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別界勇者  作者: 隠岐供契
第一章:森
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第六話 魔法

「魔法…?あの、漫画とかでよく見るあれですか…?」

「マ、ンガ…?ちょっとわかりませんが、多分それ…だと思います」

 まだ理解が追い付かない。つい先ほどアリアドネのテントを襲撃?してきた女性が実はアリアドネ国と呼ばれる200年の歴史を持つ国の第三王女候補であるオリヴィア・グレイスであり、アリアドネはその初代王女でまだ現役であること。そしてなぜかその城を抜け出した理由がおそらくその小さな体にあること。

 ———そして、オリヴィアにあなたは異世界転生者(アルディラ・ヴェルト)であり、これから魔法を覚えてもらうといわれ、今に至る。

「すみません、まだよくわかってなくて…」

「大丈夫です、むしろすぐにこの状況を飲み込める人なんてそういないでしょうし」

 冗談めかすようにオリヴィアが気にしないでという風に微笑みながら手のひらをこちらに向ける。

 気を取り直すように両手をパンと打ち付けると、真剣なまなざしでこちらに話しかける。

「では、まだ呑み込めていないでしょうが、おそらくもう時間がありませんので、早めにお教えします」

「時間…?どういう…」

「すいません、その話は少々長引きますので今は省かせてもらいます。ですが、すぐにわかると思います」

 申し訳ないように玲のその問いに答える。

「わ、わかりました…」

 なんとか理解しようと試みている玲のその様子を見るなり微笑み、どこか安心した面持ちで話を続ける。

「まず初めに、あなたはもう魔法を見ているはずです。心当たり、ありますね?」

「え…?あっ———」

 少し間は空いたものの、すぐに思い出す。テントが襲撃に会い、その際、オリヴィアが何かを呟いたのち、突如としてクレーターができたのだ。きっとあれのことだろう。

「思い出したようですね」

 玲の意図を察したのか、オリヴィアは話を続ける。

「あれを私たちの世界では魔法と呼んでいます。主に幼少期の時点でその者の魔力、つまり威力や魔法の種類が決まります」

「え、じゃあ僕は…」

「あなたの場合、実のところ私たちもまだよくわかっていません。しかしこれはあくまで私達の仮定にすぎませんが、この世界に来たということはつまり、魔法の才能が少しでもあるのではと、考えているのです」

 そういうとオリヴィアは玲の方へ歩み寄り、目をつむりながら胸のあたりに右手をかざす。

「えっと、これは何を…」

魔力探知(フォルス・サーチ)、言わばあなたの魔力量を調べています。本当は神聖なる場でしないといけないのですが、何分今はどの魔法を教えるか、それを知らないとできませんので、ご了承ください」

「わかりました…」

 自分はどのくらいの魔法を打てるのだろうか…やはり炎や雷といったかっこいいのがいい。土とかそういうのはやはり避けたいところである。そもそもこの世界に炎や雷といった概念はあるのだろうか。

 そう頭の中で考えていた玲はふとオリヴィアの方を見る。するとなにやら難しそうな顔をしている。

「どう…したんですか?」

「……」

 かなり集中しているようだ、玲の問に一切の反応を見せなかった。何か問題でも起きたのだろうか。

「もうよいじゃろ」

 数分後、アリアドネが後ろからオリヴィアを制止させるように肩に手を置きながら言う。

「ですが…」

 どうやら何か問題が起きたらしい。言いずらそうにしているオリヴィアを横目にアリアドネがこちらに歩み寄る。

「おそらくとは思っておったが…簡潔に申すぞ」

「は、はい…」

「お主、魔力ゼロじゃ」

「…は?」

「聞こえんかったか?だから———」

「聞こえてましたけど!え?どういうことですか?ゼロ?」

「そうじゃ、ゼロじゃ。残念じゃったの」

「何がですか!」

「アリアドネ様!」

 これから更にからかいがヒートアップするであろうアリアドネをオリヴィアが制止させる。そしてさすがに真面目に話さないといけないと思ったのか、アリアドネがそれについて答える。

「まぁ、言葉の通りなのじゃが、つまりお主は一切の魔法が使えぬということなのじゃよ」

「そんな…」

「そ、その、レイ様…」

「なんでしょう…」

「本当に申し訳ありません…」

 オリヴィアが深々と頭を下げる。

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「とは言ったものの、どうしたものかの」

 アリアドネが考えるように顎に手を当てながらそう言う。

「何がです?」

「この世界で魔法が使えないとなると、かなり厄介なんじゃよ」

「私が代わりに」

 また玲のことをアリアドネがからかうと察したのか、オリヴィアが割って入り、説明をする。

「この世界は基本魔法を使えないと、例えばこの森なんかは生きては帰れないんですよ。簡単に理由を申しますと、普通の物理攻撃では太刀打ちできない相手がほとんどだからです。今は奇跡的に襲われてはいないようでそこは安心ですが…」

「襲われる…?」


———ガサッ…


 生きては帰れない…そんなに危険な森に僕は二晩も過ごしたのか、そう思っていると、()()の音が後ろでした気がした。

「———は!レイ様逃げっ———きゃっ!」

 オリヴィアがその()()に気づいたときにはもう遅く、瞬きする間もなく、玲の後ろまで吹っ飛ばされ、木に腰を強く打ち付ける。おそらく骨折どころではないだろう。

「オリヴィアさん!」

「オリヴィア!こんの…!」

 アリアドネが叫んだその時、その()()は姿を現した。

「熊…?いや、角…?」

 オリヴィアの元へ駆けつけながら見るとそれは白い毛で全身を覆い、牙は口の中に納まらなかったのか外にはみ出している。隈のようだが、頭には立派な角まで生えている。全長はざっと見ただけでも五メートルはありそうだ。

「はっ!」

 その熊のような獣はアリアドネを次の標的とし、それに気づいたアリアドネがすかさず手を前にかざすと、大きな丸い魔法陣のようなものが顕現される。

「シールド!」

 アリアドネが両手を前に掲げそう叫ぶと同時にその熊がこぶしを振り下ろす。

「アリアドネさ———ん?」

 一見やられたと思ったが、熊の動きが鈍く、否、止まっているように見えた。見るとその振り下ろしたこぶしは見事にその魔法陣に阻まれ、アリアドネは苦悶の表情一つせず余裕の面持ちでその魔方陣を支える両手を片手に切り替え、右手を真横に振る。

「風魔法・風の矢(ヴォン・アロウ)!」

 そう叫んだのち、アリアドネは右手を熊の方に向けると、今度は小さな魔方陣が無数に出現し、そこから数えきれないほどの矢のようなものが熊を襲う。

「ウガアアアアア!ガアアアア!」

 熊の体から血しぶきが飛び、もはや一方的な攻撃と化していた。

 熊も負け時とこぶしを何度もアリアドネに打ち付けようとするが、無駄だ。全くそのシールドを敗れる気配がない。その間にも魔法の矢は、とどまることを知らずに熊を襲う。

「これが、魔法…」

 オリヴィアの元へ行き、体を起こしながら戦いの様子を見ていた玲は思わず見とれてしまっていた。

 しかし…

「くっ…なかなかしぶといやつじゃの…!」

 矢は次々と熊を襲っているが、なかなかしぶとく、少しずつ魔法陣が薄れていき、アリアドネは初めて苦悶の表情を浮かべ始めた。

「くそ…この手はあまり好きでないんじゃがの…!」

 さすがにまずいと思ったのか、アリアドネは大きく後ろへ後退し、また両手を前に掲げ、先ほど同様魔法を繰り出そうとするが、今度はは何やら雰囲気が違うように思えた。

「風魔法・世の風(ヴォン・モンド)!」

 すると、アリアドネの髪の毛がひらりとなびき、左目が垣間見え、そこから細いオーラ?のような緑の何かが勢いよく出る。

 そしてその両手から放たれたのは、簡単に言うと「風」であった。その風は瞬く間に熊を覆い、かつ高速で吹き荒れるその風は時に刃となるのだろうか、熊の体から血が吹き出し始める。

「ウガアアアアアアアアアアアアアア!!」

 それと同時にアリアドネがこちらを向いて一瞬で飛んできた。今思えば前に自分を壁にしたときに飛んできたあれは一種の魔法だったのだろうか。

「レイ!あやつがこちらを視認する前にオリヴィアを運んで逃げるぞ!」

 アリアドネは必死の形相で玲にそう命令する。

「は、はい!」

 オリヴィアを急いでおんぶし、その場から離脱する。


———数時間後、森の中にある洞窟———


「ん…ここ…は…ん———!?」

「あ!やっと起きましたか!よかったです…アリアドネさーん!」

 数時間に及ぶ介護の後、やっとの思いでオリヴィアが目を覚ました。

「やっと起きたか!よかった…て、ぎゃはは!レイ、お主は母君か?ぎゃははは!!」

「…いや、これアリアドネさんがさせたんですよね…」

 そう、今玲はどんな格好でオリヴィアが目を覚ましたことをアリアドネに報告したかというと、膝枕であった。アリアドネが最初隠れられる場所を見つけ、オリヴィアの介護をする段階になった時に、急に玲に膝枕しろと言ってきたのだ。まぁ確かにここは岩だらけでろくに休めなさそうだったので納得してしまいやってしまったのだが…

「はぁ、あ、オリヴィアさん、すいません…すぐどきますね…」

「い、いえ居心地よかったですのでお気になさらずに…」

「え?」

「はぅ!いえ!なんでも!」

 今居心地がよかったといっただろうか?いやまぁその言葉自体はありがたいのだが、なにやら赤面しているように見えた。何か変なことでも言っただろうか…

 オリヴィアを丁度よさそうな岩場に座らせ、まだからかいたらなさそうなアリアドネをにらみつけた後一息つき、話し始める。

「えっと、これからどうします?」

「ま、このまま野宿じゃろうな」

 少しムスッとしているアリアドネだが、やっと諦めたのかちゃんとした返答をする。

「ですね…オリヴィアさんも幸い骨折はしてなかったもののまだ完治とまではいかないでしょうし」

 すると慌てて赤面しながらオリヴィアが口を開ける。

「わ、私は大丈夫ですので…」

「お主は黙って安静にするのじゃ」

 そういうオリヴィアをアリアドネはすぐに止め、とにかく休むよう促す。

「ま、今日のところは寝ようじゃないか、一応見張りはわしとレイとで交代でやろうぞ」

「わかりました」

「わ、わたしも…」

「あなたはとにかく休んでください」

 オリヴィアに微笑みかけながら玲は優しく言う。

「は、はいぃ…」

 オリヴィアはなぜか照れながらうなずく。なにかおかしなことでも言っただろうか…

「あ、あの…」

「?はい、なんでしょう?」

 数秒開いた後、ゆっくりと首を横に振る。

「い、いえなんでもないです、すいません引き留めてしまって」

「大丈夫ですよ、今は安静にして、早く元気になってくださいね」

「は、はい!」

 また照れながら頷く。一体どうしたのだろうか。

「じゃあ僕は見張り行ってきますね」

「はい、お気をつけて」

 オリヴィアにそう告げると、アリアドネが爆睡してる姿を横目に、洞窟の入口に向かい、程良い岩に腰掛け、見張りを始める。

 ちなみにこの後何度起こしてもアリアドネは起きず、結局玲がずっと見張りをすることになった。


———ガルルルル…


 暗い意識の中、何かのうめき声が聞こえる。どうやら見張り中に寝てしまったようだ。

「ん…なんのうめき声…はっ———!?」

 目の前にはなんと先ほどアリアドネが撃退した熊が、それも三体の仲間を連れて今まさに玲の前に立っていたのである。

「アリアドネさ———」

 アリアドネを呼ぼうとするや否や、熊のこぶしが頬を掠め、地面をたたき割る。頬からは血がしたたり落ちる。大声で呼ぼうとしても熊が邪魔をして安易に呼べない。さてどうしたものか…

 すると、腰に差してある真剣に目が行く。

「あ、これで———うわっ!?」

 刀を抜こうと腰に手を伸ばすが、それより先に熊のこぶしが玲を襲い、逃げることしかできない。刀を抜こうもんなら先に熊の攻撃が玲を襲うだろう。実際にオリヴィアが吹き飛ばされるところを間近で見た玲には容易に想像できた。しかも真剣なんて扱ったこともないのでやり合えるはずがない。

 仲間の三体はこの状況を余裕と見たのか、様子を伺っている。

「グラアアアアアアア!」

 逃げようにも玲も人間だ、すぐに体力が底をつき、ついにこぶしが玲の腹にクリーンヒットしてしまい、まんまと吹き飛ばされる。

「ガハッ———!」

 口から血が吐き出る。

 まずい、このままだと、死ぬ。忘れかけていたその「死」という言葉が、再び玲の頭の中をかき回す。

「グルルルル…」

 止めをさそうと熊がゆっくりとこちらに歩いてきて、こぶしを振り上げる。あぁここで本当に終わりなんだな。そう、思っていると、熊が真横に、何かに突き飛ばされるかのように、吹き飛んだ。

 この感じは身に覚えがある。魔法だ。それにこれは———

「アリアドネさん!」

「おぉ、お主生きておったか、なんだ、一人で手柄を取ろうとでもしておったか」

 両手を前に掲げながら余裕そうに玲に話しかける。

「そんなことはありませんが…とにかくありがとうございます…」

「どれ、わしが相手じゃ」

 そういうとアリアドネは玲を守るように前に立ち、じっと熊の方を見る。

「あ、そうそう、オリヴィアにはちゃんと外には出るなと伝えておるでな、安心せい」

「そ、そうですか…」

 するとアリアドネは熊の方へ指を指し

「お主また懲りずに襲って来よって…しかも今度はご丁寧にお仲間も連れてきてるんじゃな?」

 アリアドネは引き連れてる仲間の数を確認した後、指を指すのをやめ、手をゆっくりと胸の前に両手で三角の形を作り、魔法の準備をする。

「———その喧嘩、わしが買おうぞ」

皆さんこんにちは!隠岐供契です!

今回の話も読んでくれてありがとうございます!

第六話、いかがでしたでしょうか??

よければ感想をコメントで教えてください!作者が飛んで喜びます!

「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!

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