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恋愛相談部  作者: 甲田ソーダ
第一章
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前兆に注意しよう

金曜日は美優視点です

 金曜日になり、六時半になるとスマホからアラームが鳴った。

 美優はそれを止めると、ゆっくり起き上がって眠い瞼をこすった。それから支度して、七時になると学校へ自転車で向かった。

 前まではこんなにも早く登校することはなかったが、昨日からこの時間に登校することになったのだ。


(朝練か……。今日から慶喜君に会えないのかな……)


 そう考えると憂鬱な気分になるが、明日のことを考えると美優は少し元気が出てきた。

 明日は慶喜と下見というお出掛けがあるのだ。本来の目的は亮雅ときちんと話せるようになることだが、今は亮雅と話すことより慶喜と話すことの方が楽しみになっていることを美優は気付いていない。


 学校に着くと、美優は教室に鞄を置いた後すぐに校庭へと向かった。校庭ではサッカー部が朝練の準備をしていた。

 美優はそこでスマホをポケットから取り出し、慶喜に電話した。しかし、そこでスマホを耳元に持っていくのではなく、通話中のままポケットの中に入れた。



「あっ、清河さんっ。ホントに来てくれたんだね!」

「う、うん」


 美優に話しかけてきたのは亮雅である。亮雅は一年生の中でも抜き出て上手いらしく、期待の新人とも呼ばれている。引き締まった体はユニフォームの上からでもわかり、特に足の筋肉がすごかった。


「清河さん、昨日マネージャーをやってみてどうだった?」

「え、えっと……。ごめんなさい、まだよくわからなくて……」

「謝らなくていいよ! 僕の方がごめんね。そうだよね、一日で覚えられることでもないよね」


 亮雅、というより一部の生徒を除いてほぼすべての生徒は美優に好意を抱いている。好意とまではいかなくても、話しかけられれば誰でも緊張してしまうのだ。

 それに対して美優は亮雅に気があるわけではないのだが、亮雅のことを異性として意識してしまってどうもぎこちなくなっていた。


「おい、亮雅! いつまで逢い引きしているんだ、さっさと練習に参加しろ!」

「あ、逢い引きって……! ご、ごめんっ、清河さん。あれは部長の冗談だから!」

「う、うん……。えっと、頑張ってね?」

「え? あ、うん! ありがとう、それじゃ行ってくるよ!」


 亮雅は朝から最高の気分で朝練に臨んだ。端から見ればそれは彼氏彼女の関係と言ってもおかしくない。

 美優はスマホをポケットから出すと、そこには慶喜と通話中とある。慶喜の名前を見ただけで美優の心は温かくなる。すると、すぐに慶喜の方から通話を切ったのだろう、通話時間が映った。


(誰かと話すためのものなのに慶喜君と話せないなんて……)


 美優はそれがおかしそうに笑ったが、心のどこかで悲しくもあった。しかし、それに美優は気付いていない。
















 朝練も終わり、朝の挨拶が始まる十分前となっていた。

 美優達は学校の中に入り、教室の中に入ろうとしていた。そこで美優は慶喜の姿を見つけた。慶喜はだるそうな目をしながら、三年の教室がある方向から来た。


(いつも部室に行っているけど何でなんだろう?)


 美優はおそらく自分が慶喜のことを生徒の中では誰よりも知っていると思っている。しかし同時に、自分は慶喜のことをよく知らないとも思っていた。

 慶喜は自分のことをあまり話さない。それは慶喜の深い意図があるわけでなく、他人に自分のことを話す理由がないだけである。


(慶喜君にとっては私はただの他人でしかないのかな。私はもっと慶喜君について知りたいのにな……)


 そんなことを考えている内に担任の倉間先生が教室に入ってきて、朝の挨拶が始まった。


 朝の挨拶が終わった後の休み時間、美優は亮雅の教室へと向かった。といっても亮雅と話したいわけではない。その途中にある慶喜のいる教室の前を通ることが楽しみになっていた。

 そこで、美優は慶喜に電話するのを忘れていたことを思い出した。しかし、その前に前から亮雅が美優を呼んだ。


「清河さん、ちょっといいかな?」

「い、いいけど……」


(? なんか亮雅君の様子がおかしく見える。何かを聞きたそうにしている感じ……)


 亮雅は周りを見てから、人気のない場所へと移動した。それを見ていた生徒達も追いかけることはせず、黙って見ていた。


「えっと……、それでどうしたの?」

「僕もさっき聞いたんだけどさ、清河さん、あのストーカーの被害に遭っているんじゃないかって」

「ス、ストーカー!?」


 美優は思わず大声を出してしまい、慌てて口を塞いだ。


「ご、ごめんなさい」

「いや、驚くのも無理がないよ。それに、その様子からしてどうやら気付いていないみたいだね」

「それで、ストーカーって……」


 美優は自分がストーカ被害に知らないうちに遭っていることを慶喜に言わなければいけないと思った。言ってどうするのかはわからない。それでも慶喜に心配されたいと思った。


「ストーカーっていうのは清河さんに飲み物を渡した人物だよ」

「……え? それって……」


 美優は嫌な予感がした。美優に最近飲み物を渡した人物は一人しかいない。


「そう、志賀慶喜だ」

「……!」


(違う! 慶喜君はストーカーじゃない! だって慶喜君は私の……!)


 美優は驚きを隠せなかった。そんな様子の美優を見て、亮雅は勘違いしたまま話を進めた。


「どうやら彼、前に僕達が話しているのを遠くから聞こうとしていたらしいんだ。それを僕の友達が注意したんだ」


 亮雅が言っているのはスマホを使って、盗聴する前のときのことだろう。それで慶喜がスマホを盗聴に使うことにしたと美優は気付いた。


「清河さん、彼にはもう近づかない方がいい。もし、彼に何かされたら僕に言って。僕がなんとかしてやる」

「ちょ、ちょっと待って……!」


 そこで一時間目のチャイムが鳴った。


「もう時間だね。それじゃ、気を付けてね」


 亮雅はそう言って教室へと戻っていった。

 美優も教室に急いで戻ったが、授業中は慶喜のことで頭がいっぱいで授業の内容が頭に入ってこなかった。



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