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空色の魔法使い  作者: 乃口一寸
二章 魔法使いと幽霊屋敷
65/132

第19話

この話で終了する予定でしたが、思ったよりも長引いてしまったので二話に分けさせてもらいました。

 本来なら数百年に一度しか出現しない『死神』がソラたちの前に姿を表していた。

 ひとりの天才によって造られた人造の神。

 青く輝く霊体は美しく荘厳ですらある。

 隣に立つコーデリアの倍近い身体には神官服にも似たローブをゆったりと着込んでおり、その上にはドクロのような頭が乗っていた。手には伝承の通り妖しく光る巨大な鎌。

 だが、どこか女性的な雰囲気を漂わせてもいた。


(……もしかしたら、コレットを核としているからなのかな)


 ソラはぼんやりと思った。

 皆が魂を抜かれたように見ている間も、『死神』はわずかに浮かんだまま静止していた。

 しかし、その身から発せられる凄まじい魔力となにより強烈な怨念の波動がソラたちを縛っていたのだ。

 <大いなる流れ>に還ることのできない哀れな魂たちがひとつになったモノなので当然かもしれない。

 先ほどは一種の自然災害と言ったがソラはその考えを撤回した。 

 これ(・・)は自然が起こす気まぐれなどではない。

 明確な恨みと殺意の意志を持った怪物だ。

 ソラが戦慄しているとコーデリアが『死神』へと歩み寄った。


「……素晴らしい。これこそ死霊術の極み。いえ、もはやアンデッドの枠を超えた存在です」


 感極まったように己が生み出した最高傑作を眺めるコーデリア。

 五年以上の歳月と周到な準備を重ねてきただけに喜びもひとしおなのかもしれない。

 すると、背後で固まっていたブライアンが声を抑えながら話しかけてきた。


「……とてつもなくまずいぜ、これは。まさか、ここまでデタラメな化け物とはな」 


「……だね。下手したらこの前の妖魔以上かも」


「……なんとか活路を見出して撤退したほうがいいかと」


 マリナとアイラも脂汗を流しながら頷く。


「……見てみろ。何でか知らんがアンデッドどもの動きが止まってやがるぜ。今が好機かもしれん」


 コーデリアに悟られないよう目だけで周囲を観察していたブライアンが言う。

 ソラもそっと辺りを窺うと、あれほど威嚇してきていたリッチやレイスの動きが止まっている。

 まるで畏怖しているかのように揃って『死神』へと身体の向きを変えて頭を垂れているのだ。

 その姿はまさにアンデッドの王にかしずくしもべであった。

 確かに警戒が緩んでいる今がチャンスなのかもしれないとソラも思ったが、コーデリアはそこまで甘くなかったようだ。


「――ふふ。何を皆さんでこそこそと話しているのですか?」


 うっとりと『死神』を見つめていたコーデリアはいつのまにかソラたちを牽制するように刺すような視線を向けてきていたのだ。


「ここまで来て私が逃がすとでも思っているのですか? あなたがたにはこの子の最初の餌になってもらいます。光栄に思いなさい」


 死霊術師は残酷な微笑を浮かべながら手を振るとこれまで微動だにしなかった『死神』が主の命に応えるように身じろぎした。

 ソラたちに暗く燃え盛る瞳を向けてきたかと思うと、身体の芯から凍えるようなプレッシャーが降りかかってくる。


「……お姉ちゃん! 私があいつの足止めをするから、退路を確保して!」


 マリナが大剣を正面に構えながら前に出る。


「そうだな! 周りのアンデッドどもを蹴散らして逃げ出すぞ!!」


「ソラお嬢様は魔導で援護をお願いします!」


 ブライアンとアイラもそれぞれ臨戦態勢に入って周囲のアンデッドたちを睨む。

 その様子を見てコーデリアは嘲笑けりの表情を浮かべた。


「確かにあなたたちの戦闘能力には目を瞠るものがあります。一緒に行動していたソラさんはもとより、ほかの方々も<感覚同調>を通して観察させていただきました。……しかし、この包囲網は突破できませんよ」


 コーデリアの思念による指令が飛んだのだろう。

 ヴィクターを含むリッチたちが魔導の構築に入り、背後からは二体のレイスが詰め寄る。

 対してマリナが『死神』に相対し、中心にいるソラを挟むようにアイラとブライアンが横並びで背後に陣取る三角形の形を取った。

 初っ端から大技を放つつもりらしく、マリナが強力な魔力を小さな身に凝縮させる。

 高みの見物に入っているコーデリア以外の者たちが一気に動き出そうとしたその瞬間だった。

 ソラはかすかな違和感を感じ取ったのだ。


(――!?)


 前方に視線を向けるのと同時にマリナが一歩を踏み出した。


「このおおおおおおおおおっ!!」


「……待って!!」


 ソラは妹が飛び出す寸前でその腕を強引に掴んで引き止めた。

 急に背後から掴まれておもいきりバランスを崩すマリナ。


「――わわっ!? お、お姉ちゃん!?」


 出鼻をくじかれたマリナが狼狽した様子で振り向いたときだった。

 ゾブッ!! とおぞましい音が聞こえてきたのだ。


「――あ?」


 静かになった研究室にどこか間の抜けた驚愕の声が響く。

 皆も乱闘になりかけていたことを忘れたように動きを止めていた。


「……な、あ。こ、これ……は?」


 音の発生元であるコーデリアが信じられないという表情で己の胸を見下ろす。

 そこには青く光る腕が突き出ていたのだ。

 死霊術師の華奢な上半身を貫通して。

 じわりと赤い血が神官服に滲んで拡がっていく。どう見ても致命傷だ。


「そんな……な、なぜ……」


 目を限界まで見開いたコーデリアは隣に顔を向ける。

 そう。主である死霊術師を攻撃したのは他ならぬ彼女の最高傑作である『死神』だったのだ。

 これまで感情らしきものを見せなかった『死神』はコーデリアと目が合うとわずかに目を細めた。

 まるで嗤っているかのように。


「な、何なの、これ……」


「……制御に失敗したんだよ」


 茫然と呟く妹にソラは答える。

 先ほどマリナが飛び出そうとした瞬間に止めたのは、『死神』から発せられている憎悪が自分たちに向いていないことを感じたからだ。

 その凄まじいまでの怨念は隣にいるコーデリアに向けられていたのである。


「制御に失敗すればその恨みの念は術者に向けられる。当然だよね、なにせ魂を弄ばれアンデッドとして使役されるはめになった張本人なんだから」


 ソラが周囲を見回すと上級アンデッドたちも動きを止めて再び『死神』に跪いていた。

 彼らのコントロールもとっくにコーデリアから離れていたのだ。


「……どんなに才能に恵まれようと、技術を究めようと、『死神』ほどの存在を人が操るなんてことはできないんだよ」


 数体の上級アンデッドを含めた多くのアンデッドを操作するコーデリアの技量はおそらく死霊術師でも最高レベルだろう。これまで制御に失敗した経験も無いに違いない。

 だから、外法を扱う怖さを知らずにここまで来てしまった。

 皮肉にも彼女の天才性が相応のリスクがあるという当たり前のことを失念させてしまったのである。

 ソラたちが見つめる前で、『死神』はもはや喋ることも叶わないコーデリアを貫いたまま宙に持ち上げた。  

 すると、コーデリアの瑞々しく美しかった肌が急速に乾き髪が抜け落ちて干からびていったのだ。


「うっ……!!」


 その凄惨な光景にさしものアイラとブライアンも顔をしかめる。

 レイスなどとは比べものにならないくらい強力な<生命力吸引エナジードレイン>はほんの一瞬でコーデリアをミイラのような姿にし、あっという間に塵と化したのだった。

 中身を失った神官服が床にハラリと落ちる。

 驚異的な才能を示し、多くの人間を手玉に取った死霊術師のあまりにもあっけない最期であった。

 跡形もなく消滅したコーデリアを見てソラも眉根を寄せる。

 自業自得とはいえ、仮にも仲間として今日一日行動を共にした人間の悲惨な有様は正視に堪えない。

 だが、このまま立ち尽くしているわけにもいかない。 

 元凶だった死霊術師は自滅したもののまだ何も終わっていないのだ。 

 己の創造主を殺した『死神』はしばらくの間動かなかったが、おもむろに停止していた上級アンデッドたちを呼び寄せると次々と同じように吸収し始めたのだ。

 『死神』は最後にヴィクターの成れの果てを無造作に放るとソラたちへ視線を向けた。

 その瞳に憎悪の焔が宿り、強烈な怨念が発散される。

 生者、死者に関わらずこの場にいる者を誰ひとりとして逃すつもりはないようだった。

 ブライアンが冷や汗を浮かべつつ口を開く。


「嬢ちゃんたち。予想外の事態が起こったが逃げ出すことに変わりはないぜ。とてもじゃないが俺らの手には負えねえ。急いで街に戻って警備隊や冒険者協会の協力を仰いで戦力を整えるんだ。それから領主や国にも伝令を出さないとな」


 マリナとアイラも頷き、『死神』から決して目を離さないようにしてジリジリと下がり始める。

 しかし、ソラはその場に留まったまま動こうとしなかった。


「おい……! どうしたんだ!?」


「お嬢様! お急ぎください!」


 ブライアンとアイラが焦れたように声をかけるがソラは首を横に振った。


「あいつを一時的とはいえ放置しておけませんよ。悠長に街へと戻って戦力を増強している間に近隣に住む人間たちが蹂躙されます。あいつは憎しみと恨みの固まりです。目についた人間から無慈悲に魂を刈り取っていくでしょう。時間が経てば経つほど手に負えなくなります」


「そんなこと言ってもよ……!」


「……それに、今ならまだコレットを助けられるはずです」


 反論しようとしたブライアンを遮ってソラは言った。

 隣にいたマリナがちらっと目だけを向けてくる。


「……助けられるの?」


「コレットの肉体そのものはまだ死んでないからね。魂を救出して身体に戻せば……」


 ソラの説明にブライアンがかぶりを振る。


「正気かよ。俺でも相当困難だと分かるぜ。

しかも、相手はあの化け物だぞ。そりゃ助けられるものなら助けたいけどよ」


「今はまだコレットの魂は『死神』と一体化していないみたいです。たぶん、核としての機能を果たすために独立しているんだと思うんですけど。でも、時間が経てば完全にほかの魂たちと融合してしまいます。そうなったらもう助けられる芽は無くなってしまいます」


 術師の制御を離れ暴走気味の『死神』の中では、当初コーデリアが作り上げた命令を伝えるための精緻なメカニズムが崩壊しつつあるのだ。その中心であるコレットが取り込まれてしまうのも時間の問題である。

 そうなれば、コレットの魂はゆっくりと死者たちに蝕まれていき水晶の中の肉体も息絶えてしまう。

 あのドジだが心優しい少女を死なせるわけにはいかない。

 ソラが一歩も引かない構えを見せると、マリナが笑みを浮かべながら再び前に出た。


「こうなったらお姉ちゃんはテコでも動かないからね」


「……お嬢様が決められたならば、私もお供するだけです」


 アイラも双剣を構えつつマリナの隣に並んだ。

 その様子を見て、退却しかけていたブライアンが信じられないという風に目を見開いた。


「かあ~~~っ!! ったくよお! 普段は冷静かつ論理的に行動するくせにここぞというときは大胆不敵になりやがる! カーライルの野郎に少し似てるぜ」


 ガシガシと頭をかくブライアンをアイラが鼻を鳴らしながら眺める。


「別にお前だけ逃げ帰ってもいいぞ。戦意を喪失している人間など足手まといにしかならんからな」


「そんなわけにいくかよ! 一度チームを組んだ人間を見捨てるなんざ冒険者の恥ってもんだろうが! それに、御者のジジイをはじめ受付の姉ちゃんたちにも軽蔑されるっての!」


 ヤケクソになったように前へ出て剣を構えるブライアン。

 そして、巨大な鎌を持ち上げながら迫る『死神』を警戒しつつ尋ねる。


「しかし、勝算はあるのかよ? やっぱり無謀としか思えんぜ!」


「ブライアンさんたちは時間を稼いでください。後は私がやりますから」


「嬢ちゃんが? コレットちゃんの魂を取り戻す方法なんざあるのか?」


 ソラの言葉を聞いて疑問符を表情に浮かべるブライアン。

 それには答えずソラは前衛を三人に任せ集中状態に入った。

 普段かけている暗示を解き、封印している己の能力を徐々に発現させていく。

 世界が切り替わっていく感覚を覚えつつもソラはブライアンの言うことも当然だと思った。

 確かに普通の人間には無理だろう。

 常識で考えても限りなく不可能なことだと分かる。

 しかし。

 ここにいるのは時に不可能を可能とする<魔法使い>なのだった。



 ※※※



 マリナはソラの準備が整うまでの盾となるために『死神』と相対していた。

 相手はブライアンが言う通りとんでもない化け物である。

 その身から放射されている絶大な魔力と憎悪の念はマリナの足をもすくませるほどであった。

 だが、姉が覚悟を決めたならば自分もそれに付き合うのみである。

 妹としてソラひとりに危ない橋を渡らせるわけにはいかないのだ。

 白銀の大剣を握りしめて姉に近寄らせまいと立ちふさがるマリナの目前まで『死神』はするするっと宙を滑るようにして迫ってきた。

 三日月形の大鎌を大上段に構える。


「――うおっ!! 俺かよっ!?」 


 かすっただけでも魂を刈り取ると言われる凶悪無比な一撃がマリナの隣にいたブライアンに向けて振り下ろされた。 

 ブライアンは<内気>を込めた剣で迎え撃つが、接触した途端に不吉な音を立てながら剣身に罅が入ったのだ。


「うげっ!?」


 慌てて剣を引くブライアン。

 だが、剣は真ん中からぽっきりと折れて使い物にならなくなってしまったのだった。


「しゃ、洒落になんねえ!!」


 たったの一合で得物がおじゃんになったブライアンは悲鳴を上げながら距離を置く。

 『死神』は後退するブライアンを追撃することもなくマリナを見下ろした。


「アイラ! ブライアンさん! 私が相手をするから援護をお願い!!」


 マリナは攻撃態勢に入りつつある『死神』を睨みながら二人に呼びかけた。

 敵が纏う魔力ははっきり言って桁が違う。

 技巧派の二人よりも自分が相手をしたほうがいいと判断したのだ。

 対抗するようにマリナも全身から膨大な魔力のオーラを発現させた。

 再び振り下ろされた鎌と大剣がぶつかり合う。


「――――!!」


 凄まじい圧力にマリナの表情が苦痛に歪んだ。

 足元の床が陥没するくらいの衝撃だったが、奥歯を噛み締めながら踏ん張る。


「マリナお嬢様!!」


 アイラが横合いから攻撃を仕掛ける。

 しかし、『死神』はおもむろにアイラに視線を向けると青白い炎のような瞳を燃え上がらせたのだ。

 途端にアイラの動きが止まり目の焦点が合わなくなる。

 しかも、急速にその顔が白くなっていくのが分かる。


「アイラ!?」


「……くそっ!!」


 ぼんやりと立ち尽くすアイラにタックルを仕掛けるブライアン。

 二人はそのまま床へと転がる。

 その衝撃で正気に戻ったらしいアイラにブライアンが呼びかけた。


「いきなり、どうしたんだよ!?」

 

「……分からない。あいつと視線が合った瞬間に意識が飛びかけて身体から力が抜け始めたんだ」


 アイラは頭を振りながら答えた。


「まさか……目が合っただけで<生命力吸引エナジードレイン>が働くってのか? 一瞬で身動きができなくなるほどの」


 おののくブライアン。

 マリナは視線を下げる『死神』を見ないようにして踏ん張りつつも思い出したことがあった。

 かつて暇なときに姉と共に読んでいた本に書かれてあったのだ。

 伝承によれば『死神』は人を死に追いやるほどの邪視を持っているのだと。

 おそらく、アイラほどの使い手だからこそまだあの程度で済んだのだ。

 一般人なら即絶命してもおかしくない。


「二人とも目を合わせないように迎撃して!!」


「……了解です!」


「無茶言いやがる!!」


 大事には至らなかったアイラが再び構え、ブライアンも懐からナイフを取り出した。

 すると、マリナと押し合っていた『死神』の全身から青白い炎が噴き出したのだ。

 そして、壮絶な怨念がこもったいくつもの炎塊を四方八方に解き放つ。 

 触れただけで息絶えるほどの攻撃が直近にいたマリナ以外の皆に雨あられと降り注いだ。

 当然、目を閉じて静かに佇んでいる無防備なソラにも迫る。


「お嬢様っ!!」


「ちいっ!?」

 

 攻撃を避けつつ、急いで駆け寄るアイラとブライアン。

 ソラに直撃する炎を直前でアイラが双剣で撃墜し、ブライアンの投げたナイフが消滅させる。まさしく危機一髪であった。

 しかし、一息吐く間もなく『死神』は再度炎を撒き散らし始める。

 防御に忙殺される二人。

 ギリギリの攻防劇を見てマリナは眉を吊り上げるが、『死神』は炎を飛ばしつつも苛烈な斬撃を放ってきた。

 強大な魔力が宿った鎌とぶつかり合う度にマリナの身体が軋んだ。これまで経験したことのない異次元の重さだった。 

 数合打ち合っただけで手の感覚が無くなり始め、剣身が悲鳴を上げる。

 このままではじきに押し切られるのが目に見えていた。


「……このおっ!!」


 マリナは瞬時に最大級の魔力を練り上げる。

 セミショートの金髪が盛大に浮かび上がりローブが激しくはためいた。 

 即座に魔導剣を発動させる。

 大剣に収束した風圧も使ってマリナはわずかに『死神』を押し返すことに成功した。

 同時に後方へと軽く跳んで思いっきり剣を振り抜く。

 マリナの全力の魔力が込められた風刃が敵へと高速で向かっていった。

 これでも足止め程度にしかならないだろうがそれでよいのだ。あくまでも一度仕切りなおすための攻撃なのだから。 

 対して『死神』は冥界の炎を込めた鎌を構えるとマリナと同じように振り抜いてきたのだ。

 青い炎刃とも呼ぶべき衝撃波が発生し空中で風刃と衝突する。


「――うそっ!?」


 一瞬だけ均衡したものの、炎の刃は風刃を突き破ってきたのだ。

 いまだに空中にいたマリナが咄嗟に大剣を盾にした瞬間に炎刃がぶち当たった。

 凄まじい衝撃をその小さな身に受けたマリナはなすすべもなく床に叩きつけられる。


「マリナお嬢様!?」


「このドクロ野郎が!!」


 大技を出したためか炎塊による攻撃が一時的に止まり、自由になったアイラとブライアンがピンチのマリナをフォローするために攻撃を繰り出した。

 しかし、『死神』のたった一振りであっさりと吹き飛ばされる。

 致命傷こそ避けられたようだが二人は床に転がって動かなくなった。

 その様子を見ていたマリナはよろめきながら立ち上がる。


(これって、めっちゃピンチじゃない!!)


 手元を見ると剣はなく、バラバラになって床に落ちていた。

 なんとか攻撃を相殺できたものの、武器は使い物にならなくなってしまったのだ。 

 マリナは左手を上げ右足を引きながら東方武術の構えを取った。

 武器は失ったが自分はまだ戦える。こうなったら魔力を込めた拳で敵を殴るだけだ。

 背後には姉がいる。ここは一歩たりとも退けない。

 睨みつけるマリナの目前に迫った『死神』がゆっくりと青白い炎に包まれた鎌を振り上げる。


(……成功確率は十パーセントくらい!!)


 ソラほどの功夫クンフーを積んでいない自分ではあの攻撃を受け流すのは至難である。

 しかし、やるしかないのだ。

 目を皿のようにして攻撃を見極めようとするマリナへ『死神』が無慈悲に鎌を振り下ろす。

 決死の覚悟で受け流そうとした瞬間だった。 

 突然、敵の攻撃が目の前で停止したのだ。


「あっ……」


 マリナはへなへなとその場にくずおれる。

 すぐ背後に世界で最も安心できる気配が佇んでいることに気づいたのだ。

 目の前を見ると薄く輝く障壁が『死神』の鎌を阻んでいた。

 背後を振り返る。

 目が合うと、神々しい雰囲気の少女が微笑んだ。


「おまたせ」


 そこには、『死神』のそれよりもずっと美しく静謐な蒼色に染まった姉が立っていたのだった。

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