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東方調和抄  作者: ひみーる
そこにきたのは
1/13

幻想

初めまして、ひみーるというものです。


取りあえず読んでってください。

 「この世界に神はいるのか」


 この授業の黒板には確かにそう書かれていた。その横には採決の結果が書かれている。


 いないと思う:34人


 いると思う:4人


 中学3年ということを考えれば4人というのはまだ多いほうだろう。しかし、4人にもそれぞれの考えがあるに違いない。


 ただ他人と違う考えを持ちたいだけの者


 ただただ神がいてほしいと願う者


 自分がそういう関連の仕事をしている者


 そして、




 自分の中にそういうものを飼っている者




 神はいると思うと考える一人、笛吹京真

うすいきょうま

は4番目の理由で神は存在すると考える。が、彼が飼っているのは神ではない。神に近く古来より人々に崇め奉られてきた獣



 神獣



 神獣と言われ真っ先に出てくるのは「四神」と言われている「青龍」「朱雀」「白虎」「玄武」だろう。


 京真はそのような大きなものを背負ってこの「幻想」なき世の中に生まれてきた。

 しかし彼が背負ってしまったのは先に話した「四神」のような一般に人々から好かれる神獣ではなかった。



 渾沌

こんとん




 それが京真の中に宿る神獣の名だ。


 渾沌とは「四凶」という神獣のカテゴリーに属しており、その名の通り混沌

カオス

を司る神獣で古来より人々から忌み嫌われてきた神獣である。


 だが、忌み嫌われてきたと言っても、現在、渾沌という神獣を知っている人間のほうが少ないだろう。知っていたとしてもその存在を信じることなく伝説上でしか生きられない、すなわち「幻想」としか思っていないだろう。


 そう、世界から存在を忘れ去られているのである。世界から存在を否定されたのである。


 そのような神獣

幻想

を宿しているからこそ彼は、京真は神を信じる。








 授業が終わり、放課後になると当然だが部活に入っていない生徒、帰宅部はまっすぐ家に帰る。京真もその一人であり、同級生の少女、東風谷早苗

こちやさなえ

とともに下校していた。


「なんで、笛吹君は神様がいると思うんですか?」


「なんでって聞かれても、いると思うからそう思うんだよ」


 さすがに”いきなり「実は俺の中に渾沌っていう神獣がいるんだよ。へへっ」みたいなことを言い出したら確実に引かれる”ということは京真も分かっていた。


「そうなんですか。いると思いますかぁ」


「なんでニヤニヤしてんだよ」


「いえいえ、何でもないですよ」


 早苗は京真が神を信じていることが嬉しいのか京真を見てはニヤニヤと笑っている。京真からすれば不気味なことこの上ない。


「じゃあ何で東風谷は神を信じてんだ?」


「えっ?えー・・・それは・・・もちろん!私が神に仕える風祝

かぜはふり

だからですよ!」


「風祝ねぇ、まぁ神社の巫女さんだし神を信じるのは当然か」


「巫女と似たようなものですが巫女と風祝は違いますよ!そこらへんは気を付けてください!」


「そうだな。すまん」


 ”まぁ、どっちでもいいよ”と内心面倒くさがっている京真だが表面だけでも謝っているのは優しさと言ったところか。

 その後、二人は何も話さずに歩いていた。


(こいつが神に仕える巫女?いや風祝か。まぁ、どちらにしろ本当に神なんてものがいるなんて考えているのかと疑ってしまうのはさすがに失礼だよな。でも、多分渾沌のことは信じてくれないよなぁ)


「では、私はここなので失礼しますね」


「お、おう」


 考え事をしていたところいきなり声をかけられたので京真はさすがに驚いた。どうやら早苗の家であり職場でもある神社「守矢神社」に到着したようだ。


「あ、でも待ってくれ。たまにはお参りしていくよ。さすがにこの神社の神様に失礼だ」


 そう、この帰り道を何回も通っているが京真が守矢神社に参拝したのはほんの数回だ。


「ありがとうございます!では、私は着替えてくるので笛吹君は境内のどこかで待っていてください」


 そういうと早苗は神社の住居区のほうに足早に入って行った。


(なんであんなに嬉しそうなんかなぁ。ただお参りするだけなのに。・・・・うん?)


 京真は神社の賽銭箱近くに二人の人がいるのを見つけた。1人は背の高い特徴的な髪型をし、赤い服を着た大人の女性。もう1人は目玉のような飾りがついた帽子をかぶったランドセルが似合いそうな少女。


(あの二人よくいるなぁ。東風谷の親戚かなんかかな)


 京真が二人を見ているとむこうも京真に気付いたのか視線を投げかけてくる。


「あ、こんにちは。お二人ともよくこの神社で見かけますね。神社の方ですか?」


 二人にそう聞いてみると二人とも普通の驚きようじゃない顔をしたが、すぐに普通の顔に戻り背の高いほうが返事を返した。


「あ・・・ああ、私たちは二人ともこの神社で神職のようなことをやらしてもらっている」


「そうでしたか。自分は笛吹京真というもので、この神社で巫女・・・いえ、風祝をしている早苗さんと仲良くさせてもらっています。・・・・・あと、自分はその子になにか気に障る事でもしてしまったんでしょうか?」


 気がつくと、不思議な帽子をかぶった少女が京真をすさまじい目つきで睨んでいた。


「ああ、君が笛吹君か。早苗からよく話を聞く。あと、こいつのことは気にすることはない。結構な人見知りなんだ、許してやってくれ」


「神奈子!私はそんなんじゃなっ・・・」


 少女が反対しようとするが、神奈子と呼ばれた女性に口をふさがれてしまった。


「本当にすまない」


「いえ、全然大丈夫です。そういう年頃なんでしょうし」


「そういってくれると助かる。ああ、まだ名前を言っていなかったな。私は八坂神奈子

やさかかなこ

でこっちが・・・八坂諏訪子だ」


 この紹介に諏訪子は不服そうな顔をしているが何も言ってこないのでよしとすることにした。


「では、よろしくお願いします。神奈子さん。諏訪子ちゃん」


「ああ、よろしく」


「・・・よろしく」


「笛吹くーーん!お待たせしましたーーー!」


 自己紹介が終わったところでちょうど早苗が着替え終わり住居区から境内のほうにやってきた。制服から着替えても蛙と蛇の髪飾りはしっかりとつけている。


「いや、あまり待ってない。それにこの二人と話してたからな。暇はしていない」


「えっ?この二人って、誰と誰ですか?」


「なに変なこと言ってんだよ。ここに二人いるじゃねぇかって・・・・あれ?」


 京真が振り向くと神奈子と諏訪子がいたはずの場所には誰もいなかった。


「いやいや、ここにいたんだよ。八坂神奈子って人と、八坂諏訪子って子が。いや、マジで」


「・・・それはほんとですか?」


「お、おう」


 早苗が京真に詰め寄る。


「その二人と話したんですか?」


「あ、ああ。話した・・・・あと、近いぞ・・・東風谷・・・」


 早苗は絶対に離すまいと京真の肩をがっちりと掴んでいた。


「嘘じゃありませんよね?本当のことですよね?」


「だから、ほんとだって。嘘じゃない」


「・・・・・・」


 早苗は京真の言葉を聞くと黙って下を向いてしまった。当然京真は焦る。


「おい、東風谷・・・・だいじょうb「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ついに見つけましたぁぁぁぁぁ!」なぁ!?」


 京真が心配し下を向いていた早苗の顔をのぞきこもうとすると早苗がいきなり歓声を上げて抱きついてきた。まぁ、そうなると当然早苗の柔らかな双丘が京真にあたるわけで。しかも巫女服というとてもとても柔らかい生地。


「お、おい!離せ!なんかやばい!やばい!」


「やっぱり、笛吹君はできる男だと思ってましたぁぁぁ!」


 ”駄目だ、こいつ聞いちゃいねぇ”京真はほとんど諦めかけていたが、さすがにこの状態はまずいのでなんとかこの状態をやめさせることにした。


「あ、UFO!UFOが飛んでるぞ!東風谷!」


「えっ!どこですか!?UFOどこですか!?」


「よしっ!じゃあな、東風谷!また明日な!」


 ファインプレーによりなんとか早苗の呪縛から解放された京真は一目散に境内から駆け出した。


「あっ!待ってくださーーい!」


 もちろん早苗はそれを追いかける。するとにぎやかだった境内は誰もいなくなったと思われたが、先ほどどこかに行ってしまっていた神奈子と諏訪子が入れ違うように戻ってきた。


「ねぇ、神奈子」


「ああ、あいつはとんでもないものを中に飼っているな。だから私達を視認することができた」


「あいつを早苗に近付けていいのかい?」


「渾沌なんてそうとう昔に消えたと思っていたんだけどねぇ。まぁ、もしあいつが自分から好んでこちら側にいない限り、近々幻想となり世界からは消えるだろうね。渾沌なんて誰もいてほしいとも願わない。もちろん、神である私もね」


「そうかい。でも、私達もそろそろ考えなくちゃね。もう私達に信仰を捧げる人間なんて数えるほどしかいない。このままだと信仰によって成り立っている私達も幻想になるどころか完全に消え去ってしまう。だから、私達も、あいつも。安心して暮らすには行かなきゃならない」



 



幻想が集う世界、幻想郷へ








「ああ、逃げ切ったか。あいつ、帰宅部女子のくせになんて体力なんだよ。こっちが普通の男子だったら捕まってたな」


 京真が早苗から逃げ切った頃には夕焼けが完全になくなり、空は真っ暗闇に変わっていた。


「くそっ。ランダムに逃げたから家から相当遠い場所じゃねぇか。・・・まぁ、心配する人はいないからいいんだけどな。・・・はぁ」


 京真の中には渾沌、人から忌み嫌われる神獣が宿っている。渾沌からの悪い意味での加護で京真は教員、同級生、家族からも疎まれていた。


(東風谷は何でいつも話しかけてくるんだろうか。俺なんかに関わってるとあいつまで嫌われることになるのに)


 早苗の顔を思い浮かべる。京真は渾沌を宿すことで人生のほとんどを独りで生きてきた。生まれた直後に実の両親に捨てられ、養護施設では表面的には大切にされたが、内面では早く出ていってほしいと思われていただろう。そして、里親に引き取られはしたが中学生になるやいなや一人暮らしをさせられた。クラスに関しては小中共にいじめられることもなく、ただその場にいないかのように扱われていた。


 しかし、早苗は違った。帰る方向が一緒だからといつも一緒に帰ってくれた。休みの日も色々なところへ連れて行ってくれた。


 この京真の人格があるのは早苗のおかげである。


 そして、ふと口ずさむ。


「・・・もし、俺がこの世界から消えたら、東風谷は悲しむだろうか」


「それは分かりませんわ」


「なっ!」


 あたりを見回す。誰もいない。あるのはただの住宅街。だが、確かに聞こえた。女性の声が。


「今探しても無意味ですわよ。そこに私の姿はないのですから」


「じゃあ、早く出てきてほしいもんだな」


「あら、意外と冷静なのですね。もう少し子供っぽいと思っていましたわ」


 ”この人、とにかく話し方が胡散臭いな”京真の感想である。とにかくこの女性の話し方は何を言っても信じられないような胡散臭さを纏っているのである。


「こちとら体にバケモン飼ってるからな。並大抵のことじゃ驚かないんだよ」


「渾沌、ですわね」


「・・・なんで知ってる?誰にも話した覚えはないんだが」


 心に焦りが生まれる。何故渾沌のことが知られているのか。京真にとって渾沌とは誇れることでもあり、憎悪の対象でもあり、数少ない弱点でもある。


「まぁ、さすがに姿を見せないのは失礼ですわね」


 そういうと京真の目の前の景色が、裂けた。そしてそこから一人の女性が出てきた。


 あまり見られない形の特徴的な帽子、長く美しい金髪、まるで異世界からやってきたようなゆとりのある服、そしてゆとりがあるのにも関わらず大きく膨らんだ胸部。


「初めまして、私、幻想を楽園へ誘う者、八雲紫

やくもゆかり

と申します。以後お見知りおきを」


「え、あー、えー、自分は笛吹京真です。はい」


 あっさりと名前を明かしてくるので京真は混乱する。混乱は渾沌の十八番

おはこ

なのだが。


「えと、八雲さんは何か用でもあるんですか?」


「そうですわね、その前にいくつか質問してもよろしくて?」


「え、はい」


「では早速。まず、あなたはあなたの中に宿る「渾沌」を信じる人を見たことはありますか?」


 紫は真っすぐ京真を見据える。決して嘘をつくことを許さないかのように。決して目をそらすことを許さないかのように。


「ない・・・です」


「では、次に。あなたは「渾沌」を知っている人を見たことはありますか?」


 ない。そう、知っている人物すら見たことがないのだ。自分の本質を知る人物がいない。あの早苗でさえも京真の本質を理解していない。その事実が京真に深く突き刺さる。


「・・・ない」


「そうですか。これが最後です。あなたはこの世界で生きていきたいと願いますか?」


生きていたい、か。”そうきたか。俺がこの世界にいても誰も幸せにできない。このまま生きていても早苗が隣にいてくれるだろう。しかし、それは早苗のためになるか?いや、ならないな。俺と一緒にいるだけでも他の人間がそれをおかしいと言い、自分の周りから除外しようとする。早苗にはそうなってほしくない”京真は考える。そして彼は・・・


「・・・もし、そんなことができて、そうすることで早苗が幸せになれるんだったら、俺は喜んでこの世界からいなくなる!」


彼は断言する。現を守るために幻想になることを。


「・・・あなたの覚悟、決意、十分に分かりました。では、歓迎しましょう。ようこそ、幻想が闊歩し、幻想が全ての世界、幻想郷へ」


 京真の立っていた場所が先ほど紫が出てきたときのように裂け、京真は、その裂け目に、落ちた。








 次に京真が目を開けると、そこはなにやら建物の中だった。布団の上だということも分かった。


「お目覚めになりましたか」


 またも女性の声が聞こえる。しかし、初めて聞く声だ。それに女性と言うには少し幼い。


「・・・ここは・・・どこd「いえ、言いたいことは分かります。ここは幻想郷。この場所は幻想郷の地底にある館「地霊殿」。そして、私はこの地霊殿の主である古明地

こめいじ

さとりです」





 こうして、体に神獣・渾沌を宿すもの、笛吹京真の幻想郷生活が始まる。


多分長めに続く予定ですのでよろしくお願いします。

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