47話
「鈴、だって薬が効かなくなったら、駄目になっちゃうんじゃないの。」
そういうと鈴は私を見ないで反対側を向いたまま
「別の薬があるから大丈夫だけど、あいつのHIVは型は変わってて、薬が効きにくいからもしかしたら、駄目かもって医者に言われた。
それだけじゃなくて、HIVの型が2つあって。薬も選ばなきゃいけないって言われた。」
ねぇ、嘘だと誰か言ってくれたらいいのに。
ニュースで早く、治す薬が、薬が出来ましたって早く流れたらいいのに。
私の声はもう言葉に出来ずに、目からボロボロと涙が出て、傷もないのに胸が酷く痛んだ。
「でも次の薬も次の薬もまだあるから、きっと大丈夫だから、薬も今は強くなって死ぬ奴ってスゲー少ないんだってでも、もしもってあんじゃん、覚悟はしとけってお前に言いたかっただけ。」
そう鈴は言ってずっとそっぽを向いたまま動かなかった。
鈴はきっと泣いている。ただ明るい中で見せないように向こうを向いているだけ。
「ねえ、里奈は知ってる?」
「知ってるよ、一緒に聞いたから。お前に話そうって一緒に決めたから。」
ただ涙が出て、アイメイクとマスカラが混じって目から汚い私みたいな黒い涙が落ちた。
鈴の声も涙声で、グズグズと聞こえた。
「なぁ、癌とか、普通の病気は家族に言うのに、HIVは本人に言われてさ。
本人だけが戦ってる孤独な病気じゃね。
前検査にいったらさ。なんかそんな行為したからでしょとか
あいつに言った医者がいたんだって。里奈が後で泣きながら教えてくれて
クズばっかだな、何にも知らないくせに、最悪だよな。」
そう鈴は言ってソファーには小さな小さな水溜りが少し見えた、私は鈴を無駄に抱きしめて髪の毛をぐちゃぐちゃにした。
2人で泣いた。
私たちは、ずっと家族だから。一緒にいたいと思った。
ここに里奈も居たらいいのに。
ここが全ての世界だったら、誰にも何も言われなくて、誰かに馬鹿にされたりしなくていいのに。