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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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当たり前を崩そう

 次の日、恋愛相談部員達は昼休みに部室で昼食を摂りながら、今後の予定について話し合っていた。


 美麗唖だが、あまりにもひどいテストの点数に親に怒られたらしく、家からプリントを渡されたらしい。家から課題を渡されたことに、さすがの慶喜もそれを聞いたとき若干同情したとのこと。


「山野瀬良は言わずもがな病んでいるわけだが」

「そうだね」


 美優を含めた部員全員が頷く。


「やはり関係を深めるためにはこれを秘密にしなければならない」

「まぁ、そうだろうね」

「それで、どうするの?」


 月葉が同意し、明人が慶喜に尋ねる。


「結論から言うと、明人」

「?」

「早速だがお前の出番だ」

「え、僕?」


 急に名前を呼ばれた明人は驚きつつ、首を傾げる。


「お前が仲介役になるんだよ」

「僕が?」

「あぁ。いきなり山野瀬良を二三也に近づけてみろ。わざとすぎて俺達が裏で画策していることがバレちまうかもしれないだろ」

「……わかった。でも、どうやって?」

「……なかなか面倒な計画だが大丈夫か?」

「話を聞かない限りはなんとも言えないかな?」

「その言い方腹立つな」

「いやいや。慶喜くんがいつも言ってると思うんだけど?」


 月葉に図星を言われ、ばつが悪くなったのか慶喜は舌打ちをした。


「とにかくだ。基本明人には二三也と瀬良の仲介を担ってもらう」

「でも、そのためには……」


 美優がもしかしてと首を傾げ、それがどういう意味なのか理解した上で慶喜は首を縦に振った。


「そう、そもそもの明人と二三也をどうくっつけるかだ」

「その言い方ってだいぶ誤解を招きそうなんだけど……」


 小さく呟いた明人の言葉は置いといて、当面の目標は明人と二三也が何らかの関係になっていなければ、山野瀬良と二三也に関係を持つのは不可能だろう。


「勘違いしてはいけないのは友達ってのは困るってことだ」

「え、どうして?」


 慶喜の言葉に美優が反応した。


「友達だと俺達のことがバレてしまう可能性があるからな。俺が欲しているのは一時的な関係だ」


 慶喜が言いたいことはこうだ。


 山野瀬良を紹介した後、自分達は上手くフェードアウトできる。そんな脆すぎる関係。


「それってなかなか難しい注文だね」

「だから言っただろ。面倒くさい計画だって」

「具体的にはどうするの?」

「逆に質問しようか」


 月葉の問いにあえて答えず、慶喜は人差し指を立てて三人に問いを投げた。


「知り合い程度の関係って一体何だと思う? なりそう、ってかそうなる可能性の高い関係は何だ?」

「……」

「……」

「……」

「……おい。三人で思考放棄すんな。考えろ」


 普段から慶喜にばかり頼りすぎていることはわかっていても、それじゃ何とかしようと思って行動できないのが今の慶喜を除く恋愛相談部員だ。


 自分達でもう少し考えさせた方がいいと思って慶喜が問いをしたのに、全員思考放棄してもらっては全くの意味がない。


「お前らは少し頭を使ってくれ。俺がいなくなったらどうすんだ」

「「え!? いなくなるの!?」」

「ものの例えだ。あと顔が近い。離れろ」


 学園の二大アイドルとも言われる二人を容赦なく突き放すと、慶喜はため息をついた。


「俺だって風邪引くときがあるんだ。俺が休んだときには部活をやらないってのはないだろ」

「それは……」


 まったく考えていなかった。


 人間は当たり前すぎることを考えない節がある。だからこそ、少しの変化を大きな変化と捉えてしまい、不安や焦り、パニックを起こしてしまう。


「いいか。当たり前を捨てろとは言わないが、少しその当たり前を崩してみろ。そうすれば、いろんな予想が立てられ、いろんなものが見えてくるはずだ」


 そう言われて三人は改めて当たり前について考え、それを崩し、今の問いの答えを導く。


「「「友達を崩す……」」」


 まず行ったのは友達という存在を消したことだ。


 そうすることで、自分の周りにはたくさんの知り合い程度の関係をもつ相手がいることに気付く。


 では、なぜそんな人物がいるのか。


 どうやって会ったのか。今の状況に適した相手を選び、照らし合わせてみると―――


「「「あっ……」」」


 どうやら三人同時に導けたようだ。


 慶喜が珍しく口角を上げた。


「答えは何だった?」


 慶喜の問いに三人は何のためらいもなく答えた。


「「「友達の友達」」」

「正解」


 考えてみればそれも当然であり当たり前。


 当たり前を他の当たり前が隠しているだけに過ぎないのだ。


「友達の友達ほど関係の薄い存在はそうそういない。大半がそれを占めているだろ?」

「でも、慶喜くん。それだと山野瀬良さんも同じようなことにはなっちゃわない?」


 言うなれば友達の友達の友達。


 関係性は友達の友達以上に薄くなってしまうだろう。


「むしろそれでいい」

「え?」

「友達の友達だとどうしても遠慮が生まれちまうからな」

「……ああ~」


 言われたのは月葉だが、美優に思い当たる節があるそうでやけに納得した様子で頷く。


 月葉が美優に理由を尋ねると、


「やっぱり友達の友達だとね。気にしちゃうかな? 変なことしたら友達に嫌われるかも、って」


 だが、それにさらに一つ飛んだ関係になると、そんなことはあまり気にしない。


「つまり相手とまっさらな関係から始められるってことだ」


 関係はあるが、ほぼ真っ白。一から関係を結ぶのは本人の努力次第。


「と、まぁこんな感じだ。明人なら大丈夫だろ?」

「えっ……」


 何が大丈夫なのか?


 そう明人が尋ねる前に慶喜が答えを言った。


「お前の偽ハーレムだったアイツらの中に一人くらいはいるだろ。二三也を狙ってた奴くらい」



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