#01「僕の日常」-5
――午後一時十七分。
「美里モール?」
「そ、あいつがバイトしてるのよ。つい最近になって突き止めたの。ずっと、隠していやがった」
グラウンドの端、地面に直接腰掛ける明日花と円香だった。赤いハーフパンツに白い上着。胸には校章が入っている。二人して、砂場に向かい踏切をする女子生徒を見つめていた。『あいつ』とはもちろん亮輔の事だ。
美里モールは、円香の住むタワーマンションの隣にある。明日花は、美里モールにオープン初日に出かけて行って、あまりもの人の多さに酔ってしまい、途中で帰っていた。
一緒に行った彩里は、お気に入りの雑貨屋を見つけたと後日報告していた。人混みの苦手な明日花は、今でもどうしても尻込みしてしまう。
「最近は、人波も少なくなって落ち着いて来たからさ、放課後行ってみようよ!」
円香は笑顔で誘ってきた。
「う、うん……」
どうにか了承する明日花だった。
「次! 石波良さん!」
「は、ハイ!」
体育の女性教師に名前を呼ばれて、右手を挙げて立ち上がる明日花だった。
――午後二時十分
六時限目。
亮輔は、明日花と円香の二人に微妙な空気が流れているのを感じ取っていた。走り幅跳びの賭は、どっちが勝ったのだ?
簡単な問いなのだが、何故か聞けないでいた。
退屈な授業だったので、亮輔は窓の外を見る。いつもの変わらない風景。白衣を着た化学の教師が黒板に向かったとき、前の席の円香が椅子を斜めに倒して亮輔に顔を近づける。
「コレ……」
ソレだけを言って、円香は椅子を戻す。
何だ?
亮輔の机の上に置いてあったのは、ノートの切れ端を畳んだメモ……いや、手紙だった。
「亮輔へ」――表面にそう書いてあった。
開き文面を確認する。確か朝の十二星座占い。双子座の明日花のラッキーアイテムは手紙だった。
亮輔は自分の顔が綻んでいるのを知らなかった。そしてその様子を……一部始終を見ていた、明日花の存在を知らなかった。
「あー、明日花さ。美里モールに先行っててくんない」
円香は、カバンを持ち帰宅の仕度をしていた明日花に声を掛ける。
そんな二人を見つめる亮輔の存在。
「午後四時でいいのね? 私はいったん家に帰って、着替えてから向かうから」
「四時過ぎじゃないと、バイトしている所を見られないのよ。じゃあね♪」
円香は明日花の耳元で囁いた。
明日花は亮輔をチラリと見て、教室をゆっくりと出て行った。
「亮輔……、待ってるよ……」
円香は彼の方向を見ずに言って、明日花とは違う出口から教室を出て行った。