第01話 身の程を弁えなさい
物心ついた頃に実の母が死んで、父はすぐに別の女性を娶った。
継母となったその女性は娘を連れてきた。その娘の父も私の父で、つまり私とも血の繋がった異母妹に当たる。
二つ下の、妹。名前はミラベル。
とびきり可愛らしい、くるくるの柔らかい金髪とアメジストのような深い紫色の瞳を持つ女の子だった。
彼女の口ぶりからして、父は私の実母が存命の頃から継母と会い、逢引きを重ね、ミラベルを授かっていたらしい。再婚したのちはもうすぐに、私よりミラベルの方に夢中になった。
たった一つの魔法以外使えない、能無しの私と違って、ミラベルは才能豊かだった。魔力も魔法の適性も豊富。継母は魔法で有名な一族出身で、魔力の交配的にも、伯爵である父と組み合わせれば素晴らしい子供が生まれる見込みだったそうだ。
じゃあもう、最初からこういう計画だったのだ、と悟るまで、そんなに時間はかからなかった。
そもそも私の実母と父は望んだ結婚ではなかったそうだ。事情はもちろん気になったけど、それ以上の詳細なんて探りようがなかった。だって継母が家にやってきたときから、だんだん使用人が入れ替わっていって、私の味方なんていなくなったから。
継母が押しも押されもせぬ女主人と認められたときに、私はこう言われた。
「身の程を弁えなさい。あなたは私がこの家に置いてあげてるんだから」
そう、継母からすれば私は単に邪魔な存在だった。
妹のミラベルからしても同じ。
「お姉さまのものはすべてわたくしのものよ」
というのが、彼女の口癖だった。
どこでそんな言い方を覚えたのだろうと気になったけど、もしミラベルが私のものを欲しがったとき、抵抗なんてしたら継母に折檻された。暴力も振るわれた。それでほどなくして継母には、
「部屋をミラベルに渡しなさい」
と言われた。それも従わざるを得なかった。私は離れにある使用人の倉庫に移ることになった。
次第に継母からの要求はエスカレートしてきた。九歳のころ、
「学校をやめなさい」
と言われたので辞めた。
服なんて買ってもらえない中、実母が残してくれた嫁入り道具でやりくりしていたら、
「前の母親の形見はすべて燃やしなさい」
と言われたので燃やした。
「使用人に混じって働きなさい」
「仕事以外で屋敷に入ってはいけません」
「外に出てはいけません」
「笑ってはいけません」
「自分の持ち物を持ってはいけません」
全部従った。もう私の心はとっくに壊れていて、家族の言うことはすべて、無条件に聞かねばならないことだと思っていたからだ。
血が繋がっているはずの父は何も口を出してはくれなかった。
この家には使用人も含めて誰も私の味方がいなかった。
そしてある日、ついに継母はこう言い放った。
「あなたはミラベルに尽くすために生まれてきたのよ」
つまり、妹にああ吹き込んだのは、継母だったのだ。
父も含めて、すべては織り込み済みだった。私の人生はずっと、私が家族と呼ぶべき人のためだけに存在していた。
私に、私の人生などない。
そう悟るまでは、けっこう、時間がかかった。
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