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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
107/131

病気に気を付けよう

 …………。


「うん。そうだな。これはお前だな。顔は」


 あの慶喜が思考を放棄して皮肉を言ってみたが。


「はい!」


 と、元気よく返事が返ってきた。だから慶喜がついでにと言葉を付け足す。


「身体は違うけどな?」

「ゴミですね」


 どこからそのどす黒い声が出てくるのか疑うほど、純粋な笑みに一同は鳥肌を立てずにはいられない。


(怖ぇな……。帰りてぇな……)


 慶喜がそう思いながら部員達をチラリと見ると、皆同じような気持ちなのだろう。顔色がどんどん悪くなってきている気がした。


「えっと……だな。この男についてなんだが―――」


 その瞬間女子生徒の目の色が変わった。


「二年三組稲葉二三也ふみやボランティア部身長173cm体重53kg座高85cm中学校の頃は陸上部で県大会で個人三位学力は中の上だが社会科目が特に高い逆に苦手科目は国語友人は多くもなければ少なくもない普段は自転車登校しており休日はゴミ拾いに励む歩くゴミすらも拾う彼はまさに太陽のように輝いている彼女は私というより私しかいない似合わない月である私を輝かせてくれる唯一の人他にも―――」

「もう帰っていいか?」


 しかし、慶喜はそんな彼女に怖じけなく話しかける。ように見せた。本当は心臓が爆発しそうなくらい心臓の伸縮が激しかった。


『すごい……』


 と、部員達は思わず言ってしまったが、慶喜の心の中では。


(死んだら訴える死んだら訴える死んだら訴える)


 と、死んだら訴えられないという当たり前のことにも気付かないほど、慶喜は恐怖していた。

 しかし、そんな勇気ある慶喜の行動は暴走していた彼女の口を止めることに成功した。


「ご、ごめんなさい。つい……」


 「ついやっちゃったんだ。ごめんね?」とどこかの少女漫画で見そうな笑みに一同息を飲む。何がNGワードかわからないというのは想像以上に怖いものだ。正直言うと、一度思いっきり地雷を踏み抜きたいところだが。


「踏み抜いたら……どうなるんだろうな……」

「ちょっ……!」

「え?」


 思わず口に出てしまった慶喜の言葉に部員達は焦ったように女子生徒を見るが、女子生徒は一番慶喜の近くにいるはずなのによく聞こえていなかったらしい。首をきょとんと傾げる。


「(ちょっと~~! ストーカー君、怖いことを考えないでよ!)」

「(だって怖ぇだろ。地雷がどこにあるかさえわかれば楽だろ?))」

「(それを知ろうとして死ぬなんて私は嫌だからね!)」


 美麗唖の言い分にさすがの美優と月葉も何度も頷く。慶喜だって正直死にたくはないが。


「(ギャンブルってやつだ)」

「マジストーカー君殺すよ!?」

「殺菌ですかっ!」

「いやん! 怖い! 嬉しそうに殺菌って言う人初めて見たよ!」


 満面の笑みを浮かべる女子生徒から逃げるように後ずさりする美麗唖だが、期待の眼差しが向けられ、漫画のように足を震わせ始めた。

 そんな美麗唖を助けようとしたわけではないが、慶喜は女子生徒に声をかけた。


「依頼を受ける前に名前。聞いてもいいか?」

「? だから稲葉二三也ですけど……」

「いや、男の方ではなくお前の名前だ」

「あぁ。そうでした。私は二年一組の山野瀬良やまのせらといいます」

「山野瀬良?」


 その名前に美麗唖……ではなく明人が反応した。


「虫男の存在意義が失われたな」

「ホントにストーカー君は失礼だねっ。私にだって知らないことくらいあるし!」

「あ、そ」

「めっちゃ腹立つ~!」


 本当に興味なさそうに美麗唖に言い返した慶喜は、明人に目を向ける。


「それで、知ってるのか?」

「よくは知らないんだけど……」


 なんでも一時期偽ハーレムの人達から敵視されていたらしい。たびたび話にその名前が出てきて、明人が尋ねようとしたものの、女性恐怖症の所為と、あからさまに話を変えさせられた所為で詳しい話は聞けなかったようだ。


「なるほどな」

「なんで隠してきたのかはわからないけど……」

「アイツらのやりそうなところだろ」


 ハーレムに加わるためにはある程度の個性が必要となる。その個性を天然に持ち合わせている瀬良を敵に回したら危険だと感じたのだろう。


「あの温厚な桜とかも絶対に関わるなって言ってたよ」

「それはおそらくあれだ。これだ……まさに」


 明人の命を心配して言ったのだろう。その桜という人は。


「つうか、知らない人の名前出すな。ビビるだろ」

「あ、わかります。いきなり知らない女の名前聞くとビックリしますよね!」

「いや……お前のは……やめとこう」

「それで正解だよ、ストーカー君」


 また目の色を変え始めた瀬良を見て、慶喜はグッタリと肩を下げた。


「一応言っておくと、俺達はあくまでお膳立て。いい状況を作り出すだけだ。百パーセント付き合わせるということはない。……文化祭までにはな」

『(あ、最後に少し未来を持たせた)』


 普段から自信に満ちあふれた、とまではいかなくとも失敗するとは思っていない慶喜をここまで変えてしまう瀬良は「大丈夫です。頑張ります」と胸の前で拳をつくる。

 慶喜はゆっくりと息を吐きながら天井を見上げる。本当に偶然だが、小さい蚊を見つけた。


(あぁ。今年の夏は寒そうだ)




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