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血まみれの十字架  作者: カズユキ
6/11

 菅野悟は興梠探偵事務所の調査員から電話がかかって来たことに驚いた。その佐光和弥という男は一度会って話を聞きたい、と告げたのだ。特に断る理由もなかったので、菅野は九月一日の月曜日、渋谷区本町にあるアリエッタというイタリア・レストランで会うことにした。そこは仕事が終わった後、同僚とたまに行く店の一つだった。

 菅野がアリエッタに入ると、青い半袖のTシャツに黒いズボンをはいたハンサムな男を目にすることになる。電話で佐光和弥と名乗った人物は自分の外見や服装について簡単に説明していた。

「あなたが佐光さんですね」

 和弥のついているテーブルのそばまで来ると、菅野は声をかける。

「ああ」

 和弥は朗らかにそう答えた。

 店内はほぼ満席だった。菅野がここに来た時はたいてい半分ぐらいしか席が埋まっていない。今日は店にとっていい一日のようだ。

 店内は明るい感じの中にシックなものを感じさせるところがあった。それでも華美を避けて装飾してあるのが簡単にわかる。

「何を聞きたいんです?」

 和弥の正面に腰をおろしたあと菅野が尋ねる。

「君がまだ話していないことについて興味があるんだ」

 相手は意表をつかれた様子になった。目を見開いたまま動こうとしない。そこへ二十代後半のウェイターがやって来て注文を聞いた。菅野は海の幸と温野菜のペペロンチーノとサラダを頼んだ。

「俺が話していないこと?」

 ウェイターが去ったあと菅野は言う。

「君はインサイダー取引の話をしただろ」

「ええ」

「でも君は印刷会社で働いてる身だ。そんな君がどうしてそういう情報をつかめたんだ? 谷口にはそれは言えない、と言ったそうだが……」

 菅野は下を向いて、真剣な表情を見せる。どうにか踏ん切りをつけようとしている感じだ。

「あなたにこれを話していいかどうか……」

 長い茶髪のウェイトレスが和弥が頼んだものを運んで来た。サーモンとほうれん草のクリームソースにミルフィーユ。和弥はあまりイタリア料理を食べるほうではなかった。それでも昔、サーモンのクリームソースを食べて、美味しいと思ったことがあり、今日メニューにそれらしきものがあったから注文したのだ。

 菅野はウェイトレスがギンガムチェックのテーブルクロスを敷いたテーブルに皿を置いているあいだ黙り込んでいた。

 菅野はウェイトレスが去ってからも、どうしたものかと迷っているようだ。

「話してくれないか」和弥がやんわりと促す。「そうしてくれないと、栗島という政治家についてちゃんとした調査ができないかもしれない」

 それは真剣な眼差しから発せられた言葉だった。菅野はそれを真摯な視線と受け止める。だから決心した。

「実はあの教会で殺された人の中に俺の娘がいたんです」

 和弥は一瞬瞠目する。

「君は結婚してるのか?」

「いえ、今は……。三年前に離婚したんです。その際、娘は妻が育てることになりました。そして妻は一年前に再婚した」

「そう言えば、三人の親子があの教会で……」

「ええ」

 菅野はそれしか言えない。娘の死を口にするのが辛いのだ。

「……それで君は犯人が誰なのか自分で見つけようとした」

「警察が頼りないからですよ」辛辣な口調になる。「もう一ヵ月が経とうとしているのに、未だに容疑者すら浮かんでいないんです」

「君は犯人が栗島幹事長だと思ってるのか?」

「いえ、そうではありません」即座に否定する。「ですがあの男が誰かにやらせたのはわかっています」

 和弥は驚くと同時に、目を鋭くする。

「どうしてわかったんだ?」

 そこへ先ほどのウェイトレスが菅野が注文したものを運んで来た。会話が一時中断される。

「偶然見たんです」菅野は張りつめた表情になる。いくぶん緊張しているようだ。「喫茶店で栗島明の娘が、むかし僕が妻に買ってやったネックレスをつけているのを……」

「君の元奥さんは今でも君が買ったネックレスをつけていたのか」

 和弥はそれが信じられなかった。

「紀子はあのネックレスを大変気に入っていたんです。フランス旅行に行った時に、誕生日のプレゼントとして買ったんです。細い金のチェーンに彼女のイニシャルを打ち抜いたペンダントがついてるやつなんです。日本円で百五十万以上した物なんですよ」

「よくそんな物を買えたね」

 和弥は驚いた。

「競馬で当てたんです。それでまあ……」

「教会で殺された時もそれをつけていたのか?」

「ええ」

「どうして君にそれが断言できるんだ?」

「あの日は日曜でした。その前日に俺は娘と会ってるんです。そのとき紀子にも会いました。紀子はちゃんとネックレスをつけていました」

「栗島明の娘がつけていたネックレスのイニシャルをどうやって確認したんだ?」


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