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元勇者、我が子と国道沿いをうろつく  作者: ---


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第4話 バーバーバンバと死刑の令嬢

 冬の夜は当たり前だが冷え切っている。

 国道から道路一本分奥に入ると、それだけで結構暗かった。

 そんな場所を、大きな旅行カートをガラガラ引いて歩いているインバウンドの集団がいた。

 外国語で楽しげに談笑していた彼らは、しかし、とある『領域』に入ったとたんに一斉に驚いた様子でしりもちをついてしまう。


「うッ……!?」


 信じられない表情で目を見開き、お互いの顔を見つめあうインバウンドの方々。


「……う……う……。

 ……。

 ……うわああああーーーーっ!

 俺は今、すべての日本語が理解できます!!」

「わ、私もです! これはいったいどういうことですか!?!?!?」

「私も日本語がわかります! 逆に、母国語がしゃべれません!!!!」


 暗い住宅街の中で、日本語で「日本語がわかる」「日本語しかしゃべれない」と大騒ぎするインバウンドの皆さん……はたから見るとまったく意味不明な状況だ。

 しかし、今までこの小説を読んできた方にはご存じの通り、これは轟剛三郎のメチャメチャな魔法のせいである。


 ……一連の大騒ぎの様子を、轟剛三郎は店舗併設(へいせつ)型の古い一戸建てであるバーバーバンバの二階のベランダから見ていた。

 彼は「アッヤベッ」という顔をした後に、湯呑ゆのみに入ったあたたかいほうじ茶を一気に飲み切って、そそくさと家の中に逃走していく。

 路上のインバウンドの方々は「すべてがわかる……なにもかもが!!!!」などと恐ろしいことを言いながら、まだまだ大騒ぎしてしまっている。

 いやもうあれは、大騒ぎしてしまっても仕方のないことだろう。

 早くその場を離れれば解決するのですが……。


 彼らから少し離れたところにあるバーバーバンバの一階の店先には、床屋の店先にあることでおなじみの赤・白・青の縞模様しまもようが回転する例の円柱状の看板、サインポールがくるくる光って回っていた……。




☆☆☆




(……言語変更魔法って、結構無差別に広範囲に適用されるんじゃな。今のは見なかったことにしよーっと……)


 轟剛三郎はマアマアクズなことを考えながら階段を下りて一階に降りる。

 轟剛三郎と番場烈は子どものころからのおさななじみなので、お互いの家の構造も勝手に飲んでいい飲み物も、まるで自宅のように理解しているのだった。

一階の台所で湯呑を洗いおえた轟剛三郎は、そのままバーバーバンバエリアに顔を出す。


「おう番場、アンジェリカの長い髪はどうなった?」

「さっき切り終わったぜー」


 番場はアンジェリカの髪を切り終えて、ケープを片付けているところだった。


「本人が自分の外見にあんまり興味なさそうだったから俺が勝手に選んだわ」

「おおー」

「頭の形と顔の輪郭に合わせた無難な前下がりボブだぜ」

「おおーーーー」


 轟剛三郎は髪の話などまったく専門外なので、こくこくうなずきながらおおおお言うしかない。


 番場はさすがプロというべきか、アンジェリカの髪は綺麗なボブヘアーになっていた。



「ここはこの世の楽園ですわ……こんなに読み物があるなんて……」


 頭がすっきりしたアンジェリカは、自分の髪型など一切見ていない。

 うっとりした表情で、床屋のフカフカのバーバーチェアに座ったまま漫画をペラペラめくりまくっていた。


「ヌオッ、アンジェリカ、漫画めちゃめちゃ読んどるな……エッ青年誌!?!?!?」

「チョイスが渋いよな。そんですげー速度だよ。

 漫画ってコマを読む順番を学習するのが結構大変だから、

 本当は読むのにも訓練がいるのにさ、

 この子は目の前に積んでも積んでも一気に読み終わっていくんだぜ……」


 髪を切りながらアンジェリカの目の前にわんこそばのように漫画を置き続けた番場は若干お疲れ顔だ。

 その横でアンジェリカはまた漫画を読み終えて、次の漫画に手を伸ばす。……確かにすさまじい速度だった。


「アンジェリカは元の世界でも周りからちょっと怖がられるレベルの読書オタクだったからのう……おいっ! アンジェリカがハーレムラブコメを読み始めとるんだが!!!!」

「いやーぁ、さっきからリクエストに応えて色々出してるんだけど、マージで読むのはええしジャンルも選ばねンだわ……」


 番場と轟剛三郎がそんな話をしている前で、アンジェリカがハーレムラブコメをバタンと閉じて勢い良く立ち上がった。


「──学習完了っ!

 この世界のことはだいたいすべて分かりましたわ、わたくしもっと漫画が読みたいです、手始めにさっき道沿いにチラっと見えた漫画喫茶とかいうところに」

「まッ待てっ! 待て待て待てアンジェリカ!

 学習できてない、できてないぞ!

 漫画ではこの世のすべては学習できないんだアンジェリカ!!」

「ええっ? でも、本に書いてあることは大体すべて真実なのでは!?」

「本好きはナチュラルにそういう思考回路になりがちだけどなあ!

 フツーに、フィクションも混ざり放題なんだよ!!

 ……おいアンジェリカ、ワシの話を無視するんじゃない、漫画をよむのをやめなさい!!!!」


 というやり取りをしている父と娘を、番場が笑って見守る。


「アンジェリカちゃんはあれだな、髪切りながら話していて思ったんだけど、思春期が遅い種類の人だよな。

 みんなが恋だのオシャレだのに夢中になって異性を意識している時期には漫画ばっかり読んでるのに、多分二十五歳とか三十歳あたりになって急にオシャレや婚活に目覚めるタイプだ。オタクによくいる」

「なんでそんなに酷いこと言うんじゃ?」

「いやだって見てみろよ……アンジェリカちゃんの本の虫っぷりを。

 こーりゃ早いうちから婚約者なんか作られて色々やらなきゃいけなかったのは大変だっただろうよ。苦労してんなあ」

「そうなのですわ、今まで大変だったのですわ!

 たくさんたくさん頑張ったのに、結局ケニー君には振られてしまいましたし……」


 アンジェリカは漫画から顔をあげて、すねた風に口元をとがらせた。

 そうして静かに語り始める。彼女の壮絶な婚約破棄劇を……。




☆☆☆




「アンジェリカ・フォン・トロイメンバウム! 貴様との婚約を解消する!! そして、貴様は死刑だ!!!!」


 まるでおとぎ話に出てくるようなめちゃめちゃ素敵な魔法の国『希望の国』の魔法のお城に、日焼けした金髪イケメンの罵声じみた大声が響き渡った。


「エエッ!? そんな、いったいどうして……!?」


 アンジェリカはでっかいリボンで飾った黒髪を振り乱し、突然の婚約破棄からの死刑宣告という異常事態に打ちのめされた。アンジェリカ・フォン・トロイメンバウム……それが希望の国の侯爵令嬢である彼女のフルネームだ。


 これは、彼女の婚約者である希望の国王太子、ケニー君の18歳のお誕生日パーティーのさなかに起きた凶事である。

 とても月の綺麗な夜で、舞台はお城のパーティーホールだ。


 ケニー君18歳、アンジェリカは17歳……。

 年齢や身分は、それなりにつり合いが取れているはずの二人だった。


 しかし、今のケニー君は、ニュー・婚約者だという謎の令嬢・イザベラの肩を抱いて、本来の婚約者であるはずのアンジェリカを犯罪者か何かのようににらみつけている。

 ケニー君は金髪でバチバチに日焼けしていて首が太いし、イザベラも金髪で綺麗に日焼けしていて筋肉質だ。髪を丸く結って二つのお団子頭にしている彼女は口の両端を美しく上げて、何を考えているのか分からないが強烈に魅力的な笑顔を浮かべている。



 ケニー君とイザベラは、正直お似合いのカップルである……。



「侯爵令嬢アンジェリカ……お前の数々の罪状は目に余る!

 殺人、恐喝、放火、殺人、殺人に全裸徘徊……殺人殺人殺人に殺人……。

 もう限界だ! 婚約破棄だ!

 お前は死刑だ!! すみやかに死んでしまえッ!!!!」

「そんな……!

 え、冤罪えんざいでございます!

 わたくし殺人なんてやってませんわ!

 ほらッ、わたくしのこの腕をご覧くださいませ!

 この細腕でそんなに沢山の殺人をこなせるわけがないでしょう?

 殺人なんて、身に覚えがございませんわーーッ!!!!」


 アンジェリカは細い両腕を突き出して、リボンだらけの黒髪を振り乱して、貴族としての品性をかなぐり捨ててオンオン泣いたが、幼馴染であるアンジェリカのそんな姿を見ても、ケニー君の死刑に関する決意はこゆるぎもしないようだった。

 ケニー君は、趣味である酸の海サーフィンによってよく日に焼けている小麦色の肌と白い歯、金色の角刈りなどが印象的な体育系少年だった。なにより首がかなり太い。


 ……対するアンジェリカはというと……。


 妃見習いとしてたくさんの努力はしているが、基本的に大人しい性格の人文系で読書が大好き、集団行動とスポーツが本当は大嫌い、そんなオシマイのオタク少女なのである。

 つまりケニーとアンジェリカは、正直年齢と身分以外はあんまり似合ってない二人なのであった。


 体育系は死ぬほどオタクを嫌いがちというのは、どんな世界であってもゆるがぬ一般常識であることだし……。


「どうしてですのォーーッ! なンで死刑なのよーーーーッッ!!

 ケニーく……いやケニー様ッ!!

 私がうすぐらい性格の卑屈なオタクでもいいって言って下さったじゃないですかッ!

 政略結婚を嘆くことなく、お互いに誠意を尽くそうって……言ってたのにッ!

 言ってたのにーーッ!!!!

 それが! なンで!

 いきなり婚約破棄からの死刑宣告なンですのーーーーッッ!!!!」


 アンジェリカは貴族令嬢としてのお行儀と優雅な言葉遣いをかなぐり捨てて、可愛い顔をシワシワにして絶叫している。

 ……でもまあ、絶叫しても仕方のない異常事態ではあった。

 ケニー君の婚約破棄の宣言を受けて、パーティーの参加者たちもかなりどよめいていた。これもかなりのマナー違反だが、でもまあ、マナー違反をするのも仕方のない異常事態なのだった。


 パーティーの参加者たちは誰もが唖然あぜんとしている。

 誰もが高位の貴族らしくサテンのドレスや密度の細かいフリルブラウス、小粋なループタイなどで色とりどりに着飾っているが、全員顔面は真っ青だった。


「これはなんということだ……」

「あのさわやかで明るく快活なケニー様が、

 いきなり死刑だの婚約破棄だのおだやかではないことを……」

「国王陛下はこの話をご存じなの?」

「我々はいったい何を見せられているのだ。

 こんな無茶苦茶がまかり通れば、希望の国が滅びかねんぞ……」


 王族貴族の婚姻とは、国家事業である。

 身分の高い若い男女の結婚によって、彼らの親や一族のお金やら土地やらその他もろもろの約束事やらもガンガン動く。

 それが、何の根回しも事前連絡もなしに『破棄』されるなど……絶対に、絶対にありえないことなのだ。


 ひどい食糧難であるにも関わらず立食形式のパーティーにはいくばくかの料理が供されていたが、だれも手を付けていなかった。


 ……さて、貴族たちが戸惑いながらも小声でささやき合っている中、ケニーとアンジェリカの間に飛び出した中年男性貴族がいる。


「その婚約破棄、待ったァーーッ!!!!」


 白いタイツに身を包んだアンジェリカの父親、大勇者ゴウザブロウ・フォン・トロイメンバウム侯爵である。大勇者なのでその功績を認められて貴族としての地位も名前ももらっている。よくある話だ。


「お父様! 何年も行方不明でしたのに……一体どこへ行っておりましたの!?」

「話はあとだアンジェリカ、それより、婚約破棄の話だ!

 ケニーくn……いや、ケニー様!!!!

 我が娘アンジェリカが婚約破棄からの死刑とは、いったいどういうことでございますか!!!!」


 轟剛三郎は娘の人生を守るために叫んだ。


「我が娘アンジェリカは絶対に殺人など犯していない……恐喝などもするような子ではない! この婚約破棄は不当です!!」

「そそそッ、そうですわッッ!

 わたくし放火未遂と全裸徘徊しか身に覚えがありませんのよ!?」

「ンンッ!?!?!?」

「王都で流行りの全裸徘徊月光浴美容術とかいうのを本で読んで試してみたかったんですけど、ちょっと寒くなっちゃって火を」

「アンジェリカは、静かにしていなさい!!」

「はい!!!!」


 アンジェリカは父親の背後で大人しくなる。

 轟剛三郎は咳ばらいを一つして、ケニー君に向き直った。


「ふーぅ……。

 ……。……ええと、訂正ていせいします。

 ケニー様、娘との婚約破棄は妥当ですが、死刑はやりすぎだと思います」

「お父様!」

「静かにしなさいアンジェリカ! 今のはお前のオウンゴールだろうが!」


 轟剛三郎は娘の人生を守るために割って入ったのに、娘のいらん罪の自白で婚約破棄が大確定してしまってちょっと涙目だ。

 アンジェリカは絶対に殺人や恐喝などをする人間ではないしやるときはしっかりやる娘だが、そそっかしいし、オンオン泣くし、本で読んだ怪しい美容術を素直に信じて実行しようとするしで……決して、完全無欠の有能令嬢というわけではないのだった……。


 それでも、彼女は轟剛三郎にとっては大切な我が子である。

 罪を自白してしまったためにたった今人生の終わりが確定してしまった娘の人生をそれでもなお守るために、轟剛三郎は必死に叫んだ。


「ケニー様……いや、国王陛下!!

 この婚約破棄は……まあ、その、ぶっちゃけ仕方ないかもしれませんが、いくらなんでも死刑はやりすぎでしょう!!

 死刑はキャンセルしていただきたい!!!!

 それに、この婚姻は、この希望の国を守るために絶対に必要なものではなかったのですか!!??

 我が娘は『人類最後の希望』だと……そうおっしゃっていたのはケニー様と国王陛下でしょう!!!!」


 轟剛三郎はケニー君の背後にいるケニー君の父親……希望の国の国王に向かって声を張った。

 轟剛三郎の全力の叫びを受けて、金色の王冠をかぶった白いひげの老人、国王がユラリと動く。筋肉モリモリの体育系だが、その動きは体育系とは思えないほど奇妙で、目はうつろだった。


 轟剛三郎は首を傾げる。

 ……国王のただごとではない様子に、パーティーの参加者たちは誰もが驚きにめをみはり、息を止める。

 ただでさえ固まっていた会場の空気が、緊迫したものに変わった。


「おお、我らの国王陛下が……」

「偉大で尊敬すべき我らが国王陛下…………」

「ゴリゴリの体育系で、どんな激務の日でもネガティブなことは絶対に言わないお方だぞ。

 今日は一体何をおっしゃるつもりだ?」


 貴族たちが息を殺して見守る中、国王は白いひげを動かして、ボソボソとこうつぶやいた。


「……人類は……終わりだ……」

「国王陛下?」

「代わりに魔族がこの世の覇権を握る……この世は、魔界となるのだ」

「……なんですと!?」


 戸惑いながら問い返す轟剛三郎に、国王は人間離れした笑顔を見せてうなずいた。


「そう……キヒヒ……この国は、オシマイ……世界は、オシマイ……。

 ……。

 ……。……ケヒャーッ!!!!!!!」


 国王は国王とはとても思えない大口を開けて絶叫し、そのまま白目をむいて倒れてしまった。即座に駆け寄った側近が、国王の眼窩や胸元、手首を確認して、放心したようにつぶやく。


「お亡くなりに、なりました……」

「なんだと!?」

「うわああ! 陛下! 国王陛下!」

「私たちの国王陛下が……ギャアアッ!!!!」


 つぎつぎに国王に駆け寄ろうとした近侍や騎士が、苦しんだ様子を見せた後に倒れていく。

 大量の死を見た貴族たちは恐慌状態に陥った。

 逃げるもの、わけもわからず国王に駆け寄り即死するもの……様々な人間にもまれながら、アンジェリカは首をかしげる。


「人が死んだ……? えっ、魔法? いったいどういうことですの!?」


 アンジェリカがなにごとかと周囲を見回すと、イザベラがケニー君にしなだれかかったまま、おかしくてたまらないといった風に笑いをこらえているのが見えた。


「イザベラ……」


 アンジェリカは青ざめた顔でつぶやく。

 ……この世界の住民たちは、「メニュー画面オープン」だの「魔法補助魔法」だのといった長ったらしい呪文を唱えなければ魔法を使えない。

しかし、今の即死魔法らしきなにかは、呪文の詠唱が全くなかった。


「お、お、お父様……あの女……無詠唱で即死攻撃魔法メガトンデスを発動させましたわ! あいつ、もしかして……!!」


 と、アンジェリカが言い終わる前に、ケニー君の張りのいい声がパーティーホールに響き渡った。


「──聞いての通りだ皆の衆!

 この世はこれから魔族の支配する魔界となる!

 私とアンジェリカとの婚約は破棄、アンジェリカは死刑!!

 ついでに貴様ら希望の国の貴族も平民も、みーんなまとめて死刑なのだあああ!!」


 ケニー君はそういって、狂ったような笑い声をあげた。

 そのときふいにイザベラがケニー君から離れて、何かを合図するようにスッと手を上げた。

 ……すると、それにこたえるように場外から殺人植物、殺人デーモン、殺人サイクロプスなどといった凶暴な魔物がなだれ込んできた。


「うわあああっ! なんで魔物がこんなところに!?」

「希望の国は人類の女神に守られていたのではなかったの!?

 女神さまの結界は……きゃああっ!!」


 人間どもの統制不能な悲鳴と絶叫があがる。

 触手はアンジェリカをも殺そうとしたが、轟剛三郎の展開する早口防御魔法呪文によってそれは何とか防がれた。


「クッ……なんて数の魔物どもじゃ! 魔法が追い付かん!!」


 ……そう。ここは素敵な魔法の国なので、貴族も魔法を使うことができる。

 特に轟剛三郎はよその神様を倒しまくっているし魔物討伐系の功績も沢山上げたので魔法の腕はピカイチだ。ほかの貴族たちにも魔法の手練てだれは多い。


 では、今、魔法を使えるはずの人々が魔物に殺されまくっているのはなぜか。

 この凶事が完全に『不意打ち』だったからだ。

 婚約破棄、死刑宣告、国王の死、魔物の乱入……あまりにありえない出来事が立て続けに起きて、魔物が登場しても誰も魔法を使う余裕がなかった。

 冷静さも失っていた。

 なにしろ人々の心を照らす太陽だったはずの明るく力強い体育系、国王陛下が、人々の目の前であっけなく死んでしまったのだから……。


「アンジェリカ! こりゃイカン、ワシについてきなさい!!」


 早口言葉を唱えまくって必死に魔物を魔法を退治している娘の首根っこをひっつかみ、轟剛三郎はパーティーホールのテラスへ移動する。

 白は高い山の上にあるので、このテラスからは希望の国の国土が一望できる。

 ……彼が20年かけて守ったはずの希望の国は、村という村が炎に包まれ、城の中も悲鳴と絶叫と魔物の咆哮ほうこうが響き渡る地獄相じごくそうが出現していた。

 どこからか、火がつけられたような熱と煙の臭いも感じる。この城が焼け落ちるのも時間の問題だろう。


「……一体何が起きたんじゃ……」


 呆然とする轟剛三郎の横で、あまりの惨状を見て、アンジェリカはとうとう気を失って倒れてしまった。

 轟剛三郎は慌ててそれを抱きとめて、テラスにまであふれてきた魔物を魔法で打ち払いながら次に何をするべきか考える。


(……クソッ、なんてことだ!

 この国はどこからどう見ても終わりだ……ここまで大量の敵に深く攻め入られてしまっては、もうできることなどありはしない!

 いやしかし娘は、アンジェリカだけは……!!)




☆☆☆




「……えーとぉ、なげー話でよく分かんなかったんだけどよお」

「くぅ~! ダメじゃったか!」

「残念ですわ。わたくしの味わった婚約破棄の悲劇、伝わりませんでしたのね……」

「でも一個だけわかることがあるぜ。

 アンジェリカちゃんの婚約破棄、割と自業自得だな?」

「ううっ! ……そ、そうです。そのとおりなのです……。

 私ケニー君との婚約を少しでもうまくいかせたいって必死になってて……。……必死すぎて、トンデモ本を信じて全裸徘徊(既遂)と放火(未遂)をしでかしてしまったのですわ」

「俺漫画の知識しかないからよく分かんねーけど、それ多分貴族のお嬢さんとしては致命的だよな」

「はい……だからわたくしお先まっくらで、夢も希望もありはしないのです……」

「そう落ち込むなアンジェリカよ。

 お前はファミレスで豪遊したし漫画もしこたま読めたし、楽しいことはまだまだあるってわかったじゃろう?

 我々にはつらいことがたくさんあったが、しかし、お前だけは元気にならねばならんのだ。

 ……お前が立ち直ることができなければ、あの世界は、希望の国は……」









年内の更新はこれで終わりです。どうぞよいお年を!

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