マーガレットの日記①
ある日の夜、マーガレットは自室で日記をつけていた。
魔導学校入学を期に始めた毎日の習慣である。
とはいえ、日記に書かれている大半の事柄はマーガレットが敬愛するとある女子生徒で埋まっているので、ある意味その生徒の観察日記のようなものなのだが。
マーガレットは一度ペンを置いた。
開け放した窓から気持ちのいい風が入ってきて、風呂上りの火照った肌を適度に冷やしてくれていた。
夕食後にお風呂に入り、身体の疲れを癒してから自室で日記をつけて就寝する。これがマーガレットの標準的な生活スタイルである。
しばらく目を細めて風を感じていると、
「――さあ! 皆様、次はこれをご覧ください! この前東方から取り寄せた香木で、世界にも数えるほどしかない高価なものですぞ!!」
「…………」
窓の外から騒がしいだみ声が聞こえてきたのでマーガレットは無言で窓を閉めた。
良い気分だったのが台無しである。
腹の中がむかむかとしてくるが、息を大きく吐き出して苛立ちを鎮めようとつとめる。
日記をつけている間はまさに至福の時間なのだ。気分を害したままではもったいない。
マーガレットは再びペンを取り、先ほどの声の持ち主を意識の隅に追いやるように作業に没頭する。
今日は特に楽しい一日だったのである。
忘れないうちに詳細まで書き留めておかなければならない。
マーガレットは今日一日の記憶を脳裏に再現し始めるのだった。
※※※
学校の保健室。
マーガレットが所属する一組と二組の生徒との合同で午前中から恒例の身体測定が行われていた。
むろん、部屋内にいるのは女子生徒だけである。
身体測定なので皆下着姿だ。あちこちにカラフルな色彩が溢れ、可愛らしい動物のイラストがちらほらと見えた。
仮に何かの間違いで男子生徒が迷い込むようなことがあればマーガレットがくびり殺すだろう。
ここには彼女が愛してやまない天使も同席しているのだから。
その天使はマーガレットのすぐ目の前で胸囲測定の順番を待っていた。
白髪を肩ほどにまで伸ばした女子生徒。白いキャミソールとショーツを纏っている。
そのきめ細やかな白い肌は瑞々しく、普段から鍛えているせいかほれぼれとするほど健康的に引き締まっている。
まさに見惚れるような肢体であった。
この肢体をじっくりと見るために女子生徒の背後を確保したのだから。
マーガレットは思わず呼吸を止めて凝視した。
背中からの緩やかで優美なラインを脳みそに刻み込むように眺める。
すると、マーガレットの視線を探知したのか、その女子生徒――ソラがおもむろに振り向いた。
「……あの、メグ? さっきから背中にびしびしと視線が当たっている気がするんだけど」
「きっと、気のせいですよ、お姉さま」
マ-ガレットはしれっと誤魔化した。
同時に己へ自制を促す。
(……いけません。私としたことが目前に半裸状態のお姉さまがいるので少々自分を見失ってしまいました)
ソラは釈然としない表情でお尻に手をやる。
「そ、そうかな? なにか中年オヤジにでも観察されているような悪寒を感じるんだけど……って、メグ、目が充血してない?」
「そうですか? 昨夜あまり眠れなかったからかもしれませんね」
今日が楽しみでなかなか寝付けなかったのは事実である。以前からマーガレットが心待ちにしていたイベントだったので当然といえた。
目が充血しているのはまた別の理由かもしれないが。
そうこうしているうちにソラの順番がやってきた。
椅子に座った女性教諭がソラに腕を上げさせ、その手に持ったメジャーで胸囲を測る。
まだ八歳の少女なので膨らみなど皆無なのだが、マーガレットからすれば垂涎ものの行為であった。
(う、羨ましいです!! 代わってほしいほどです!!)
両手を握りしめながら見つめるマーガレット。
「……サーディンさん? あなたの順番はまだですよ?」
「……メグ?」
マーガレットははっと我に返る。いつのまにか、ずいっとソラの隣へ詰め寄るように足を踏み出してしまっていたのだった。
ソラがびっくりしたように見ている。
こほんとひとつ咳をついて下がるマーガレット。
後ろにいたノエルが呆れたような視線を向けてくるが、ここは何事もなかったかのように戻る。
しばらくしてソラの測定が終了した。
測定結果が書かれてある用紙を持って次の項目へと進む。
次は身長のようだ。正面からじっくりと眺めるチャンスである。
「先生! 急いでください!」
「サ、サーディンさん? じっとしてなさい、測れないでしょう!」
落ち着きのないマーガレットに女性教諭が困惑している。
焦りまくりだったので何度もやり直して余計時間がかかってしまった。
マーガレットは舌打ちをこらえながら急いでソラのもとに向かう。
各種測定の順番は生徒が自由に決めてよいのだ。誰かに割り込まれる前に到着しなければならない。
しかし、現実は無慈悲であった。
「――はい。エーデルベルグさん、……センチですね」
「ありがとうございます」
タッチの差でソラの測定は終了していたのである。
茫然と立ち尽くすマーガレットを尻目にソラは次の測定を行うべく歩いていった。
がくりと肩を落としながらマーガレットは並ぶ。
しかも、目の前には白い天使ではなく勘違いした女が立っていたのである。
「ふふふ。さあ、遠慮せずに測ってくださいな」
なにやらポーズをとりながら身長計に上がるひとりの女子生徒。
高飛車な金髪お嬢様であるグレイシアであった。
グレイシアはなぜか黒のベビードールを纏っていたのだ。フリルが要所に配置され、かつ少し透けていて無駄に色っぽい。
初等学校の生徒でこんなものを身につけてくる人間は前代未聞なのではなかろうか。
周囲の女子生徒たちもどうリアクションしてよいか分からずにぼけっとグレイシアを眺めている。
「あのね……ローゼンハイムさん。これはあなたにはまだ早いですよ」
「何をおっしゃっているんですか、先生。女性は年齢に関わらず美しさを追求してしまうもの。わたくしも自分の魅力を最大限に引き出すための努力は惜しみませんわ。……もっとも、わたくしは素のままでも比類なく美しいのですけど」
おーほっほっほ、と高笑いを浮かべるグレイシア。
すると、マーガレットの背後にいつのまにか並んでいた取り巻きの女の子たちがそれぞれ褒め称える。
「シアさま、素敵です!」
「美の女神も裸足で逃げ出すほどの美しさです!」
褒められてますます調子に乗ったグレイシアは声援に応えるようにまたポ-ズをとる。
頭の後ろに手をやり、スカート部分を軽く持ち上げて周囲を見回す。
その優越感に満ちた表情は、『さあ、あなたたち、わたくしの美しさを御覧なさいな』とでも言っているかのようだ。
もはや気分はファッションモデルなのかもしれない。自らの美に絶大の自信をもっているようだ。
マーガレットがボーッと見ていると、おもむろにグレイシアと目が合う。
「……あら。そこにいる広めのおでこはマーガレットさんじゃありませんか。ふふ、どうです? このわたくしの格好は。あなたも思わず見惚れるほどの美しさでしょう」
どうやらグレイシアは都合よく勘違いしているらしい。
先ほどチャンスを逃してしまったことでマーガレットは気力が切れていただけなのだが。
なので、マーガレットはおもいっきり冷めた表情でぽつりと言ったのだった。
「……アホですか、あなたは」
「な、なんですって!?」
想像外の返答だったらしくグレイシアは驚愕の声をあげる。
ガビーンとショックを受けており、ポーズをとったまま石像のように固まっている。
背後の取り巻きの子たちも信じれないといった様子で同様に動きを止めていた。
どうも、世界がひっくり返るような衝撃を受けたらしい。
まだ時間がかかりそうだと判断したマーガレットは、立ち尽くすグレイシアたちをおいて別の測定場所へと移動するのだった。
※※※
身体測定を終えた後は体力テストである。
最近の魔導技術の発展によって生活の利便性は大幅に向上したが、皮肉にもそれが原因で子供たちの運動能力が年々低下傾向にあるらしい。
それに危機感を募らせた国が子供たちの身体能力を測るために数年前から実施するようになったのだ。
種目は全部で八種類でそれぞれ記録に応じて得点が与えられる。
一種目の最高点は十点で総合計は八十点となる。
だが、合計点をつけるものの生徒同士で競うものではない。国の情報収集の一貫であり、生徒が自分の身体能力を知る上で参考にするためのものなのだ。
現在、マーガレットたちはその体力テストを受けるために体操着へと着替えて体育館に来ているのだった。
引き続いて二組との合同であるが、ここからは男女に関係なく行うことになる。
「はいは~い! 生徒の皆さんはお行儀良く列に並んで、測定が済んだら速やかに移動してくださいね~」
ステージ上ではレヴィン教師がどこか気の抜けたような声で生徒たちに指示していた。
後頭部には相変わらず頑固な寝癖がついており、着ているジャージもヨレヨレである。
指摘してくれる恋人などはいないのだろうかとマーガレットは思うが、別にどうでもいい話でもあるのですぐに視線を外した。
目の前にはなにやらやる気満々のソラが柔軟体操をしている。
「どうせやるんだったらトップを目指さなきゃね」
背筋を伸ばしながら気合を入れるソラ。
その様子を見てノエルが微笑む。
「ソラさんってけっこう負けず嫌いですよね」
「まあ、普段から鍛えてるし、どれほどの結果が出せるのか試してみたいって思うよね」
ソラが準備体操を終えると三人で連れ立って歩き出す。
広い体育館ではあるが、ふた組分の生徒、およそ百人近くがひしめいているので狭く感じる。
マーガレットたちは握力の測定から開始することにした。
列に並ぼうとすると、すぐ目の前に見覚えのある大柄な男子生徒が立っていた。
とても一年生とは思えない堂々した体格で頭をきれいな五分刈りにしている。
「――ひっ!?」
短い悲鳴をあげるノエル。
以前に味わった恐怖を思い出したのだろう。青ざめた表情をしている。
「……あ?」
不審そうに振り返る大柄な男子生徒。
マ-ガレットたち――正確にはソラの顔を見るなり男子生徒はくわっと目を見開いた。
「おまえは、あのときの生意気な女じゃねえか!!」
そう。この男子生徒は入学式のときにノエルに絡んでいたゴルモア王国出身の少年だったのだ。
少年は浅黒い顔に青筋をたててソラに詰め寄る。
「俺の前に再びツラを出すとはいい度胸してんじゃねえか、ああ? あのときの屈辱は忘れてねえぞ!」
「誰かと思えば、ゴルモアから来た五分刈りの少年。二組だったんだ」
「人を髪型で呼んでんじゃねえよ!? いいか! 俺の名はエゼルハーン・ナントンガラグ・アナディン・バートルだ!! 分かったか!」
唾を飛ばしながら叫ぶ少年。
しかし、長すぎてどれが苗字で名前なのかさっぱり分からない。
すると、マーガレットとノエルの疑問を見てとったらしくソラが説明してくれた。
「ゴルモアには苗字がなくて、順番に氏族名、祖父の名前、父の名前、そして最後に本人の名前がくるんだよ」
「な、なるほど。よく知ってますね」
「伊達にたくさんの本を読んでないからね」
感心した声を出すノエルに少し照れた様子のソラ。
ということは、五分刈りの少年の名前はバートルということになるのだろう。
ちなみに先頭のエゼルハーンというのはゴルモアの王族を意味するのだとソラが補足した。
以前グレイシアが言っていたとおり王族の一員というのは確からしい。
「ふ、ふん! よく知ってるじゃねえか」
ソラの博識ぶりに驚いているらしいバートル。
当然だとマーガレットは誇らしい気分になる。この頭まで筋肉でできていそうな少年とは比べものにならないくらいソラは賢いのだ。
バートルはおもいきりソラを見下ろしながら睨みつける。
「おい、女。あのときの非礼はどう詫びるつもりなんだ、ああ?」
「あれはキミの自業自得でしょうが。詫びる必要なんてこれっぽっちもないよ。それから、私にはソラって名前がちゃんとある。女呼ばわりするとかそっちの方がよほど非礼じゃないの?」
「んだと、コラッ!?」
堂々と言ってのけるソラに憤慨するバートル。相変わらず沸点が低いようだ。
彼の傍若無人ぶりは一組にも伝わってきている。いつもこんな調子なのだろう。
怒りにぷるぷると震えていたバートルだったが、ふと何かを思いついたようにニヤリとした。
「おい、ソラとか言ったか? それなら俺と勝負しようじゃねえか」
「勝負?」
「ああ。その勝負に勝った方が負けた方にひとつだけ言うことを聞かせることができる。これからやる体力テストで合計点の高い方が勝者だ」
「…………」
バートルの提案に考え込むソラ。
こんな勝負を受ける必要など全くなくバートルなど放置しておけばよいのだが、マーガレットは嫌な予感がする。ソラの性格からいって受けそうな予感がひしひしとするのだ。
その表情を見るに、案の定ソラは前向きのようだった。
「……それで、キミの望みは決まってるの?」
「もちろんだ。俺が勝ったら、お前には俺の家で使用人として働いてもらう。そうだな、三日くらいで勘弁してやるよ」
「な……っ!!」
「ええっ!?」
瞬間的に頭が沸騰するマーガレット。隣ではノエルも驚きの声をあげている。
(よりにもよって、なんてことを言うんですか、この五分刈りは!!)
マーガレットはこめかみの血管が切れそうになる。
エーデルベルグ家の息女たるソラに使用人をさせるなどとは。下手したら外交問題になるかもしれないということを理解しているのだろうか。
「あなた、馬鹿じゃないんですか!? お姉さま、こんなくだらない勝負を受ける必要はありませんよ! 万が一、敗れて使用人をさせられるハメになったらどんなことを要求されるか……!!」
マーガレットは脳内でソラがいいようにこき使われている様を想像して「ひいい!」と悲鳴をあげた。
想像の中だけでも耐えられるものではない。なんとしてでもソラにはこの提案を突っぱねてもらわなければ。
すると、マーガレットの台詞にカチンときたらしいバートルが食ってかかってきた。
「おい、デコ女! 誰が馬鹿だと!? 誇り高き戦士への侮辱は許さんぞ!」
「誰がデコですか! このジャガイモ頭!!」
「ジャガ……!? 貴様っ!!」
二人が低レベルな言い争いをしているとソラとノエルが割って入ってきた。
「ま、まあまあ。二人とも落ち着いて」
「そ、そうですよ」
「しかし、お姉さま……!!」
ノエルに羽交い絞めにされながらもマーガレットが言い募ろうとすると、
「――それに、私が勝てばいいだけのことだし」
蒼い瞳に静かな自信を漲らせてソラは言ったのだった。
思わずマーガレットは口をつぐむ。
その姿は見惚れてしまうほど凛々しかった。
ソラの台詞を聞いてバ-トルも頭が少し冷えたようだった。
「……面白しれえ。じゃあ、この勝負受けるってことでいいんだな?」
頷くソラを見てバ-トルは不敵な笑みを見せる。
「決まりだな。……それで、お前の望みは何だ?」
「……そうだね。それじゃあ、キミにはパンツ一丁になってグラウンドを三周走ってもらおうかな」
「……なっ!?」
まさかそのようなことを持ちかけられるとは思っていなかったらしくバートルは絶句していた。
誇り高い戦士たる彼には屈辱であろう。顔を赤くして葛藤の表情を浮かべている。
ノエルが困ったような笑みを浮かべる。
「あの、ソラさん……。さすがにそれはちょっとむごい気がするんですけど……」
「相変わらずノエルは優しいね。でも、これくらい言わないと彼は反省しないよ。少しは痛い目を見せないと。それに、ノエルをいじめた報いだよ」
ソラはいたずらっぽく笑った。どうも本気ではなく、ちょっと懲らしめてやろうという意図のようだ。
大きな身体を震わせて沈黙していたバートルが顔をあげる。
「……分かった。それでいいぜ。じゃあ、さっそく始めようか」
「尋常に勝負、だね」
どうやら二人の対決は不可避のようだ。
ここに至ってはマ-ガレットもあきらめるしかない。
ソラとバートルが睨み合いバチバチと火花を散らしているのを眺めていると、
「――ふむ。面白そうなことをしているようだね」
突然、マーガレットたちの背後から深みのある声が降ってきたのだった。
「え、うわっ!?」
「う、うおっ!?」
四人が振り向くと、いつからそこにいたのか巨漢のダグラス・グリフィス校長が腕を組んで悠然と佇んでいたのだった。
「い、いつのまに……?」
マーガレットはすぐ後ろに立っているグリフィスを茫然と見上げる。
これほどの巨体の接近に全く気づかなかったなどあり得ないことだ。
さしものバートルも気圧されたかのように腰が引けている。初等学校の中ではずば抜けた身体の持ち主ではあるが、この老人の巨躯とは比べものにならない。
「校長……。気配を消して近づくのは止めてくださいよ」
「ふふ。もう一度君に挑戦してみようと思ってね。もっとも、君はこの中の誰よりも早くに私に気づいていたようだが。まあ、イ-ブンというところか」
呆れた様子のソラに得意げな表情のグリフィス。
以前にもこの二人の間には何かがあったらしい。
グリフィスがマーガレットたちを見回す。
「先ほどの君たちの会話は聞かせてもらったよ。そこでひとつ提案なのだが、私が仲介役を引き受けるということでどうだね?」
「仲介役……ですか?」
「学校側としては賭け事のような勝負など認められないのだが、君らは一度ぶつかり合わねば収まらないだろうと判断したのだよ。その代わりに校長たる私が介入することで特例として認めようということだ」
グリフィスの提案を聞いてマーガレットはホッとする。
校長自らが出張ってきたとなれば、仮にソラが負けたとしてもそうそう酷い目には遭うまい。国際問題に発展しないように配慮もしているのだろう。
「バートル君はそれで構わないかね? 使用人といってもそこまで無体なことをやらせようといわけじゃないんだろう?」
「あ、ああ。こいつが惨めに雑巾掛けでもしてりゃ、俺としては満足だし」
素直に頷くバ-トル。圧倒的な体格を誇る校長の提案を断れる生徒はそういないだろう。
今度はソラの方を向くグリフィス。
「ソラ君はどうだね? パンツ一丁というのはさすがに容認しかねるがね」
「まあ、最終的にはもう少し条件を緩和しようと思ってましたけど……」
「ならば、上半身裸でお腹に顔のイラストを書いて、腹踊りをしながらグラウンドを三周するというのはどうかね? それなら認めよう」
それはそれでかなり恥ずかしい気もするが、校長的にはそれならオーケーらしい。
バートルが顔を引きつらせているが。
「それと勝利の条件だが、学年最高の総合点をあげたものに変更でよいかね?」
「学年最高?」
グリフィスは頷いて体育館内に視線を向ける。
「一組と二組以外のクラスはもう体力テストを終えていてね。君らが終了すれば学年全員の得点を比較することができる。どうせ勝負するなら目標は高い方がいいし、学年トップをとった方を勝者にしようじゃないか」
校長の言葉にソラとバ-トルが再び睨み合う。
「それでいいですよ。もともとそれを目指していましたし」
「ふん。俺は物心つく前から険しいゴルモア高原で鍛えてんだ。ひ弱なエレミアの連中に負けるかよ。俺も異存はねえ」
どうやら勝負の概要が決まったらしい。
周囲の生徒たちがいったい何事かとざわめいている。
ノエルも困惑しながら睨み合う二人を見つめていた。
マーガレットがふとグリフィスを見るとなにやら楽しそうに目を細めて当事者たちを眺めている。
(こ、この方、たんに楽しみたいだけじゃないんでしょうか?)
疑惑の目つきで見つめるマーガレットを尻目に、グリフィスはわっはっはと豪快に笑っているのだった。




