文化祭を決めよう
相談がなかなか来ない……!
問題(一部抜粋)
①近代合理主義哲学の祖とされ、数学者でもあった哲学者は誰か
②実際に行われる法律の上に、人間社会の原理となる規範があるという思想を何と言うか
③②によって、国や社会が人民相互の契約で成立したという政治学説を何と言うか
(うっ……。ここらへん人名が多すぎて覚えるのを後回しにしてたんだった……)
明人の解答
①カント ×
②自然法思想 ○
③社会契約説 ○
中間テストも終わり、それぞれのクラスや部活が文化祭の準備に取りかかろうとしているなか、慶喜達恋愛相談部は未だに何をするか決めていなかった。
「考えてきてくれと言ったはずだが?」
「ごめん……」
「さすがに明人君に任せっきりにするのは悪いよ、慶喜君」
「それに慶喜くんが思いつかないなら、他の人もダメだって」
「あらゆることに関していつも任せっきりにされてるのは誰だろうな」
「「うっ」」
「……はぁ」
だが、今回すべてを押しつけたのは慶喜。確かに悪いことをしたのかもしれない。
「ならどうする?」
正直もう何もしなくてもいいのではないかと思っている慶喜だが、
「何もしないとすぐに廃部だもんね~」
「それだけは避けなくちゃ」
と、部外者である美麗唖と新入部員の明人までもが必死に考えていた。
慶喜としては、静かでなくなった部活にもう興味はないのだが美優と月葉が誰よりも力を入れて、誰よりも部活の存続を願っていた。
「こういうのはどう? 文化祭まで相談を伸ばして、文化祭で解決させる。そして、恋愛相談部をアピールして貰うのは」
「でもそれって出し物って言えるの?」
「文化祭で受けた相談ならまだしも、その前から受けていたとなるとちょっと」
月葉と明人の反論に口を閉ざす美優。さらに追い討ちをかけるように慶喜が、
「そもそも相談が来るかどうかもわからねぇんだ。決定とは言えないな」
「う~ん」
次に提案したのは月葉だった。
「展示会は? 楽だし」
「それなら慶喜君もいいかもね」
しかし、またしても慶喜の顔は渋っており、
「展示会って何を展示するんだよ。部活に関わることじゃないとやっぱりダメだろ?」
「そうなの、みっちゃん?」
「申請が通るかどうかと言われるとねぇ……」
「あぁ、そっか」
何をやるにも必ず生徒会や教員に申請を出さなければいけない。大抵のことは見逃してくれるはずだとは思うが、さすがに全く部活に関係ない展示会を許してくれるとは到底思えなかった。
「…………」
再び部室に訪れる静寂。
そこで次に手を挙げたのは新入部員の明人だった。
「恋愛についてのノウハウを教えるってのは?」
「それはいい考えかもね」
明人が提案し、それに乗る美麗唖。
それに対して慶喜が口を開こうとした瞬間に、
「これなら文句ないよね?」
「いや……それはだな……」
美麗唖が有無を言わさない勢いで慶喜に念押しした。
「だってこれなら間違いなく予定が変更することはないだろうし、恋愛相談部として一番無難で申請も通りそうだけど?」
「ぐっ……」
「ストーカー君。いい加減諦めようよ」
慶喜が今何を考えているのか美麗唖には手に取るようにわかる。
どうせ、
「如何に自分が楽できるか、とでも考えているんでしょ?」
「お前って本当に腹立つ野郎だな」
図星のようだ。
しかし、考えてみてもほしい。確かにこれだと、部室に適当に恋愛について書かれた紙でも貼るだけでいいかもしれないが、問題はその紙を誰が書くかということだ。
「苦労するのは結局俺じゃねぇか……」
「それに関しては仕方なくない? ストーカー君しか書けそうにないし」
挙げ句には他の三人で頷く始末だ。
「お前ら楽しすぎじゃないかねぇ。それに俺だけの意見じゃダメじゃねぇか?」
「「え、なんで?」」
現にその慶喜の活躍によって解決した美優と月葉が首を傾げた。
「俺は恋愛は感情論ではなく理屈だと思っているんだが」
「うん」
それはなんとなく気付いていた。慶喜の考えた作戦には理屈ばかりが詰まっており、予想通りに事が運んでいたように思えるのはそれが原因だろう。
「俺は恋愛を理屈九割、感情一割だと思っているって前に言ったよな?」
「ない……と思うけど……」
月葉がそう言って美優に確認を取るが、美優は首を横に振った。
「……あぁ。それは倉間先生か」
「ストーカー君、もしかして疲れてる?」
「前からそう言ってるよな?」
「だったね。まぁ、どうでもいっか」
「どうでもよくねぇだろ」
いつか本当に不登校にでもなろうか、と本気で思う慶喜だが家は家でまた疲れると思いだし、色々な意味で行き場のないため息をつく。
「とにかくだ。俺の恋愛だけだと理屈がメインになってしまうんだよ」
「それの何がダメなの?」
「理屈で人は納得はさせられない」
「……?」
理屈だからこそ納得させられるものだと皆は思うのだが違うのだろうか。
「恋愛は最終的には感情論。俺ができるのはそこまで連れて行くだけだ。そこから完璧に納得させるにはどうしても感情論を出せる奴がいないと無理だ」
つまり。
「お前らの力、貸してもらうぞ」
「「「……!」」」
「ほぅほぅ……」
部員が嬉しそうに目を輝かせ、美麗唖が面白そうにそれを見守る。その美麗唖が気にくわない慶喜は、
「お前って本当に気にくわないな」
そう言って仕事を始めるようにため息をついた。