第五話 襲撃
テントの隙間から見えるその景色には、鎧を着た無数の兵士と思われる者たちがアリアドネのテントの周りを囲っていた。
「アリアドネさん…これは…」
「黙っておるのじゃ。お主がおることはあやつらには知られておらぬ。おとなしくしておれ」
緊張した面持ちで外を見ながら玲に伝える。
すると、鎧の兵士の群れから一人の女性の声がする。
「ちょ…と、開けてください…すいません…」
その声がした方向にいた兵士たちが一斉にざっざっと道を開けていく。
そしてやっと抜け出すことができ、この場に似つかわしくないきれいな女性が姿を現し、「コホン」と一息ついてから口を開く。
「いい加減出てきてください!!」
一言目がなぜそれなのかと少し疑問に思った玲とアリアドネだったが、アリアドネの顔からは緊張していることがひしひしと伝わってくる。何をしたのだろうか…犯罪?いや、こんな綺麗な服を着こなして…いるのかどうかはわからないが、とにかくお金はかなり持ってそうだ。追われる身にどうしてなったのだろうか。
「アリアドネさん…なにしたんですか…?」
すると、何か隠しているのか、それとも緊張しているからか、少し背中がビクッと震えた。
「な、なにもしておらぬ…ぞ?」
絶対何かしでかしたのだろう。そう確信した玲は怪しい人を見る目でアリアドネを見る。
「そ、そんな顔でみるでない!犯罪者でもあるまいに…」
「ではなぜ追われているのですか」
「追われてないぞ。あやつらが勝手にわしに付いてきただけじゃ」
それを追われているというのではないだろうか…そう思っていると、テントの外からまた声がする。
「そのテントにいることはわかっています!今すぐ出てきてください!」
「べーっだ」
小声で片目を閉じ、舌を少し出してその女性に隠れながら言う。
「テントじゃなく、外で言ったらどうですか」
「嫌じゃ」
「……」
大人のお姉さんなのか、子供なのか、何なのか、本当に分からなくなってくる。
すると流石に痺れを切らしたのか、外にいる女性は声を荒げてアリアドネに忠告をする。
「もう怒りましたよ!いいんですね⁉もう弁解の余地も与えませんよ!」
「レイ…」
「はい?」
「逃げるぞ」
「……?」
そう言っているのも束の間、その女性が手を振り上げ、兵士に合図を送ろうとする。
「この手は使いたくありませんでしたが……」
そう言いながら、手で合図を送る。それと同時に周りの兵士たちが一斉に手のひらをこちらに向ける。
「あれは———」
「どりゃあああああ!」
玲が疑問に思っていると、アリアドネは即座に玲の胸倉を掴み、日本でいうところの背負い投げの要領で投げ飛ばす。
吹き飛ばされたと同時にアリアドネの方を見ようとしたとき、テントが爆発した。爆発?なぜ爆発なんてするのだろうか。爆薬でも仕込まれたのか、否そんな形跡はなかったはずである。
ならばあれば一体———
「お前ら…」
アリアドネの声が爆発したテントの中から聞こえる。あの爆発だ、きっと無事ではない。そう思いアリアドネの方を見ると、何やら黄緑、いや緑だろうか、とりあえずそのような色をした何かが、アリアドネを土埃一つ付けず完璧に守っていたのである。
「あれは……」
「お前らよくもわしの大事なたった一つだけのテントを壊したなあああ!?」
「そこ!?」
思わず声に出してしまった。だってそうだろう、テントどころか、半径1mのクレーターができるほどの威力の爆発だ。まず一番は自分の心配ではないだろうか。
すると、兵士たちに守られている女性が口を開く。
「やっと出てきてくれましたね。さ、一緒に来てもらいますよ」
「やじゃ!」
この期に及んでまだそんなことが言えるのか……そう思っていると、怒ったのだろうか、その女性が怒りの面持ちで、かつ冷静さを保とうと声を荒げずに言う。
「そうですか……なら、力ずくで来てもらいます」
そういうと女性は手のひらをアリアドネの方に向け、何かを小声でつぶやく、すると、アリアドネが何かに気づいた様子でこちを向き……飛んできた。ん?飛んで———
アリアドネがこちらに来たと同時に、先までアリアドネがいた場所に、何とも信じがたいが、さらに大きな、さっきとは比べ物にならないぐらい大きなクレーターができていた。
「え⁉飛んできました!?今!いや、それよりも何ですかあのクレーターは!急にできましたよね!?」
「その話は後じゃ!今はあやつから逃げるぞ!」
「僕まで共犯にするつもりですか!?」
「またそうやってわしを犯罪者にしよって———」
言い合っていると、見えない何かが二人の頬を掠め、後ろに聳え立っていた木々が粉々に吹き飛ぶ。その砂埃の中から異様なオーラを纏った女性がこちらに歩み寄ってくる。
後ろに引き返そうにももう遅い。兵士たちが肉壁となり、アリアドネ達を完全に包囲した。
「お前ら…」
「アリアドネ様。もう観念してください」
…様?やけに丁寧だ。何かしたであろうアリアドネをここまで追ってきたその女性は、なんとも丁寧に「様」付けでこの人をそう呼んだ。なんて感慨深い人なんだろう、そう思っていたが、どうもおかしい。アリアドネはその言葉になにも反応せず、何ならそれが普通の事かのように表情一つ変えずにその女性を見据えていた。
「お主も暇よのう?こんな幼気な少女を追い回しよって!」
「幼気でも少女でもないでしょ!いいから早くこちらに!」
「やじゃ!」
まるでお菓子を買ってくれない子供と買わない母親の不毛な争いだ。こんなテンプレートの言葉を変えただけような口喧嘩は人生で初めて見るかもしれない。
そんな口喧嘩をしていると、その女性はまたアリアドネに掌を向けて、先の威力ほどの何かを打とうとしていた。まずい。そう思い、後ろを振り返り、逃げようとした…が、なぜか体が動かない。
「…なに…してるんですか…?」
「どうもこうも…お主があまりに勇敢に見えたものでな…」
「壁にしてますよね?離してください…」
「…やじゃ」
そう。アリアドネはあろうことか玲を壁にして自分だけ助かろうとしていたのだ。それもちゃんと四肢を拘束するように羽交い締めしてきており、なかなか抜け出せない。
「———!人質!?アリアドネ様!」
「卑怯だというのか?ふふ、お主もまだまだじゃのう。これは戦略的…んー…そう!戦略的撤退だ!」
決め台詞のつもりなのだろうか。全く決まっていなかった。それに一瞬言いたいことを忘れてもいた気がするが聞かなかったことにしよう。
さすがにまずいと思ったのか、その女性は掌を下げ、殺意は消えた。
…そしてやっと拘束から逃れた。
「なんで僕を壁にしたんですか…」
「だから…その、戦略的撤退じゃ…」
「全然戦略的じゃない場合どうしたらいいんでしょうか」
「知らぬわ!」
あぁ、この人は子供だ。間違いない。そう確信した玲のその考えは、次の女性の言葉で撤回されることになる。
「はぁ…」と大きなため息の後、女性はアリアドネに向き直り叫ぶ。
「アリアドネ様!王女であるあなたがそんなのでは国民の皆様に示しがつきませんよ!早くお城に帰ってきてください!」
「王女…王…え?」
「くぅ……」
———数分後———
「えっと…アリアドネさん?もう一度…説明してもらえますか?」
「はぁ、お主、本当に知らなかったんじゃな。何度も言うが、わしはアリアドネ国の王女じゃ」
アリアドネが呆れたようににため息をつきながらそう言った。何度聞いても理解ができない。この人が王女?ありえない。あんなに我儘で、子供っぽいこの人が王女なんて…
「えっと、レイ様?でしたっけ?本当にすいません。こんな人が王女で…」
「こんな人とは何だこんな人とは!」
また喧嘩が始まりそうなのでここで一つ聞いてみる。
「す、すいません。何代目…なんでしたっけ?」
するとまた呆れたような顔でこちらを見ながら答える。
「初代じゃよ」
そう、初代。聞くとそのアリアドネ国は200年の歴史があるかなり大きな国なんだそう。
この人が初代アリアドネ国王女なのだとしたら、一体この人は何歳なのだろうか。
「お主…今何考えておるのか、よくわかるぞ」
怪しい人を見る目でこちらにそう言ってきた。いや、だってそうだろう。初代王女なのだとしたら余裕で100、否200歳を超えててもおかしくはないのだ。しかしアリアドネの姿を見るとまだに子供。しわもないどころかピチピチだ。間違ってもそんな歳がいっているとは思えない。
「いや…まぁ、すごい…ですね」
「よーしやるきじゃな⁉やるんじゃな!?こっちへ来いレイ!!」
「お二人ともやめてください!」
まったくと呆れた表情でそう言ったこの女性はまだ若そうだが…
「———!わ、私はちゃんと若いです!」
赤面しながらこちらの意図を察したようにそう告げる。まだ何も言ってないのだが…
———しばらくして山道———
「そういえば私の名前、言ってませんでしたね」
「あ、そうでしたね。聞いても?」
一切景色が変わる気配のない山道を歩きながら問う。ちなみに他の兵士はというともう用はないので国に帰らせたそう。
「えぇ、私はオリヴィア・グレイス、アリアドネ国第三王女候補です」
「第三…?」
アリアドネの歳を考えると当然と言える。オリヴィアと名乗るその女性の見た目からして、玲と同い年か、少し上といったところだろう。きっとオリヴィアの母にあたる人物が第二王女候補なのだろう。するとここで一つの疑問が生まれる。
「ということは、今は第二王女が国を指揮しているんですか?」
「いや、わしが現王女じゃよ。まだ引退しておらん」
「では、今は誰が…」
そう聞きながらオリヴィアの方を見ると、少し曇った表情を見せ、立ち止まる。
「…誰も今は王女の席にいないことになります…」
「第二王女がその席にいるんじゃ…」
すると今度はアリアドネが暗い表情になる。
「第二王女候補であるあやつは、今は行方をくらましておるのじゃ」
「え、じゃあ…」
「だから困ってるんですよ!アリアドネ国では原則女性、つまり女王が均衡を保つ役目を果たします。第一王女が引退しない限り代理で第二、第三王女候補である人物が指揮をとることも禁止とされています。ですので今は、誰も法を裁く人がいない状態なんですよ!」
我慢の限界だったのか、オリヴィアはアリアドネに必死に訴えかける。
アリアドネの方を見やると気まずくなったのか、そっぽを向いた。
「早く戻った方が…」
「嫌じゃ!」
「何でですか!?」
「…そ、それは…」
急にもごもごしだした。法を裁く唯一の存在の人が逃げ出すとは、よっぽどの理由でもあるのだろうか…とにかく戻った方が良さそうな気はするのだが…
そんなことを考えているとオリヴィアが何かを閃いたように口を開く。
「もしかして…その体のことと関係ありますか…?」
「……聞くでない」
アリアドネのその小さな体と、城を抜け出した理由が関係がありそうだが、アリアドネの顔を見ると聞かない方が良さそうである。
「…申し訳ございません」
オリヴィアもそれを察してか、もしくは知っているのかはわからないがそれ以上は聞かず、素直に頭を下げた。が、「ですが」と話を続ける。
「もう一度、お城に戻ってほしいという国民の、私たちの希望があるということを、どうか忘れないでください」
「わかっておる…」
そういった後、話をすり替えるようにアリアドネが「コホン」と一息つき、オリヴィアに向き直り口を開く。
「そうじゃ、オリヴィアよ。そなたに一つ、お願いがあるのじゃが、よいか?」
「え?あ、はい…」
アリアドネが玲に指を指す。
「こやつ、恐らく近年噂されてた例の者じゃ」
「———っ!」
「え…と、なんです?」
玲が困惑しているのを無視してアリアドネは続ける。
「異世界転生者…ですか」
「なら、することは、わかるな?」
その問いにオリヴィアは頷き、玲のことを見ながら告げる。
「突然ですいませんが、レイ様、あなたにはこれから魔法を習得してもらいます」
「———は?」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第五話、いかがでしたでしょうか??
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




