再従姉妹をからかおう
大分待たせてしまったので、あらすじだけでも。
《前話のあらすじ》
最初から作戦にない行動をとった瀬良を見てもいられず、それをなんとか修正しようとした明人が墓穴を掘る。
慶喜が明人だけでもと避難させるために使ったのは妹子であった。
と、まぁ。ざっくりすぎるあらすじでした。
作戦は散々な結果に終わった慶喜達が集まった場所はファミリーレストラン――いわゆるファミレスだった。
慶喜、美優、月葉はもちろん。しかし、明人の姿はなく、その代わり女の子とは到底思えないほどぜぇぜぇ言っている妹子の姿だけがあった。
「はぁ……! はぁ……! ど、どしゅこしょちゃぢゃす……! しぇちゅめいしゅ、っちぇ!」
「何言ってるかわかんねぇから」
「おじいちゃんにょしぇいでしょ!」
「ここにお前の祖父はいない」
「あぁぁぁぁぁぁ! ごほっ、ごほっ……」
「いきなり叫ぶなよ。ほれ、タバスコだ」
「いらにゃいよ!」
珍しく妹子をいじれることがそんなに嬉しいのか、慶喜は作戦が失敗したというのに、やけにご機嫌な様子だ。
そんな慶喜を恨めしそうに見る妹子は水をピッチャーごともらい、その口をそのまま自分の口へとつけた。
「おい、さすがにそれは汚ぇだろ」
「うる、さい!」
周りの客も店員もドン引きした様子で妹子を見るが、妹子はそんなことは気にもせずに、あっという間に満タンであったピッチャーの水を飲み干し、酒飲みのようにドンとテーブルに叩きつけた。
「どうせ洗うんだから問題ない!」
「いや、そういう問題じゃねぇから」
「さ、さすがにもともと汚いかもしれないし……」
「だ、大丈夫なの? これ?」
美優と月葉もさすがにと言った様子で周りを見渡すが、妹子はむしろ胸を張って、
「ここの店は清潔を心がけているのは知ってるから! 料理も美味しい!」
おぉ……!
周りの客達があまりの(女だけども)男らしい態度とその言い分に拍手を送り始めた。店員も褒められてか、照れるように頬を掻いている。
だが、慶喜は知っている。
(お前、この店来るの初めてだろ)
できるだけ知り合いのいない、学校から離れた店を選んだのは妹子だ。走りながら電話をかけてきたときはさすがの慶喜も感心したものだ。
「どうも、どうも……って、それよりも!」
両手をテーブルに叩きつけると妹子は慶喜の顔をじっと見つめた。
「謝って」
「断る。謝る理由がない」
「あるでしょ!」
妹子は制服のポケットから携帯を取り出すと、他の二人にも見えるように慶喜から送られてきたメールを見せた。
『助けてくれ』
という五文字しかなかったが。
「え、これだけのメールでわざわざ来てくれたの?」
「そうだよ! どうしてくれんの、お兄ちゃん! 私を心配させてまで来させた結果があれって!」
「け、慶喜くん。さすがにこれは悪いよ」
美優、月葉が弁護できないとの目で慶喜を見つめるが、慶喜はなんてことのないように目を細める。
「妹子、嘘はよくねぇな」
「嘘だって? これのどこが!? 正真正銘、お兄ちゃんが送ってきたメールでしょ!?」
「確かにそれは俺が送ったメールだが、お前が読み取った意味は違うだろ?」
慶喜がそう言うと、妹子はうっと息を詰まらせ、ゆっくりと目をスライドさせる。
「お前はこの五文字を見てこう思ったんだろ? 『お兄ちゃんが助けて? お兄ちゃんが用件だけを送るだけとは思えない。これは何かが切羽詰まっているのではなく、お兄ちゃんのことだ。きっと修羅場でも作ったに違いない。それならこの私がさらに状況を悪化させて面白おかしくぷぷぷ……!』ってところだろうな」
「な、なぜわかった!?」
「お前の考えそうなことだ。あと、お前が学校に到着した時点で、お前面白そうに笑っていたからすぐにわかった」
「以心伝心ってやつだね! やっぱり私とお兄ちゃんは運命で結ばれているんだよ!」
「ま、お前がそう考えると思ってあのメールを送ったのは間違いないけどな」
「無視!? しかも、私の思考を読んでいただって!?」
どちらにせよ、慶喜が妹子を利用して明人を避難させたことには変わりはないのだが、そこで他の二人から再従姉妹二人に質問があった。
「でも、なんで明人君が妹子ちゃんを?」
「あと、妹子ちゃんもなんで明人くんを避けてるの?」
「「あぁ、それ」」
二人して声を合わせたことに、慶喜は妹子に嫌な顔を、妹子は慶喜に笑顔を見せる。
が、すぐに慶喜が説明した。
「初めてコイツと明人が店で会ったときがあっただろ。コイツが自ら明人に抱きつき、偽ヒロイン達に追いかけ回されたことだ」
「あのときもお兄ちゃんに謀られたんだけど」
「お前が飛びついた先は明人だっただろ?」
「正確には、お兄ちゃんが躱したせいで、その後ろのあの人に、だけどね?」
「それはお前の不注意だ」
二人してまた話が脱線しそうになったところを、月葉が咳払いして止める。
しかし慶喜はそのことを思い出しているのか、やけに楽しそうだ。
「コイツはそのヒロイン共に追いかけ回されてから、原因である明人に対して恐怖を覚えるようになってしまったようだ。面白いことに」
「面白くないから! 今でも、たまに追いかけられるんだよ!?」
「マジか。災難だな」
そんな顔には一切見えない。
そして、なぜ明人が妹子に対して好意を抱いているのかというと。
「あれはもはや一種の植え付けだな。動物が初めて会った相手を自分の親だと思うのと同じだ」
「どういうこと?」
「アイツって女性恐怖症だったわけだけど、その中で初めて会った女性に触れられて何ともなかったのはコイツが初めてなんだよ。それで恋、とまではいなくても少しコイツに興味がある的な?」
入部してすぐのこと。それを言われたときは明人の趣味を疑ったもんだが、考えれば考えるほど面白くなってきたので、二人には内緒で明人と妹子をくっつけさせようとして画策していたらしい。
本音は、自分に妹子を近づけさせないための抑止力として明人を使おう、ということだが。そこはあえて伏せておく。
「と、いうことでなかなか面白い事態になっているわけだ」
「「へ、へぇ~……」」
「面白くないって言ってるじゃん!」
わいわいと騒ぐ四人の姿。
一方、明人の方では
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今週にはもう一話いきたい……!
昨日、楽しみにしていた小説が消され、さらには作者すらも消えてしまいました……。
すごく楽しみで更新チェックつけていたほどだったので、地味に傷心気味だったり……。