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#09「僕と彼女の黙示録」-2

  ◆◇◆


 ――午後三時三十分。

 美里タワー上空。


「隊長、ご無事でしたか!」

 屋上に立つ紙屋豪大を認めて、UH-60JAブラックホークを操る武藤むとう 夏織かおりは無線で交信する。操縦席の右下部キャノピーから手を振る隊長の姿を見て、機体を左右に揺らす。


「キミの方こそ、無事だったか!」

 肩の無線機を取り外し、叫ぶ豪大。ブラックホークは、陸上防衛軍特殊部隊の急襲を受けて待避していたのだ。

 携帯型地対空ミサイル・91式携帯地対空誘導弾――通称・スティンガーで狙われたが、搭載されたフレアを全放出して逃げ切っていた。

 元海上防衛軍のヘリ・パイロットだった彼女の独自の判断だった。


「アナタ! あそこ!」

 妻の美里亜は東の方向の空を指差す。JV-22Bオスプレイが水平飛行形態で、真っ直ぐに美里タワー屋上に向かって来ている。増員を屋上に降下させる目的だ。

「亮輔と明日花さんはまだか!」

 豪大は無線機に向けて叫ぶ。彼は屋上に陣取っていた特殊部隊の兵員を倒し、敵の装備であるドイツ製H&K・MP5短機関銃を奪っていた。


「今、向かいましたわ、紙屋隊長」

 無線機からは、副司令のナターリャ・イワノワの声がした。その後、スピーカーからは轟音のみが聞こえてくる。

「そちらの状況は!」

 しばらくの機関銃の発射音の後、

「エレベーターは使用不能なので、二人は非常階段で屋上に向かっています。私は二十四階のフロアで、下から登ってきた特殊部隊員と戦闘中です!」

 再びの機関銃の連続発射音。無線は途絶える。


「『銀髪の殺人鬼』の再来か……」

 そう言って屋上の床に這いつくばり、狙撃銃を構える妻の美里亜を見る。

 強い風で、彼女の黒いセーラー服の胸の白いスカーフが激しく揺れる。


「私が、パイロットを狙います」

 美里亜の言葉。スコープを左目でのぞき、右手人差し指を引き金に軽く乗せる。屋上は強い風が通り、狙撃には適さない状況だ。

「武藤君! 援護を!」

 豪大は叫ぶ。ブラックホークはオスプレイの右側面に位置取りし、銃撃を加えていた。左ガナーズドアに設置された5・56ミリ機関銃MINIMIで、砲撃手が狙う。


 豪大も屋上の南東の角に取り付き、短機関銃を兵員輸送機に向けて放つ。注意を引きつけていた。

「射線に入った!」

 美里亜が叫び、狙撃銃ワルサーWA2000の引き金を引く。オートマチックの特性を生かし、連続で三発撃つ。

 屋上に大きく響く銃声!

 吐き出される7・62ミリNATO弾。三つの赤銅色の軌跡が、オスプレイの操縦席に迫る。


「よし!」

 美里亜は、うつぶせのまま小さくガッツポーズをする。操縦士と副操縦士の二人を相次いで狙撃成功していた。三発目は、操縦席後部の補助座席の兵員の胸部を打ち抜いていた。

 フラリと機体が大きく揺れてから失速する。後部から、特殊部隊員が操縦桿に慌てて取り付こうとするが、仲間の遺体に阻まれて出来ないでいた。

 屋上から、ハッキリと見渡せる光景。

 速度の落ちたオスプレイは、そのまま美里タワーに近づく。右翼のプロペラが建物に接触し、壊れる。機体はつんのめって真下に落下を始めた。四十階の高さを、所々にぶつけていく。両翼が千切れて落ちていく。



   ◆◇◆


 ――午後三時三十三分。

 美里タワー、非常階段三十階。


「明日花、危ない!」

 亮輔は少女を庇い階段の影に伏せる。美里タワーの高層部分の非常階段は、ビルの東壁面にある。利用者の安全のために、全面をスチール製の格子状の覆いで囲っている。

「何?」

 不用心に頭を上げようとした明日花を、無理矢理押しつける。キスをするかのような格好だ。目を見開いて驚く明日花。

「ヒューン! ドスン!」

 甲高い音と共に、ビルの特殊タイル製の水色の壁面に、大型の何かが突き刺さった。

 同時に、落下する迷彩柄の大型兵員輸送機を目撃した。


「亮輔……」

 胸に抱かれ、顔を赤らめる明日花。

「行くぞ!」

 彼に手を取られ、立ち上がらさせる。壁に突き刺さった長方形の物体を見た。5メートルほどの長さがある。正体は、オスプレイのプロペラブレードの一枚だった。80センチほどの幅の鋭利な羽は光り、先ほどまで自分たちの立っていた場所に突き立っている。

 かすっただけで、体は真っ二つだ――明日花の膝はガクガクと震えていた。


「ドーン!!」

 音と一緒に、下から振動が襲ってきた。安全柵に顔を押しつけ真下を見る明日花。

 熱気に包まれた風が上昇してきた。

 地面に落下したオスプレイが業火に包まれる姿を目撃する。後部ハッチから火球が飛び出していた。火だるまとなった特殊部隊員たちだ。

 人間の断末魔の悲鳴を聞き、明日花は耳を塞ぐ。階段の上方を見て、上階を目指すことにした。

 学校の上履きを履いた右足を、一歩踏み出す。



「止まれ! 止まるんだ!」

 男の大きな声がした。続いて銃声が聞こえる。ブーンと低い音で、威嚇用の射撃ではない。完全武装した特殊部隊隊員に上階から見下ろされる形で、銃撃が加えられた。

 彼らは学校に現れた陸上防衛軍の迷彩柄とは違い、白と緑と茶が目立つ迷彩服を着用していた。美里市山間部での特殊戦闘訓練中だったのだ。


「亮輔!」

 明日花は叫ぶ。彼は、右の肩口を打ち抜かれていた。

「大丈夫だ、このぐらいの傷は何でもない。明日花は、この場所に居ろ。ヤツらも、お前を問答無用で殺しはしないだろ」

 亮輔は胸の二つのホルスターから拳銃を抜き、左右の手に持つ。


「分かった。気を付けてね」

「ああ……」

 亮輔は飛び切りの笑顔を彼女に向ける。

 彼は大股でスチール製の階段を二段飛ばしに登っていく。トントンと軽快な音が響く。あっという間に、上階の踊り場に立っていた。


「ビシッ! ビシッ!」

「クソッ!」

 二発の銃弾を胸に受ける亮輔。二箇所とも、胸の中心を射貫いていた。相手の技量の高さを知る。良く訓練されていて、練度も高い――今後の苦戦は必至だ――亮輔は思う。

 自分の急所を通過する弾丸の音を、始めて聞いていた。


 痛みは相当にあり胸の鼓動が収まらないが、傷口はあっという間に塞がる。

 これが不死の能力なのだ――思わず笑みがこぼれる亮輔だった。


 狙撃銃のスコープ越しにそれを目撃した特殊レンジャー隊員は、戦慄していた。自分の撃った弾は、確かに心臓を撃ち抜いたのだ。

 二三歩下がる。


「スマンな、コレが任務なんだ。お互いに、仕事とはいえツライね」

 亮輔はツーハンドで、近くの相手を狙い撃つ。ゆっくりと階段を登りながら、連射する。

 あっという間に三名の隊員を倒した。階段を転げ落ちる特殊部隊の隊員たち。それに巻き込まれないように、足を上げてよける。


 四名を一つのグループとして行動する小部隊。前衛と中衛の三名を倒され、狙撃銃を構えていた後衛の隊員は、拳銃へと持ち替えようとしていた。


「悪いな!」

 亮輔は、左手のベレッタで相手の首を打ち抜いた。特殊樹脂製のヘルメットと、防弾ジャケットを着込む相手。急所はガッチリとガードされているが、終始落ち着いて優位に運ぶ亮輔は、一発で喉仏を射貫く。

「グハッ!」

 血を吐いて、頭から階段を落ちていく。取り落としたレミントンM24・SWS狙撃銃も階段を滑って行く。


「亮輔!」

 階下から明日花の声がした。

 右手にナイフを構えた一人が、亮輔の首筋に向けて突きだして来た。非常階段の三十一階の扉を開け、飛び出して来たのだった。

「うぐ……」

 よけずに刃を受ける。

「クソッ!」

 相手の方が狼狽していた。首に突き入れたナイフが抜けない。確実に仕留めたと思った相手は、両足でしっかと立っている。


「ハハハ……」

 亮輔は苦笑いを浮かべ、両手に持った拳銃を両脇のホルスターに収める。ゆっくりとした動作だった。

 左手で相手の右手首を掴んだまま、ナイフを引き抜く。亮輔の頸動脈から吹き出した大量の血液が、隊員の顔を赤く染める。

 手首を固定し、ナイフを防弾ジャケットの左下部の隙間に刺し入れる。

「グ、ググ……。ガハァ!」

 内臓に突き刺した刃先をグルリとねじる。苦痛で悶絶し、意識を失う隊員。


「ふぅ……」

 自分の首から吹き出る血を、右手で押さえる。離したときには、出血は止まっていた。

「母さんに、感謝だな」

 白目を剥き、泡を吹いている相手を見下ろす。ナイフによる格闘術は、母親の美里亜を相手にして特訓させられた。その時の傷痕が、先ほどまで残っていたのだ。


 白い泡はやがて赤色に変わり、体が激しく痙攣して停まった。


「明日花! 無事か!」

 亮輔は、非常階段の下に向けて叫ぶ。

「は、ハイ!」

 手すりを掴んでゆっくりと登る明日花。五人の死体を見て、腰が引けている。

「すまん、時間が無いんだ」

 駆け下りた彼は、彼女の揃えられた両膝に腕を差し入れる。抱き上げて持ち上げる。お姫様だっこの形となった。


「キャッ! りょ、亮輔。お、重いかも……」

「大丈夫だ、このくらい。でも、この体勢はキツイな。すまん明日花、ガマンしてくれ」

 ヨイショ――と勢いをつけて右肩に担ぎ上げる。

「ちょっと、亮輔!」

「足をバタつかせないでくれ!」

「え!」

 左手で顔の横にあるお尻を押さえつけると、両足の動きが止まった。明日花は途端に大人しくなる。制服のスカートから伸びる足が真っ赤になっていた。


「行くぞ!」

 亮輔は再び、大股で階段を登っていく。



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