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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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反省しよう

お久しぶりです。バレンタイン以来ですね。


 さて、日を一つまたいだ昼休み。



 部室にはいつもの部活メンバーと、依頼主の山野やまの瀬良せらが集まっていた。



 しかし、その部室の中はやけに重苦しい空気で包まれていた。



「……何か言い残したことはあるか?」

「すいません……」



 瀬良を見る慶喜の目は怒りに震えたものではなく、落ち着いて投げ出すような目となっている。



 もうお前の依頼は引き受けない、と言おうとしているのが、目だけで伝わってくる。



「一つだけ言っておくが、俺はアンタに……先輩に俺の言うことを従ってほしいわけじゃない」

「えっ?」

「しかしだ」



 慶喜は足を組み替えると、威圧するように頬杖をついた。



「それは良かれと思って、そして実際に良かった場合だ。昨日はどうだった?」



 勝手に飛び出していき、不自然さだけを相手に与えてしまった。



 良かったことなんて一つもない。



 勘のいい人だったら、バレていた可能性だってあった。



「挙げ句の果てには、俺からの電話を拒否しやがったよな?」

「うっ……。そ、それは……」

「知らない人からの電話だと思った、なんて言い訳は聞かないからな。お前に登録させるとき、ちゃんと名前で登録させたからな」

「……すいません」



 心の底から申し訳なさそうに俯く瀬良を睨みつける慶喜だったが、やがて諦めたように小さく息を吐いた。



「それで? これからどうする?」



 それは瀬良に対して言ったのではなく、部活メンバーに対して言った言葉だった。



「このまま先輩の依頼を続けるか、続けないか」

「「「う~ん……」」」



 迷った返事を返す美優、月葉、明人の三人。



 正直、三人ともこのままでは行けないと思っているのは事実で、しかし、それを本人を目の前にして言っていいのかどうか。



 実際問題、一番今回被害にあったのは明人だ。



 慶喜は明人に尋ねるように首を回すと、明人は少し考えた後に、



「最後のチャンスでいいんじゃないかな?」

「……いいのか?」

「まぁ、僕はあんまし気にしてないよ」



 最後に明人を逃がした甲斐もあって、二三也には明人は疑われていないようだし、一応、ここから巻き返す方法もなくはない。



「……お願いします」



 明人に続いて、瀬良が深く頭を下げた。



 もう一度だけチャンスをください、今度はしっかりやりますから、と。



「……はぁ」



 まるで俺が悪役のようじゃねぇか、と思う慶喜だが、足を組み外すと白紙のプリントを取り出し、何かを書き始めた。



「これが最後のチャンスだ。手順はこの通りに行かせてもらうぞ」



 慶喜はそう言って、書き殴りにも近いプリントを皆に見えるように見せると、美優と月葉が「えっ」という声を同時に発した。



「慶喜君、これって……」

「大丈夫なの?」



 二人に心配の目を向けられた慶喜は、それでも何のこともないように頭を掻いて、



「ま、大丈夫だろ」



 と返した。



「昨日の不自然さってのがなかなかネックになっていてな。あれを無視することはどうしてもできねぇんだよ」



 仮にあれをなかったことにして、瀬良と二三也をくっつけさせることに成功できたとしよう。



 だが、きっといつかは聞かれることになる。



「あれは何だったのか?」と。



「人っていうのは違和感が少しでも感じられれば、心の片隅に残ってしまう生き物なんだよ」



 例えば、勉強しているとき。ノートに自分の髪の毛がついていれば、人は誰でも払いたくなるはずだ。別に払わなくても勉強はそのままできるはずなのに。



 それは当然のことで、それが人間関係になったとしても変わらない。



「ほんの些細なことってのは、時間が経てば経つほどに膨らんでいく。そして、人間関係ともなると、大抵、膨らんだときには後には引けない状況になっている」



 だから、潰すなら早いうちがいい。



 それを踏まえた結果、慶喜が導き出した作戦がこれとなったのだ。



「でも慶喜君……」

「大丈夫だって言ってるだろ?」



 美優が何か言いかけようとしているところを、慶喜が遮ってその先を言わせない。



「慣れるとそんなもんだ」



 と、目線を誰とも合わせずに自虐するように笑った。



「ごめんなさい、私のせいで」

「まったくだ」

「志賀君、そろそろ許してやってもいいんじゃないかな?」

「わかってるよ」



 慶喜は自分の心を落ち着かせるために静かにゆっくりと息を吐くと、瀬良を見つめた。



「いいか。どっちにしろ、この作戦が失敗したらあとはどうしようもなくなる。アンタの信用は完全に落ちて、そこから先は俺達は関与しない」



 慶喜の忠告にコクコクと頷く。



「そして、この件の終わり次第、アンタの依頼は一切引き受けない。理由はもういいよな」

「……はい」



 悲しそうに頷く瀬良だったが、慶喜としては「なんで後輩の俺が、先輩に人生の不可逆性を説明してんだ?」と思うばかりだ。



「……よし。それなら、この作戦名を決めておくか」



 すっかり重くなってしまった空気にしてしまった責任を感じたのか、慶喜は最後にその空気を払拭するように言った。



「題して『嘘は本当で塗りつぶせ作戦』の決行だ」

「……ときどき慶喜くんっておかしくなるよね?」



 月葉の言葉に小さく頷いた美優と明人だった。



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