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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第五章
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両親に挨拶しよう

 慶喜が朝目を開けるとすぐに異変に気付いた。


「……これは」


 時計を見ると確かに起きていても全く問題ない時間ではあるが、慶喜がいつも起きる時間にはまだ届いていなかった。

 にもかかわらず、目が覚めたということは何らかの原因があり、それはすぐにわかった。


「―――!」

「―――!」


 居間から何やら話し声が聞こえた。

 いつもであれば、声なんて聞こえるはずがない。この家に住んでいるのは慶喜だけで、慶喜が寝ているのだからあり得ない。つまり、それが聞こえたと言うことは、何者かが家に無断侵入してきたということ。

 普通は慌てるところなのだが、慶喜は特に焦る様子は見せず冷静に机の上の携帯を取ると、数回番号を押して携帯を耳に当てた。

 数回の着信音のあとに、ガチャリを相手が出た。


『はいもしもし』

今すぐ家から・・・・・・出てってください・・・・・・・・


 あまりにも豪快かつ手短な一言はさっきまで騒がしかった居間を急激に冷まし、一瞬にして家の中が静かになった。

 そして、すぐにドタドタと家の中を走り回る音がして、


「いきなりひどいじゃないか!」

「うっせぇ。出てけって言っただろうが」


 部屋のドアを開けた人物に容赦なく言葉を投げた慶喜は、あくびをすると、背伸びをしながらその人物の横を通り過ぎた。

 ひどい言葉の次に無視されたかのような振る舞いをされた男性は怒ることはなく、


「おう、久し振りだな」


 と、笑って慶喜に言った。

 しかし、慶喜はまったく取り扱わず、


「帰ってくるとわかっていれば、家を売り払ってアパートにでも引っ越してたのにな」


 と、言い放った。

 だが、やはり慶喜とどこか似た顔立ちを持つその男性は怒ることはせず、むしろ慶喜の頭を撫でようとしたが、


「うぐっ」


 その前に慶喜が腹に肘を入れてやった。


「ひでぇな。ここは大事な場所だぞ?」

「この家も俺にとっては大事なところだ。マジでどっかに行け」

「なんだよ。まだ反抗期終わってねぇのかよ」

「普通に反抗しているんだ」


 さらに慶喜が居間に行くと、月葉ほどではなくとも、白く美しく綺麗な肌をした女性がエプロンしながら何かを作っている最中だった。

 慶喜はやはり驚きはせずに、


「何を作っているんだ?」

「あら、起きたのね?」


 その女性は「スクランブルエッグよ」とちょうど作り終わったそれを、三つの皿に均等に分けると、普段慶喜が一人で使っているテーブルにお盆を使って運んだ。

 テーブルの上にはもうご飯や味噌汁もあり、慶喜がすぐに目覚めることをわかっていたかのように出来たての湯気が上っていた。


「それじゃ、いただきます」

『いただきます』


 三人がテーブルに着いてから、女性の声に慶喜と隣の男性が復唱した。

 実際のところ、慶喜が毎朝作っているのよりもおいしかった。そういう意味では悪い気がしない慶喜なのだが「でもなぁ」とどこか複雑そうに顔を歪めていた。

 そんな慶喜が朝食を食べていると隣に座っている男が、


「……なぁ」

「なんだ?」

「なんで何も言わねぇの?」

「慣れたからに決まってるだろ」


 もはや言うまでもない。

 この二人は慶喜の両親だ。何年も家を慶喜に任せていたが、どうやら今日の朝方にでも帰ってきたのだろう。慶喜は最初の声の時点で気付いていたのだ。

 それに、本当に泥棒であるなら盗んでいる最中に家の人を起こすくらい大きな声では話さない。


「いやいや。何かあるだろ?」

「ない」

「今回はどこに行ってきたのか、とかよ」

「いや……ない」

「何かお土産ある、とかよ」

「あぁ……ない」

「久し振りだな、とかよ」

「確かに……ない」

「元気だったか、とかは?」

「ふむ……ない」

「ずっと寂しかったんだぞ、は?」

「それは……ない」

「会いたくなかったのか?」

「そうだな」

「ひでぇな、おい!」

「あなた、箸を振り回したら危ないわよ」


 隣で騒ぐ男を無視して慶喜はいつもより早めに朝食を食べ終わると、すぐに学校に行く準備をし始めた。


「あら、もう行くの?」

「ここにはいたくないからな。……まぁ、学校にもいたくはないんだが」

「いじめられているのか?」

「面倒くせぇんだよ、最近は」


 イジメといえばそうかもしれないと思った慶喜だが、説明が面倒くさいとあえて言わないことにした。

 それにしても学校では部活で疲れ、家だけが休息の場となっていたのに、どうやら今日からは慶喜の休息の場はなくなってしまったようだ。


(……はぁ。本当に最悪だ)


 楽しそうに二人で会話を始める両親を見ると、慶喜は現実でもため息を吐いた。


「俺から他に言うことがあるとすればだな」

「お、なんだ。やっぱりあるんじゃないか」

「変わっているのが変わっていないようで残念だよ」

「それは残念だったな!」

「ごめんねぇ」


 子どものように茶化す二人にもう一度ため息を吐くと、玄関のドアを開けた。いつもは静かな家出が、これからうるさい会話に押されるように出なくてはいけない。


(ついてねぇよなぁ。最近の俺って)


 そんなことを考えながら、慶喜は学校へと向かった。



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