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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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相談しよう④ 山野瀬良編

大分遅れました。

テスト勉強やらレポート課題が四、五週間連続で出されまして、話を考える暇がない……!

『華麗』さんを出すことは決定していますが、今回の依頼主は違いますよ?

……けど、ヤバい。マジで……ヤバい。

 恋愛相談部の出し物として、恋愛についてのノウハウを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「……はい」


 一瞬の間があったのは、相談を受けたくないという慶喜の超個人的理由だ。しかし、皆の視線に堪えきれず仕方なく返事した次第である。


「失礼します」


 丁寧に挨拶をして入ってきた生徒はいかにも大人しそうな女子生徒だった。


「また女子か」

「女子は男子よりも恋愛に気を遣っているんだよ、ストーカー君」

「恋愛に気を遣っている暇があるなら相手に気を遣え」


 言っていることがなまじ正しいせいで美麗唖は言い返せない。

 その代わりに慶喜の迎えの席を開けた美麗唖は、女子生徒に座るように促す。そこで、靴の色を見て。


「先輩だよ、ストーカー君」


 と、慶喜に小さく耳打ちすると、慶喜はあからさまに嫌そうな顔を作った。


「ちょっ……、本人の前でそれは……」

「俺が人前を気にするタチかよ」

「能面をつけて街に出る人の言葉とは到底思えないね」

「あれは俺じゃなく相手に気を遣った結果だ」

「「気の使い方が空回りどころじゃない……!」」


 被害者である美優と月葉が揃って嘆く。横で能面をつけてずっと歩かれるのはやはり相当な負荷がかかるようだ。


「別にいいだろ。少しは俺に自由をさせろ」

「それにしたってあれはね」

「もはや一部の名物扱いになってるしね」


 能面をつけて歩く慶喜について話を咲かしていると、慶喜の向かえに座る女子生徒が居心地悪そうに肩を狭めていた。

 すかさず慶喜が咳払いすると、部員達もそれに気付き深く頭を下げる。


「悪い」

「い、いえ……! 別に大丈夫ですよ、むしろこちらこそ……すいません」


 互いに申し訳なさそうに黙っていたが、普段から空気を読まない慶喜にとっては沈黙を破ることは容易いことだった。


「それで、今度はなんだ?」

「今度……? 私はこれが初めてだと思いますが……」


 自分の記憶を確かめるように慶喜と視線を外すと、席を譲ってくれた美麗唖が手を横に振った。


「たぶん、ストーカー君はそういう意味で言ったんじゃないから」

「そうなんですか?」

「そろそろ慶喜君も休みたいって事です」

「はぁ……?」


 恋愛相談部の活動を全く知らない先輩は首を傾げるが、慶喜は事情を話すことなく本題に入る。


「それで相談内容は?」


 先輩相手にもまったく態度を揺るがすことなく慶喜は聞く。隣で美優と月葉が不安そうに頬を掻いているが先輩は「大丈夫だから」と安心させるように言って、


「文化祭デートを教えてほしいんだけど……」

「文化祭デート?」


 と、慶喜は眉を細めた。


虫男むしお、文化祭はいつだ?」

「再来月。あと私は無視でもなければ男でもないからね?」

「その前にお前はここの部員じゃない」

「待って! 男の前にそれはおかしくない!? その前に男じゃないのはずだよね!?」


 美麗唖の叫びは全く聞こえていないかのように聞き流し、慶喜は考えを深めるように肘をついた。


「なぜ今なんだ?」

「え?」

「なぜ今ここに来た? いくらなんでも先の話すぎるだろう」


 文化祭デートのためにはもちろん計画のための期間が必要である。しかし、文化祭まではいくらなんでも時間がありすぎる。別に悪いとまでは言わないが、腑に落ちない点ではある。

 慶喜の疑問に女子生徒は何かを迷う素振りを見せ、それから覚悟を決めて制服のポケットから一枚の写真を取りだした。


「これを見てください」

「……? っ……!」


 バシィィィィッッ!

 机の上に置かれた写真は気付けば慶喜の手の中に収まっていた。さらに言えば、その写真を持つ慶喜の肩は上下に激しく揺れており、運動をした後のように慶喜の顔には汗が浮き出ていた。


「慶喜君!?」

「ど、どうしたの!?」


 急な変貌に美優と月葉が揃って尋ねるが、慶喜は荒い呼吸を繰り返していた。


「どしたのストーカー君?」

「志賀君?」


 美麗唖と明人の声にも耳を傾くことはせず、青い顔で目の前の女子生徒を見た。女子生徒はその視線にただただ純粋に首を傾げる。その行為で余計に慶喜の顔が青くなっていく。


「……お前。………………マジかぁ」


 慶喜が一人でに今回の相談内容を整理していく。他の部員が必死に慶喜に声をかけるが、慶喜は「嘘だろ……」や「無理。絶対無理」他にも「詰んだ……」などの負の言葉を繰り返す。


「本当にどうしたのさ?」


 慶喜の不自然な態度に痺れを切らした美麗唖は強引に慶喜の持つ写真を奪い取る。


「おい、やめろ。バカっ!」

「何も知らなければ何の反応もできないもん」


 そう言って写真を覗き込んだ美麗唖は―――


「………………………………………………………………………………」


 慶喜同様顔を真っ青にし、それでも何か言わなければいけないと絞り出した言葉が、


「無理」


 という二文字だった。


「何が写って―――」


 美麗唖の隣にいた明人が首を伸ばして写真の中を覗き込むが、それを見た瞬間やはり顔を真っ青にして何も言わなくなる。


「ど、どうしたの三人とも!?」

「怖い! 怖いよ!」


 三人としては見なかったらどれほどよかったことかと言いたいところだが、そんなことを言う体力も覚悟もない。まさに絶句の一言である。


「見せても……大丈夫なの? これ……」

「? 大丈夫ですが……?」

「いや、大丈夫じゃねぇから。怖ぇから」


 さきほどの迷いは何の迷いなのか切実に聞きたいが、それも恐ろしくて聞けそうにない。


「ねぇ! さっきからどうしたの慶喜君達!」

「私達にも見せてよ!」

「うわっ。ダメッ! 二人には見せたくない! あっ!」

「このバカッ!」


 美優と月葉が美麗唖から写真を取ろうとし、取らせないようにしていた美麗唖だったが手から写真がするりと抜け落ちた。


「まったく……もう」

「三人だけズルいですよ」


 床に落ちた写真はちょうど表側になっており、拾おうとした美優と月葉はその写真を見て石のように固まった。

 なぜなら。

 そこに写っていたのはカップルらしき二人の人物。一人はおそらくこの学校の男子学生。

 もう一人は――――――




 写真の服の上から罵詈雑言を書かれ、挙げ句の果てには顔に今回の依頼主の顔があとから貼られていた。




「……?」


 純粋に首を傾げる女子生徒に、この場の全ての者が鳥肌を立てた。



皆さんならどうします?

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