第九話 オーバースペック
「ふむ……」
シャリオンが興味津々の眼差しで玲の魔剣の刀身を見ている。
魔剣、一見するとまるで厨二病を拗らせた若者がつけた安易な名前に聞こえるが、これに限っては違う。魔剣はアリアドネ国に限らず、この世界の国のほとんどの研究者達が長年をかけ研究し、調べてきたが何の成果もあげられず苦戦していたようだ。
その魔剣が今目の前、玲の手にあるのだ。目を輝かせるのも無理はない。
「こりゃ驚いた……俺のとほとんどおなじじゃねえか」
シャリオンが自分の持っている剣と見比べながらそう呟く。
「シャリオンさんの剣も魔剣なんですか?」
すると難しそうな顔をして答えようとする。
「あ、ん、えっとな……魔剣ではないんだ、が、えっと……」
「はぁ、私から説明します。これを渡されたときにちゃんと説明を聞いてないから歯切れが悪くなるんですよ……」
「へいへいすみませんでしたよ」
呆れてオリヴィアが口を開けるとシャリオンはめんどくさそうな顔をする。
そんなシャリオンを横目に玲に説明をする。
「まず結論から言うとお兄様の剣は魔剣ではありません、私達アリアドネ国が独自の研究の元、魔剣の構造を研究者様達の手で作り、その被検体がお兄様なのです、それを私達は半魔剣と名付けています」
「半魔剣……」
「ま、つまり完全じゃない魔剣ということじゃ、が、ほとんど同じなはずじゃ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
アリアドネがよこからそんなことを言い切ったのでなぜかと問う。
すると少し難しい顔をして考え込む。
「うむ、まぁ少し言い過ぎたかもしれんがの、じゃが根本は同じじゃ、見た限りそなたの魔剣もシャリオンの半魔剣も魔法が籠っておるからの」
「え、この魔剣に、ですか……」
「先も言ったが、魔力を持たないそなたが熊を倒せた理由がまさにそれじゃな」
それを聞いた玲がふと思いついた疑問を言う。
「そういえばなんですが、僕の魔法ってなんなんですか?」
「いわれると思ったわ、そのためにはいくつか段階をふまんといかんのじゃ」
ついてこいと言わんばかりに首で合図をし、さっきのシャリオンとの手合わせをした場所に誘導される。
「ほれ、魔剣をこの木に振るうのじゃ」
アリアドネが目の前にある幹の太い木を指し示した。
「どうしてまた……」
「まぁ簡単に言うと魔剣の魔法を放つにはまず大前提として何かを斬るという目的が必要なんじゃよ」
どうやら魔剣の能力を引き出すためには「何かを斬る」という目標がないと魔法は発動しないらしい。
「純粋に魔法が使えるなら魔剣に魔力を込めるだけで使えるんじゃが、お主はないからの」
「わかりました……」
アリアドネ達は後退しながら合図を送る。振ってもいいということだろう。
それを見た玲は思いっきり魔剣を木に向けて振りかざす。が———
「何も……おこらない……?」
「ふむ……これは……レイ、戻ってこい」
そういわれアリアドネの方へ向かうと即座に魔剣を取り、それを眺め始めた。
「あ、あの、なにを……」
聞こうとするとシャリオンが横から静止させる。
「今は黙れ、アリアドネ様がお前の魔剣の魔力を調べてる」
見やると確かにアリアドネが魔剣に手をかざし、目をつぶりながら何かをつぶやいている。おそらく前にオリヴィアが玲自身の魔力量を調べるためにしていたのと同じであろう。
数分後アリアドネがゆっくりと目を開けると静かに玲の元に歩み寄る。
「これは驚いた、魔法も出ないのも納得じゃ」
「え、まさか、魔剣にも魔力がなかったとか……?」
そういうとアリアドネがすぐに首を横に振る。まるでその答えとはまるで違うと訴えるかのように。
「その真反対じゃ、これには魔力が籠りすぎておる」
「え……?」
すると何か言いたげにシャリオンがその魔剣に近づき、口を開く。
「やっぱりな、ま、当然じゃねーの?だって俺の魔法を、いとも簡単に斬ったり受け止めたんだからな、こうでもなきゃ俺のプライドが許さなかったろうよ」
「それはどういう……」
「つまり、少なくともアリアドネ国の中ではナンバーワンの炎魔法使いであるお兄様の魔法をいとも簡単に斬った、つまりアリアドネ様の言う通り、その魔剣には魔力の量が膨大に籠められているのです」
奥から先のシャリオンの言葉に補足説明をするようにオリヴィアがこちらに歩み寄りながら言う。
それに次いでアリアドネも口を開く。
「ま、こやつはこんなやつでもアリアドネ国の第二王子という勲章を授かっておるからの、そこは信じてもらって構わんぞ」
それを聞いて玲は一つの疑問が頭の中で思い浮かべる。
「その、王子って家系のつながりでなるもんじゃないんですか?」
その問いをすぐに否定するようにアリアドネが被せるようにその問いに答える。
「それは違うな、まぁ確かにこの方式を採用しとるのはアリアドネ国だけかもしれんがの」
アリアドネがオリヴィアとシャリオンを交互に見ながら続ける。
「王子と王女が決まる条件として、国の中での魔力が一番高いものが男性は次期王子になり、女性は次期王女になるんじゃよ」
それを聞いてふと思い出したように話を戻す。
「えっと、じゃあ僕が魔法を撃てなかった理由は……」
「簡単な話じゃ」
アリアドネが魔剣を指さしながら言う。
「つまり、お主の今の体力と、その魔剣の魔力量が釣り合っておらんかった、だから撃てなかったのじゃ」
「てことは、また魔法が使えないと……?」
「そうじゃ!」
「言い切らないでくださいよぉ……」
「もう!アリアドネ様!そんなはっきりと……かわいそうです!」
「オリヴィアさん……全くフォローになってません……」
オリヴィアがフォローになってないフォローをしたところで、アリアドネがコホンと一息つき、玲に抜き直る。
「そんな冗談は置いといての、方法は一つだけある」
「どうやってするんですか……?」
にっと笑って続ける。
「筋トレじゃ!」
「……はい?」
「えっと、これは……」
目の前には大木を切り倒し、薪上にした後、それを数本巻いた束が十束ほど置かれていた。
「黙って持て」
「これを……?」
「そうだ……よ!」
シャリオンが薪の束一つを軽々と持ち上げ、玲に投げつける。
「うわ!おもっ……!」
重たがっている玲を見ながらシャリオンが続ける。
「お前にはこれっぽっちも魔力がねぇんだ、本来はこんなことしなくても多少の魔法なら撃っても大丈夫なんだが、そんなことお前がしちまうと脳が焼き切れてしますからな、筋力と体力で補わなくちゃならん」
そう言うとシャリオンはまた薪の束を片手で持ち上げ、玲に投げつける。
「あの、こんなやり方でいいんですか?」
「ま、いいんじゃないかの、あやつもああして筋トレしてたらしいからの」
「でもこんな……あ、このお茶おいしい……」
「じゃろ!いいお茶の葉が生えてたものでな、摘んでよかったわい」
オリヴィアとアリアドネはその光景を見ながらアリアドネ特性のお茶を飲み団欒していた。
「相変わらず、嫌いなのかレイ様に当たり強いですね」
「うんにゃ、あれでもちゃんとやってるぐらいじゃよ?」
「そうなんですか?」
お茶を啜りながらシャリオンの話をする。
「本当に嫌いな奴なら今頃レイは死んでおるよ」
「てことは……」
「あぁ、シャリオンはおそらくあの手合わせで心の中でレイのことを認めておるのじゃろ」
オリヴィアはどこか安心したように微笑む。
「それなら、よかったです」
「よし、今度は薪10個でスクワット300回だ」
「ま、まだ、やるんですか……」
「あたりめーだろ」
辺りを見るとすっかり暗くなっており、始めたのが昼時のはずなのでおそらく6時間は筋トレをしていた。
完全に疲弊しきった玲を見てシャリオンは少し考え、玲に手を差し伸べる。
「……ま、今日はここまででいいか、明日もやるんだからな、ちゃんと寝ろよ」
「あ、ありがとうございます」
「あ、終わったんですか?お疲れ様です、レイ様」
「俺は⁉」
「ばーか、お前は昔によくオリヴィアに言われとったろ」
「ですけどぉ……」
その光景を見て玲はふふとつい笑みをこぼした。
「んだよ、なにがおかしいんだよ」
「いえ、皆さん、本当に仲がいいんですね」
言うとアリアドネが隣にやってきて背中を叩く。
「今は、お主もその中の一人じゃがな」
「……」
それに同意するようにオリヴィアも隣に来る。
「えぇ、レイ様は私たちの仲間です、ね?お兄様?」
「う、あ、まぁ、お前がそういうなら……」
「全く、素直じゃないのぉ」
そういいながらアリアドネがシャリオンの腰に肘で小突く。
「さ、もう寒くなってきましたし、洞窟に戻りましょか」
「ですね」
洞窟に戻ると、アリアドネが皆分の布団を既に用意していた。
「相変わらず用意がいいですね……」
「わしの用意周到さなめちゃいかんぞ~!」
アリアドネが胸を張ってそう言っている姿を横目に、玲は布団に入った。
……なぜかオリヴィアが隣の布団に即座にダイブしてきた。
「あ、温かいですね!」
「そ、そうですね……」
(きゃーーーー!レイ様の隣で!隣で寝ていますわ~!)
なぜか顔を赤らめながらこちらを見つめているオリヴィアを不思議そうに見ながら、今日の筋トレのせいだろうか、気絶したように眠りに落ちた。
誰かが自分の体を揺さぶる。
「———!」
誰かが叫んでいる。
「お———ろ!はや———!」
なんと言ってるのだろう、何かを、訴えている……?
「レイ!」
レイ……僕の名前だ……僕の……
「起きろレイ!早く!」
そこで初めてアリアドネが自分を呼んでいることに気づく。
「アリアドネさん?何を———」
「はよ起きん……か!」
「ぶほっ!」
やっと自分を呼んでいると気づいた玲は起き上がった、と同時にアリアドネの掌が玲の顔面にクリーンヒットした。
「なんか……身に覚えが……」
「き、気のせいじゃろ!」
「よかった、鼻血は出てない……」
するとアリアドネもホッと一息をつく。
「それで、なにをそんなに慌ててたんですか……?」
周りを見るとアリアドネを除くオリヴィアとシャリオンが緊張の面持ちで空を見上げている。
「そ、そうじゃった!……あれを見ろ!」
「———!あれは……」
空には、今まで月と思っていたそれの中央に、大きな目が開眼していた。
「くそ、こんな時に……まだレイも完全に魔法が放てるわけじゃないのに……」
「あれは……なんですか……?」
大きな目が開眼した月と思われる星を見ながら聞く。
「———死の夢……不定期で来る、地獄じゃ」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




