絶対答えるゲーム
掲載日:2026/05/10
いつもの帰り道。
スニーカーの底が溶ける感覚。
川の水が蒸発しそうに見えた。
いつもここで足を止める。
車一台だけが通れる古い橋。
頑張って手を伸ばせば、彼女に指先が触れそうな距離。
「じゃあ次、お前」
蝉の声に負けないよう、大きな声を出す。
「昨日、アイス何本食べた」
人差し指を立てながら、大袈裟に聞く。
彼女は制服の胸元をパタパタとしている。
「二本」
少し思い出しながら答える。
視線は合わない。
足元の石を蹴ると、川に落ちて消えた。
思いの外大きく、足が痛む。
「お腹壊すよ」
そう言いながらお腹を抑えた。
くだらない質問を投げ合って、笑って、また次を考える。
“聞かれたことには絶対答える”。
いつから始まったのかも覚えていない。
ただのゲームだ。
─蝉の声が止む。
彼女は視線を落とした。
遠くの街が、茜色に滲んでいた。
「好きな人いる?」
とても、長い沈黙。
耳元で騒ぐ蚊を払うのも忘れた。
川から風が吹きあげ、遠くの電車の音をかき消す。
─ルールを破ったのは僕だ。
ワイシャツの胸ポケットから煙草を取り出す。
橋に手をかけ、川底の石を眺める。
足が痛んだ。




