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東方調和抄  作者: ひみーる
そこにきたのは
9/13

始まり

トイプードル可愛いです。


取りあえず、どうぞ。

「弟子?なんだっていきなりそんなこと」


「簡潔に言うと強くなりたいからです!」


「気に入った!いいねぇ!流石は私が見込んだ男のことだけはあるね!」


「なんて単純な考えをしてるんでしょうか・・・」


初めて勇儀と出会った酒場。そこの中央に位置する席で京真とさとりは勇儀と向かい合っていた。


「さとり、物事は深く考えちゃいけない。自分が行きたい方向に迷わず足を進めるのが人生ってものを楽しむ方法だよ」


「流石です!師匠!」


「師匠か・・・いい響きだね」


「私はどこで間違えてしまったんでしょう・・・」


テンションを上げ続ける京真と勇儀に対してテンションを下げ続けるさとり。

しかし、ここで勇儀が話の路線を元に戻した。


「修行をつける前に一つ気になることがあるんだけどいいかい?・・・この幻想郷一帯で力を持つものは必ずと言っていいほどそれぞれの能力を持ってるんだよ。幻想郷が出来る前からね。ちなみに私も”怪力乱神を持つ程度の能力”を持ってる能力持ちなんだけどね」


「・・・自分でもどんな能力か分かってないんですか・・・」


「こらこら、心を読んでもすぐに口に出すんじゃないよ。・・・ほら、さとりの場合は”心を読む程度の能力”だろう?」


「・・・うーむ」


「どうかしたのかい?」


「いえ、何でもないです。続けてください」


その後、勇儀は能力持ちだとどれだけ戦いで有利になるということを話した。

幻想郷に住む妖怪たちが持つ能力(人間が持つ場合もあるらしい)にも戦闘に向いている能力もあれば向いていない能力など様々だが、一見戦闘向きでなさそうな能力をうまく戦闘に応用している妖怪もいるので注意が必要なんだとか。


「それで私が聞きたいのは京真が能力持ちなのかってことなんだよ。能力持ちである場合は教えられるわけでもなく、”ああ、自分は何ができる”みたいに自覚するからね。で、どうなんだい?」


「あれじゃないですか、”混沌を操る能力”みたいな。一応そういう妖怪なんで」


この時京真が考えたことはこうだ。

さとりの場合は覚妖怪としての能力で心が読める。決してさとり独自の能力ではない。

では京真の場合はどうだろうか。京真は混沌を司る神獣である混沌であるため、自分もその妖怪としての能力が使えるのではないか、と考えたのである。


「なるほど、混沌ですか・・・。しかし、勇儀の怪力乱神と同じくらい分かりにくい能力ですね」


「でも京真が能力持ちである可能性は高まったね。いや、ほぼ確定でいいんじゃないか?」


「そうですかね?でもなんか違う感じもするんですよね」


「まぁ、そればっかり考えていてもしょうがない。んじゃ、修行にうってつけの場に行こうか」


「勇儀・・・そこで何をする気ですか・・・」


「・・・滝に打たれに?」







そして今京真の目の前にはいつかテレビでみた日本で一番大きな滝より数倍大きいであろう大きさの滝が轟音と共に流れ落ちていた。


「何なんですか・・・このバカでかい滝は・・・」


「地上にある妖怪の山っていう山にはね、”九天の滝”っていうこれと対をなす滝があるんだよ。それでこの滝はこう呼ばれてる・・・”裏九天”」


「裏九天・・・でもこの大きさって普通じゃあり得ないんじゃないですか?」


「地底の生活用水は全て裏九天からのものですからこれくらいの量がちょうどいいんですよ。それに地底は酒好きの巣窟と言ってもいいくらい酒好きが多いですから」


「へぇ。この水は全て地上から?」


「はい、地上のほうから分けてもらう形で」


裏九天、外の世界ではあり得ない量の水が流れ落ちている。先ほど勇儀が言ったとおりこの滝に打たれたらきっと全身の骨が砕けてしまうだろう。


「んじゃ、手始めに・・・打たれようか」


「・・・今、打たれたら死ぬだろうなぁって考えたばかりなんですが」


「大丈夫大丈夫!京真なら多分痒くもないさ」


そういうと勇儀は先に滝壷の方にある岩場に向かってしまう。

京真は意外と大丈夫なんじゃないか、と自分を安心させようとするがやはり踏ん切りがつかずにいた。

気づくと勇儀はすでに滝に打たれており、京真に向かって手招きしていた。


「京真・・・ここからは、頑張ってくださいとしか言えません」


「まぁ、頑張ってくるよ・・・晩ご飯何がいい?」


「えーっと、肉じゃが・・・ですかね」


「また男らしいものを・・・うん、了解」


他愛のないいつもの会話。どこにでもありそうないつもの会話。

しかしそれが一番の励みになるのは家族のような関係だからだろうか。


しかし二人がこんな空気の時に限って場を荒らす存在が出てくるというもの。


「おーい!京真!早く来い!なんならさとりも来るか!?」


勇儀が戻って来た。別に戻ってくるだけなら何も問題はない。問題なのは勇儀の状態だった。


「ちょ!勇儀さん!ふ、服が透けてますって!!」


「ん?おおっと本当だ。・・・おーおー、いっちょ前に恥じらって。京真はそういう年頃かい?」


「そういうお年頃ですよ!というか、なんで下着つけてないんですか!?」


「っ!・・・京真!どこ見てるんですか!見てはいけません!目を閉じなさい!あと勇儀は勇儀で少しは恥じらいを持ってください!あとこれからは下着をつけてください!」


「いや、さらしってきついから嫌いなんだよ」


「嫌みですか!?胸がない私への当てつけですか!?」


「へぇ、気にしてたのか。まぁさとりはまだまだこれからだよ。お前より長く生きてても絶壁の奴もいるんだから」


「慰めになりませんよ!・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ。京真、私はここにいる必要もないと思うので先に帰りますね」


「ん、おう。気をつけてな。変な人についてっちゃだめだぞ」


「馬鹿にしないでください!」


その後、さとりは怒りながらも帰っていき、京真もついに滝に打たれることになった。

滝の水温は低い。長時間いると凍え死んでしまいそうは水温だ。

だが、打たれてみると意外と大丈夫なようで、最初は痛みと寒さがあったものの、痛くない、寒くないと念じるとほとんど感覚がなくなってきたのか、何も感じなくなってくるどころか、水温が温かくなってきた。

しかし、まわりは轟音の渦。共に滝に打たれている勇儀と会話するときは限界に近い大声を出さなければ会話ができなかった。


「師匠ぉぉ!これってぇぇ!どういう修行なんですかぁぁ!」


「いやぁぁ!多分んん!修行になってなぁぁい!」


「えぇぇぇ!」


どうやらこの滝に打たれるという行動、特段の意味はないようだ。


「そういえばぁぁ!京真ぁぁ!痛くはないのかぁぁ!?」


「いえぇぇ!痛みはほとんどありませぇぇん!」


「本当かぁぁ!私は結構痛いんだがぁぁ!・・・ちょっと出るぞぉぉぉ!」


「分かりましたぁぁ!」


勇儀の後に続き滝壷からでて少し離れた場所に移動する。

勇儀が振り向いた瞬間、京真は目を伏せ、なるべく勇儀を見ないように会話をする。


「なぁ、本当に滝に打たれて痛くも寒くもなかったのか?私は痛かったし、今でも結構寒かったりするんだが」


「いや、最初の方は痛かったし寒かったですよ?でも痛くない、寒くない。逆にこれは温かいんだ。って念じると慣れてきたのか温かくなってきたんんですよ」


「そうか・・・・」


勇儀は急に険しい顔をして何かを考え始めた。


「師匠?どうかしたんですか?」


「いや・・・・もしかしたら、それが京真の能力なのかもしれないね」


「水温を温める能力ですか・・・いやでも痛みもなかったから・・・痛みを熱に変換した?うーん・・・」


「変換か・・・ちょっといろいろ試してみようか。何かいいものは・・・・」


「・・・ちょっと試してみたいことがあるんですが、いいですか?多分これができれば自分の能力がどんなものなのかがほぼ確定できると思います」


「ほぅ、どうすんだい?」


「一応聞いておきますが、ここって地球ですよね?」


「当たり前じゃないか」


「了解です」


京真がしたかったこと。

それは”エネルギーの変換”であった。滝の場合の仮定としては、滝の水自体が持つ位置エネルギーによる水の勢いを”痛くない、水も温かいんだ”と念じることによって熱エネルギーに変換した、ということだ。

それを踏まえ、今回の実験は、惑星上では必ず引力が発生する、それはもちろん地球も例外ではない。その引力または重力のある惑星の上にいるだけで様々なエネルギーが発生する。それを他のエネルギーに変換しよう、というものであった。

まず始めに重力からくるエネルギーを光エネルギーに変換することに。


「明かりがあれば地底ではなかなか便利ですからね」


「なるほど、よく考えてるんだね」


「まぁ、元人間みたいなもんですから。考えるのが癖なんですよ・・・・では、早速」


京真は目を閉じ右手を前に差しだし、”重力→光”と念じる。すると手の平の上で小さな光が朧げに光りだした。二人は驚くこともなく、冷静にその光を見つめる。


「・・・どうやら、実験は成功のようだね。・・・・やっぱり、自分の能力のことは自分が一番分かるみたいだね」


「はい。あと、体にかかる重力を変換したんで心なしか身体が軽く感じます」


「・・・で、その能力はどういう能力なんだい?痛みを熱に変えたり、重力を光に変えたり、不思議な能力なんだろうね」


「そうですね、言うなれば、”エネルギーを変換する程度の能力”ってところですね、多分。これを使いこなせれば戦闘は幾分楽になると思います」


「・・・・どういう風に楽になるんだい?」


この後、京真は自分の能力の戦闘時の用法を説明した。

主な用途としては相手の重力をなんらかのエネルギーに変換し、思うように動けなくしたり、周りの何らかのエネルギーを変換し、強力な光に変え、目つぶしをしたり。

取りあえずは攻撃ではなく補助の方での用途を説明した。


「なるほど。でも、攻撃の方はどうするんだい?今のだけじゃ補助ばっかりじゃないか。それじゃ戦えないぞ」


「いえ、ちゃんと攻撃の方法も考えてますから大丈夫ですよ」


「へぇ。・・・まぁ、期待してるよ。じゃあ、今日は能力が分かっただけで収穫だしお開きにしようか。明日からは本格的に”戦い方”ってのを教えていくから覚悟しとくんんだね」


「明日もこの場所ですか?」


「そうだね、ここは他の奴らも来ないし」


「了解です。それでは失礼します」






帰路の途中、京真は戦闘以外での能力の使い方について思考を巡らせていた。

日常生活内での能力の使い方。

まず、風呂を沸かすのが楽になるだろう。そして明かりにも困らない。今の時期は晩夏、少し暑くて寝苦しくても熱を何かに変換すれば暑さも多少和らぐだろう。この電気のない世界で電気エネルギーも生産できる。

考えれば考えるほどいい案が浮かんでくる。これでこいしの暇つぶし相手になる時間、お空に常識を教える時間、お燐に料理を教える時間、さとりの地底管理者としての仕事の補佐をする時間、色々なことに費やせる時間が増える。そう思うと自然と笑みがこぼれてしまう。


「幸せそうね、妬ましいわ、本当に」


いきなり正面から毒を吐かれる。

京真の周りにここまであからさまに毒を吐く存在は一人しかいない。


「あ、パルスィさん。・・・すいません」


「いや、大丈夫よ。これが私の口癖みたいなものだから。気にしないで。・・・それで、何かあったのかしら」


現れたのはパルスィ。持っている買い物かごを見る限り、食事の材料を買いに行っていたようだ。


「自分の能力について少し分かったことがあったんで嬉しかったんですよ」


「あら、あなた能力持ちだったの?混沌だから”混沌を

操る能力”ってところかしら」


「いえ、自分も最初はそう思ってたんですがどうやら違ったみたいで、”エネルギーを変換する程度の能力”みたいな感じです」


「不思議ね、混沌が混沌を操れないなんて」


「まぁ、まだそれについては試してないんで何とも言えませんが、いずれ機会があれば考えてみるつもりです」


「そう。まぁ、頑張りなさい。応援してるわ」


「あ、ありがとうございます。なるべく早く一人前になれるように頑張りますね」


「はいはい。じゃあね」


パルスィは地底では珍しい桃をひとつ京真に譲り、自分の家に帰っていった。


「混沌としての能力・・・か」






「あ、キョーマ。おかえりー」


「お燐、ただいま。こんなところで何やってんだ?」


地霊殿に帰ってくると門の壁にお燐が一人でもたれ掛かっていた。自慢の火車がそばにないところを見ると死体集めに行っていたわけではないようだ。


「いや、さとり様が部屋に来るようにだって」


「さとりが?そんなこと言わなくてもすぐに行ったのに」


「キョーマもさとり様に用が?」


「ああ、俺の能力が分かったからさ、一応伝えておこうかと」


京真は少し得意げな顔をしてそう言う。しかし、燐は京真とは逆にしかめっ面に近い顔になる。


「・・・キョーマは気づいてないと思うけど、さとり様は、キョーマに「分かってる」・・・え?」


「本当は戦って欲しくない。だろ?それは分かってる。だから、これがこっちに来て最初で最後のワガママだ。俺は地霊殿のみんなを守れるくらいまでは強くなる。ちょっと時間はかかりそうだけどな」


燐の顔に笑みがこぼれる。


「・・・私も弱いつもりはないからね。まぁ、早く強くなって楽させてよ」


「了解。じゃ、さとりの部屋だっけ?行ってくる」


「いってらー」


家に帰る時に家族に手を振られる。不思議な光景である。しかし、家族に見送られるということは悪いことではない。

京真はさとりの部屋に行く前にキッチンに寄った。








「さとりー、入るぞ」


「どうぞ」


部屋に入るとさとりは着替え中、のはずもなく、地底管理者としての執務をこなす机の前に着いていた。仕事をするときにつけている眼鏡をかけている。今の今まで仕事をしていたのであろう。

管理者としての仕事、地底は今となっては妖怪たちの街となっているが元の姿は地獄。そのため地底で起こった問題事や、施設の不備を閻魔に報告するための書類を書いたり、地底に住む妖怪からの要望を聞き入れ、様々な施設の予算や改築などを手配したりする。他にも多様な仕事があるが、多すぎるので割愛する。


「今まで仕事してたのか?」


「まぁ、はい・・・また街道で喧嘩があったらしく、建物が何棟か倒壊したそうで・・・・」


「外の世界とはスケールが違いすぎるな・・・・あ、でも、この時間なら仕事してると思ってさ、紅茶、入れてきたぞ。あとパルスィさんから桃もらったからさ、切ってきた」


「あ。ありがとうございます。・・・・・ところで、京真はこの地霊殿で自分がどういう立場か自覚してますか?」


立場。

燐や、空は”ペット”であるらしいが、京真は一体なんなのか。普通に考えれば、雑用である。

掃除に、料理に、遊び相手、そして補佐。様々の仕事をしている。自主的にだが。


「・・・召使い・・かなぁ」


「執事です」


「・・・はい?」


「執事です。私の」


「・・・お、おう」


「不満ですか?」


「いや、嬉しいな。かっこいいし」


執事と言われ少し顔が熱くなる。

執事とはなかなか位が高い役職だ。この地霊殿ではほとんど意味をなしていないが。


「しかし、あなたのその格好は執事にふさわしくありません。・・・と、いうわけでこちらで執事服を用意させてもらいました!」


さとりが自信満々の顔で取り出した執事服、それは全く執事服には見えないものだった。

黒い燕尾服なのはまだいい。しかしそのスーツが無数の青く細いストライプ柄であったり、それに合わせるシャツが無地の黒であったり、ネクタイが無地の青であったり。

もう一度言うと執事服には全く見えない。言うなればヤクザだ。嫌われ者たちを管理する者の執事というとヤクザなのかもしれないが。

しかし、家族からの贈り物。嬉しくないはずがない。


「どうですか!?どうですか!?」


「そうだな、うん、かっこいい。色も俺に合わせてくれたんだろ?」


「はい!京真といったら黒と青です!」


「なかなかダークな合わせ・・・しかし、まぁ否定ができない。でも、ありがとう。これからはこれで生活させてもらうよ」


執事服をさとりから受け取り、紅茶に砂糖を少し入れてから出口に向かう。


「じゃあ、夕飯作って来るからできたら知らせる」


「はい、私はここで仕事をしてますので」


「了解」








部屋を出てから、まず自室へ向かう。

向かう途中、もらった執事服を眺めるとつい顔がにやけてしまう。

すぐにでも着てみんなに見せたい気分になる。

中学生はこういう厨二な服が大好きである。それは京真も例外ではない。

その証明に幻想入りする前も黒い服を好んで着ていた。脳内では”黒=強い”に近いイメージがあったからだ。


そんなことを思っていると背後から何かが腰に巻き付く感覚を感じる。京真はこの感覚には慣れていた。

こいしだ。

こいしはよく他人の意識から抜け出して無意識に人にぶつかったり、抱きついたりするのだ。


「こいし、どうした、迷子にでもなったか?」


「むー、さすがに自分ちで迷子になるほど馬鹿じゃないよー」


「どうかねぇ・・・」


「馬鹿にしてー。それで、その服は何?大体見当はつくけど」


こいしが京真の正面に回り込み、京真が持つ執事服を広げたり、顔を埋めたりし始めた。


「ちょっとだけお姉ちゃんの匂いがする!」


「・・・・・」


京真も無言で鼻を服に近づける。

確かにさとりの香りがする。なんと言えばいいか分からないが、とにかく悪い香りではない。これが女の子の香りなのか。


「多分だけど、お姉ちゃんは・・・・・・・着てたね」


「そう考えるのが妥当か。でも、俺が着るときに別に害はないからいいんだけどな。・・・あと、こいしはなんか用か?俺は今から夕飯の準備をしようと思ってたんだけど」


「えー、遊ぼうよー!暇なのー!」


「・・・・・じゃ、夕飯つくるの手伝ってくれよ。料理しながら話でもしよう」


そう言うと文句を言っていたこいしの顔がパッと花が咲いたように笑顔になり、京真の周りではしゃぎだした。


「その前に服を着替えさせてくれ。夕飯でお披露目できるようにしたいからさ」


「りょーかーい」








「流石にさ、女の子の前で着替えるのは恥ずかしいんだが」


「大丈夫だよー。キョーマの裸なんて見慣れてるし」


「・・・え?」


「だーかーらー、私、結構京真と一緒にお風呂とか入ってるよ?まぁ、気づくはずがないんだけど」


これほどの絶望があるだろうか。

妹のような存在とはいえ、同じような年頃の外見をした少女(実際は何倍も年上だが)に毎日裸を見られていたのだ。


「・・・・過ぎたことは気にしない。地霊殿でそれを学んだだろう、笛吹京真・・・。けど、それを絶対にさとりに言うなよ?意識外とはいえ、そんなことがばれたら殺されてもおかしくない」


「分かったー。でも、”もう入ってくるな”とは言わないんだね」


「言ってもどうせ入ってくるだろ?」


「まぁねー」


こいしの場合、たとえ入ってくるなと言われても意識から外れればばれずに入ってこれて、ばれずに出ていける。言ったところで意味は全くないのだ。

結局、こいしは京真のベッドでゴロゴロしており、その

隣で京真は着替えることにした。


「そういえば、京真の部屋って涼しいねー。なんで?」


そして今、実験として部屋の熱エネルギーをベッドの弾性力に変えている。今、こいしが乗っている京真のベッドはほとんどトランポリンのような状態なのだ。しかし、そこまではこいしも気づいていなかった。


「んー?そういう能力なんだよ、俺は」


「いいなー、便利で。詳しくはどんな能力だったの?」


「エネルギーを変換する程度の能力」


「よくわからなーい」


「だと思った。・・・着替え終わったぞ」


「ほんと?・・・おおー!さすがお姉ちゃん。いいセンスしてるねー。似合ってるよ!」


黒い燕尾服に身を包み、少し照れくさそうにしている京真がいる。それ見て目をキラキラと光らせるこいし。

地霊殿ではよくある光景である。


「じゃ、夕飯作りに行こうか。今日は肉じゃがだぞー」


「わー!肉じゃがの作り方教えてね」


こいしが京真の腕に抱きつきながらキッチンに向かう。二人の姿は誰が見ても兄妹にしかみえないだろう。







「お姉ちゃーん!ご飯できたよー!」


「分かったわ。すぐに行くから待ってて頂戴」


「うん!」


とは言ったものの、まだ仕事していたい気持ちは少しあった。

さとりは夕飯のあとは仕事はしないと決めており、その時間は家族と過ごすようにしている。

しかし、その方法だと、その日の仕事をその日の夕飯前に終わらせないと明日に持ち越されてしまい、明日の仕事が辛くなってしまう。

そのため、もう少しだけ仕事をしていたいと考えてしまう。


「お姉ちゃーん!早くー!」


「・・・諦めましょう」


仕事を諦め、食堂に向かってみると最初に自分が渡した執事服を身にまとう京真が目に入った。

料理が乗った食器を並べながらすでに席についている3人と笑いながら談笑している。

内容はやはり京真の服のことだろうか。空が服を引っ張ったりして遊んでいる。

すると燐がこちらに気づいたのかニコニコしながら手招きしてくる。それに従いさとりはテーブルに近づき席についた。








「そういえばさ、この服ってどうしたんだ?この形って幻想郷では見かけないけど」


「ああ、それは八雲紫に頼んだんですよ。彼女は私に借りがありましたから。とても大きな借りをね」


「へぇ、あの人って人に借りを作りそうな雰囲気じゃないのに。さとりってすごいんだなぁ、やっぱり」


さとりは紫のことを頭に浮かべる。

彼女はさとりでも何を考えているのか全くつかめない存在だ。

心は読めるのだ。しかし、何も見えない。

心を読んでも、ただ黒いだけで何も見えない。

故に京真を何かのために利用しようとしているのではないかと心配になってしまう。

そう思って京真を見つめていると京真が視線に気づいた。


「食欲でもないんですか?」


「なぜ敬語に?でも、そういうわけではありませんよ。ちょっとボーっとしてただけです」


「”キャーッ!キョーマカッコイー!”みたいなこと思ってたの!?」


「ちっ、違うわよ!?ちょっと考えごとしてただけよ!」


賑やかな奴らだなぁ、とほのぼのしてしまう京真であったが、さすがにさとりを助けてやらなければ可哀想だ。

今の生活は今までの生活と比べると「本当にこんなに贅沢していていいのか」と思ってしまうほどの居心地の良さだ。

この生活があと何百年、もしかしたら何千年も続くと思うととても胸が高鳴った。


それにここは普通ではない者たちが住まう”幻想郷”。

その贅沢な生活にさらに刺激をあたえてくれるだろう。



明日からの修行は直接”強さ”に関わってくるものになる。それを乗り越えてゆく過程で周りの者を守るための”強さ”、普通ではない者たちと対等に過ごすための”強さ”を身につけることができるだろう。







能力を発現した今、外の世界の住人とは性質が違う妖怪たちとも平等に戦えるようになっていくだろう。


ここから、混沌・笛吹京真の幻想郷での生涯が本格的に始まってゆく。






人に忘れ去られたのではなく、


人に忘れ去られるために、


幻想が集まる場所、”幻想郷”にやってきた一人の妖怪の物語。






~東方調和抄~

次話から本格的に物語が始まります。


が、前回書いたとおり、書きだめが全て消え去ったのでここから更新頻度も遅くなりますのでよろしくお願いします。

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