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東方調和抄  作者: ひみーる
そこにきたのは
3/13

怪力乱神

iPhone5って便利ですね。


取りあえず、どうぞ。

京真の朝は早い


寅の刻


起きるとまず始めにちょっとしたお城のような地霊殿の掃除をする。もちろん”一人で”だ。当然のことだがこれはさとりが言いつけたものではない。

”従者らしいことをしたい”と京真が無理を通してやっていることであった。


卯の刻


掃除はまだ終わらないが地霊殿の住民の一人”お燐”が起きる。趣味の”死体集め”をするためにこの時間に起きるようだ。

京真は”絶対に踏み入れてはいけない領域”と割り切り、お燐に死体集めについては何も聞かないようにしていた。


辰の刻


掃除が終わり、住民分の朝食を作り終えると大体この時間になる。

健康的な生活を送るためにはこの時間に起きなければならないだろう。京真は地霊殿の主であり京真の主人である”さとり”を起こしに行く。もう一人”お空”という住民がいるのだがこの時間に起こしにいくととても不機嫌になり大きな炎球を投げつけられるのでお空に関しては自主的に起きてもらうことにしている。



これが京真の朝の生活である。










「さとり、起きろ。朝食できたぞー」


京真はさとりを起こすために揺すらずに声だけをかける。彼は思春期驀進中の少年のため少女の体に触れるという行為を少し避けるようにしていた。


「・・・・はい、おはようございます。京真」


ここでさとりが起きなければ仕方なく揺すっていただろうが、さとりはありがたいことに一声かければすぐに起きてくれる・・・が


(眠そうな顔とちょっとついた寝癖が可愛らしいなぁ)


と、気を抜き、こんなことを思ってしまった時には、さとりはすぐにまた布団にくるまってしまうので注意が必要だ。


「・・・・・あまり今の状態の自分を見られたくないので先に食堂の方に行ってて下さい・・・」


「あー、ごめん。失礼だな。じゃ、先に行ってる」


京真が出ていくと、さとりは布団から出てきて少しニヤつき、


(可愛らしい・・・ですか・・・えへへ・・)


と、恋する乙女モードに入る。こうなってしまっては”覚妖怪”であるさとりも普通の状態に戻るのには時間がかかる。鏡の前に向かっては髪を整え、満足するまでその場から離れない。



そして、四半刻が経った。



「なぁ、さとり・・・。そんなにも朝食を食べるのが嫌か?それとも朝食はいいけど俺の作ったってことが嫌なのか?」


「す、すみません。少し寝ボケてしまって・・・」


空回りするのは日常茶飯事であり、その空回りがなくなり京真に真意が伝わるのはまだまだ先の話になる。





その後二人は食堂に向かい、二人で食事を食べ始める。・・・余談だがお空はまだ寝ている。


「京真の料理は今日もおいしいですね」


「んー?ありがとう。まぁ、こっちに来る前は一人暮らしだったから家事は任せてくれ」


「はい、お願いしますね。京真が来てくれるまでは料理をできる者がいなかったものですから改めて食事の大切さを知りましたよ。前まで食事は2日に一食だったので食事の重要性というものを知る機会がありませんでしたから。」


「そ、そうか。よかったよ・・・」

(やっぱ、さとりってどっか抜けてるな・・・)


「私の何が抜けているんですか?」


「いえ、何でもないです・・・」


そして、沈黙が流れる。しかし、決してこれは気まずさからくる沈黙ではない。所謂”心地いい沈黙”というものだった。

京真が地霊殿に住み始めた当初はさとりは京真の心を読み、京真は思考だけで会話をしていたが、”それじゃ、俺のコミュニケーション能力が低下するし、さとりも他の妖怪と話すときにすぐに相手の考えを口に出したらその妖怪と仲良くなれない。だからちゃんと口から出る言葉で会話しよう”という提案でさとりは心を読んでもそれを口に出さないようにしている。言葉と思考が完全に食い違っていた場合は指摘するようだが。


「京真、少し話があります」


「うん、どうした?」


「今日は地獄街道の方へ行き、比較的私とも交流がある妖怪、あくまで比較的にですよ、友人と言えるほどではありません。・・・まぁ、とにかくそのような妖怪達にあなたを紹介したいと思います。うまくいけばあなたと友好的な関係を築いてくれるでしょう」


「・・・それは嬉しいんだけどさ・・・・」


京真はこの提案に本心から喜んでいたが、少し複雑な感情も抱いていた。


「京真、あなたの気持ちはとてもうれしいです。けれど私はもう友人になるということは無理だと思います。確かに、もしかしたら一部の方たちとは友人になれるかもしれません。・・・ですが、私に自信というものがないんです。私は他の方に対して”罪悪感”というものを感じています。それは何が起ころうと消えることはないでしょう。それと・・・他の妖怪が私を恐れるように、私も彼らに対して”恐怖心”を抱いています。。私に対して、どういう感情を持っているのか。そんな知りたくない事も私は知ってしまう。あらゆる者の心の黒い部分を私は知らなければならない。そんなことを知るくらいなら、永遠にこの地霊殿で誰とも関わらず生きているほうがいいんです」


さとりは俯いていた。”覚妖怪”としてこの世に生を授かったものが必ず与えられる運命、孤独。いくら妖怪といえどもこの運命は一人の少女が背負いきれるものではなかった。


(・・・・・・)


京真は昔の自分とさとりを重ねあわせる。しかし、違うことがひとつある。さとりには”自分を助けられる友達”がいる。京真の場合は早苗と言う友達がいたが、早苗は京真の中の”渾沌”について知らなかった。だから、京真の問題について知ることができなかった。

だが、京真はさとりの能力についても知っている。さとりの問題も一緒になって考えられる。


「・・・でもさ、俺とは友達になれた。一度は拒絶したけど、友達がいる。何か悩みがあるときに相談したりするのが友達の役目。んで、相談された奴は友達としてそいつを助ける。友達ってのはそういうもんだと俺は思ってる。今回の場合、さとりが俺を頼って、俺がさとりの悩みを解決する。それでいいんだよ。これからは何かあったら俺を頼れ。俺もそっちの方が嬉しいしな」


そして京真は食事をしていた椅子から立ち上がり向かい合って座っていたさとりの横に移動し、手を差し出す。


「さっ、行こうぜ。俺たちの友達作りに」


外の世界で孤独の辛さを十分に思い知らされた京真は、今目の前にいる、恩人であり、大事な友達の少女の心から”孤独”を取り除きたいという気持ちで満たされていた。


「・・・京真・・」


「・・・お?おお!?」


手を差し出していたので手を握り返してくるであろうと京真は思っていた。しかし、なんとさとりは京真に抱きつくような形で彼の胸に顔をうずめた。


「すみません・・・けど、少しの間だけこうさせてください・・・」


「・・・・おk」


一見冷静にに見える京真。・・・だが


(落ち着け!落ち着くんだ、俺!こういうときは落ち着いて円周率を考えるんだ!3.14・・・・・・・やべぇ!3.14しかわかんねぇ!最近はπしか使わなかったからな・・・ん?π?・・・そういえばさとりのπが当たってる!当たってますよ!さとりさん!πが!)


相手が普通の人間ならよかっただろう。しかし、今京真に抱きつているのは妖怪。しかも心を読む妖怪。となるとこの思考も当然読まれているわけだ。


「ななななななんてこと考えてるんですか!!!京真はそんなこと考える人だったんですか!!?破廉恥です!!!」


(さとりよ、男は誰しも獣になりうるのだよ・・・・)


「そ、そんなことは関係ないです!!」


そして、お互いの照れを誤魔化すための不毛な争いが始まる・・・。しかしそこに核爆弾が・・・!


「さとり様ぁ、キョーマぁ、おはようー。・・・どったの?そんな二人とも顔真っ赤にして」


なんというBad timing。お空

がやってきたのだ!


「あー!キョーマ!さとり様を困らせてるな!?さとり様を困らせるような奴は私が懲らしめてやる!」


お空が頭上に大きな炎球を作り始める。


「落ち着け!お空!これには深いわけがあるんだ!」


「やめなさい!お空!今すぐに!」


二人は必死にお空の攻撃を阻止しようとする。が、


「・・・・あれ?なんでこんなん作ってんだろう?・・・まぁ作ったってことは必要なんだよね。よーし、イケー!」


お空が炎球を二人に向かって放つ。


「やりやがった、こんチクショーーー!つーか、物事忘れんの早すぎだろ!さすが鳥頭だな!・・・くそっ!」


「えっ?」


京真はそばにいたさとりを抱きかかえ食堂の窓を突き破り、強引に脱出。直後、地霊殿の食堂は爆発、炎上。二人は間一髪助かったが食堂がオシャカになった。


「大丈夫か?さとり。つーか、食堂が・・・」


「・・・ああ、また食事がない生活に戻るのでしょうか・・・?」


「駄目だ、聞いちゃいねぇ」


さとりは無情に燃える食堂を見つめ、茫然としていた。そこに、


「ただいま帰りましたー・・・って、何があったんですか!?燃えてるじゃないですか!」


お燐が帰ってきた。さすがにこの現実味がない光景に驚いているようだ。


「お帰り。まぁ、簡単に言うとお空が暴走した。・・・さとり、お燐が帰ってきたぞ」


「・・・・・ああ、お燐。お帰りなさい。・・・京真、もうこのまま出発してしまいましょう。このままここにいると精神が持ちそうにないので」


「いいぜー」


「じゃあ、お燐。少し京真と出かけてくるから私達が帰ってくまでにお空と一緒に燃えた部分を全て片づけておいてくれる?」


正気に戻ったさとりはすぐに主らしく従者に指示を出す。忘れていると思うが彼女はこの地霊殿の主なのだ。


「了解しました。では、いってらっしゃいませー!」


「行ってきます」


「行ってくるわ」









旧地獄街道は少しざわついていた。

ある建物のまわりにたくさんの妖怪が集まっていたのだ。


「なんかあったのか?あのお店に人が集まってるけど」


「・・・大体の想像はつきます。・・・あと、京真には迷惑をかけるかもしれません」


「どんとこい!、だな。早く行ってみようぜ」





「ちょっと失礼しますね」


「すみません、通ります」


二人がヤジの波を通り抜けるとそこには額から赤い角を生やした女性を様々なの妖怪が取り囲んでいた。


「やっぱりですか・・・・」


(さとり!あの人やばくないか?助けたほうがいいんじゃ・・・)


「いえ、大丈夫だと思いますよ」


焦る京真にたいし、さとりは落ち着いていた。この後どうなるかは彼女は分かっていたのだろう。


(本当か?さとりがいうなら信じるけどさ。・・・・あ!)


その時、妖怪の一人が角をもつ女性に殴りかかった。





それはほぼ一瞬の出来事だった。

女性は殴りかかった妖怪の攻撃を避け、そのまま殴ってきた腕をつかみ、勢いを利用して自分の後ろに立っていた妖怪に勢いよく投げつけた。そうとう勢いがあったらしく、投げられた側、投げつけられた側の両方ともがそこで沈んだ。

それを見て唖然としている妖怪達を投げ、殴り、蹴る。

気づくと取り囲んでいた妖怪は一人を残して皆倒れていた。


「頼む・・・見逃してくれ・・・・お前の種族を悪く言ったことは謝る・・・」


残った妖怪が助かろうと女性に懇願する。


「複数で喧嘩を売ってきた割には弱いし、最後には命乞いかい?本当につまらない奴らだね。・・・いいよ、お前らは殴る価値にも値しない。倒れてる連中を連れて早く消えな。目障りだ」


女性がそういうとその妖怪はすぐに倒れた仲間を担ぎ店を出ていった。すると、集まっていたヤジも自然となくなっていき、店のなかには角の女性、京真、さとりの3人だけになっていた。


「しばらく見ないうちに面白い奴を連れてるじゃないか。さとり」


女性の目がさとりと京真をとらえる。


「そうですね、最近私の従者になった笛吹京真です。・・・・あと今は誰もまわりにいないので言いますが、あなたが思っている通り彼は人間です」


(な!大丈夫なのか?)


「京真、私を信じてください」


さとりがいままでにない真面目な顔で語りかける。それがさとりの覚悟を証明していた。

さとりの覚悟、それは相手が知りたがっていること、今回の場合は”京真が何者であるか”、それを教えることによって”こちらは何も隠す気はない”ということを証明し、対等な立場で話すことを約束する。しかし、妖怪は人間を食べる。通常の妖怪から見たら京真は単なる食料でしかない。だから”京真=人間”という情報は今回、最も価値のある情報なのだ。

そしてさとりは京真に好意を抱いている。

つまり、さとりの覚悟とは大切なものを危険にさらしてでも目的を達しようという覚悟だった。

京真には多大な危険が及ぶが、それは”さとりがそれだけ京真に頼っている”ということと同義、京真に不満はなかった。


「ああ、やっぱりか・・・。しかもその人間、ちょっと特殊なんだろう?妖力を纏っているからな。じゃあ、少しは頑丈だよな?」


女性の手のひらの上に人の頭ほどの大きさの光球が作られる。それは京真でも分かるほどの量の妖力が込められていた。


「ちょっと試させてもらう・・・よっ!」


そしてその光球を”さとり”に投げた。

凄まじい速さでさとりに迫る。


(まずい!このままじゃさとりが・・・!あれを食らったらただじゃすまない!・・・・俺に出来ることは・・・・死んでも”友達”を守ること!)


京真が光球とさとりの間に割って入る。その時京真の瞳は・・・



青く光っていた。










光球の衝撃で舞い上がった砂煙が徐々に晴れていく。

そこにはさとりと、さとりを守るようにして立つ青い瞳の京真が立っていた。


「大丈夫か?」


「え、あ、はい・・・でも、京真は・・・」


さとりが心配したのは京真の背中。背中で光球を防いだので京真の背中は少し肉が抉れ、血が流れていた。

そして、京真は角の女性の方に振り返り、右手の人差し指を付きつける。


「おい、あんた・・・」


「なんだい?」


「ここじゃ、やりにくい。表へ出ろ」


「・・・・私と喧嘩するってのかい?」


「ったりめぇだろうが。早く出ろ!」


この言葉をきき女性は大声で笑い出した。


「ははははははっ!いいねぇ!久しぶりにいい男にあったよ!しかも人間だなんてね!やっぱり、種族間の宿命は消すことはできないんだねぇ!じゃあ、早くでようか!」


「ま、待って下さい!私達はそんなつもりで来たんじゃありません!・・・京真も、落ち着いてください!」


慌ててさとりが止めに入る。しかし、二人は完全に戦うつもりでいる。きっと止まらないだろう。


「悪い、さとり。取りあえず今はさとりを傷つけようとしたあいつを殴りてぇんだ。行かせてくれ」


「・・・・で、でも駄目です!京真には分かってませんがあの人は”星熊勇儀”!種族は”鬼”!少し妖力があっても何も訓練も受けていない人間のあなたじゃ絶対に勝てま・・・!」


さとりの言葉が途中で途切れる。

京真がさとりを抱きしめたからだ。


「大丈夫。すぐに帰ってくるから」


そういうと勇儀と京真は共に店であった建物から出た。






建物に面している旧地獄街道の大通りで二人は向かい合う。


「見せつけてくれるじゃないか。もうさとりとはできているのかい?」


「さとりとはただの友達だ」


「そうかい。そうは見えないけどね」


「そんなことよりさっさと始めようぜ」


京真は心底苛立っていた。戦いの前に無駄なことばかり話す勇儀に対して。


「じゃあ、始めようか!まずは鬼と人間の決闘前のならわしとしてお互い改めて名乗ろうじゃないか!


私の名は星熊勇儀!怪力乱神をあやつる鬼だ!」


勇儀が構えを取る。


「俺の名は笛吹京真!神獣・渾沌をこの身に宿す人間だ!」


京真も取りあえず構えを取る。


「やっぱりかい。そんなことだと思ったさ。まぁ、いい。


いざ!」


「「勝負!!」」


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