第二十八話 一時の安堵
「え……全てを消滅させるって……しかも無限……?」
ヴォレットはずっと疑問に思っていた、魔銃を使ったことによるオリヴィア達の怯え、これについて聞いたところ、更に疑問が増えたような気がした。
「えぇ、まぁ、私達も詳しくは知りません。ですが、聞いてわかる通り、それが禁止魔具に指定された理由です」
「でも、消滅、とまではいきませんが、強い魔法ぐらいいくらでもこの世に存在しますよね?なぜこの銃だけ……」
オリヴィアの回答を聞いた後、ヴォレットは自分の疑問を一つ一つ潰していくようにまた聞いた。
するとオリヴィアは嫌な顔をするどころか、微笑んで見せた。
「ふふ、ヴォレットは勤勉なのですね。そうですね、指定理由は魔具それぞれにありますが、それに関して言えばまず魔法というよりも無限に使えるといった点で禁止になりました」
オリヴィアは背負ったアリアドネの腕が自分の肩から落ちそうになったのを直しながら続ける。
「魔法というものは簡単にいうと集中力を使うのです、見たところその銃に秘められた魔力量は凄まじいものです。それを無限に、しかも疲労に気付かないとなると、どうなると思います?」
ヴォレットは自分の肩に回したシャリオンの腕が落ちないように時々注意しながら答える。
「いつの間にか魔力がなくなって、でも使うたびに搾取され……脳が焼き切れる……ということですか?ですが、そんなことが……」
「そんなことを可能にした国があるのですよ、いえ、正しくは国というよりも組織と言った方が確実でしょうかね……そこで開発された今回で言うところの魔銃を持ってテロを起こそうとする者が一定数存在するのです。我々はそれを取り締まり、その魔具を禁止魔具に指定し、あの金庫にしまってあるのです」
ヴォレットは今すぐにでもその魔銃、消滅の銃を投げ捨てたくなった。でもできなかった。これを捨ててしまえば、私は大切な方達を今後守れないのではないか、そう思ってしまうから。
その様子を見ていたオリヴィアは母親のような笑みを浮かべ、話しかける。
「ですが、見たところヴォレットは二発撃っても未だ魔力を失っていないと見えます。その銃は一発撃つだけで常人の魔力の三分の二は持っていくようなとんでもない魔力が込められていますから、ヴォレットはもしかしたら我々の誰よりも凄まじい魔力の持ち主かもしれませんね?」
それを聞いてヴォレットは、少し申し訳なさそうな顔をして俯いた。
「お気遣いいただきありがとうございます、オリヴィア様」
「いえ、実際あなたは環境のせいで魔法を覚えることができなかっただけで、魔力がないと勝手に勘違いしていた我々が無礼でした」
静かにそれを否定するように首をゆっくりと横に振ると、とある半壊した扉の前で立ち止まる。
「ここです、禁止魔具庫、ここなら壁も頑丈ですし、これ以上崩落もしないので、ひとまず安全と言えると思います」
それを聞くや否やオリヴィアはすぐにアリアドネを静かに部屋の隅に丁寧に横に寝かせる。ヴォレットも同様にアリアドネの横にシャリオンを寝かせる。
「ヴォレット、感謝いたします。ヴォレットも休んでください」
「ありがとうございます、オリヴィア様はどうされるおつもりですか……?」
オリヴィアは静かに回復魔法である「草の音色」を唱え、アリアドネを優先して癒しながら答える。
「そうですね、まずはここでアリアドネ様、お兄様を癒し、全快とまではいかずとも歩ける程度には回復させます。その後、レイ様ご一行と合流します……おそらく、あちらも危険です」
「わ、私もお手伝い致します……!」
オリヴィアはそれを聞いて満足したのか、頷いてヴォレットの方を見ずに語り掛ける。
「では……あなたにはまずお兄様を回復していただいて、回復したならその足でレイ様と合流し、再度戻っては来てくれませんか?多分足程度なら数時間で回復するでしょう」
「はい、わかりました、しかし、なぜアリアドネ様の回復を待たないのですか?」
するとオリヴィアは少しの間目を伏せ、一瞬の間を空けてヴォレットに微笑んで見せた。しかし、その笑みはどこか引き攣って見えた。
「アリアドネ様の回復には少々時間がかかるようです、寝るのがお好きなようですね」
その言葉は、誰が聞いても、震え、悲しんでいるように聞こえた。
ヴォレットはそれを指摘せず、素直に頷きシャリオンの手当に移った。メイドをするうえで回復魔法は必須技術なので魔法を知らないヴォレットもこれだけは使えるのだ。
「アリアドネ様は、お強い方です……ですので、その……」
しどろもどろになりながらも必死に慰めようとしてくれているヴォレットを見て可笑しくなったのか、はたまた嬉しかったのかつい吹き出してしまった。
「プッ、ありがとうございます……本当に……」
ヴォレットは少し恥ずかしくなったのか俯いてしまった。
「そういえば、そのレイ様?という方はどのような方なのですか?」
それを聞かれたオリヴィアはなぜか少し顔を赤くし、顎に手を当てて考える。
「そうですね……改めて聞かれると難しい気もしますが……」
でも、とヴォレットに向き直り続ける。
「彼は……ウスイ・レイ様は、素敵な方です」
―――場所は変わり、カーロス国―――
「では改めまして、作戦の概要をお話いたします」
綺麗なスーツをあしらい、丁寧な口調で話すはカーロス国王、リョウマ・カーロスの執事であり、またリョウマの親友でもあるスサノー・ルーデリアがその場の空気を断ち切り口を開く。
「あ、玲様は座っていてください。そうですね、我々も座りましょうか」
「すいません……」
いえ、と一言返すとシュシュを一瞥し、椅子を持ってくるように言った。
「では改めまして、この場はスサノーが取り仕切らせていただきます、と言いたいところですが……」
そういいスサノーは奥から段ボール一箱を取り出し、机に結構重いのか、無造作に置いた。
そこから取り出されたのは缶詰であった。
「これは奥から取ってきた非常食です。こんなものしかありませんが、まずは腹ごしらえしませんか?」
「あ~、まぁ確かに腹減ってるかもな、色々ありすぎて忘れてたわ」
最初に口を開いたのはリョウマだった。
それに応えるようにして玲の隣にいたシュシュのお腹もなり、見ると顔が真っ赤に染まっていた。
慰めようとしたが速攻大丈夫ですと早口で言われたので、何も言えなかった。
「んで?何があるんだ?」
「私も初めて見ますが……えっと……え!?」
「どう……しました?何か変な物でも?」
玲が急に驚いたスサノーに驚き、つい聞いてしまった。
「どうしたもなにもこれ……」
「ト、トワールだと!?」
リョウマが横からひょいと缶詰を奪うと、そのトワールシリーズと書かれたラベルを見て再度驚いた。
それを聞いてか周囲もざわつき始める。
トワールといえば食のレア度、つまり日本の料理をどれだけ忠実に再現したかのランクで、最上位ランクに属しているものを確かそう呼んだはずだ。
「で、でもトワールと言えば……」
玲がそう聞こうとするとスサノーが被せるように答える。
「事件のことでしたら安心です。これはリョウマ様が王に君臨する以前の物ですから」
「なら……いいんですけど……」
安心したのか、玲もお腹がなってしまった。
「じゃあ俺このマグロにするわ」
リョウマはそう言い、真っ先に段ボールから赤いラベルでマグロと書かれた缶詰を取り出す。
「皆さんも遠慮なさらず、ほら、ヴィーヴルも」
ヴィーヴルはそう言われコクリと無言で頷き、申し訳なさそうに一つ、ギュウニクと書かれた缶詰をスサノーから受け取る。
「おい、ヴィーヴル、どうした?そんな顔して」
違和感に気付きリョウマが話しかける。
そういえばそうだ、ヴィーヴルは確かに冷静沈着でクールな女性というイメージを強く抱いてはいるが、今はおどおどとしている。何かあったのだろうか?
「い、いえ、何も……い、いただきます……」
「リョウマ様、おそらくですが……」
スサノーが耳元で囁くようにしてリョウマに原因を教える。
聞くとリョウマはたちまち目を見開き、苦笑してしまった。
「ヴィーヴル……お前まだあの録音気にしてるのか?ハハハ!別に気にしてねーって!全く、本当に真面目だなぁ」
「もう私……どうリョウマ様と顔を合わせたらよいのかわかりません……うぅ……」
なるほど、最初アルムがリョウマに絶望感を味わわせるために聞かせた録音データのことを言っているのだろう。
確かに少しとは言えずっと慕っていた相手に嘘でも軽蔑しただなんて言ったのだ。真面目なヴィーヴルにとっては余計に応えるのだろう。
「玲様は何にされますか?好きなものとか……」
スサノーは言いながらこちらに歩み寄ってくる。
丁寧に床に置き、中を見せてくれた。
「あ……これにします」
手に取ったラベルに書かれていたのはハンバーグ。
彼、碓氷玲が魔剣を手に取る以前までずっと好きだった師範の料理である。
小さくいただきますと呟いてから蓋を開け、底に付いていた簡易のお箸で一口食べる。
「レイ様どうかされましたか?何か問題でも……」
「い、いえ大丈夫です、すいません……」
シュシュがそういうのも無理はない、玲は涙していたからだ。
だがこれは美味しくなかったのでもなく、腹を壊したからでもない。
ただ、美味しかったのだ。もちろん師範の味とは似ても似つかなかったが、それでも、あの頃を思い出すぐらいには美味しかった。
帰りたいと思っても、もう帰ることは許されない。
「では皆さんそろそろ食べ終わったころだと思いますので改めて作戦会議、始めましょうか」
スサノーが口をナプキンで丁寧に拭いながら皆にそう告げる。
玲を除く三名が書庫の中央に位置する机に座ったことを確認すると少しの間を空けて再度口を開く。
「今度は我々カーロス国陣営が、アルムを喰らう番です」
自らの国を陥れようとした相手にやり返すことができると確信したのかスサノーは不敵な笑みを浮かべていた。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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