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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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きちんと言いたいことは言おう

 サッカー部の見学から帰ってくると、美優はクタクタだったが、これから慶喜と話をすると考えると元気が出てきた。

 美優の家は父親が働いており、母親は専業主婦である。

 美優は夜ご飯ができるまで慶喜とどんな話をしようか考えることにした。


(慶喜君とどんな話をしようかな。ストーカーのことは言っといた方がいいのかな。でも慶喜君に直接言ったら……)


 美優がベッドでいろいろ考えている内に料理ができた。母に呼ばれ部屋から出ると、同時に父も帰ってきた。


「おかえりなさい、お父さん」

「ただいま、美優。おっ、今日はカレーかな」


 父の言うとおり今日はカレーだった。三人で食事するのは久し振りであったが、美優はそれより慶喜のことを考えていた。

 するとその様子にいち早く気付いたのが母だった。母は笑みを浮かべると、


「美優、あんたもしかして好きな人でもできた?」

「え? う、ううん! そんなんじゃないよ!」

「何!? 好きな人だと!? 美優、誰だ! 誰がお前をそそのかした!」


 父は普段はいい人なのだが美優のことになると人が変わったようになる。いわゆる親バカである。そんな父を放っといて母は美優に聞いた。


「それで、誰なの? 亮雅君っていう子かな? あの子はかっこいいからね~。入学式の時点でモテそうだとは思ってたんだけどね」

「亮雅だと~。そいつをこの家に連れてこい! 絶対内の美優は渡さん!」

「ち、違うって! そんなんじゃないって!」

「……なるほどね」


 美優の必死の様子に母は違うことに気付いたようだった。好きな人がいないということではない。その好きな人が亮雅ではないことに気付いたのだ。


「好きな人は別にいるんですね」

「え……?」

「なんだと~。一体誰が」

「あなたは少し黙ってください」


 妻に言われ父は一人しょぼくれていた。そんな父を美優はフォローすることができないくらい驚いていた。


(私に好きな人? 私に好きな人なんていない……よね?)


 一瞬慶喜の顔が浮かんだがすぐさま否定した。慶喜は相談相手であってそんな関係ではない。そう慶喜からも言われたのだ。だから違う、と美優は必死に否定していた。

 そんな美優を見てさすが母親とも言うべきか、母は微笑ましそうに笑って言った。


「どうやらそれも違うようですね。よかった。もしいたらこの人が暴れてしまいますから」

「当たり前だろ?」


 それから三人は家族の団欒を楽しんだが、美優は心のどこかに何かが刺さっていた。


 部屋に戻ると美優は慶喜に電話しようとした。しかし、その途中で月曜日までの宿題をもらっていたことに気付いた。慶喜と心置きなく話せるためにと、まず宿題を終わらせることにした。



問題(一部抜粋)

①次の文を英訳しなさい

なんて彼は賢いのだろう。(whatを使って)

②次の文を英訳しなさい

なんて彼は賢いのだろう。(howを使って)

③次の英文を日本語訳にしなさい

He is so fast that he is a member of athletic club.



(この英文まさに慶喜君のことを言っているみたい。あっ、でも慶喜君理科系はダメなんだっけ)



美優の解答

①What a clever boy he is!

②How clever he is!

③彼はとても足が速いので陸上部の一人だ。



 二十分ほどで宿題を終わらせた美優は早速慶喜に電話した。昔は相手が出るまでの電話音が好きではなかったが、今ではこの電話音を聞く度に心が弾むようだった。

 電話音が二回流れてから慶喜の声が聞こえた。


『やっと来たか……。どうして朝以降俺に電話しなかったんだ。その所為で何も情報が掴めなかっただろ』

「ご、ごめん。それで慶喜君に言いたいことがあったの」


 美優は不安に押しつぶされそうになりながら、今日のことを慶喜に伝えた。すると、慶喜は美優の心配なんか無駄だったかのように言った。


『ストーカーね。なかなか上手い例えだな。それでそれが何の理由になるんだ?』

「え?」


 美優の驚きの方が慶喜にとって驚きであった。慶喜はため息をつくと美優に言った。


『ストーカーどころか俺は盗聴しているんだぞ。今更何を言われたって知ったことか。そもそも俺がその程度のことでクヨクヨするわけねぇだろ』


 そうだった。慶喜は周りの評価を気にしない。今のところ一番関わっている美優にですらどうでもいいと思っている。そんな慶喜が今更何を気にするのだろうか。


(私はバカだな……。どうして慶喜君を信頼しなかったんだろう)


 美優が黙っていると慶喜も言いすぎたと思ったのか、


『ま、俺のことで悩んだことは素直に感謝はする。悪かったな』

「それは感謝じゃないよ」

『だんだん清河さんも面倒くさくなってきたな……』


 慶喜がそう言ったことで美優はもう一つの用件を思い出した。


「慶喜君、私のことはさん付けじゃなくてもいいよ」

『……今更それを言うか』

「お願い」


 美優の頼みに慶喜は大きくため息をついた。慶喜のため息はただ不機嫌であることを表すためのため息ではないと美優はわかってきていた。


(このため息は了承や諦め、仕方ないっていう意味なんだよね、慶喜君)


『俺としてもそっちの方が言いやすいからな。これでいいか清河』

「……うん!」


 名前で呼ばれなかったことは少し残念だったが、今は慶喜との距離が縮まったことが何よりも嬉しかった。


『それで、明日のことについて説明するがいいか?』

「あ、うん」


 美優は近くにあったいらないプリントの裏を使ってメモすることにした。


『明日は十時に学校に来てくれ。その際あまり人に見られないように学校の裏だ。明後日は校門でかまわない。サトーヨーカドーに行くから自転車がいいだろ。そして大きく予定を言うと、まず服屋に行ってから、昼食、それからゲーセン。後は適当だな』

「大雑把すぎません?」

『変に予定を細かくすると想定外のことに対処出来ないかもしれないからな』


 やはり慶喜はいろんなことを考えていて、美優は心から感心した。美優が予定を立てたら、たぶん細かいところを気にしすぎて失敗するかもしれない。それに対して慶喜は空白を開けることでその失敗をなくそうとしているのだ。


「老子みたいですね」

『老子? あぁ、無用の用か。それとは少し違う気がするが』

「そうですか?」

『うまく言えないが、あれは確か何もないことであるものが存在する的なことだったはず』


 とにかく慶喜の案は間違っていない。少なくとも美優はそう思っていた。

 しかし、実は慶喜にそんな思惑はなく、ただ単に考えるのが面倒くさかっただけであった。ごまかすのは慶喜の得意技であり、それを美優は知らない。



無用の用の名前を思い出せず、さらに誰の言葉かわからなかったので、検索に時間がかかりました……

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