0.プロローグ
初投稿です
婚約者である彼、ーーーレオナルドを深く愛していましたわ。
幼い頃から今に至るまでの長い年月を共に過ごしてきたということもあって、ポーカーフェイスであるレオナルドの気持ちを察することが出来るのは少し……いいえ、かなり私の自慢の特技でしたのよ。
私達は婚約者同士という関係にありながらも、そのような雰囲気なんて微塵のカケラもなかったのだけれど、(もちろんそのことに少し残念な気持ちになったりすることもありましたけど)それでも満足でしたわ。
レオナルドに初めて出会った時から、私は彼の気をひくためにお洒落にも自分磨きにもかなり気を使って、それが転じてカラ回りするなんてしょっちゅうでしたけれど、その努力が報われた時の嬉しといったらもう!
まさに私はレオナルド一言で一喜一憂し、彼を原動力として動くお人形のようなものでしたわ。
レオナルドにプレゼントするものも手作りにこだわってお菓子作りや手芸に励んでみたり、それでも勉学は怠らずにと彼に釣り合うよう必死に空き時間は家庭教師と共に机にかじりつく日々ーーー……。
そんな努力や試行錯誤の日々が楽しくて愛おしくてたまりませんでした……レオナルドが彼女に出会うまでは。
レオナルドの機嫌が良い。それだけで私だってとっても嬉しくなれるはずなのに……最近は到底そんな気分になれそうにありませんでしたわ。
リリーという女が現れてから、レオナルドは彼女に夢中になってしまいましたから。
リリーの花のようにほころぶ愛らしい笑顔や仕草は多くの人々を魅了し虜にさせる魅力的なものでしたわ。
その証拠に、学園のプリンスとも謳われた権力者達がおとぎ話のように彼女を囲み、彼女を取りあいましたもの。
……レオナルドも、そのうちの1人でしたわ。
ある日レオナルドが嬉しそうに口にしていたリリーがつくったという不恰好なクッキー。最初はココアかと思ったクッキーはただの焦げらしく、見た目通り味もあまりにもお粗末なものでしたわ。
私もレオナルドから一つ頂きましたが、味から察するにバターと砂糖を入れすぎですし、時間通り焼かなかったのか生地も中までちゃんと焼けてはいませんでしたわ。
味だけでなく、身体にも悪いことは明らかでした。
レオナルドにそれを申し上げますと、彼の顔は一瞬にして不機嫌になって、リリーのクッキーは個性的だといって全てたいらげてしまいました。
……もう!
それがたまらなく悔しくて悲しくてどうにかなりそうでしたわ。
レオナルドは私が焼いたお菓子は少しでも気に入らないところがあると残すのに、彼女の不出来なお菓子は無条件に全て食べるんですもの!
……ずるい。
化粧っ気のないリリーを自然だと言う、勉強ができない彼女に付きっ切りで教える、アクセサリーを身につけない彼女に似合う髪飾りをプレゼントする、……なによりも、彼女が笑うと彼も笑う。
あぁ、もう! ずるい、ずるい、ずるい! 私だってこんなに努力しているのに!
寝る間も惜しんで勉強して、必死に体型を維持して、彼好みのドレスを選んで、化粧で背伸びして、作るお菓子だって彼の好みも健康も考えて、キツイと言われる生まれつきの顔が少しでも親しみを持てるよう、笑顔の練習だって、なんだってしてきたのに!
なんで私はレオナルドを笑顔にすることができないんですの?!
これ以上リリーがレオナルドに関わると自分が壊れそうで、とても怖くて苦しくて……。とうとう恥を忍んで、彼女に自分のありのままの気持ちを全てを話してしまいましたわ。そして、もうレオナルドに近づかないでほしいと、ましてや婚約者がいる相手に近づくことは貴方自身の評価も悪くなるという少しの建前も添えて……。
しかし彼女は、
「ほ、他の人にどう思われたって構いません……っ! レオくんは大切なお友達なんです。あんなに優しいレオくんに近づいちゃいけないのはそんなことを言う貴方の方じゃないんですか……?」
その言葉で私の中の何かが壊れましたわ。
それから、彼に振り向いてもらうための数々の努力はいつしか彼女を陥れるための努力に変わっていき、そうしていくうちに私の努力で築き上げたものはすぐにどんどん崩れていきました。それに気づいたときにはもう遅かったんですの。
やっと気づけたのは、数々の悪業を大勢の前で暴かれ、レオナルドから婚約破棄だけでなく処刑までもを言い渡されたときなのでしたから……。
断頭台、それに似合うボロボロの醜い私を見下ろすいつの間にか以前よりも美しくなったリリー。
その隣には私を不愉快そうに睨みつける私の、愛した人。
鋭く鈍い音が響き渡ると同時に、彼に触れることも近づくことすら出来なくなった私の身体は静かに冷たくなっていきました。
悪役令嬢物が好きすぎてとうとう書いてしまいました。
自己満足かつ拙い文章ですがなんとか頑張っていきたいです。