緋色の髪の少年①
それは魔導学校に入学してから数カ月経った頃、夏の気配が近づいてきたある日のことだった。
「――そうそう。ご存知ですか、お姉様? アラン君のこと」
「え、アラン? 何のこと?」
エルシオン魔導学校一年一組の教室にて、ソラは唐突に出てきた話題にきょとんとしていた。
現在はお昼休憩中で、食後の紅茶を堪能しながらいつものメンツとお喋りに興じていた最中、隣に座る少女――級友第一号たるマーガレットがクラスメイトのアランについて切り出してきたのだ。
男嫌いとしてその名が他クラスにも知られ始めているこの少女が珍しい話題を振ってきたものである。
「本来は男の話など口にしただけで虫唾が走りますけど、けっこう噂になっているようなので」
「噂?」
ソラは首を傾げる。
あの寡黙な少年のどのような噂が立っているのかと不思議に思ったのだ。
アラン・フレイムハート。
緋色の髪に端正なルックス。ソラと同じく魔導の名門出身でこれまでの授業でもその並外れた才能を証明しており、その他の教科も涼しい顔でそつなくこなすような生徒であった。
クラスメイトとの接触を持とうとしない孤高の少年ではあるが、女子からやたらと人気があるのも納得である。
「小耳に挟んだところによると、アラン君が学校の男子生徒たちに喧嘩を吹っかけているらしいんです」
「喧嘩を?」
「それならボクも聞いたことがあります」
逆隣に座っていたボクっ娘ノエルも丁寧にお弁当箱をハンカチで包みながら会話に参加してきた。
おかっぱ頭のどこか仕草が可愛らしい少女で、他人との争いを好まない優しい性格の持ち主でもある。
「噂になり始めたのは最近ですけど、春先から同級生、上級生を問わず喧嘩しているとか」
「何でまたそんなことを……」
ソラは唖然しながら教室を見回すが本人は不在であった。
昼休みに教室にいることは滅多にないのだが。
「しかも、この前聞いた話によれば、あのバートル君もえじきになったとか」
「あのバートルが……」
ソラはゴルモアから来た留学生を脳裏に浮かべた。
あの八歳とは思えない立派な体格の持ち主であるバートルを叩きのめすとは大したものであるが、一体何のためにそんなことをしているのか。
「まあ、男子によくあるくだらない争いか何かでしょう。あのジャガイモ頭が地面に這い蹲るところを見てみたかった気もしますけどね」
マーガレットがフンッと鼻を鳴らしながら言うと、突然教室の扉が勢いよく開いて聞き覚えのある大声が聞こえてきた。
「――俺は一瞬膝を折っただけだ!! 適当なこと言ってんじゃねえぞ、デコ女!!」
ソラたちを含め教室にいた生徒が一斉に振り向くと、そこには今まさに話題に上っていたバートルが肩をいからせながら教室の入り口に仁王立ちしていたのだった。
「――くそっ!! あいつ、ちょっとばかり強いからって調子に乗りやがって!」
いきなり現れたバートルは机の前にわざわざ椅子を運んできて座り、ソラが水筒に入れて家から持ってきた紅茶をがぶ飲みしていた。
この少年は最近ちょくちょく一組を訪れるのである。
(……ふむ。バートルも変わったよね)
ソラは微笑ましい気分になった。
もう随分前になるが、この少年と体力測定で勝負して以来、少しずつ打ち解けて今では挨拶を交わす間柄にまでなっているのだ。
王族らしく俺様主義なところは変わっていないが、常に不機嫌だった頃とは違ってクラスメイトとも良好な関係な築きつつあるらしい。
マーガレットとは相性が悪いらしく顔を合わせるたびに喧嘩しているものの、以前ひと悶着あったノエルとも普通に会話できるようになっていた。
「お、お姉さまと、か、間接キッス……」
今もマーガレットはわなわなと身体を震わせながらブチ切れそうになっていた。
放っておけばすぐにでもここで喧嘩が勃発するだろうが、例によって仲裁役のノエルが「まあまあ」と抑えている。
猛獣のように「ガルルル」と牙を剝くマーガレットを調教師のごとく宥めているノエルを応援しつつ、ソラはヤケ酒を呷るように紅茶を含んでいる少年に話しかけた。
「……それじゃあ、アランから一方的に喧嘩を仕掛けてきたってこと?」
「ああ。先週のことだけど、放課後になって帰ろうとしたらいきなり喧嘩を売ってきやがったんだ」
「それで、そのままボコボコにされたと」
「ボ、ボコボコになんかされてねえよ! ちょっとばかり油断しただけだ!」
ムキになって喚くバートル。
よほど悔しかったらしい。
憤然とした様子でお替りを催促してきたのでソラが嘆息しながら注ごうとすると、マーガレットが調子に乗るなと言わんばかりにバートルの手からさっとコップを取り上げた。
険悪な表情で睨み合う二人の間に入ってノエルがおずおずと口を開く。
「あの……アラン君は理由を喋らなかったんですか?」
「いや、何も。ただ俺にガンくれて挑発してきやがったんだ。ワケ分かんねえよ」
「……戦闘狂じゃあるまいし、何を考えているんですかね?」
バートルとコップの取り合いをしながらマーガレットも首を捻った。
ソラも本人不在の机を見つめながら考える。
無愛想な少年ではあるが無闇に乱暴を働くタイプには見えない。
むしろあの年齢にしては落ち着き過ぎているくらいである。
「もしかして、学校の番長にでもなりたいとか……」
同じく考え込んでいたらしいノエルが可愛らしいことをぽつりと言う。
(それはそれで面白い気もするけど)
ソラは校舎裏で舎弟を従えてふんぞり返っているアランを想像して思わず心の中で笑っていると、おもむろにバートルが立ち上がった。
「なんにしろ、次は俺があいつをぶっ飛ばしてやるからな!!」
バートルが鼻息も荒く教室中に鋭い視線を飛ばし、教室にいた生徒たちが慌てて顔を逸らしていると渦中の人物がふらっと戻ってきた。
「…………」
アランはズボンのポケットに両手を突っ込みそのまま無言で席に着こうとしたが、それを見つけたバートルがくわっと目を見開く。
「おい!! フレイムハート!! この前の借りを返すから、俺と勝負しろ!!」
「……断る。お前と再戦する意味がない」
アランはちらっとバートルに視線を走らせただけでにべもなく拒否する。
ソラの近くからブチッと血管の切れるような音が聞こえてきた。
「こ、この野郎~!!」
「ちょ、ちょっと待った!」
すぐにでも乱闘をおっぱじめそうなバートルをソラは慌てて押し留める。
「バートル! 教室の中で喧嘩を始めたら皆に迷惑がかかるでしょうが!」
「うぐっ……」
踏み出しかけていた足を渋々引っ込めるバートル。
相変わらず沸点が低いが、ソラの制止を素直に聞いてくれただけでもかなりの進歩である。
ソラはなんとかバートルを押さえつつも頬杖をつきながら興味なさそうに黒板を見ているアランに話しかけた。
「アラン。君も何で誰彼構わず突っかかってるわけ?」
「……お前に話す必要はない」
予想通り取り付く島もない返答だったが、今度はそのセリフを聞いたマーガレットが憤慨する。
「お姉様になんて口の聞き方ですか!」
「こいつ! 何様のつもりだ、こら!?」
バートルにも再び火が点き、マーガレットとタッグでアランを睨む。
口の悪さではこの二人も負けてはいないと思うが、こういうタイプは自分のことを棚に置くものである。
(ああ、もう! ややこしいことになってきた!!)
ソラがノエルと一緒に怒れる二人を必死に抑えているとタイミングよく教師が教室に入ってきた。
「――はい、みなさん~午後の授業を始めますよ~。……と、おやおや。バートル君、どうしましたか?」
間延びした声で喋る三十ほどの男。
ソラたち一組の担任で学年主任を兼任しているレヴィンであった。
相変わらずシャツがヨレヨレで後頭部に寝癖がついている。普段どんな生活を送っているのかが容易に想像できそうだ。
「バートル君も友達に会いに来くるのは結構ですけど、ちゃんと時間は守ってくださいね」
「……ちっ」
バートルは最後に窓の外を眺めているアランをひと睨みすると、ずかずかと大股で所属クラスへと戻っていった。
ざわめきながら状況を見守っていたクラスメイトたちも各々席へとつく。
とりあえず最悪の状況は回避できたようだ。
(――はあ~。危ないところだったよ。……それにしても、本当に何を考えてるんだろうか、アランは?)
ソラはノエルと並んで安堵しながらも、ますます疑問が膨みじっとアランの後頭部を見つめるのだった。
※※※
その後、怒り狂ったバートルが殴り込んでくることもなく、なんとか午後の授業と最後のホームルームを無事に終えていた。
放課後になって生徒がぽつぽつと帰りはじめ、いつもならソラもその流れに乗るところだったが、どうにも事情が気になったのでとある人物の席まで出向いていた。
ちなみにアランはとっくに教室から去っている。
「――それで、グレイシアは何か知らない?」
「……何で私に訊くんですか」
机に身を乗り出して問うソラに不機嫌そうな表情を返してくる金髪の美少女。
エーデルベルグ家、フレイムハート家と並ぶ名家出身のお嬢様ことグレイシア・ローゼンハイムであった。
何かと競ってきて時に傍迷惑ではあるのだが、ソラはこの少女が嫌いではなかった。
「グレイシアはアランと小さい頃から面識がありそうだと思ってさ。ほら、『至高の五家』つながりで」
「……あなたもその一員でしょう。我関せずなエーデルベルグ家が変わっているだけですわ」
そのままそっぽを向いたグレイシアだったが、ソラが聞き出すまでテコでも動きそうもないことを察したようだった。
あきらめたように息を吐いてから口を開く。
「アランなら幼少の頃からの知り合いには違いないですけどね。家同士の付き合いも当然ありましたし」
「その割には普段からあまり会話してないみたいだけど?」
「それこそあなたには関係ないでしょう。あの愛想のない男と会話したところで楽しくもなんともありませんし。……それより、話が逸れるようなら帰らせていただきますけど?」
グレイシアはアイスブルーの瞳を更に冷たくした。
余計ご機嫌斜めになってきたようなのでソラは慌てて謝る。今はこうやって話を聞いてくれるだけでも十分だ。
「ごめん、ごめん。それでどうなの? 心当たりとかあるわけ?」
「心当たりも何も単純な話ですわ」
「どういうこと?」
ソラは首を傾げた。
どうも何かを知っていそうである。
「一言で言えば、家庭の問題ですわね」
「家庭? それって……」
再度尋ねるが、グレイシアは答えることなく立ち上がり、
「他人の事情をぺらぺらと話すような悪趣味な真似はしませんとも。全く興味ありませんし。ご自分で確かめてみればいかがですか? ――では、ごきげんよう」
と、もの凄く気になることだけを言って去っていったのだった。
背後で見守っていた取り巻きの女子たちが続く。
肝心な部分を教えてもらえずにソラが途方に暮れていると、背後で話を聞いていたマーガレットがそんな彼女らを見送りながら憤慨する。
「何なんですか。それらしい理由をつけていたものの、結局最初から教えるつもりはなかったんでしょう。あの方はお姉様を敵視していますから」
「本当に事情があるのかもしれないよ」
すぐにフォローを入れるノエル。
本当に良くできた女の子だとソラは頭を撫でたくなった。
「……それにしても、家庭の事情かあ。けっこう複雑だったりするのかな」
「……名家にありがちなすれ違い、あるいは家族間闘争などかもしれませんね。それでグレてしまったとか」
自身も父と上手くいっていないマーガレットが呟く。
「でも、それなら首を突っ込むような真似はしない方がいいのかな。グレイシアの言うとおり悪趣味だし」
人の事情にずかずかと立ち入るのはソラとしても本意ではない。
ただ、グレイシアもそうだが、アランとも仲良くなりたいと密かに思っていたりするので気になってしまうのだ。
現実には二人とも普通に会話もできない有様なのだが。
ソラが腕を組んで唸っていると、時計を確認していたノエルが慌て始めた。
「あ! もうこんな時間だ! ボク、これからお母さんとお買い物の約束してたんだった!」
「私も今日は習い事が入ってますからそろそろ帰りませんと。お姉様はどうされます?」
「私も帰るよ。マリナがまたどこかで美味しいケーキを見つけたとかで、三時のおやつまでに帰るよう言われてるし。トリスも首を長くして待ってるだろうしね」
「ふふ。マリナちゃんとトリス君、可愛いですよね」
帰り支度をしながらノエルが微笑む。
普段から振り回してくれる妹はともかく、弟が可愛いという評価にソラも異存はない。
今のところ弟以上に可愛い男の子はお目にかかったことがないと断言できるほどだ。
支度を済ませた三人は教室を出て校門へと向かう。
校門に到着すると複数の馬車が待機していた。
それぞれ迎えにきた生徒たちを待っているのだろう。
裕福な家の子女が多い学校なのでこのような光景は珍しくもないことである。
「それでは、お姉様。今度時間があればまた遊びに行きましょうね」
「ソラさん。また明日!」
同じ馬車に乗り込んだマーガレットとノエルが窓から手を振る。
この二人は家が近いので互いに便乗することがよくあるのだ。
ソラも手を振りながら二人を見送ると、それを待っていたように一台の馬車が滑り込んできた。
音もなく車輪が停止したかと思うとすぐに執事服をまとった青年が降りてくる。
「お迎えに上がりました、お嬢様」
「ありがとう、ジーナス」
ソラの目の前で恭しく一礼する青年はジーナスといい、ルックス良し、頭良し、性格良し、ついでに仕事もできるというおよそ完璧に近い執事であった。
以前もクラスメイトの女子たちが手を引かれながら馬車に乗り込むソラを見て、それはもう喧しいほどにキャーキャーと羨ましそうな悲鳴を上げていたくらいである。
後に詳しく聞かれたときに恋人がいることを教えてあげると皆一様にがっかりしていたが。
ソラが乗り込むと馬車はゆっくりと発進して大通りを東に向かって進み始める。
しばらく豪華な室内で揺られていると、御者台から小窓を開けてジーナスが声をかけてきた。
「お嬢様。あちらにキース様がおられますが」
「キースが?」
開いていた窓からジーナスの指す方向を見やると、前方の道端に若い女性たちと話し込んでいる青年の姿が見えた。間違いなくキースだ。
会話までは聞こえないが、その大袈裟な手振りや女性たちの嬉しそうな表情から、また歯の浮くようなセリフを口にしているのだろうと容易に想像できるのだった。
若くして魔導騎士という重要な職務に就いているが、その姿を街中でよく見かけたりするのだ。
おそらく相棒たるスベンの目を盗んでまたサボっているのだろう。才能、実力ともに申し分ないが困った男である。
髪をかき上げながら格好つけているキースを呆れながら眺めていると、何か霊感でも働いたのか急にこちらを振り向き、目が合ったと思った瞬間にさっと近寄ってきて窓越しに話しかけてきた。
「これはこれは、ソラお嬢様。奇遇ですね。今日も相変わらずお美しい。このキース、胸の高まりが抑えきれませんよ。――そういえば、こうしてよくすれ違う気がするのは私の勘違いではないはず。これもまた運命の――」
「ジーナス。さっさと行っちゃって」
「かしこまりました」
優秀な従者たるジーナスは異議を挟むことなく即座にソラの要望を実行して馬車を進めた。
ひとりでぺちゃくちゃと話し続けるキースを置いて。
「……お嬢様!? お待ちを!」
取り残されたキースの慌てた声が背後から聞こえてくる。
小走りで追いかけてきているようだがソラは無視することに決めた。
あんなロリコン野郎に用などないし、メイド長のアイリーンからも極力関わらないよう注意されているのだ。
キースはそれでもあきらめずに窓枠まで走ってきたが、天はソラに味方したようだった。
「――キース!! お前、またこんな所で油を売っていたのか! 隊長がおかんむりだぞ!」
「ちいっ! スベンめ、もう探し当てたのか! しつこいヤツだ!」
「いいから早く戻れ! 連帯責任で俺まで叱られるんだぞ!」
「俺はまだ自由を満喫したいんだ! お嬢様、また次の機会にじっくりとお話しましょう!」
ソラに向かって爽やかな笑みを向けたキースは素晴らしい脚力で馬車を追い越していき、その後を怒り心頭のスベンが追いかけていった。
やはり仕事を抜け出してフラフラしていたらしい。
エレミアが誇る最エリートたちの無駄な追いかけっこを見送ったソラは溜息を吐く。
「……キースももう少しだけ真面目になれないのかな? スベンが不憫で仕方がないよ」
「普段激務に晒されていますから、たまには息抜きをされたいのかもしれません。仕事を抜け出すのはどうかと思いますが……」
苦笑するジーナスだが、たまにどろこではないとソラは思う。
ジーナスとキースは年齢的に近いが、少しはうちの執事を見習ってほしいくらいである。
騒がしい魔導騎士たちの姿が消えた後、ソラは流れる景色をぼんやりと眺めていたが、ふと鞄から本を取り出した。
エーデルベルグ家本邸まではもう少し時間がかかるので続きを読もうと思ったのだ。
ソラが栞を外して本を開こうとすると、視界の端に見覚えのある緋い色が映った気がして顔を上げる。
すると、馬車のそばを黙々と歩いているひとりの少年の姿を発見したのだ。
もしやと思ったが、やはりアランであった。
アランはポケットに手を突っ込んだまま平素と変わらぬクールな表情で歩いていたが、そのままふらっと狭い路地へと入っていった。
その様子を見ていたソラは反射的に声を上げる。
「――ジーナス! 馬車を止めて!」
「……お嬢様?」
怪訝そうに振り返ったジーナスだったが指示通りに馬車を停止させた。
ソラは急いで扉を開けて馬車から飛び降りる。
アランが入っていった路地を覗き込むと、緋色の髪の少年はちょうど角を曲がって消えたところだった。
「お嬢様、どうされたのですか?」
「……その、クラスメイトを見かけてね」
ジーナスも馬車を降りて尋ねてくるが、ソラは言葉を濁した。
咄嗟に馬車を止めたものの、これからどうすべきか迷ってしまったのだ。
(アランほどの家の子供がひとりで出歩いているのが気になるな……。いや、私も人のことを言えないけど)
ソラも家族の心配をよそにマリナと二人で密かに街へと繰り出すことがあったりするのだが、自分たちは精神的にはもういい大人である。
少しの間悩んだソラだったがすぐに決心し、きれいな姿勢で待っているジーナスを見上げた。
「ジーナス。気になることがあるから、しばらくここで待っててくれない?」
「……しかし、お嬢様をおひとりにするわけには……。御館様からも厳命されておりますし」
「クラスメイト……友達のことなんだよ。お願い」
「…………」
ジーナスはしばし目を閉じて考えていたが、
「……分かりました。ただし、危ない真似はしないと約束してください」
ソラが頷くとジーナスは微笑して通りの一角に顔を向けた。
「では、私はしばらくあの喫茶店で休憩を取らせていただきます。――ソラお嬢様、お気をつけて」
「うん! じゃあ、行ってくるよ!」
ソラは駆け出しながら、さすがジーナスは話が分かると思った。これだから彼はモテるのである。
おそらくこちらを信頼してくれてもいるのだろう。
アランが入っていった路地を駆け抜けたソラは同じように角を曲がる。
今からならすぐに追いつけるはずだ。
(尾行してるみたいでちょっと後ろめたいけど……何か非行にでも走ってないか、年長者として確かめるだけだし、うん)
ソラはそう心の中で言い訳しつつアランの後を追うのだった。