さとり
甘い・・・ですね。
取りあえずどうぞ。
覚妖怪
古来より、山に住む妖怪で、時たま人々の前に現れては相手の考えていることを先読みし、混乱させたり、相手の戦意を喪失させて最後には捕食すると言い伝えられている。
もちろん京真もそう思っていた。
しかし、どうだろうか、目の前にいる覚妖怪はどうみてもただの幼い少女であり、人間を食い殺すようには見えないのだ。
(まぁ、調べていたのと違って、人を食べなさそうなただの可愛らしい女の子にしか見えない。・・・それはいい。覚妖怪なら心を読めるはずだ。それが問題なんだ。考えが読まれるのはなんか・・・気持ち悪いな・・・うん?)
「か・・・可愛らしい・・・・」
気付くと”古明地さとり”と名乗る覚妖怪が顔を真っ赤に染め上げていた。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いえ、この地霊殿以外の人と話すのが久しぶりなので、少し緊張しているだけです・・・。あと、覚妖怪について知識があるようですね」
(あれ、俺そんなこと言ったっけ?ただ思っただけのはず・・・まさか!)
そう、京真は何も覚妖怪についての知識については口に出していない。”心の中”で考えただけである。
「そのまさかです。今、勝手ながらあなたの心を読ましていただきました。私が覚妖怪であることは信じていただけましたか?」
「・・・はい」
”心を読む”これは人間からするとどんな武器よりも驚異になりえるものだ。どんな優れた作戦を立てても心を読まれればその裏をかかれ全てが崩壊する。
(でも妖怪がいる世界ってことは俺みたいな妖怪じゃないけど完全な人間でもない奴も一人はいるだろうなぁ)
「”俺みたいな妖怪じゃないけど完璧な人間でもない奴”?それはどういうことですか?」
(Oops!心が読めたんだった!このままじゃ渾沌のことがばれる!)
「渾沌?渾沌とはあの四凶の神獣・渾沌ですか?」
京真の中で何かが変わった。
「・・・あーーー!しゃらくせぇ!」
”面倒くさい”京真はそう思い、”よく考えて行動する”という思考を捨て、”考えるよりも行動を先にする”という思春期の少年ならではの思考に変えたのだった。
「俺の名前は笛吹京真です!多分人間に見えてると思いますけど四凶のうちの一匹、渾沌を体ん中で飼ってます!」
「!!??」
さとりはいきなり大声を出されて驚いていた。
「え、えと、すみません・・・取り乱しました・・・。笛吹さn「京真でいいですよ!」・・・京真さんはなぜ地霊殿の前で気絶していたんですか?」
「八雲y「なるほど。八雲紫に幻想入りを認められ、スキマから幻想郷に入ったところ地霊殿の前で気絶していたと」・・・ああぁぁ!」
どうやら、思春期少年の特有の思考は覚妖怪の前では意味をなさなかったようだ。それもそうだ、人間である以上思考をやめることは不可能。だから、覚妖怪は侮れないのだ。
「次に渾沌を体内で飼っているとはどういうことですか?」
「・・・「ふむふむ。物心ついた時から直感で自分の中に何かがいると思ったんですか。なんとまぁ、曖昧な。けれど、八雲紫に認められて幻想入りしたということはそれは本当のようですね。・・・・・・・・・・」・・・」
さとりはひとしきり京真の心を読むと黙り込んでしまった。
(どうかしたんですか?)
「・・・いえ、神獣を宿す者はその神獣の能力を使用できるだけでなく、印象などもその神獣と同等になると聞きます・・・。四凶という最も人々から忌み嫌われる神獣を宿してしまってここまでの時間、どう過ごしてきたのだろうと思っただけです・・・・。すみません、失礼なことを思ってしまい」
さとりは申し訳なさそうに、俯きながら話した。
(・・・そうですね・・・。確かに孤独に生きてきました。けど、そんな俺にも友達と言える人がいたんですよ。けど、俺はこっちに来てしまいましたけどね・・・。後悔はないです。俺みたいなやつと一緒にいたらそいつも嫌われるって思ってこっちに来たんで・・・。まぁ、こっちは人間のほうが少ないって聞いたんでこっちではたくさん友達ができたらいいなぁって思ってます。)
京真の頭の中に早苗が思い浮かぶ。今、何をしているだろうか。心配しているのだろうか。そんなことを考えてしまう。本当にこっち
幻想郷
に来てよかったのか。あの時の決意がこう簡単にも揺らぐ。
「・・・残念ながら、それは叶わないかもしれません・・・。確かに幻想郷は妖怪、妖精などが多く住んでいます。しかし、ここ、幻想郷の地底は人々はもちろん、妖怪からも嫌われる者たちが集められています。多分、八雲紫があなたを地底に幻想入りさせた理由は、あなたが”四凶”という強大な負の神獣を宿しているからだと思います。けれど、私から見るあなたは少なくとも地底の妖怪たちとはうまくやっていけそうな気がします。今、私の使いに地底でのあなたの住居を手配させています。だから、住居が見つかり次第、すぐに地霊殿からは出たほうがいいでしょう」
”八雲紫はいずれ害をなすかもしれないと考え自分を嫌われ者の住む地底に追いやった”そんなことはどうでもよかった。それはいままでと同じだからだ。それに今回はひとりではなく他にも地底に追いやられた者たちがいる。今までより恵まれている。だから、気になったのはそこではない。”住居が決まり次第地霊殿から出たほうがいい”ということが気になった。
(すぐに出たほうがいいとは、どういうことですか?)
「・・・・・私がどんな妖怪かは知ってますよね?・・・・・・そうです。人間、妖怪関係なく心を読める覚妖怪です。あなたは心を読まれることを”気持ち悪い”と思ってましたね。それが普通です。皆、気持ち悪い、と思います。それは地底の妖怪たちも例外ではありません。つまり、私は”地上、地底関係なく全ての人間、妖怪”に嫌われ、恐れられているんです。そんな存在と一緒にいてみてください。あなたも地底の妖怪から嫌われてしまいますよ。・・・それが、この地霊殿を早めに出たほうがいい理由です」
(そんなこと・・・・・!)
「「さとり様ぁぁぁぁぁ!!」」
その時、部屋の扉が大きく開け放たれ、二人の少女が勢いよく入り込んできた。
一人は赤髪でその中に猫耳があり、ゴスロリと言われそうな服を着た少女、もう一人は長い黒髪に黒く大きな翼、そして、さとりと猫耳の少女にはない大きく膨らんだ胸部。
「お燐
りん
もお空
くう
もどうしたの。そんなに急いで。・・・ああ、京真さんの家が見つかったのね」
どうやら”お燐”と”お空”と呼ばれるこの二人がさとりの使いのようだった。
さとりが京真のほうに向きなおる。
「では、行きましょうか」
道中、京真はさとりに言われたことについて考えていた。
”私は”地上、地底関係なく全ての人間、妖怪”に嫌われ、恐れられているんです。そんな存在と一緒にいてみてください。あなたも地底の妖怪から嫌われてしまいますよ”
これは京真が早苗に対して思っていたことと全く同じことであった。
どうだろうか、思っている本人としてはこれが正しいと思うだろう。しかし、思われている側としてはそんなこと知ったことではない。
そう、この考えは決して間違ってはいない。だが、正解でもない、率直に行ってしまえば一方通行で自己満足な考えなのだ。
(きっと早苗は怒ってんだろうなぁ。ホントに悪いことしたよ。でも、ここで後悔してももう向こうには帰れない。俺は今できることをする。それが今俺が積める最大の善行だ)
「ああ、そういえば私たちはまだ自己紹介をしてなかったね」
猫耳の少女が京真に話しかける。どうやらこの少女は地底に住んでいるがとても社交的な性格のようだ。
「私はの名前は火焔猫燐
かえんびょうりん
。皆、私を”お燐”って呼ぶから君もそう呼んでいいよ。そっちの方がなれてるしね。あと私を猫又って勘違いする人も多いけど、私は”火車”って妖怪だよ。そしてこっちが・・・・」
「私は霊烏路空
れいうじうつほ
!みんな”お空”って呼ぶよ!」
「この子は地獄鴉っていう妖怪でね、ちょっと頭が弱いところがあるからそこらへんは大目に見てあげて」
「お、おう。了解した」
この二人、初対面の京真から見ても仲がいいことがよく分かる。
二人は本人たちに言わせるにさとりの従者ではなく、”ペット”らしい。
「俺は笛吹京真。渾沌っていう神獣を体内で飼ってる。でも一応人間に含まれるのか?呼ぶ時は笛吹じゃなきゃなんでもいいよ」
「じゃぁ、お燐!キョーマのことはキョーマって呼ぼうよ!」
「うん、それでいいな。京真で頼む」
この二人、特にお空、とてつもなく明るく、優しい。京真は少し羨ましく感じた。”この優しさにつけこむ奴がいなきゃいいんだがな。・・・頭も弱いし”と心配もしたのはここだけの話。
そして”旧地獄街道”と呼ばれる街中に入った。
どうやらこの街中に探してくれた家があるそうだ。この街、なかなか賑やかである。様々な種の妖怪たちが闊歩している。幻想入りしてから出会った、さとり、お燐、お空は下手をすれば妖怪だと気付かないほど人間に似ている。お空には翼があるが・・・。
しかし、この旧地獄街道。半分ぐらいの妖怪が人外であった。ここにきてやっと本格的に幻想入りしたことを実感する。
「うはぁー、なんか別世界に来たって感じがするわ」
「京真さん、ここでそういうことをいうのは控えてください。あなたは渾沌のおかげで妖力を帯びていますが、それでもあなたは人間なんです。妖怪は基本、人間を食べるんですから絶対にばれないで下さい」
(す、すみません・・)
この時には完全にさとりと京真の会話は”京真が考え、さとりがそれを読む”という形式が確立していた。
(けど、なんか最初から俺達ジロジロ見られてませんか?)
「・・・・・・それは京真さんのせいじゃありません。私のせいです。ここにいる方達は私をよく思っていませんから」
(あ・・・すみません)
「いえ、慣れてますから」
思い沈黙が場に漂う。しかし、京真の心が読めないお燐&お空はなぜ二人が気まずくなっているのか全く分からなかった。
そして少し歩くとお燐&お空が見つけた京真の住居があった。
「ここだよー。私とお空が苦労して見つけたんだからねー。大事に使ってよー」
「使ってよー」
”本当に仲がいいな”改めて思ってしまう。
(こんな友達が欲しいなぁ。・・・・・・そのために俺がしなきゃいけないことは・・・まず、心を読まれたら駄目だ!)
京真の両目が日本人らしいこげ茶色の瞳が青に変わる。
(京真さんに漂う妖力が増大した?・・・・心も読めない・・・!?・・・どういうことなの!?)
京真が口を開く。
「古明地さん、俺を介抱してたあの部屋って空き部屋ですか?」
「え?・・・はい、あそこは誰も使っていませんよ。どうしてですか・・・?」
「お燐とお空には悪いですが、もしそちらがよければ俺を古明地さんの従者として雇ってくれませんか?給料とかそういうものはいりません。部屋とご飯がもらえたら嬉しいですが・・・」
「え?・・・・そ、それは・・・・」
思わずさとりは黙ってしまう。それもそうだ。初めて考えを読めない相手と話しているのだ。話す相手の”意図”が分からない。それは様々な人間、妖怪から恐れられるさとりからすると最大の恐怖であった。
「さとり様、私とお空は賛成です。正直、私とお空じゃ大変な仕事もありますし、男手がふえるのは色んなことで心強いです」
「遊び相手も増えるしねー!」
”遊び相手かよ!”と少し毒づく京真。
「・・・・」
さとりは悩んでいた。相手は遠まわしに”ここから出ていけ”と言ってしまった相手。そして、心が読めないという恐怖もある。だが、なぜか彼と一緒にいたいという気持ちがあった。
地霊殿を出たほうがいい理由を言った後、京真は、”そんなこと・・・・・!”と思っていた。その言葉の続きはなんだったのだろうか。淡い期待を抱いてしまう。
それを除いても彼は今まで自分を嫌い、恐れた者たちとは違った。心を読まれても嫌な顔をしないどころかそれを利用して普通に会話をしてきた。
しかし、私といると彼は必ず他の妖怪と付き合ってはいけなくなる。その考えが今までの期待を拒む。
「古明地さん、”私といると他の妖怪と付き合っていけなくなる”って思ってるんでしたら、それに関しては大丈夫です。俺は少なくとも古明地さんがいてくれればそれでいいですから」
「え・・・・」
さとりの心は真っ白になった。”自分がいればそれでいい”そんなことを言われたのは、いや、誰かに必要とされたのはさとりにとって初めてのことだった。
「そんなわけでよろしくお願いします」
京真が頭を下げる。さとりはそんな京真を見て思う。
(確かにこの人は初めてだらけの人。心を読んでも普通に接してくれる。今は心が読めない。そして、私を必要としてくれる。・・・・・・なんなんだろう?この人と一緒にいたい。この人は絶対に離れていかない。そう確信できる。だったら・・・)
「分かりました。笛吹京真さん、あなたを私の従者として雇います。その代わり私が解雇することも、あなた自身からやめることもありえません。それと私のことはさとりと呼んでください。私もあなたを京真と呼びます。敬語も必要ありません。それでいいですか?」
(この気持ちを受け入れよう。たまには私だって冒険してみたい。・・・・・・でも、まだ知らない気持ちがある・・・)
「・・・分かった。・・・あともう一つお願いがあるんだが・・・」
突然、京真の妖力、瞳が元に戻る。京真の優しい眼差しがさとりをとらえる。京真の心から、口から、言葉が届く。
「なんでしょうか・・?」
(ああ・・・
「さとり」
(さとり)
そうか・・・・
「俺と」
(俺と)
私は・・・・
「友達になってくれないか?」
(友達になってくれないか?)
この人のことが好きなんだ・・・・・)