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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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新入部員を頼ろう

 朝から騒がしい二人と話してきたのに、学校では平常運転で面倒くさい一日が始まる。むしろ、今日からはそれ以上になるかもしれない。


(ついてねぇよなぁ。ホント、最近の俺って)


 教室に鞄を置いてきて、とりあえずいつも通り部室に行くと、朝と同じように部室の中が騒がしかった。

 これもまた今までであれば美優と月葉、あとは美麗唖が話に花を咲かせているのだろう、と思うところだが、中から聞こえてくる声がそれを否定する。

 明らかに一人多い。


「あっ、おはよう! 慶喜君!」

「おはよう、慶喜くん!」

「おっはー、ストーカー君。今日も一段と疲れた目をしてるね!」

「……よう」


 残業でもしたのかというくらい、朝にしては覇気がなさ過ぎる声を発すると、慶喜は同時に申し訳なさそうに椅子に座っている人物を見た。


「で、なぜお前がここにいる?」

「お、おはよう。志賀君」


 慶喜と目を合わせないで返事をしたのは前々(まえさき)明人。簡単に言えば、主人公特性を持った人物であると同時に、その主人公特性を理由に無意味な女子までを引き込んでしまった人物。


「挨拶は聞いてないんだが?」

「ご、ごめんなさい……」

「謝罪も聞いてない」

「は、はい……」

「まぁまぁ、ストーカー君」


 責めるような態度で明人を追い詰めていく慶喜に美麗唖が止めにかかる。だが、そんな美麗唖を


「……お前もだからな?」

「私はいつものことじゃん」


ケロリと答えた美麗唖に慶喜がため息をつく。そして、改まって明人を見た。


「さっさと用件を言え」

「え?」


 明人が一体何をしに来たのかはあらかた見当が付いている、そう言っていた。


「そんなことだろうとは思っていたけどよ」


 慶喜はそれだけ言うと、後は何も言わずに自分の席へと座った。そして、宿題のプリントと筆箱を出した。

 後は自分で来い。そういうことだろう。

 美優と月葉に背中を押されるように明人は慶喜の前に行くと、プリントを慶喜へと差し出して、


「僕もこの部活には言っていいかな?」

「……はぁ」


 慶喜のため息に明人以外のメンバーが笑う。このタイミングで筆記用具を出した時点でわかりきっていたのだ。

 慶喜は明人と向き合うと、シャーペンを持つ手を明人へと出して……、


「部活願いは俺でなく倉間先生に出してこい、バカ」

「あ、そうだよね! はい!」


 慶喜に言われ慌てて部室から出た明人を見送ると、三人は椅子に座った。


「まったく素直じゃないね。ストーカー君は」

「あ、本当に宿題やってないんだね」

「え~っと。あ、やっぱり化学だ……」


 美麗唖、月葉、美優のかなりレベルが高い女子達に囲まれているのに、慶喜は嬉しい顔をするどころか「うっとうしい」と声を漏らす。


「そこ、慶喜君。答え違うよ?」

「本当だ。molをLにするときは22.4をかけるんだよ」

「数学は出来るのにこれはできないって……ぷっ。しかも月葉ちゃんよりも早く入学しているのに……! ぷぷっ……!」

「うるせぇな。大体なんで22.4なんて半端な数字なんだよ。自然の神はバカか?」

「神様の所為にし始めちゃったし……っ」

「虫男はマジで帰れよ」


 わいわい朝から騒がしい時間が続く。

 明人が部員になった今、きっと慶喜が求めていた寂しさと静けさは手に入らないだろう。


(日常ってのは本当に嫌になってくるな……)


 思った通りに物事は進むのに、思った通りの結末が帰ってこない。必ずいらないプラスアルファがついてきてしまう。


「……はぁ」


 何気なく慶喜は窓の外を見ると、遠くの方でゆらゆらと陽炎が立ち上っていた。

 いつの間にか季節が流れていた、と言いたいところだが、現実でそんなことはあり得ない。

 しかし、


「もうすぐ夏だな」

「今年は梅雨の季節が短かったね」

「はっきり言ってお前達の相談を受けている方が長かったのではないかと思うくらいだ」

「まさか、たった三件受けただけでね~」

「……そうだな」

「「……?」」


 慶喜が僅かに開けた間が二人には気になったが、その事情を知っている美麗唖は上手い具合に助け船を出す。


「そういえば、そろそろじゃない? あれ」

「そろそろと言われてもわからん。というか、何でいかにも前から知ってます風を出してんだよ。お前もしかして留年か?」

「正真正銘、今年入学しました!」


 せっかく助け船を出した美麗唖だが、慶喜の対応は相変わらず酷い。が、それを心底嫌っている節はないようだ。……Mではない、はずだ。


「そうじゃなくてさ~。文化祭の準備のことだよ」

「運動会もまだなのにか?」

「運動会に準備はいらないでしょ」

「お前、準備運動に謝っとけ」

「そういう意味じゃなくて!」


 要するに文化祭の準備をクラス事にそろそろしなくてはいけないのだ。屋台を出せるのは二年生以上、もしくは部活。一年生は展示や発表などをしろと言われている、もしくは言われるのだ。


「問題は部活のこと」


 恋愛相談部はもちろん運動部ではない。文化部に決まっている。

 文化祭で文化部が何もしないとは言語道断。つまり、恋愛相談部は文化祭で何かしなければいけないのだ。


「お店でも出す?」

「部活で出すって言っても、それは二年生以上がいるからだよ。基本無視される項目だけど、私達にはそれが適応しちゃうんだよ」

「劇は?」

「それは俺が個人的に嫌いだ」


 つい最近、明人の相談の裏で行われたことだ。自分を振り回した者を自分でやりたくない。

 美優の意見を美麗唖が、月葉の意見を慶喜が否定したところで部室の中が静まった。

 だが、うるさい足音が部室へ向かってくると、ガラリとドアを開けられ、


「文化祭どうするのって倉間先生に言われたんだけど?」


 そう言った明人の肩に慶喜は手を乗せて、


「お前が決めろ。そして、任せた」


 面倒事を丸投げした慶喜であった。



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