第八話 お兄様
「ん……あ、もう朝ですか…⋯アリアドネさん、起きて———え?」
朝かと思い目が覚め、温かい布団から無理やり体を起こし、外の様子を見ようと外に出ると———
「え、炎……?え?」
目の前には洞窟を丸ごと包むような炎で満たされ、夜空が見えないほど高く燃え上がっていた。
「ちょ!アリアドネさん!起きてください!」
玲が大声でアリアドネを起こす。
「ん……なんじゃ騒がしいの……一体何が———ん!?」
アリアドネが思わず目を見開く。
「お、おい!オリヴィア!起きろ!起きるんじゃああああ!」
アリアドネが大声でおリヴィアを起こす。
「もう……なんですか…⋯こんな夜更けに———えぇ!?」
アリアドネとオリヴィアは二人してまだ夢なのではないかと目をごしごしと擦る。
それはそうだろう。だって目の前には、先ほど玲が見た景色同様、空高く燃え盛る炎の壁が、視界を、この洞窟を覆っていたのだから。
「レ、レイ!こ、これはどういうことじゃ!」
「ぼ、僕にもわかりませんよ!朝…⋯今が朝なのかはわかりませんがとにかく起きたらこうなってて……」
「どう……してこんなことに……」
「レ、レイ!もしかしてお主何か悪いことでもしたのか!」
「するわけないでしょ!」
「お二人とも落ち着いてください!」
オリヴィアが二人の間に入って喧嘩を止めると、玲とアリアドネは顔を見合わせ、気まずそうにして目をそらす。
「しかし……これは……どうしましょう……レイ様の言う通り時間もわかりませんし食料調達、水もこのままでは確保できませんね」
「そうじゃな⋯…わしは風は操れるが見た感じ一人の魔力ではどうにもならんぞ……」
「ですね……私も風を操ることはできますが流石に私一人での突破は難しそうです……」
『あっ』
オリヴィアとアリアドネが互いの顔を見て、何かに気づいたように声を漏らす。
「くくく……この俺を怒らせるからだ……」
男がにやけながら高く燃え盛る炎の壁を見ながらそう呟く。
「今頃慌てふためいて水を探しているんだろうな!ま、見たところあの男、強い魔法使いじゃなさそうだし、水魔法を使えたとして、俺の炎は破れまい…⋯つまり詰みだ!ハハハ!」
男は炎魔法使いであった。
勝ちを確信しているのだろう。男はただ、その入り口を塞いでいる炎の壁を見つめ笑っている。
「さ、そろそろ仕掛けますか、謝ったら許してやらんこともなかったかもしれんが…⋯なにせ愛しの妹があんなボロボロの状態で横たわって…⋯かわいそうに…⋯今お前に付きまとっている悪党をやっつけてやるからな……!」
男は掌を前へ掲げ、魔法を唱える———はずだった。
「炎魔法———っ」
『はあああああああああ!』
「……は?」
魔法を唱えると同時に、絶対破られることのないであろう炎の壁が一瞬にして壊された。
「お前……なんで———」
「なんと……」
「お……お兄様⁉」
壁を破った張本人はその男の妹、オリヴィア、そしてアリアドネであった。
「お主は何を考えておる!まったく……これだからバカと言われ続けるのじゃ!」
「しかしあいつが!」
「なんじゃ、まだレイがオリヴィアを襲ったと本気で思っておるのか?」
「だってそうとしか考えられないじゃないですか!」
「だから違うといっておるじゃろうて……」
「あの、これって……」
玲が今の状況を上手く呑み込めずオリヴィアに聞く。
前を見ると男とアリアドネが言い合っている……というよりかはアリアドネが男を叱って、ひたすらその男が言い訳をしている。そして隣には呆れた表情をしているオリヴィアがおり、オリヴィアはその男のことを先ほど「お兄様」と呼んだ…が、その男はこの洞窟に攻撃をしかけ、アリアドネとオリヴィアの魔法を掛け合わせその風圧でなんとか突破したからいいものの、それがなければ本当に飢えで死ぬところであった。
……しかもなぜか玲がオリヴィアを襲ったとかいう意味の分からない容疑まで掛けられて少しでも動くと男の目が猛獣のように光る始末である。おそらく洞窟を襲った理由もそれだろう。
するとオリヴィアははぁとため息をつき、困惑している玲に口を開く。
「彼は私の実のお兄様、シャリオン・グレイスです……妹思いなのはいいんですが、時々にこうして壮大な勘違いをして私や周りの方々にまで巻き込む癖がありまして……今回に限ってはレイ様も巻き込んでしまい、なんとお詫びを申したらよいか……」
「いえ、僕は大丈夫なんですけど……」
シャリオンの方をちらと見ると今にも殺してきそうな眼差しでこちらを見てくる。その度にアリアドネが呆れた表情で制止させていた。
「オリヴィア、こいつに謝らなくていいぞ、なんたってこいつ、お前を襲ったんだからな!」
シャリオンがアリアドネに怒られながらこちらにそう言ってくる。
「お主は頑固よのぉ……」
するとオリヴィアがしびれを切らしたかのようにシャリオンに歩み寄る。
「いい加減にしてください!私はこの通りピンピンしています!なのになんですか!ずっとレイ様を私を襲った犯人にして!なんなら守ってくれたんですよ!?」
「こいつがお前を?フン、ありえないね」
「ありえているから私はこうして立っているんですよ!」
「だってこいつ、魔力ねーじゃねぇか、守るなんざ出来っこねーよ」
玲の方をジロジロと嘗め回すように見ながらそういう。
「そんなこと言ってあげないでください!かわいそうです!」
「かわいそう……」
玲をフォローしたつもりなのだろう。全くフォローになっていない。
「二人とも、やめんか」
いつまでたっても終わる気配の無い兄妹喧嘩を鶴の一声で黙らせた。こういう場面では王女らしさが垣間見える。
『すみません……』
二人が謝罪したことを確認すると一息つき、アリアドネがシャリオンに近づく。
「お主、なぜレイのことをそこまで嫌う、もうわかっておるのじゃろ?玲がオリヴィアを襲ったのではなく、逆に疲弊していたオリヴィアを守っていたと」
「アリアドネ様こそ、なぜそこまでレイを守るんですか」
その質問に対し、一瞬キョトンとするが、アリアドネはすぐに笑みを浮かべ、その理由について述べる。
「わしはとある理由で城を抜け出し、この森に逃げ数日が立ち、腹は満たせても、心は満たされなくなってしもうてな、まぁつまり人肌に飢えておったんじゃ、そこにレイがやってきてくれた、ま、その時のレイはボロボロすぎて、正直今までのわしの苦労が否定されたような気分になったがの」
「いやそれでも———っ」
アリアドネがシャリオンの口を人差し指で制止する。
そして静かな声でもう一つの理由を言う。
「あともう一つ、こやつは例の異世界転生者なんじゃよ」
「なっ———!いやでもそんな事が⋯…」
そういいながらアリアドネの方を見ると何も言わず、シャリオンを見ていた。
「…………」
異世界転生者、その言葉を耳にした瞬間少しは驚いたものの、すぐに理解したのか、はたまた無理やり納得したのか、シャリオンは急におとなしくなった。余程驚いたのだろう、それ以降何も言わなくなった。
そうだと言わんばかりにアリアドネがその沈黙を破るように手を叩く。
「どうじゃシャリオン、そんなにレイがオリヴィアのことを守ったと信じれんのなら手合わせしてみるというのはどうじゃ?」
「アリアドネさん!?」
「アリアドネ様!?」
玲とオリヴィアが驚愕の声を漏らす。しかしシャリオンだけは違った。
「本気で言ってるなら、受けて立ちますよ」
「さ、ここでやろうかの」
アリアドネは玲とシャリオンを洞窟から少し離れた開けた場所に案内した。
「お兄様…⋯!アリアドネ様っ———」
アリアドネはオリヴィアの体の前に手を払い、「待つのじゃ」と静止させる。
「ア、アリアドネ様⋯…?」
オリヴィアはアリアドネの意図はまだ完全に悟ってはいなかったが、何か理由があって私を静止させたのだろう、そう信じて黙って見守ることにした。
「いつでも初めてよいぞ」
アリアドネがオリヴィアの手を引き後ろへ下がりながら言う。
改めてシャリオンの身なりを見る。高貴な服を着こなしており、腰には柄が黒の剣が玲と同じく差さっていた。
すると意を決したのか、玲は綺麗な姿勢で真剣を構える。それを合図と取ったのだろう、シャリオンが人差し指と中指を玲の方へ向け、魔法の構えをとる。
(こいつ、本当に魔力がないじゃないか……どうやってオリヴィアを守ったんだ?)
「ま、試してみればいいだけだよな」
そう呟くと、魔法を唱え始めた。
「炎魔法……太陽」
するとシルヴィアの右目から、アリアドネとよく似ているが、少し違う炎のような赤い糸のようなオーラが植物が芽を生やすように現れる。
それと同時に文字通り太陽のような眩しさと、燃えるような熱いものが勢いよくこちらに向かって来る。
「——————!!」
やはり無理だ、なぜアリアドネさんは僕にこんなことをさせたんだと一瞬頭の中で考えるが、今はとにかく振るしかない、真剣を振り、これを断ち切らなければ死ぬ、玲はそのことだけを考えることにした。
「ふ……そういうことかよ……」
玲はどうにでもなれといったように真剣を縦に思いっきり振る。すると———
「き……れた……?」
その熱い太陽のようなものは恐らく玲の真剣によって切られたのだろう、玲を避け、両脇にあった木々に直撃し火の手が上がっていた。
「アリアドネ様……これは……」
「うむ、やはりな」
オリヴィアとアリアドネが玲を見ながら何かに核心した様子で話している。
「えっと、いったい何が……」
「おいレイ!まだ終わってねーぞ!」
「まだやるんですか!?」
「あたりめーだろっ!」
玲が慌てて真剣を構え直すと、それと同時にシャリオンが魔法を唱えながら急接近する。
「炎魔法、焼き印!」
何かを鷲掴みにするように構え、手に力を籠め、玲に殴りかかる。
「うわっ!」
シャリオンの攻撃をなんとか真剣で受ける。
「これも受けんのかよ……!」
拳を弾き、後退するシャリオんの顔を見ると、まるでこの戦いを楽しんでいるように笑みを浮かべていた。
「久しぶりに、楽しめそうだよ」
そういうと腰に差してあった剣を抜き、玲にその切っ先を向ける。が———
「ここまでじゃ、シャリオン、その刀しまうのじゃ」
「は、はい……すみません、つい興奮して……」
刀を使ってはいけない理由でもあったのだろうか、アリアドネが二人の間に入り、強制的に手合わせをやめさせた。
「ふぅ……」
玲は力が抜けたようにその場に座り込む。
「レイ様!大丈夫ですか?何かおけがなどは……」
オリヴィアが心配の面持ちでこちらに駆け寄る。
「い、いえ、ただ死ぬかと思っただけで…」
「お兄様には後で強く言い聞かせますので」
オリヴィアが少し低い声で言う。
「そこまではしなくても……」
「ふふ、そうですね、それはさておき、レイ様、すごいですよ、お兄様に刀を使わせるなんて……私ですら刀を抜いたところなんて今まで見たことなかったのに……」
「え、そう、なんですか?」
すると真剣な表情になり、玲の方を見やり伝える。
「レイ様、アリアドネ様から大事な話がございます」
「お、レイ、大事は無かったかの?」
洞窟に戻るなりアリアドネが聞いてくる。
「え、えぇ一応……」
「なら、そろそろ話すかの」
ふぅと息を吐きながらその場に座る。
「レイ、よいか?よく聞け」
思わず息をのむほどに、その表情からは緊張と真摯さが伺えた。
「あの熊、言い換えれば魔獣を倒した時から思ってはいたが」
「え、魔獣……?」
「あぁそうじゃ、魔獣、伝えそびれておったが、あれは普通の物理攻撃ではまず太刀打ちできんのじゃ、ならどうすると思う?」
「どうするんですか…」
「魔力のこもった何かで攻撃するんじゃよ」
「え、でも僕倒して……」
静かにアリアドネは玲の目を凝視しながら頷く。
「魔力のこもった何かで攻撃したということじゃ」
「まさか……!」
そういいながらさやにきれいに収まっている真剣を見る。
「お主のもっとるその剣が魔力をもっておったから、攻撃が通った、としか考えられん」
ようやく手合わせをさせた理由がわかったように玲が顔を上げる。
「手合わせさせた理由はまさにそれじゃ、確かめたかったんじゃよ、本当に剣に魔力が籠っておるのか、そしてそれがどれほどの魔力なのかをな、現にシャリオンの魔法を切ったじゃろ?それがこの話をする決定打となったんじゃ」
アリアドネは顎を撫でながら続ける。
「わしもまさかとは思ったがの、レイ」
「……はい」
「そのお主が師範と名乗る者から受け取ったその剣の正体はの……」
少し間を開け、決心したように再び口を開く。
「恐らく、いや確実に世界に10本しかないと言われておる、魔剣じゃ」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




