仲間
コーラよりドクペが好きです。
取りあえず、どうぞ。
勇儀は今日で何回目京真に驚かされたが分からなくなっていたが、このことは今日で最も驚かされたことだった。
光球が京真にあたったことのよってできた砂煙のなかから妖力がさっきまでと比べ物にならないほど増大した京真が殴りかかってきた。
そして京真の拳は勇儀の額に直撃した。
勇儀は後ろに倒れそうになる。そこを京真はさらに畳みかけようとした。・・・・が。
(まずい・・・!この威力を何発もくらったらさすがにまずい・・・!)
勇儀は強引に足をふりあげ、迫る京真の背中に全力で踵を落とした。
京真は地面に落とされ、そのまま地面と勇儀の踵に挟まれた。大量の血を吐く。京真を中心に大きなクレーターができる。
(ああ・・・くそったれ・・・ここまでかよ。けど、まぁ、一発殴れたからいいかな・・・)
そのまま、京真は意識を手放した。
「まさか、全力を出すことになるとはねぇ。ホントに驚かされるよ。この人間には・・・。いい従者を持ったね。さとり・・」
「はい・・・大切な従者です・・・。けど、今はそんなことより早く治療をお願いします!早くしないと・・・京真が・・・・!」
京真が倒れた後、さとりがすぐに駆けより、京真の安否を確認していた。失いたくない。その一心から来る行動だった。
「・・・・惚れてるのかい?その人間に・・・」
「っ・・・・はい。大好きです・・・絶対に失いたくありません」
「いいねぇ、意外とお前とは仲良くなれそうだよ。・・・・・貸してみな、知り合いのところに連れていく」
勇儀は京真を担ぎ、旧地底街道の路地のほうに歩いていく。さとりは少し戸惑ったが勇儀についていくことにした。
途中、勇儀が言ったことについてさとりは考えていた。
”お前とは仲良くなれそうだよ”
これはさとりが望めば勇儀は友人になってくれるということを表していた。”これは京真が勇儀と戦ってたから実現できたことだ。”さとりはそう考えた。”また京真に救ってもらった”と。
ここにきて京真と出会ってからのことを思い返す。
何の前触れもなく、地霊殿の前に八雲紫が”スキマ”によって京真を運んできた。そしてその時八雲紫に言われたこと
”この子を悪く扱わないように。この子は地底を含む幻想郷を変えるかもしれない人物なのですから。・・・それと、この子には私が来たことは言わないように”
最初はただ妖力がある不思議な人間としか見ていなかった。しかし、そこからが他の妖怪、人間とは一線を画していた。心を読んでも嫌な顔をしなかっただけでなく、そのことを利用して会話をしてきた。覚妖怪の苦しみをともに考えてくれた。そして、友達になろうと手を差し伸べてくれた。きっと、八雲紫の言葉がなかったとしても京真をひどく扱ったりすることはなかったと今では思う。
今では最も大切な存在なのだから。
けれど、それが心の奥底でさとりを悩ませている。
自分は妖怪、しかし、彼は人間。あと、八十年もすれば彼は私をおいて死んでしまう。
ここで愛してしまったなら(愛してしまっているが)別れが本当に辛いものになってしまう。その時自分は立ち直れるだろうか。
「・・・勇儀、その人間は何?・・・そして、なんで覚妖怪がここにいるの?」
「すみません、水橋さん。急に押しかけてしまって・・・」
「まぁ、細かいことは追って話すからまずはこいつを治療してやってくれ、パルスィ」
「・・・分かったわ。勇儀もそこに座ってて。額に怪我をしてる」
「ああ、すまない」
パルスィは冷水で冷した布を勇儀に渡した後に布団を敷き始めた。
「すみません、私のようなものがあなたの家に入りこんでしまって」
さとりはパルスィの心にあった”何故、こいつがここにいるんだ”ということを読みとり、謝った。
「私の心を読んだのね。そうやって他人の心を読んで気遣っているつもりなんでしょうけど、読まれる側としては気持ち悪いから心を読んでもすぐに口に出さないほうがいいわ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
そう、パルスィもまた覚妖怪であるさとりを嫌う妖怪の一人だった。
「・・・パルスィ。その人間は容体は?本気で踵落としを喰らわせてしまったんだが・・・」
「勇儀の本気の・・・?普通の人間だったら即死よ?」
「あ・・・彼は・・その・・少し特殊で「あなたには聞いていないわ」・・・ごめんなさい・・・」
パルスィにはさとりを嫌う理由は”心を読まれるから”ではなかった。ただ、”一番自分が不幸なのだ。”と思っているさとりに腹が立っていた。
「・・・・そいつは自分の体の中に神獣を飼っているらしくてな、それで普通の人間より何倍も体が丈夫らしい。・・・そうだろ?さとり」
「・・・はい。その人間は四凶・渾沌を体に宿しています」
「渾沌を・・・体に・・・?」
パルスィは信じられないような顔をする。まるで”そんなことはありえない”と思っているかのような顔だ。
「何かおかしいところでもあったか?」
「おかしいところがあったか?おかしいところどころじゃないわ。その事実自体がおかしいのよ」
「・・・どういうことだ?」
「・・・・・」
勇儀はパルスィに問いかけるが、さとりはパルスィの考えが読めたためこの時には全て分かっていた。
「どうもこうもないわ。神獣が人間に宿る?そんな馬鹿げたことはありえないわ。いい例は地上にいるワーハクタクよ。あいつは他の人間には”体に白澤がやどる人間”言っていたようだけど満月の夜には決して人間とは思えない姿に変わる。これがそういうことか分かる?」
パルスィは勇儀を見つめる。”もう分かっただろう?”そんな顔だ。
「・・・・・いや、分からん」
期待を裏切った。そう、鬼はあまり考えずにまずは行動をする種だ。言っては悪いがあまり頭はよくない。
「・・・・そう。・・・・けど、あなたはもちろんわかっているわよね?私の心が読めるのだから。・・・言ってみなさい」
「・・・京真は人間じゃない。京真自身が”渾沌”なんですね」
さとりの顔は疑う半面、嬉しさも含んでいた。勇儀はそれを見逃さない。
「嬉しそうだな。・・・まぁ、気持ちは分からないこともない。なんたって・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!それ以上言って駄目です!」
「・・・・どういうこと?」
「な、なんでもないですよ!京真の容体はどうなんですか!?」
こいつ、本当に分かりやすい奴だな、パルスィは思う。しかし、親近感に近いものを感じる。案外、悪い奴じゃないのかもしれない。
「・・・そうね。もう死にはしないわ。神獣だもの。回復力も普通の妖怪の比じゃない。あとは少し安静にするだけね」
妖怪は人間の何倍もの速さで傷が回復する。妖怪の中でも大妖怪、神獣のクラスになってくると一晩もすればどんな怪我でも治ってしまうだろう。大妖怪の定義は”太古の時代から今まで生き続け妖力を増大させてきた妖怪”である。そして京真は神獣。回復の早さはパルスィの予想を上回ったようだ。
「その必要はありませんよ・・・。自分で歩けますから」
「京真っ!大丈夫ですか?痛いところはないですか?」
さとりがすぐに何か異常はないかと問いかける。それを見て勇儀は思わず吹き出し、パルスィは”妬ましい・・・”と呟いていた。
「さとり、大丈夫だから。心配すんな。・・・ええと、なんか状況を説明してもらえますか?治療していただいたのは分かるんですが、ここまでの経緯が知りたいです」
「ああ、まずはこいつに御礼を言いな。名前は”水橋
みずはし
パルスィ”。お前を治療してくれたんだ」
勇儀がパルスィを紹介する。パルスィは顔を合わせることもなく”大したことじゃないわ”と治療道具を片づけながら言う。
「あと、勇儀がここまで運んでくれたんですよ。勇儀にも御礼を言ってくださいね」
「おう、分かってるよ。・・・水橋さん、自分が気を失っている間に治療をしていただいたみたいでご迷惑をおかけしました。多分あのまま治療がなかったら今頃は死んでいたかもしれません。本当にありがとうございます」
京真がパルスィに向かって深々と頭を下げる。パルスィは全く対応らしい対応はしなかったが、顔を赤くしていたのは分かった。
「そして、星熊さんも、ここまで運んでいただきありがとうございます。先程はあのような争いになってしまいましたがこれからは仲良くしていただけるとありがたいです」
次に勇儀に頭を下げる。この姿に勇儀は思わず吹き出してしまった。
「お前っ・・・・ぜんっぜん似合ってないよ!さっきまでは妖怪らしい殺気じみたものを醸し出していたのにね!」
「似合ってないって・・・・え?今”妖怪らしい”って言いました?・・・どういうことですか?」
最初は苦笑しながら対応していた京真もさすがに自分が妖怪であると言いあてられすぐに真面目な雰囲気になる。
「水橋さんに教えていただいたのです。”神獣が人間宿ることはなく、そう思われる人間がいた場合はその人間自身が神獣”だということを。・・・京真、残念ながらあなたは人間ではなく、神獣という部類に分けられる”妖怪”です」
「うん、知ってたぜ?」
「「「・・・・はい?」」」
京真以外の三人が声を合わせる。三人は京真はショックを受けるだろうと考えていたためこの反応は当然だ。
「いやですね、星熊さんとの戦いの最中に星熊さんの特大の光の球を喰らった時があったでしょう?あの時に昔読んだ書物のことを思い出したんですよ。その本には”妖怪の類が人間に宿ることはない。そのような者がいた時は彼に妖怪が宿っているのではなく、彼自身が妖怪なのだ”って書いてあったんです。それで確信というか・・・自分が人間じゃないってことを認め、受け入れました。まぁ、俺が俺であることは変わらないんでなんともなかったですけどね」
ある妖怪が長年”自分は人間だ”と思い生きてきて、突然、”自分は人間でなく妖怪だ”という現実を突きつけられた時、その妖怪はこの現実を受け入れられるだろうか。この結果については半々になるだろう。”そうだったものは嘆いていてもしょうがない”と案外”人間として生きていたなら”簡単に割り切れるのかもしれない。人間はすぐに考えを切り替えられる柔軟な頭を持つ生物なのだから、人間として生きていたなら正体が妖怪であったとしてもそれができるはずだ。そして、人間であることに固執者もいるだろう。この者は本能的に妖怪の考えを優先し、柔軟な考え方ができなくなっているのかもしれない。
「自覚したら後は楽ですよ?見えてくる世界も違いますし、前とは違う体を使っている気分です。それに妖怪ってことは寿命も果てしなく長いですから、友達と別れずに済みますしね」
「・・・京m「やっぱ、あんたはいい男だよーー!なぁなぁ、京真って呼んでもいいかい!?」・・・ちょ、京真から離れてください!」
勇儀が京真の頭を片手でヘッドロックをしながらもう一方の手で力強く頭をなでる。
「い、いいですよ・・・。あと、このままだと首が折れます・・・」
(ほ・・・星熊さんの・・・・胸が・・・・はっ、やばい!さとりに読まれる!)
勇儀の胸が京真の後頭部にあたっており、京真の心は有頂天になりかけたが、ここにはさとりがいたことを思い出しすぐに心を落ち着かせる。
しかし、さとりは京真のやらしい考えを咎めることなく勇儀を引き離そうと頑張っていた。
まるで、京真の考えが読めていないかのように。
「・・・暴れるんであればここからは出ていってほしいのだけども・・・?」
「「・・・・・はい、ごめんなさい・・・」」
パルスィが自宅で暴れる鬼と覚妖怪に静かな殺気を向ける。さすがに勇儀とさとりはひるんでしまう。さとりに関しては心が読めてしまうので殺気が直接きてしまうからなおさらだ。
「じゃ、さとり。そろそろ帰ろうか。水橋さんも、お邪魔しました」
「そうね、早く帰って頂戴。あと、面倒くさいからパルスィでいいわ。そこの覚妖怪もね。」
「え?」
さとりもパルスィと呼ぶことを許可されたのはさとりを驚かせるには十分なことだった。
「だから、私のことはパルスィと呼びなさい。いいわね?・・・・じゃ、それじゃあね」
「あ、ありがとうございます!」
パルスィはさとりの御礼を聞くとすぐに戸を閉めてしまった。やはり少し恥ずかしかったのだろう。これがいわゆる”ツンデレ”というやつか。京真はそう思った。
「じゃ、私も帰ろうかね。私に用があるんだったら大抵は最初にいた店にくるといいよ。遠慮はいらないよ。私達は友人なのだから。あと、京真、私のことは”勇儀”と呼んでくれ。”星熊さん”はこそばゆいからな」
「はい、分かりました、勇儀さん。それでは。」
「本日はありがとうございました」
あいさつを終えると勇儀は酒を飲みに行くと言い、またお店の方へ歩いて行った。
「・・・私達も行きましょうか」
「ああ、お燐とお空も待ってる」
「なぁ、今、俺の心を読めるか?」
帰り道、京真はさとりに気になっていたことを聞いてみた。
「読めませんけど。それが何か?」
「何か?って・・・。大丈夫なのか?」
「心配はありません。それより、心が読めなくても京真なら大丈夫ですよ。絶対に悪意などは抱いていないと信じていますから」
京真は安心する。さとりが不安に思っていたらどうしようか、とずっと考えていたが彼女の一言で安心する。しかし、もうひとつ気になることが。
「なんで読めなくなったんだろうな。俺は何もしちゃいないぞ?」
「いえ、していなくても変わったことはあります。京真は気づいていないと思いますが、今の京真の瞳は青です。あと、初めて会った時よりも何倍もの妖力を感じますよ。自分が神獣と自覚したことで心に何らかの変化があったんでしょうね」
「そんなもんなんかな」
「そんなものなんです。・・・あと、ありがとうございます」
さとりが御礼を言いながら、京真の手を握ってくる。これは京真の心を惑わせるには十分なことだった。
「い、いきなりどうしたんだよ・・・?俺、なんかしたっけ?」」
「京真のおかげで知り合いだったとはいえ、二人も友人を作ることができました。本当に京真には助けられてばかりですね」
「・・・・友達ってのは誰かに手伝ってもらって作るものじゃないよ。あれは俺のおかげじゃなくてさとりがどこかで二人に思いを伝えられたんだよ。だから、今回はさとり自身の頑張りのおかげだ」
人間関係というものは全て自分から発信されるものだであり、誰かに手伝ってもらって作っていくものだ。誰かのおかげで関係ができていくなんてことは絶対にない。同じように関係が壊れるのも自分のせい。それは人間関係を持つのならば絶対に知っておかなければならないことだ。
「さとり様ー!キョーマー!おかえりー!」
「さとり様ー!お家を壊してごめんなさーい!」
お燐とお空の声が聞こえる。地霊殿に帰ってきたのだ。
「ただいま、お燐、お空。・・・京真、ご飯にしましょうか」
「お空が燃やしたから何が作れるかは分からないけど・・・頑張るよ」
この日はさすがに疲れたので早めに布団に入ることにした。
(ああー、これから朝の日課にランニングとかも加えよう。またいつ戦うことになるか分からんしな。とりあえず・・・寝よう)
そして、目を瞑る。
五分ほど経ったころだろうか、京真は自分の腹に重みを感じる。
(んー、なんなんだよ・・・・・ん?)
手で自分の腹付近を確認してみると人の肌のようなものに触れた。これは女性独特の柔らかさだ。
「あなたがキョーマだよね?」
幼めの女の子の声がする。聞いたことがない声だった。
京真は目を開き、声の主を視認する。
当然だが地底には太陽も月もない。しかし、地底で太陽や月の代わりになる物が”火”である。光源がない地底では至る所に火がおかれている。それのおかげでいつも地底中は地上の夜くらいには明るいのだ。
そして、声の主の顔は窓から入ってくる火の光でぼんやりと照らされていた。
「ねぇ、あなたがキョーマでしょ?」
「そうだけど・・・。お前は誰だ・・・?」
「やっぱり!ああ、ええとね、私は”古明地こいし”。古明地さとりの妹だよ!」
「・・・・はい?」
”さとり”の妹と名乗るこいし。しかし、彼女の外見はさとりとの共通点を多く持っていた。
ウェーブがかった髪。ゆとりのあるパジャマのような服。そして、さとりから聞いた、覚妖怪であることを証明する”第三の目”。
違うところは髪の色がさとりの薄いピンクに対し、こいしは薄い緑。そしてこいしの第三の目は瞼を閉じていた。
「キョーマはすごいね!あんな楽しそうなお姉ちゃんは初めて見たよ?何かしたの?」
「いや・・・友達になっただけだが・・・」
「あと、勇儀のことも楽しませてたよね!?すごかったよ!」
「まぁ、負けたけどな・・・」
「だからね・・・・」
「・・・は?」
ふと、こいしが自分が来ている服のボタンをはずし、脱ぎ始める。
「そんなキョーマにお願いがあるんだけど・・・」
生まれたままの姿になるこいし。
「私のことも・・・・楽しませて・・・・・?」