52話
足が床に張り付いて凍りつく前に私の端は洗面所に向かって走り出していた。
大丈夫かという声が何度も洗面所のドアの向こうから聞こえてくる。
そのドアを乱暴に開けて開くと、里奈は鈴に抱かれたままずっと嘔吐していた。
私の足はずっとカタカタと震えてどうしていいかもわからずに真っ白になった頭だけとその映像を積み目続ける私の瞳だけがリアルとして残っているようだった。
割れたガラスみたいな瞳が私を刺すように振り向いた。
「愛名、おい愛名、コップと水もってい」
そう言われて怯えたように震え続ける足を振り切るように走ってキッチンから水を入れたコップをまたガタガタと足を震わせながら私は運んでいった。
少し嘔吐がおさまった里奈は洗面所の床にペッタリと張り付くように座り込んでいた。
ぎこちない動きで私はそっとタオルをかけられた里奈に水を差し出した。
ゼイゼイと呼吸が聞こえ背中が丸まりやけに苦しそうな里奈は少しこっちを見上げて
ありがとうといった。
その言葉が私には酷く痛かった。弱弱しい。
私とカラオケに行って遊んで、メールでふざけた話を繰り広げたり絵文字を交換して遊んでけんかしてまた遊んでた里奈はどこに行ったんだろう。
酷く胸が焼き焦げるように痛んだ。