めげずに頑張ろう
ずいぶん、お久しぶりです。
今年は休みがなさ過ぎる。私の人生の責任者誰だ。呼んでこい! と、言いたい気分です。
問題(一部抜粋)
①公園で遊んでいる少年は彼の息子に違いない。
(must/the/boy/be/in/his/a/park/playing/son).
②その劇的なシナリオに私は感動した。
(made/the/impressed/scenario/me/dramatic).
③彼女はとても明るいので、皆から慕われている。
(by/so/loved/spirited/is/she/everybody/she/is/that).
(ぐぬぬ……。わからん!)
美麗唖の回答
①A his son must be the boy playing in park. ×
②The impessed scenario ×
③ ×
中間テストの結果が渡る頃、慶喜が美麗唖に向かって言い放った言葉は、
「最低だな」
という一言だった。
「だって仕方ないじゃん! わかんなかったんだから!」
開き直るかのように叫ぶ美麗唖に慶喜は心の底から蔑んだ目を向けると、美麗唖の解答用紙をもう一度みた。
「つうか、この問題に関しては並び替えにもかかわらず単語のスペルを間違えてやがる。『impessed』じゃなくて『impressed』。rが抜け落ちてる」
「べ、別にそこがあっててもどうせ途中で回答やめたからどっちみち×だっだし!」
「そこでまた開き直るところが本当に最低だよな」
美麗唖のテストを眺めているだけで力が抜けるように慶喜はため息をついた。
「ちなみにさっき言った最低っていう意味は、テストの点数もだからな?」
恋愛相談部の中で最も最低点を取ったのが美麗唖だ。化学が苦手な慶喜にすら、化学で負けているというなんともひどい点数をたたき出したのだ。……まぁ、そもそも美麗唖は恋愛相談部員ではないのではあるが。
「ちなみに慶喜くんは数学どうだったの?」
月葉の問いに美優が慶喜のことなのに、自分のことかのように息を飲んだ。
「96で学年二位」
「たっか!」
「お前は下から数えた方が早いもんな」
驚く美麗唖を冷静にへし折った慶喜はテストの話を変えるように大きく背伸びをした。
「さて、と」
正直言うと、テストの話は今解決しなければならない問題から逃げるために始めたものだ。現在、恋愛相談部はなかなか難しい問題に挑戦、というより引き受けてしまったのだ。
「山野瀬良。どうする?」
慶喜の簡単な問いかけに一同、ピタリと動きを止めた。
考えすぎて逆に思考停止したかのようだった。
「え、え~っと」
そんななか、おずおずと手を挙げたのは明人だった。
「なんだ?」
「とりあえず確認しない? 今の状況を、さ」
「まぁ、とりあえずするか」
それは依頼の内容の確認という意味ではない。山野瀬良の周りの状況の確認だ。
各自で調べようという話で前は終わったはずなのだが。
「「「「「…………」」」」」
話そうとしてみな口を閉ざした。顔色がますます暗くなってくる。
「この様子だと、全員同じような結論のようだな」
「そ、そのようだね……」
女性恐怖症を患わせていた明人だが、それ以上に具合の悪そうな顔をしていた。単純な恐怖と、女性恐怖症が再発した所為だろう。
それでも、黙っているのは不味いと思い、一応部長である慶喜が覚悟を決めたように口を開いた。
「俺は、山野瀬良ではなく問題の被害者とでも言うべき稲葉二三也を調べてきた。んだが……」
だが、またすぐに口を閉ざすと……。
「稲葉二三也の後ろにはほとんどと言ってもいいほど山野瀬良がいた」
「「「「……うん」」」」
他の四人も同意するように頷いた。四人はそれぞれ山野瀬良について多方から調べていたが、その過程のほとんどにその稲葉二三也が関わっていた。そのせいか、五人同時に偶然同じ場所に集まることもあったほどだ。もはや偶然ではなく必然とも言っていいほどに。
「だけど……まぁ。なんだ……」
慶喜が言いずらそうに後頭部を掻く。
「本気、であることは間違いないんだよなぁ……」
「「「「うん……」」」」
明人の件のように偽物であるとは考えられなかった。本物であるが故に、歯止めもきかなくなっているし、誰にも止められなくなってきている。
「明人。お前ならこういう状況なかったか?」
偽物といえど仮にもハーレムを作っていた人物だ。作られた個性の塊の中に病んだ人物がいなくてもおかしくない。
「ごめん……。なかったと思う、よ」
「本当にアイツら使えねぇな」
「ストーカー君。それはそれでどうかと思うんだけど」
病んだ個性を模倣していたら、それこそ明人の周りは危なかったかもしれない。きっと、彼女たちはそこまでやる勇気はなかったのだろう。褒められることをしていたわけではないが、そこだけは褒めてもよかったかのしれない。
「稲葉二三也。確かに一見平凡な学生なんだけどなぁ」
「あれで元不良なんてね……」
そう。美優の言うとおり稲葉二三也は今でこそ普通の学生だが、ついこの間まで不良であった。高校一年のある出来事以来、不良をやめ、平凡な学生へとなった。最初は距離を置かれていたクラスメイト達も、今ではだいぶ馴染んでいた。
「だけどやっぱりその問題がなぁ……」
「「「「うん」」」」
五人声を合わせて言った。
『今の彼女がその出来事に大きく関係した人物なんだよなぁ』
どう頑張っても離れる要素がなかった。