#01「僕の日常」-6
◆◇◆
――午後二時五十分。
「待ち合わせの十分前に到着か……亮輔らしいよ。ね、懐かしいでしょ、この場所……」
円香は優しい表情のまま周囲を見渡した。両手を広げて、風景を自分の目に収めていた。
眼下に見えるのは美里ヶ丘東中学校だ。
亮輔と明日花、そして円香の通った中学校。高校のある美里ヶ丘から亮輔と明日花の自宅を越え、少し下った位置にある。
その中学校を見下ろす場所の小さな児童公園。
「この場所で、オマエと初めて出会ったんだ……」
シーソーの中央部分に腰掛ける円香。その右肩に優しく手を乗せる亮輔だった。極めて親密な二人の関係がうかがえる。
「中学の入学式の前日だったかな。高校生とケンカしていた亮輔に、あたしが助太刀をしたのが、二人の出会いよね」
円香はゆっくりと立ち上がり、左手で亮輔の右手を自然に握る。手を繋いだ二人は、自分たちの通った校舎を懐かしく見ていた。
「あの時は、小学生の彩里たちが砂場で遊んでいたのに、スケボーをしていた高校生が無理矢理と乱入してきたんだ」
「亮輔は、いつでも彩里ちゃんの正義の味方なんだね……羨ましいよ」
円香はそう言って、手を強く握ったまま亮輔に向き直り、顔を突き出して目を瞑った。
「キスして……」
亮輔は円香の行動に当惑する。
「告白をする……って手紙に書いてあったけど、この事なのか?」
聞かれて彼女は目を開ける。
「そうね。ソッチが先よね、手順をキチンと踏まないと……あたしの悪い癖」
円香は恥ずかしそうにして、手を離す。右手で自分の頭をポカリと叩いていた。その後、両手を腰の後ろで組む。顔をうつむける。
「何だよ……早く言えよ。バイトがあるんだ」
亮輔の方も恥ずかしくなってきた。横を向き顔を上げる。今日の円香は何かがおかしい――ずっと感じていた。
「明日花さんの事、亮輔は好きなの?」
完全に存在を忘れ去っていた人物の名前が、唐突に出てきて戸惑う。
「あ、明日花は……好きだよ。でも、それは友人として、幼馴染みとしての感情でしかない!」
亮輔は言い切った。
「そうか、安心しました。あたしは、心置きなく自分の気持ちを告白します」
珍しく円香の口調が丁寧になったので、亮輔は彼女の顔を見る。傾いた太陽が、彼女の頭の後ろに掛かっていた。眩しくて顔を手で覆う。
「告白?」
「そう、告白です、報告でもあります。石波良明日花の友人で、幼馴染みの紙屋亮輔くんに断っておかなければなりません……」
「くん」付けで円香に呼ばれて、こそばゆい思いをする亮輔だった。初めて、そう呼ばれたかも知れない。今の円香は妙に他人行儀だった。
「わたし綿奈部円香は、今から――」
「今から?」
亮輔が尋ねた時に、円香の顔は完全に逆光になっていた。彼女の身体全体が黒いシルエットとなる。
「――石波良明日花を、殺します」
児童公園を風が渡る――亮輔には、円香が何を言っているのか、すぐには理解出来なかった。




