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空色の魔法使い  作者: 乃口一寸
一章 魔法使いと温泉の町
18/132

第15話

(先手を打たれた……!) 


 何者かによるジャック殺害の報を聞いたとき、ソラは悔しい気持ちでいっぱいだった。

 しかし、悔いていても仕方がない。気持ちを無理やり切り替える。


「マリナ、アイラ。町の東西の門を中心に見張って。ここで逃がすわけにはいかない」


 ふたりは頷いてから、つむじ風ができそうな勢いで、あっという間に部屋から出ていった。

 犯人が町から逃走するとして、門を必ず使うという保証はないが、何もしないよりはマシだ。

 それから、ボールドウィン総隊長に言って、早急に町の周囲の巡回を強化してもらうことにする。

 これで、犯人がまだ町の中にいるのならば、むざむざ逃がすことはないはずだ。

 それから、ソラはボールドウィンやラルフと共に、ジャックが殺されたという牢を見にくために移動を開始した。

 その牢は警備隊隊舎の近くにある離れにあるらしかった。

 ソラたちが隊舎から出ると、外にある門に物見高い町の人たちが幾人か集まっていて、しきりに敷地内を覗いているようであった 

 ソラは目立たないように、そっとローブのフードを被った。そのまま、離れの石造りの建物へと歩いていく。

 外はもう夕陽が落ちかけていて、暗くなるのも時間の問題であった。

 ソラが牢のある建物に入ると、ひんやりとした空気が頬を刺した。犯人を収監する牢は、それぞれ一階と地下へと分かれていた。


「ジャックを収監していた牢は、地下の一番奥にあります」


 さきほど報告に来た警備隊員がそう告げた。

 入り口の近くにあった石造りの階段を下りると、長い廊下があり、その左右に牢がいくつかあるようだった。

 警備隊員の先導で、一番奥にまで足を進める。

 そこには白いシーツを被せられたひとつの遺体が置いてあった。

 警備隊員がシーツを剥ぐと、喉もとを掻っ切られて、事切れているジャックが横たわっていたのだった。


「…………っ」


 ソラが息を呑み、ラルフもやるせない表情をしていた。


「……これは、どういうことなのだ?」


 ボ-ルドウィンが質問する。


「時間をおきながら、尋問をしていたんです。それで、さきほど再開しようと牢へ行ったら……喉にナイフが突き刺さった状態で殺されていたんです」


 警備隊員は、白い布に包んだナイフを見せながら答えてくれた。

 刃渡り二十センチほどの、どこにでもあるようなナイフだった。布に血がべっとりとついていた。


「……それで、その間、地下に下りた人間は把握しているんですか?」


 ソラが静かに訊いたが、その警備隊員は急に恐縮したようになり、


「そ、それが、ここ一時間ほどばたばたしておりまして、少しだけ空白の時間をつくってしまったんです。どうやら、その間に行われたみたいで」


「な、なんだと!? 馬鹿もんっ! 一時的とはいえ、牢番を空けるやつがあるか!!」


「も、申し訳ありませんっ!!」


 頭を下げる警備隊員。

 怒鳴りつけても状況は改善しない。まだ、叱りつけているボールドウィンを遮るようにソラは言った。


「これは、明らかに口封じです。とりあえず、町に警備隊員を動員して、先ほど言った人物の確保と自宅の捜索を行った方がいいと思います」


 ボ-ルドウィンが頷きながら、返事をしようとしたとき、


「――俺は、犯人を知ってるぜ」


 と、ふたつ横の牢から、野太い声が聞こえてきたのだった。

 皆はその声のした方へと振り向いた。

 そこには、牢にはまっている鉄の格子を両手で握り締めながら、こちらをにやにやと見ている大柄な男がいた。

 ボールドウィンがずかずかとその男の方に歩み寄って、問いただした。


「犯人を知っているだと? 誰だ、それは。教えろ」


 男は大げさに肩をすくめて言った。


「おいおい、それが人にものを聞く態度なのかよ? ……そうだな、教えてやってもいいが、俺らの刑を軽くしてくれよ。それなら、喋ってもいいぜ」


「ふざけるな! そんな取引に応じられるか! ……だが、素直に喋るならば、考慮はしてやる」


「そっちこそ、ふざけるんじゃねえよ。そんな適当な約束で教える馬鹿がどこにいるってんだ?」


「なんだとっ!? 私を誰だと思っている!!」


 二人の男がみっともなく口論しはじめる。

 ラルフたち警備隊員の人間がおろおろとしている。

 ソラはため息をひとつ吐いた。


「ボールドウィン隊長。そんなことをしている場合ではありませんよ。今、この瞬間にも犯人が何をしでかすか分からないんですよ?」


 この数時間でストレスがよほど溜まっていたのか、やたらエキサイトしていたボールドウィンは、ソラの声を聞いて、はっと我に返ったようだった。

 すると、牢にいた大男がソラの方を見て、突然叫びだしたのだった。


「あ、あああっ!? て、てめえはっ、あのときのくそ忌々しい魔導士!?」


 ソラは、驚愕している大男を見てようやく思い出した。

 その男は、ソラたちがホスリングへと来る途中に出会った野盗たちの頭だったのだ。どこか見覚えがある気がしていたのだが、もじゃもじゃだった髭が昨日から放置されていたせいで、顔面がジャングルのようになっていて、気がつかなかったのだ。

 髭の親分は、ソラがあのときと同じフードを被った状態なので気づいたらしかった。


「それは、とりあえず置いておいてですね。今は緊急事態なので、犯人を教えてもらえませんか?」


「さらっと流してんじゃねえよ! 俺たちをこんな目に遭わせたヤツに誰が教えるかよっ!!」


 逆恨み全開の台詞をのたまう髭の親分。

 ソラが困ったなと思っていると、周囲の牢の中から多数の気配を感じた。 

 見回すと、捕縛されていた野盗たちがソラを睨みつけながら、鉄格子のすぐ側に集合していた。

 そして、口々に、「おまえのせいだっ!」「この、ビリビリ魔っ!」「人でなし!」などとソラを非難していたのだった。

 そのあまりにも身勝手な言い分にソラたちは呆れ返り、ボールドウィンが「ええい、静まらんか!」と大声で注意する。


「ともかくっ! おまえみたいな野郎に教えることはこれっぽっちもねえよ! おととい来やがれってんだ!!」 


 相当腹に据えかねていたらしい髭の親分がそう啖呵を切ったのだった。

 これは何をしても教えてくれそうにないと、ソラは見切りをつけた。


「――それなら、仕方ないですね。やはり、彼の行方を追った方がいいみたいですね。……あと、ひとつ言っておきますけど、私は野郎じゃないですよ」


 元野郎だけど、と心の中で付け加えながら、ソラはフードを下ろした。

 すると、先ほどまで、さんざんソラを罵倒していた野盗たちがしんと静まり返る。

 それを見て、ソラが怪訝な顔をしたときだった。


「……こ、この白い髪の美少女って! もしかして!?」


「そうだ! エーデルベルグ家のソラちゃんだっ!!」


「うおおおおお!! 俺めっちゃファンなんだけど!!」


「俺もこの前エルシオンで、『ソラちゃん抱き枕』を買ったぞ!!」


 と、口々に騒々しく語りだしたのだった。

 以前にもどこかで見たような光景であった。


「…………」


 ソラはとてもつもなく虚しい気持ちになったのだった。

 とりあえず、最後にとんでもないことを口走った野盗のひとりを締め上げようか、とソラが足を踏み出したときだった。

 茫然としていた髭の親分が「て、天使だっ……!」と呟いて、それからソラに向かって叫んだのだった。


「――さ、さっきは、とんだご無礼をっ! 俺、いや僕に答えられることなら、何でも訊いてくださいっ!!」


「……は?」


 突然態度が急変した髭の親分を唖然と見返すソラ。なにやら一人称まで変わっている。

 なにはともあれ、教えてくれるならいいか、とソラは深く考えないようにした。どうでもいいが、野盗の見本みたいな男に、その態度や口調は凄まじく似合っていなかった。

 ソラは改めて犯人が誰なのかを問いただした。


「そ、そうでしたね! 十分ぐらい前に、奥の牢から、男の低い悲鳴が聞こえてきたんで、何事かと起きだしてみると、ちょうどひとりの男が目の前を通り過ぎていったので、そいつが犯人です!」


「……それは?」


「僕たちを捕縛した警備隊の頭が禿げ上がったヤツです! 隊長とか言ってました。えーと、名前はなんといったか……」


 ソラはもう十分だと思った。これで決まりだ。

 ラルフが「そんな、やっぱり?」と悲しそうに顔を歪めていた。

 と、そのとき。

 どこか遠くから起こった爆音と衝撃が、この地下にまで響いてきて、建物を揺らしたのだった。


「ひいい!? な、なんだ、地震か……!?」 


 髭の親分が頭を抱えながら座り込んだ。大きな図体をしながら、気が小さいのかもしれなかった。


「なんだ、今度は何事だっ!?」


 わめくボールドウィンを放置して、ソラは踵を返して、廊下を走り抜け、地上に駆け上がった。ラルフが続いた。

 すると、東の空に、もくもくと煙が勢いよく上がっているのが見えた。


(まさか……)


 ソラが鋭い目つきをして、その黒煙を見つめる。


「……えっ! あれって、もしかして火事ですか? た、大変だっ!」


 ラルフも、ソラの背後から縦に伸びる煙を見つけて騒ぐ。


「ラルフさん。私は今すぐにあそこに行かなければなりません」


 ソラが煙を見ながら断固とした口調で言うと、ラルフも頷いて、


「そ、そうですね。じゃあ、警備隊の馬を使ってください。裏道を上手く行けば、歩行者に邪魔されずに、急行できます。僕が先導しますので、少し待っててください」


 と、ラルフは敷地内にある厩舎へと走ろうとしたが、ソラがそれを遮った。


「それでは、間に合いません。空を飛んだほうが早いです」


 ラルフが「え、空?」とワケのわからない表情をして振り向いたが、ソラが強引にその手をとって、「行きますよ」と告げ、即座に魔導を発動させる。


「<飛翔ソアー>」


 ソラがそう呟いた瞬間に、ふたりの身体は空中へと勢いよく舞い上がったのだった。


「う、うわあああああっ!?」


 ラルフの情けない声が警備隊の敷地内に響く。

 遅れて駆け上がってきたボ-ルドウィンが、次第に遠ざかっていくラルフの声を聞きながら、茫然とソラたちを見送っていたのだった。




 ソラたちはホスリング上空を高速で突き進んでいた。

 行使したのは、<風>属性の上級魔導である<飛翔>。身に纏った魔力の風で空力を制御する魔導である。魔力消費量は大したことはないが、ともかく制御が難しい魔導なのだ。 

 日が完全に落ちており空気も冷えてきていたが、纏っている風のおかげで寒さはほとんど感じない。

 右手で引っ張っているラルフをちらっと見ると、白い顔をして固まってるのが見えた。

 もし、高所恐怖症だったら悪いことをしたなあ、とソラは今更ながらに思い当たったのだった。

 ソラたちは十秒としないうちに、煙がもくもくと上がっている地点へと辿りついた。

 上空から観察してみると、どうやら一軒の民家が派手に燃えているようだった。遠巻きに近所の住民らしきひとたちが、バケツなどに急いで水を溜めているのが見えた。

 ラルフものろのろとそれを見ると、急に目を見開いて言った。


「あ、あれは、クレッグ隊長の家ですよ!!」


(やはり、証拠隠滅か!)


 ソラはそうはさせじと、急いで魔導を構築する。


「<氷霧アイス・フォッグ>!」


 ソラは、<水>属性の中級魔導を燃えている家の周囲に発動した。

 すると、白いもやが軽く渦を巻きながら家を取り囲み、ものの数秒で火事が沈静化したのだった。

 消火活動を行おうとしていた住民たちが、『おおっ!』となにやら感動しているのを聞きながら、ソラは魔導を制御して、ゆっくりと降下していった。

 ソラが地面に降り立って、目の前の家を見てみる。全体に霜が下りて、あちこち煤けていたが、家屋そのものは健在のようであった。

 もっとも、ソラが魔導で素早く駆けつけなかったら、焼け落ちていたかもしれない。

 ソラはラルフを伴って家の中へと踏み込む。人がいないことは分かっているが、何か手がかりでも残っているかもしれないからだ。

 家の中は家具などが炭化していて酷い有様だった。部屋の中央で何かが爆発したような痕跡があった。おそらく爆薬が使われたのだろうと、ソラは推察した。

 ソラが家の中を慎重に観察していると、木の板でできた床下の一部が焼け落ちているのを見つけた。


「これは……地下室みたいですね」


 ラルフが熱で変形した板を剥がしてみると、地下に降りる階段があらわれたのだった。

 ふたりは数段ほどの短い階段を下りて、地下室に入る。

 そこでも爆薬が使われたらしく、置いてあった机や棚などが滅茶苦茶になっていて、大半が炭と化していたが、一部はまだ燃え残っていた。 

 ソラは土の床に落ちていた緑色の石のようなものを拾って呟いた。


「やっぱり、あった……」


「何なんですか、それ?」


 ラルフが不思議そうにソラの手の中の石を覗き込んだ。


「これは、ニトロ石といって、過激テロ組織『アビス』が使う爆薬の原料のひとつになっているものです」


「えっ……!」


 ラルフが驚愕した。

 このニトロ石というのは、原産地が極めて限られている鉱物であり、一般に出回ることは滅多にない。使い道もせいぜい畑の肥料に使える程度で、しかもマイナーなので、購入する人間はそういないのだ。

 ソラたちがフォーチュン商会を尋ねたのはこれが理由だったのだ。豊富な商品と個人向けのオーダーを売りにしているこの店からニトロ石を入手しているのではないかと。

 この石が過激テロ組織に悪用されていることなど、ほとんどの人間が知らないことなので、フォーチュン商会を責めることもできないが。

 エイビス氏から顧客名簿を見せてもらうと、この町でニトロ石を購入しているのはだたひとり――クレッグ隊長のみだった。

 ソラは爆薬を自宅で調合しているのではないかと推測していた。町の外に作業場を作るのはリスクが高いし、あの場当たり的なジャックに任せているとも思えなかった。なので、クレッグの家が怪しいとふんでいたのだ。

 ソラが部屋を見回すと、ほかの材料もあちこちに散らばっているのを見つけたのだった。


「決定的な証拠ですね、これは」


 ラルフが悄然とした様子で言った。


「……自分は今でも信じられませんよ。皆から慕われているクレッグ隊長が、テロ組織の構成員だったなんて……」 


 無理もないと、ソラは思った。あのうだつのあがらない、優しそうなおじさんであるクレッグが、悪事を働くなど想像もつかない話である。


「とにかく、彼を確保しましょう。私たちにできることをしなければ」


「……そうですね。なんにしろ、隊長には罪を償ってもらわなければなりません」 


 ラルフは強い光を宿した瞳をしていた。かなりのショックだったろうが、己の職務を果たそうとしているらしかった。

 それを見たソラはかすかに笑った。やはり、ラルフは根はとても強い人間だと思ったからだ。師匠のクオンが子供の頃のラルフに言ったことは間違っていなかったのだ。


(……しかし)


 と、ソラは気になることがあった。

 クレッグが顔を晒すことをいとわずジャックを殺したことといい、なりふり構わず自分の家を燃やしたことといい、己が犯人だということを隠そうともしていない。


(やはり、このまま町の外に逃げるつもりか……?)


 疑問は残るが、今考えていても詮無いことだ。


「では、行きましょうか」


 ソラの呼びかけにラルフが頷き、ふたりは凍った家から外へと出た。

 すると。


「お、お姉ちゃ~ん!!」


 珍しく慌てた様子のマリナがふたりの方へと走ってきたのだった。


「マリナ?」


 ソラが目をぱちくりとさせて、マリナを出迎えた。


「……どうしよう! マ、マルクがさらわれちゃった!!」


「「ええっ!?」」


 ソラとラルフの驚きの声が唱和した。


「どういうことなの? ――マリナ……落ち着きなさい!!」


 ソラはやや動揺しているマリナの肩を両手で掴み、瞳をじっと見つめて叱咤する。

 すると、マリナは少し落ち着いたようだった。


「あのね、私は西門付近を張ってたんだけど、突然、馬に乗ったクレッグ隊長とマルクが西門に突っ込んできて、そのまま警備隊の人たちを振り切って町の外に出て行っちゃったの!」


「それで?」


「私は慌てて馬を追いかけたんだけど、途中でクレッグ隊長がマルクに剣を突きつけて、『追ってきたらマルクを殺す』って脅してきたから断念したの」


 マリナが唇を噛みしめながら説明した。


「ほかには? 何か言ってなかった?」


「う、うん。私とお姉ちゃんが西の洞窟の奥にある大きな扉まで来るなら、マルクを解放してもいいって」


「……そう」


 クレッグはただ逃げたわけでも諦めたわけでもない。最後の奥の手を出すつもりなのかもしれない。

 とてつもなく嫌な予感しかしないが、マルクが捕まっている以上応じないわけにはいかない。

 ソラはすぐさま魔導の準備をして、左手を上へ向けた。

 ソラの手から放たれた魔導の白い小さな光が、夜空を昇り花火のように打ちあがった。

 それから一分もしないうちに、アイラがソラたちのもとへと駆けつけてきた。先ほどの光は集合の合図なのだった。

 ソラはアイラに手短に説明をして、すぐにクレッグたちを追うことになった。


「ぼ、僕も行きます! クレッグ隊長に問いただしたいことがあるんです!」


 ラルフも同行することになった。 

 ソラはそれぞれアイラとラルフと手をつなぎ、マリナが肩に掴まる形で、<飛翔>の魔導を発動させた。

 三人を引っ張りながら、高速でホスリングの夜空を飛翔する白い髪の少女。

 と、西門の上空を通りかかったときに、ソラは多くの警備隊員に混じって見知った顔をいくつか見つけた。


「クロエお祖母さま! マーカスさん! オーレリアさん!」


 ソラは三人に声をかけながら降下した。

 三人はソラたちが降りてくるのを見て、駆け寄ってきた。


「……ああ! ソラさん! マルクは……あの子は、無事なんでしょうか!?」


 マルクの母親であるオーレリアは気が動転しているようだ。


「大丈夫です。犯人も迂闊なことはしないはずです。私たちをおびき出すのが目的のようですから」


 ソラに続いて、マリナも元気づけるように言った。


「そうだよ、オーレリアさん! 私たちが必ずマルクを取り返してくるから! 待ってて!!」


 オーレリアは涙の溜まった目元を拭いながら頷いた。

 レスラーも真っ青な体格を誇るマルクの父親マーカスも、オーレリアの肩を抱きながらソラたちに声をかけた。


「すまねえな。おまえたちに危険な役目をやらせちまって。俺だと足手まといにしかならねえ。……気をつけて行くんだぞ」


「責任の一端は私たちにもあるんです。任せてください」


 ソラの力強い言葉に、マーカスは、にっと笑みを浮かべて、「頼んだぞ!」と言ってくれた。


 最後にクロエが年長者らしく落ち着いた態度で、ソラたちに話しかけた。


「――話はだいたい聞かせてもらったよ。……にしても、あのクレッグがテロ組織のメンバ-だったとはねえ。私はあいつが若い頃から知ってるんだよ。人が良すぎるくらいのやつなのに。……もしかして、あの件でかい?」


 クロエの最後の台詞は呟きとなって、周りの人間には聞こえなかった。ソラが「お祖母さま?」と問いかけるが、クロエはなんでもないという風に手を振った。


「それよりも、マルクのやつを頼んだよ。あんな生意気な小僧でも、私の大事な孫に変わりはないからね。もちろん、あんたたちもだ。できるだけ無茶なことはするんじゃないよ。――そして、ラルフ。あんたも乗りかかった船だ。この事件を最後までしっかりと見届けるんだよ」


 クロエの言葉に、ソラたちは真剣な顔をして頷く。

 それからソラたちは、三人の見送りを受けながら、再び夜空へと舞い上がったのだった。

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