42話
里奈の家からの帰りに鈴は何も言わなかった。
公園をまた通って、何事もなかったように時間も私たちも過ぎて辛かった。
私も喋るとつらい事ばかりがこぼれて泣きそうになった。
神様は居ないし、不幸だと思ってもこの世は誰も助けてくれない。
だから私たちは誰にも言わないように口をつぐんでいるんだと思う。
里奈はどうなるんだろう、鈴はどのくらいお金を貸したんだろう、薬って高いの?
ねえ、なんで誰も治る薬を作れないの?
堂々巡りをしても私の感情は落ち着かなくて荒波に打ち付けられて身が裂けていく気がした。
この世界なんてなかったらいいのに。つらい事なんてなかったらいいのに。
里奈も私も鈴も周りも、全部夢だったらいいのに。
現実なんかなかったらいいのに。
全てから逃げれたらいいのに、でも逃げたら私はもっと後悔する。
もっと大事なものも大事な時間も大事だった思いでも全部なくす事なんて出来ない。
暗い並木道を少し歩いて、私は鈴に聞いたばかげた事だと思うけど私の心は狭くて
鈴を傷つける言葉しか出て来なかった。
「ねぇ、里奈の薬は高いの?里奈は死んじゃうの?」
鈴はじっとアスファルトの地面を見つめて歩く速度を緩めた。
「何でそんな事聞かな?」
ただ箇条書きの文字を淡々と読んだような鈴の声を聞いた。
私は並木道に植えられた背の低い光沢のある葉を茂らした木から葉を数枚抜いた。
「聞きたいから。」
それだけ私は話して少し鈴より早くあるいた、鈴を通り過ぎるとき彼の手が強く握られているのを見た。
これが、現実でなかったら、リアルじゃなかったら。
いいのに。