第5話
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
サンマリノからオルビアへと続く海岸沿いの街道にはパトリックの悲鳴が長々と尾を引くようにこだましており、歩いていた他の人間達も高速で飛行する金髪少女におじさんが悲鳴を上げながら掴まっているというシュールな光景を唖然と見送っていたのだった。
(可哀想に……)
やや後方を飛んでいたソラも恐怖に顔を歪めているパトリックに心の中で合掌する。
「だ、大丈夫でしょうか。パトリックは」
ソラの肩に掴まっているアンジェリーヌも絶叫している己の副官をやや茫然と眺めていたが、こればかりはとにかくお気の毒様と言うしかない。
市庁舎で小さな港町のオルビアの近海で海賊船が目撃されたという報告を受け取ったソラ達は速度重視で現地に向かうこととなり、最速の手段である飛行魔導を使用することになったのだが、ソラひとりで他の四人を運ぶというのはさすがに効率が悪いのでマリナと分担することになったのだ。
そして話し合いの結果、ソラがアイラとアンジェリーヌを、マリナがパトリックを連れて飛行することに決定したわけだが、それが彼にとって大いなる不幸の始まりだったのである。
「村人達の危機なんだから、ギュンギュン飛ばすよーーー!」
「ひいいいいいいいいいいいいっ!?」
マリナは地面スレスレのところを飛行したかと思えば一気に上昇したり、また次の瞬間には降下したりとわざとやっているのかと思うほど不安定で、今も街道沿いにあった木をかすめていてなんとも危なっかしい。
これはかなり豪胆な人物でも怖いに違いなく、いい年をしたオッサンであるパトリックももはや半泣き状態に陥っていた。
(……やっぱり、あの時分け方を間違えたかな。でも、ある意味自業自得だし)
ソラは恐怖を通り越して卒倒しそうになっている初老の副官を見ながら思う。
当初は制御に不安があるマリナにはアイラと組ませるつもりだったのだが、パトリック本人が男性と女性二人に分けた方が体重からして合理的だと主張したので、急いでいたこともあり特に反論もなく決まったのだ。
つまり、マリナの飛行がいかに危険なのかを知らなかった本人に責任はないとはいえ、結果的に彼は墓穴を掘った形になったのである。
(でも、これでも遅いくらいだよ)
二人を牽引しながらも驚異的なスピードで飛ばしていたソラは焦る。
報告の早馬が村を出発した後すぐに海賊が村に向かったのだとしたら既に襲撃を受けていてもおかしくない。最近は物騒なので普段よりも警備兵を増員しているらしいがとにかく一刻も早く加勢しなければならない。
ソラが表情を引き締めていると、同じことを考えていたのかマリナも更に速度を上げていた。
「ほらほら! もっと飛ばすよー!」
「…………(ブクブク……)」
金髪を激しくなびかせどこか楽しそうに飛行するマリナと口から泡を吹き出しながらかろうじて掴まっているだけのパトリック。気が遠くなりかけているのか足が力なくブラブラと宙を泳いでいる。
そんな彼らを眺めていたソラは、失神したパトリックがいつ落っこちてきてもいいように頭の片隅で魔導の術式を思い浮かべるのであった。
「――見えてきました! あれがオルビア村です!」
海沿いにある小さな集落が遠目に見えてくるとソラの左肩に掴まっていたアンジェリーヌが叫んだ。
村のそばには他の漁船を押しのけるように接岸しているドクロ入りの旗をつけた一隻の大きな帆船が確認でき、外見からしてあれが海賊船で間違いないようだが、危惧していたとおり既に上陸を開始しているようである。
「着地します! しっかり掴まっていてください!」
ソラは掴まっている二人に負担をかけないよう絶妙の加減でスピードを殺すと危なげなく地面に着陸した。
「ほいっと! 到着したよ!」
「……………………」
隣ではマリナも靴の下で地面をこするように着地していたが、もはや言葉を発する気力すらないパトリックはグッタリと膝を折るのみで、きっちりと整えられていた白髪交じりの髪もボサボサになっていてこの短時間で一気に老けていた。
「お嬢様! あれを!」
早くも双剣を手にしたアイラが指差す先には、粗野な格好をした男達が剣を片手に逃げ惑う村人を襲っている姿が建ち並ぶ家屋の間から見えており、ここまで悲鳴や剣戟の音が聞こえてきていた。
「なんてこと! パトリック、いつまで呆けているのですか! 急いでオルビア村の人達を助けますよ!」
眉根を上げたアンジェリーヌに活を入れられると、全てを失った老人のようにやつれていたパトリックは「はうあっ!」と一度身体をビクンと震わせてから慌てて立ち上がった。どうも意識がどこかに飛んでいたらしく到着していたことに今気づいたようだ。
「し、死ぬかと思いました……。ですが、先行して来てみたもののたった五人で何ができるのか! 姫様がお怪我でもされたら……!」
「今はひとりでも多く助けることを考えなさい! もう少しすれば後続の兵たちが救援に来ます!」
腰からレイピアを抜き放ちながら走り出すアンジェリーヌ。
今頃彼女の指示を受けたサンマリノの兵達がそれぞれ陸と海から全速力で駆けつけているはずだが、それまではソラ達と現地の警備兵とが協力してできるだけ被害を抑えなければならない。
先んじて駆け出したアンジェリーヌをマリナとアイラが猛スピードで追い越し、そのすぐ後をソラが魔導の準備をしながら続き、最後にパトリックが必死についてくる。
五人が急いで村の中に飛び込むと警備兵達が住民をかばいつつ海賊と激しい戦闘を繰り広げているのが見えた。
彼らも奮戦しているようだが、村人を守りながら数で勝る相手に応戦するのは困難なようで明らかに押されている。
「行くよ!」
警備兵の苦境を見て取ったマリナが市庁舎でアンジェリーヌから借りた長剣を携えながら飛び出す。
「うおっ!?」
横から突然飛び出てきた金髪少女に警備兵と斬り結んでいた海賊が驚いて迎撃しようとするが、マリナはその攻撃を苦もなく弾き飛ばすと剣腹を胴に叩きつけた。
重い一撃をもろに喰らった海賊は悲鳴すら上げられずに吹き飛ぶとそのまま家屋の壁にぶつかって動かなくなる。
「このガキ!」
仲間がやられたのを目の当たりにした二人の海賊がマリナの背後から攻撃を仕掛けるが、そこにアイラが迷いなく突っ込んでいき背中をフォローするように陣取ると、左右からの同時攻撃を回転しながら双剣でいなし、敵の動きが一瞬止まった隙をついて鋭い剣閃とともに斬り付けた。
「おぐっ!?」
峰打ちだったとはいえ腹部を薙ぎ払われた二人の海賊は苦悶の表情を浮かべながら地面にのた打ち回る。
「<電撃の矢>!」
新手の出現にいきり立った他の海賊達がこちらに殺到するのを見てソラも用意していた魔導を解き放つ。
勢いよく突進してきた海賊たちは迫りくる光の筋を見て慌てて回避行動を取ろうとしたが、電撃の矢は誘導されたように軌道を変化させて敵に命中した。
電撃にその身を貫かれた海賊達は身体を痙攣させながらそのまま地面に倒れ込んだが殺傷力はほとんどなく麻痺しているだけである。
「す、凄い。あっという間に。あなた方は一体……」
わずか十秒にも満たない一連の攻防で付近の海賊達が全員行動不能になる様を間近で見ていた警備兵達はしばらく驚きに動きを止めていたが、遠くからアンジェリーヌが走ってくる姿を捉えると表情を明るくして彼女の周囲に集まった。
「アンジェリーヌ様! 駆けつけてくださったのですね!」
「しかし、この方たちは? 他の兵の姿も見えないようですが……」
「詳しい話は後です! 状況を簡潔に報告しなさい!」
主君に一喝された警備兵は慌てて背筋を伸ばしながら状況を報告をする。
彼らの話では子供や女性の避難はおおよそ完了しているものの一部の住人が逃げ遅れており、彼らも必死に迎撃しているがやはり数の差はいかんともしがたく警備隊の隊列は完全に崩されて個別に戦闘を繰り広げているようだ。
「海賊どもの主力は海岸に近い民家から順番に略奪を行っているようですが、何人かが逃げる村人を追って村の奥にまで入り込んできており、我々もそれを防ぐのに手一杯で……」
「分かりました。あなた達はそのまま村人の避難を優先してください。海賊との戦闘は私達が引き受けます」
アンジェリーヌが命じると警備兵達は疑問を挟むこともなく一斉に敬礼して散っていった。
王女に危険な役回りを押し付けるのは彼らとしても本意ではないだろうがやはり信頼しているのだろう。
「さあ、行きましょう。このまま彼らの好き勝手にさせるわけにはいきません」
「ひ、姫様! 敵の主力と戦うなど無茶です! それに、海賊船から砲撃されれば我々はひとたまりもありません!」
「それはやり方次第でしょう。私も全面戦争をするつもりはありません。要は彼らを追い払えればよいのです」
そう言って意味ありげな目線を送るアンジェリーヌにソラも頷く。
こういう時こそ魔導士の腕の見せどころだ。
それからソラ達が時折出くわす敵を無力化しながら海岸を目指すと、船体が黒い海賊船とそこに強奪した品を働きアリのようにせっせと運び込んでいる海賊達の姿が見えてきた。金品だけでなく衣類や家具などまさに手当たり次第のようだ。
そして、海賊船のひと際目立つ場所には、仁王立ちしながら大喜びしているモサモサしたヒゲをたくわえたひとりの巨漢。
「がははは! ちんけな村の割にはまずまずじゃねえか! 最近はクイーン何ちゃらとかいう船に散々邪魔されて鬱憤が溜まってたんだ! お前ら! 奪える時にどしどし奪ってこい!」
巨漢の命令に海賊達が『ういーす!』と元気よく応える。
おそらくあの男が海賊の頭なのだろうが誰もがそうと一目で分かるようなベタな格好をしており、なんせドクロ入りの三角帽子に革製の眼帯、そして極めつけは片手に装着している鉤爪である。もしかして形から入るタイプなのだろうか。
「あの男が海賊どもの頭目か! 私も実際に確認したのは初めてです!」
「なんかバカそう……」
大笑いしている頭を目の当たりにしてむうっと唸るパトリックと身も蓋もないマリナ。
すると、その会話を超自然的な勘で捉えでもしたのか、おもむろに頭はこちらにキッと視線を向けた。
「んんっ!? 何だお前らは! 援軍か!? 懲りねえ奴らだな! 抵抗しなきゃ痛い目に遭わなくて済むのによお!」
現れたのが女子供ばかりの五人組だったので全く脅威にも感じていないのだろう。やたらと余裕ぶった海賊の頭は馬鹿笑いしながら号令をかける。
「おい、野郎ども! そいつらを海に叩き落してしょっぱい思いをさせてやれ!」
『あいさー!!』
頭の命を受けた海賊達が強奪品の搬送を一旦止めてソラ達に襲いかかってくる。
「ひ、姫様っ! ここは私が盾となって奴らを足止めいたしますのでお逃げください!」
何十という男達が一斉に武器を振りかざしながら突撃してくるのを見て、脂汗をかいたパトリックが片手剣を構えながら勇敢に前へと出るが、そんな彼には目もくれずアンジェリーヌは落ち着き払ったまま再びソラに視線を向けてきた。
ソラは彼女の期待に応えるべく、あらかじめ構築しておいた魔導紋に魔力を込めて完成させる。
そして、地響きすら立てて迫ってくる海賊達の頭上に人差し指を向けながら魔導を発動させると、次の瞬間、一時視界がホワイトアウトするほどの閃光とともに大爆発が起こったのだった。
「うおおおおおおおおお!? な、何事だあああ!?」
上空で突如起こった爆発に海賊の頭が絶叫し、走ってきていた海賊達も悲鳴を上げながら頭を手で押さえてその場にうずくまった。
ソラが使用したのは<火>属性の上級魔導<爆発>で本来なら巨人すら爆砕するほどの威力があるが、今のは見た目こそ派手であるものの独自のアレンジが施してありほとんど光と音だけの攻撃なのである。
だが、間近で炸裂した海賊達からすればたもったものではなく、三半規管に支障をきたしているだろう彼らはまともに行動できなくなっており、その様子を確認したマリナとアイラが飛び出して次々と無力化していく。
「好機です! 私達も続きますよ、パトリック!」
「は、ははっ!」
アンジェリーヌとパトリックも派手な攻撃に驚いていたが、すぐに我に返るとマリナ達とともに動きの鈍い海賊を手際良く制圧していった。これまでの戦闘から分かっていたが二人ともなかなかの腕であり、特に王女は幼少時から剣術の英才教育でも受けていたのか実に洗練されていた。
「……ぐっ! ちっくしょう! 不意打ちみたいな汚い真似しやがって! これだから魔導士ってのは……!」
同じく船上で身体をフラつかせていた海賊の頭は己の部下がのされていくのを見て怒りに打ち震える。
そういう自分達こそいくつもの村や船を突然襲撃しておいていけしゃあしゃあと言うものだが、そんな常識が通用する人間なら元々海賊なんぞやっていないだろう。
ソラが呆れながら見上げていると、海賊の頭は耳を痛そうに押さえていた砲手達に怒鳴った。
「おい! 動ける奴だけでいい! 一発ずつぶち込んでやれ!」
「し、しかし、お頭! 味方に当たっちまうかもですぜ!」
「直接当てる必要はねえ! 威嚇だ、威嚇! このままやられっぱなしでいられるか! 俺らの怖さを思い知らせてやるんだよ!」
鉤爪を振り回しながら眉間に青筋を浮かべて海賊の頭がわめくと砲手達は慌てて準備に入った。
どうやらソラ達の周囲に着弾させて脅かすだけのようだが、果たして彼らに正確な砲撃ができるのか不安であるし、ただでさえ大砲の命中率はそんなに高くないのだ。
それに、近くの民家に被害が及ぶ可能性は非常に高く、こちらを攻撃する意思がなくともこのまま撃たせるのはリスキーだ。
ソラは身体の奥で魔力を練りながら海賊船の側面に並んで設置されている大砲を眺める。
全部で五門ほど取り付けられているが、先程の<爆発>によりまともに作業できる砲手は両端にいる二人だけのようでやや距離が開いていた。
(広範囲の魔導で同時に倒すか、それとも船体に魔導をぶつけて砲撃を阻止してから確固撃破するか)
刹那の間にソラが思考を巡らせていると、
「お姉ちゃん! 私が左をやるからお姉ちゃんは右を止めて!」
いつの間にか近くに来ていたマリナが魔導の準備をしながら呼びかけてきたのだ。
ソラは一瞬逡巡したものの妹の案でいくことに決めた。
片方はアイラの双剣を投擲してもらおうかとも考えていたが、彼女はアンジェリーヌやパトリックとともに一部の復活した海賊達と斬り結んでいて手が離せないようだ。
「マリナ!」
「オッケーだよ、お姉ちゃん!」
ソラとマリナは魔導を素早く完成させると、今まさに点火されんとする大砲に向けてタイミングを合わせながら発動した。
「<氷の槍>!」
「<風衝弾>!」
姉妹がシンクロするように力強い言葉を叫ぶと、それぞれの手の平から発射された蒼い氷槍と緑色の風弾が目標に向かって一直線に飛んでいった。
「うわ! 冷てえっ!?」
「ひいいいいいいいいっ!?」
ソラの魔導が大砲の穴に飛び込んで破壊しながら氷付けにすると、マリナの攻撃が大砲を粉砕しつつ砲手を強烈な風で吹き飛ばした。
「な、何だと!?」
砲撃があっさりと阻止された事に海賊の頭はショックを受けていたが、ソラはソラで驚愕とともに妹の顔を覗き込んでいた。
「マ、マリナ。どうしたの? いつもだったら魔力を込めすぎて無駄に破壊を撒き散らすのに……」
てっきり過剰な威力で船上を滅茶苦茶にしながら甲板にいる敵全てを吹き飛ばすものかと思いきやマリナは正確に標的だけを排除したのである。相手が海賊なのでそれならそれでもいいやと考えていたのだが。
「あのねえ、お姉ちゃん。私だって剣術だけじゃなく魔導の練習もちゃんとしてるんだよ」
不服そうに唇を尖らせるマリナだったが、そんな妹をソラは感心しながら見つめた。
本来なら個人の魔力が有限である以上できるだけ魔力消費を抑えようとするのは当然で、魔導学校でも必要な分だけを見極めて使用するよう繰り返し教えられており、膨大な魔力容量を誇るソラも戦術や効率性を重視しているため普段からその原則を守っている。
しかし、ソラにも引けを取らない魔力を持つマリナは消費量に気を配るという概念に希薄なところがあり、また、細かな操作を可能とする<内気>とは違って魔導を使用する際の魔力放出量の調整をやや苦手としているのでつい必要以上の魔力を込めてしまう傾向があるのだ。
例えるならコップに水を注ぐ際に蛇口を捻り過ぎて溢れさせてしまっているようなもので、そのせいで術の正確さがイマイチだったり、果てには制御できなくなって暴走する場合があるのだが、先ほどの魔導は威力、精度ともに完璧であった。
(……旅の間もしっかりと練習を積んでたんだね)
ソラはエーデルベルグ家の魔導士として生まれながらも祖父母の影響からか剣術や<内気>の修行を好んでいたマリナが来年無事に卒業して旅に同行できるよう頑張っていたのだと悟り、ふくれっ面の妹に歩み寄るとその金髪をくしゃくしゃと撫でた。
マリナはしばらくそっぽを向いたまま頭を撫でられていたが、やがて機嫌を直すと気持ちよさそうに目を細めて笑った。
その屈託のない笑顔にソラも思わず笑みを浮かべ、戦闘中にも関わらず和やかな空気が流れていると、
「――くらあああああああああ!! 俺を無視するんじゃねえええ!!」
と、完全に放っておかれた海賊の頭が叫んで自ら無事な大砲へと駆け寄ったのだった。
「あのガキども、なめくさりやがって。こうなったら俺が――ひっ!?」
大砲に弾を詰めて発射の用意をしていた海賊の頭だったが、ソラとマリナが揃って睨みつけると顔を引きつらせる。
「マリナ。残りの大砲も潰すよ」
「ラジャ!」
ソラ達は再び魔導の準備に入る。
最大の武器である大砲を全て失えば海賊達の戦意も低下するだろうし、地上の戦闘においても姉妹には決して近寄らせまいと獅子奮迅の活躍を見せるアイラに圧倒されている。もはや勝負は決しつつあるのだ。
「こ、これがエーデルベルグ家の魔導士とその護衛の力……」
「ええ。とりあえず撃退できればと考えていましたが期待以上でしたね。この場で決着がつきそうです」
当初は無茶だと騒いでいたパトリックが間の抜けた表情で剣を下ろし、アンジェリーヌも微笑みながら残りの海賊の制圧に向かおうとした時だった。
唐突に海賊船のすぐそばで大量の水しぶきが上がったかと思うと、海面を割って出てきた長大な鞭のような物が高速で伸びてきてアンジェリーヌを襲ったのである。
「――っ!?」
「姫様!!」
突然の出来事にアンジェリーヌは反応できずに立ち尽くし、スローモーションのように進む光景をソラ達もただ見送るしかなかったのであった。




