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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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行く先を考えよう

 部室の中では、これ以上にないくらい動きがなかった。時間が止まっている……そこまではいかなくとも、誰一人石のなったように動けずにいた。

 そんな状況を作り出したメドゥーサはというと。


「あのぉ……。大丈夫ですか……?」


 と、何が起きているのかまったく理解していないという顔でただただ純粋に、何も考えずに首を傾げる。自分一人だけが除け者にされていることに不安を感じているようだ。

 メドゥーサに再び見つめられ、石化から解除された慶喜はため息ではなく、別の息を吐いて部員達と美麗唖に向けて手招きした。


「ちょっと」


 たった四文字だったが、誰も何も言わずにまるで洗脳されたかのように、部室の隅へと移動した。慶喜、美優、月葉は明人のときより深刻な表情であった。

 そして、隅に集められた仲間達に向かって慶喜がまた少ない言葉で聞いた。


「どう思う?」


 すぐには誰も答えなかった。

 答えに迷っていると言うよりか、答えてもいいのかと戸惑っている様子だった。ここは恋愛相談部、何もせずにこんなことを言ってもいいのかどうかと迷った一同だったが、言わずにはいられない。


『無理』


 と。


「よし、わかった」


 その答えに安心したと言わんばかりの声色で、慶喜が立とうとしたが、それが美優と月葉が袖を掴むことで止める。


「ダ、ダメだって。諦めるのは」

「や、やるだけ……ね?」

「いやいや。結論は出ただろ」


 そう。

 答えは満場一致で出たのだ。

 無理、と。

 しかし、


「でもほらまだ相談内容も聞いてないし」

「そ、そうだよ志賀君」


 美麗唖と明人までもが慶喜を止めるので、慶喜はしぶしぶまた腰を下げる。


「相談内容なんてほぼほぼわかってんだろ?」

『ま、まぁ……』


 今回ばかりは慶喜が推測するまでもない。

 おそらく……いや、間違いなくこんな感じの依頼になるだろう。

 この隣で歩く女と別れさせてほしい。


「おそらく文化祭までに付き合って、デートプランを考えてほしいとでも言うと思うが……」


 慶喜はそう言って、女子生徒をチラリと見たが、女子生徒は適当に慶喜に笑いかけた。


「うおぃっ」


 その笑みに思わず慶喜は鳥肌を立ててしまい、それに隣にいた美優と月葉が驚く。


「だ、大丈夫?」

「また風邪?」

「いや……なんつうか。あの笑み……怖ぇ」


 いくら自分に対しては何とも思っていないとわかっていても、例えば今まさに人を殺そうとしている人が自分に突然笑いかけてきたら誰でも恐ろしく感じてしまう。

 心を必死に落ち着かせた慶喜は改めて問うた。


「で、どうする?」


 相談を受けるか受けないか。

 一度引き受けてしまったら途中で投げ出すことはおそらく無理であろう。理由は言わなくてもわかるはずだ。

 つまり、これが最初で最後のチャンスだ。引き下がるのであれば今のうちだ。


『…………』


 もう何度目の沈黙であろう。

 皆が静かに葛藤を繰り返している。その中で、最も早く答えをはじき出したのが、


「はい」

「言ってみろ、虫男」


 いつものようにひどいあだ名で呼ばれていたが、美麗唖は今回に関してはそのことに何も言わなかった。


「私は部員じゃないから―――」

「協力に一票」

「なんで!?」


 第三の選択肢に文字通り逃げようとした美麗唖は強制的に協力することになった。


「おかしくない!? 私は部員じゃない!」

「知るか。テメェだけ楽な思いをさせてたまるか」

「せめて受けないっていうことにすればよかったじゃん!」


 そんな美麗唖の言い分を完全に無視した慶喜は正規部員の顔を見る。

 三人は互いの顔を見合わせ、コクリと頷いた。


『受けるよ』

「……そうか」


 正直嫌ではあるが、予想外の返事ではなかった。

 実際、美麗唖を無理矢理協力することにしたのは、最低でも一人は引き受けようと思っていたからだ。


「決まりだな」


 あらゆるものが全員一致で決まった一同は、改めて椅子に座り直して相談者を見た。

 慶喜の顔が引きつっていたが、それでも言ってやった。


「話を聞こうか」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 一見無害そうな笑みに一同は本当なのかと疑問が湧いてしまう。しかし、現実は現実。変わることはない。


「それじゃ話をしますね?」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 いざ話を聞こうとした途端に慶喜が堪えられないとばかりに止めた。


「話を聞こうと言った手前、申し訳ないのだがちょっといいか?」

「えっと……はい……?」


 その返事に少しだけ慶喜が安心したかのように笑った気がしたが、そう思ったときにはもう真面目な慶喜へと戻っていた。


「おそらくだがこの相談は『この写真の男と付き合って、文化祭デートをしたい』ということでいいのか?」

「はい! それですね!」

「そうか」


 正規部員達はそのやり取りを不審に思ったようだが、美麗唖はわかっていた。


(そうだね。聞きたくないね。相談の前に現状の話は聞きたくなかったね)


 この人物は危険だ。具体的なことを知らない方がいい場合もあるのだ。


(もしさっきやばい・・・話が飛び出してきたり、話に熱くなって、あの人が暴走したらと思うと、ね)


 慶喜もそれを怖れたのだろう。まずは自分の身と精神を真っ先に考えて、瞬時に相談内容を聞いたのだ。


「そのためにまず、この女性と別れさせ―――」

「私です」

「―――たいと……うん?」

「私じゃないですか。この写真の人」




 ………………………………………………………………………………。





 部室より先に病院に行ってほしいと切に思った慶喜であった。



あっ、名前を未だに出してない!

本編よりも先に発表してしまうサブタイって……

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