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《極短編》毎日コンビニのおにぎりで博打している金髪お姉さん、ただ日本語が読めないだけでした!?

作者: 獅堂光希
掲載日:2025/10/06

これは実際に起きた出来事をもとにした物語です。

***


「海斗、早く!フライドチキン君の照り焼きマヨ味、今日で終わりらしいぞ!これが最後の聖戦だ!」


「……聖戦って、こんな時に使う言葉じゃないだろ。」


隣から聞こえてくるのは、友人・小林祐二の元気いっぱいで少し荒っぽい声だった。

二人はサッカー部の練習を終え、汗まみれの体を解放しながら、毎日の巡礼地――街角の明るく灯るLmartコンビニへと足を踏み入れた。


チリン――!


自動ドアが開くと、あの電子音が一日の学業の終わりを告げる。

冷房の風が疲れを吹き飛ばし、蛍光灯が棚の一つひとつをくっきりと照らす。スナック菓子の鮮やかなパッケージ、冷蔵庫の水滴、レジ横のおでんから漂う鰹出汁の香りが店内を満たしていた。


黄昏時の空気には、独特の匂いがある。

アスファルトの余熱、住宅街から漂う夕飯の匂い、そして子供たちの汗と無邪気さが混じり合ったざわめき――それらすべてが神谷海斗にとっての「自由」を意味していた。


祐二はドアが開くや否や、風のようにレジ横のホットスナックコーナーへ突進。

海斗はゆっくりと後を追い、買い物かごを手に取った。


「昨日は苺大福が“最終聖杯戦争”だって言ってたし、一昨日はコーラ一本で“ラグナロク”だって言ってただろ。お前の人生、戦いだらけじゃねぇか。」


「男の毎日は戦いの連続なんだ!」

祐二は武士のように真剣な表情を浮かべる。

「よし、俺は照りマヨにする。海斗は?」


「俺は腹が膨れるもんがいいな。おにぎりの鮭、それと……」


言いかけた瞬間、海斗の言葉は止まった。

祐二が怪訝そうに振り返る。


「……それと、なんだ?」


「しっ!声を抑えろ。」

海斗は顎をしゃくり、棚の向こうを指さした。


そこにいたのは――青いワンピース姿の金髪碧眼のお姉さん。

おにぎり棚を前に、《モナ・リザ》の微笑を解読しようとするかのような、真剣かつ困惑した表情を浮かべていた。


溶けた金のように輝く髪、透き通るような肌、そして圧倒的なスタイル。制服はその豊満な胸を抑えきれず、桃のように丸みを帯びたヒップラインを強調している。身長も高く、教室の担任よりも大人びた気配を漂わせていた。


海斗の視線は、彼女の青い瞳に吸い寄せられる。

だがその瞳は、美しいがゆえに――おにぎりのパッケージに戸惑い、苦悩を滲ませていた。


「おお!“金髪おにぎりギャンブラー”今日も参戦か!」

祐二は興奮し、探偵のように棚の陰から覗き込む。

「ほら始まった、“おにぎり・ロシアンルーレット”だ!」


彼女は「紀州南高梅」を手に取り、すぐに戻す。

「梅子選手、脱落だな!」祐二が実況を始める。「次は明太マヨ!おお、安定株だ!」


「……だから賭けじゃないだろ。」海斗は嘆息する。「たぶん日本語が読めないだけだ。」


そのとき、彼女はため息をつき、目を閉じ、祈るように手を伸ばす。そして――

手に取ったのは「納豆巻」。


祐二は感嘆の声を上げる。

「おお……今日も度胸あるな。“賭徒姉さん”健在!」


海斗は肩をすくめながらも、その異国の女性から目を離せなかった。


***


翌日。


祐二は母親から「テスト前だから寄り道禁止!」と電話で呼び戻


祐二の喧しさがないコンビニは、どこか静かに感じられた。

海斗はホットミルクティーを一本手に取り、手を温めながらおにぎり棚へ向かう。幸運なことに、大好物の「ツナマヨ」が一つだけ残っていた。


満足げにレジへ向かおうとしたそのとき、視界の端に金色の髪が映る。

イートインスペースの片隅――そこに、あの外国人のお姉さんが座っていた。


白いシャツ姿、制服のブレザーは椅子に掛けている。机の上には二つのおにぎり。

彼女の小さな肩が微かに震えていた。


海斗はジュース棚に身を隠し、様子を伺う。

やはり、何かおかしい。


彼女は悲壮な表情で「わかめ」と書かれたおにぎりを開け、一口かじる。

「……うぅ」

明らかに好きではない味。それでも意地を張るように食べ続けていた。


――どうしてこんな姿が、こんなに愛おしくておかしいんだろう。

モデルのような体格のお姉さんが、一〇〇円少々のおにぎりに涙ぐむなんて。


海斗は手に持ったツナマヨを見つめ、心の中で葛藤する。

「余計なお節介だ……声をかけたら変なやつに思われる……」

「でも……泣いてるじゃないか。わからなくて嫌いなものを食べてるなんて、可哀想だろ……!」


三十秒の天人交戦の末、彼の足は勝手に動き出していた。

心臓は早鐘を打ち、手のひらは汗ばんでいる。


お姉さんの席へ歩み寄り、立ち止まる。

彼女が驚いたように顔を上げ、碧眼が海斗を射抜いた。


「……?」


熱い。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

海斗は勇気を振り絞って言った。


「Trade? This seaweed… for your tuna?」


その瞬間、人生の勇気をすべて使い果たした気がした。


だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。


「その……交換、する?」


「……えっ!?」


お姉さんは拙いが確かに日本語を話していた。

「これ、わかめ……あなたの、ツナマヨ?」


「は、はい!も、もちろん!」

海斗は慌てて頷く。


ぱっと花開くような笑顔。

「アリガトウ!」


海斗の胸は高鳴り、視線を逸らすしかなかった。

彼女は海斗からツナマヨを受け取り、代わりに悲しげなわかめを差し出す。


二人は向かい合って座り、それぞれ包みを開けた。


……が、次の瞬間、海斗は衝撃の光景を目撃する。


お姉さんは中央の「①」の帯を引かず、外袋をプレゼントの包装紙のように丁寧に剥がしていたのだ。

結果、海苔は袋に残り、白い三角のおにぎりだけが裸のままテーブルに転がっていた。


「え……?」


さらに彼女は、残った海苔を必死に袋から引き抜こうとする。だが米粒が手にくっつき、海苔は湿気でぐちゃぐちゃに。

悲惨なおにぎりが完成してしまった。


――まさか……この人、おにぎりの開け方を知らない!?


海斗はついに耐え切れず叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」


驚いてお姉さんが見上げる。青い瞳、口元には米粒。


「こっちを見て……ここ、①から……」


海斗は自分のおにぎりを手に、赤い矢印を示す。

そして帯を「シュッ」と一気に下に引き、左右の包装を外す。

完璧なツナマヨが現れた。


お姉さんは唖然とし、自分の失敗作と見比べる。

顔にみるみる朱が広がった。


「え、ええええ!? こ、こうやるの!? 嘘……!」


「い、いや、本当です……」


彼女は両手で顔を覆い、何度も「ごめんなさい、ありがとう!」と繰り返す。

「わ、私……半年、日本にいるけど……初めて知った!」


「……は、半年!?」

つまり彼女は百八十日以上、毎日おにぎりと戦っていたのか……!


今度は震える手で「昆布」を①から引き、見事に成功。

「すごい!ほんとにできた!」「美味しい!最高!」

子供のような歓声。幸せそうに笑う顔は、眩しすぎて直視できなかった。


「あなた……ヒーロー!」


海斗の顔はさらに真っ赤になり、下を向いておにぎりを食べるしかなかった。


窓の外では、いつの間にか雨が上がっていた。


***


数日後。


「なあ、来月の新作ゲーム、百人対戦できるんだってよ!」

祐二は最新ゲーム雑誌を狙い、興奮しながらコンビニへ。


海斗は曖昧に返事をしつつ、おにぎり棚とイートインを見やった。

……彼女の姿はしばらく見ていない。


「おおっ! あれだ!おにぎり賭徒!」


祐二が叫ぶ。海斗の心臓が跳ねる。

そこには――確かに彼女がいた。


だが今日は違った。

迷える子羊ではなく、自信満々に「ツナマヨ」を取り上げ、店員に「お疲れさまです!」と流暢に声をかけている。


彼女の日本語は上達していた。


ふいに、碧眼が海斗を捉える。

ぱっと咲くような笑顔。


「Ah!」


彼女は迷いなく駆け寄り、そして――


「久しぶり! わ、私、会えて嬉しい!」


そのまま海斗をぎゅっと抱きしめた。


柔らかく、甘い香りに包まれる。圧倒的な存在感。

海斗の思考は酸素ごと奪われた。


祐二の手から雑誌が床に落ちる音。

呆然と口を開けたままの祐二。


「私、毎日練習した! おにぎり……もう、ちゃんと開けられる! ツナマヨ、一番好き!」


そう言って笑顔で手を振り、彼女は店を去った。


祐二は我に返り、海斗に掴みかかる。

「おい!いつの間に!?どういうことだ!?あの金髪爆乳姉さんと、何があったんだよ!!」


だが海斗は何も耳に入っていなかった。

まだ胸に残る温もり、甘い香り、柔らかな感触……


ずっと冒険を嫌っていた自分。

けれど、あの抱擁は――確かに世界を変えた。


もしかしたら……祐二の言う通り。

これは「世紀の大発見」なのかもしれない。


海斗は気づいてしまった。

自分はもう――あの少し不器用で、甘くて、眩しい金髪のお姉さんに恋をしている、と。


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