまでに皆の意識が彼女たちに向いていたからだ。


 もう慶喜はいない。


 しかし、二三也は答えた。



「ごめん」



 と。



今日でこの章終わらせます!

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