第二十七話 禁止魔具
遠くで何かが燃えるような音が聞こえる。
「ん……」
ヴォレットは朦朧とした意識の中で必死に目を動かす。
「こ……こは……」
見渡す限り瓦礫の山であった。
そうだ、と少しずつ思い出す。
「吹き飛ばされて……あれ、でもなんで……」
なんで、あたりは焼け野原なのに私は無事なのだろう。そう思い辺りをもう一度見渡す。
すると、ヴォレットが逃げ込んだ先にあった部屋を構築していたのであろう壁が未だ聳え立っていることに気付く。ヴォレットはそれに守られていたのである。
「なぜここだけ……ん?」
その不自由な体に鞭を撃ち立ち上がろうとした瞬間、何かにあたった気がした。
「銃……?しかも魔力が……」
感触がした方を見やるとそこには銃が一つ無造作に置かれていた。
しかもそれには調べずとも膨大な魔力が秘められていることがわかる。
「ここは、まさか……」
周りにはこの国にあってはならない程の魔力を秘めた剣や盾、槍など様々な武器、否ここでは魔具と呼ぶべき代物が床に落ちていた。
「そうか、ここは禁止魔道具庫……ですのね」
禁止魔道具庫は、元より国に持ち込まれた魔力基準を大幅に超過するものを収容し、外部に漏れないようにするための言わば金庫のような役割を担っており、この部屋の破壊を防ぐため壁は頑丈な対魔力合金でできている。
先ほどの辺り一面を焼け野原にせんとする魔法ですらこの壁が魔力を大幅に軽減し、結果ヴォレットを守ったというわけである。
「私だけ……のようですわね」
生まれたての小鹿のように足を震わせながら壁伝いに上体を起こし、破壊された城下町を見下ろすと、一目見てここで何があったのか理解できると共に、立っているのはたった一人だけだという孤独を感じていた。
「だ、誰か……いませんか……?」
おそらくあの子供が放った魔法の影響で完全に崩壊した廊下を不安定な足取りで進みながら生存者を探す。
その道中はまさに地獄そのものであった。首のなくなった女性、今だ恐怖を訴えかける目をしたまま絶命している貴族、体の半分を失っても尚自分の子を守らんとする母と父の姿、そして―――
「―――ァア……そんな……あ、あぁ……あぁああああ!」
ヴォレットは泣き崩れ、一心不乱に走った。
「あぁ!カミュ……!あぁああ!カ……カミュぅ……ああああ!そんな……私が、私が逃がしたばかりに……うぅ……」
そこには恐怖の中、それでも逃げ遅れた民間の子供を抱きかかえ、守り犠牲になった副メイド長カミュ・ナタンの姿があった。
カミュの背中は焼け爛れ、爆発の最前線にいたのだろうか、右手足が引きちぎられていた。
悲しいかな、抱かれていた子供も、四肢こそ破損していないものの全身が焦げ、原形を留めていなかった。
一頻り涙した後、ヴォレットは残っている未だ子供を抱きかかえるその左手にそっと手を重ね、黙祷を捧げた。
「カミュ、よく、守って……くれました。安らかに……とはまだいきませんが、この惨状が収まったら、あなたの故郷に一緒に行きましょうね?」
震える唇を動かし、声に出してカミュに話しかける。
そして、意を決したように立ち上がり、体の節々が痛むがそんなことは関係ない、そう言い聞かせ、禁止魔道具庫の方へ戻る。
「皆優しいお方でした……皆支え合って、なんの隔たりもなく幸せに生きてきた……そんな方達がこんな目にあっていいはずがありません……」
ヴォレットは禁止魔道具庫の崩壊した入口にたどり着き、先ほど近くに落ちていた禁止魔道具の一つ、魔銃を手に取り、腰に据える。
「せめてこのメイド長、いや、代理王女、ヴォレット・B・オワゾニア……皆様の安らぎのために、根源を打ち破るので……待ってて……ください」
そう意気込んだ直後、遠くで見覚えのある炎の柱が見えた。
「あれは……まさか……シャリオン様……!?」
気付けば走っていた。足を上げる度に噴き出る血をよそにおいて。
「シャリオン様!お待ちして―――」
城を飛び出し、城下町の北門までたどり着いたところでその名を呼んだが、その声は虚しくも虚空に消え去り、代わりにシャリオンのうめき声が辺りに響き渡る。
「シャリオン様……!そんな、あの子供か……!」
すかさず腰に据えていた銃を取り出し、標準をその子供に向ける。
「カミュを……いえ、大勢の人をよくも……」
「お兄様!ゲノ!この……!」
標準を合わせ、引き金を引こうとした時、横からオリヴィアの声がする。
そしてそのすぐ後ろからは……
「お嬢様の相手は私……ですよ」
オリヴィアの顔を掴もうと広げられた手から魔力が込められているのがわかった。
ヴォレットは自身の魔力こそ少ないものの、その分他者から発せられる魔力には敏感になっており、探知が容易なのだ。だからこそ魔具の存在にも気付けたのである。
すぐに今最も危険な状態にあるオリヴィアを守るべく、標準をゲノからオリヴィアに向けて魔法を発射しようとしているゲノより少し背の高い青年に切り替え、一切の迷いなく引き金を撃った。
結果、その弾の効果はわからないが、青年の手首に着弾し、消滅させた。
「あ、う、撃って……しまった……もし、少しでも外れてたら……いや、今はそんなことどうでもいい……守れて……よかった……」
そう安心したためか足に力が入らなくなり、しりもちをついてしまった。
ふとシャリオンとオリヴィアの二人の表情を見ると、何故だろうか、怯えているようにも、また警戒しているようにも見えた。
「ヴォレット……お前……なんで、それを使える……?」
「ヴォレット……?あなたなのですか?なんで……そんなものを……いえ、でもそんなはずは……」
守ったと思っていた相手の表情は、恐怖という感情が更に浮き出ていた。
それはまるで、ありえないものを見るかのような、そんな目であった。
「なんで……怯えるのですか……?私……なにか―――」
しましたか?そう言い終わる前に、ヴォレットはわからないという恐怖を前に、口を噤んだ。
「ねぇ!ロコの、ロコの腕ぇ!返してぇ!?」
ゲノは先までシャリオンの手を踏みつけていた足を上げ、ヴォレットにとびかかる。
「……」
「抵抗しないのか……まぁいいや、闇氷魔法・冷酷者」
「ヴォレット!」
(何が正解なのでしょうか……わからない、なんで、守れたのに……あんな顔を……)
「でも……」
ゲノの氷の鞭がヴォレットに迫ると同時にヴォレットは銃をゆっくりと構える。
鞭がヴォレットの銃を狙い定め、破壊せんとした時、あれほど人肉を易々と引き裂く強度の鞭が銃の輪郭に沿って消えた。
「でも、守れたという、事実はあります」
「ゲノ!」
ロコが叫びこちらに走ってくるが、ヴォレットは不思議なくらいに落ち着いていた。まるで本人の意思に反して魔銃がヴォレットの手を導いているかのようにそのまま狙いをピタリと正確に額に当て、ゆっくりと引き金を引く。
その弾はゲノの額を何の引っかかりもなくただ真っ直ぐに貫いた。本当は貫いてなどおらず、ただ通り過ぎただけではと疑うほど、真っ直ぐに。
「――――――ッ」
ふと上を見るとロコが飛び上がりヴォレット目掛けて蹴りを入れる。
腕と接触するその瞬間に膨大な魔力が圧縮されたことに気付いたヴォレットは身を仰け反らせていなし、後退した。
「まだ、守らないと……」
ヴォレットは再度標準を合わせようとした時、違和感を覚えた。
「ゲノ……おい、ゲノ……起きろ、朝……だぞ……おい、いつもの人形をバカに、しないのか、今回だけは……許してやる、おい……」
ロコは銃口を向けられていることをよそにゲノを抱え上げ、静かに語りかけていた。
その背中はヴォレットには「いつでも殺してくれ」と言っているように感じ、微かな怒りと、同情が芽生えた。
「あんなに、殺したくせに……!」
「ヴォレット……落ち着け……」
「シャリオン様……!」
怒りに任せ引き金に指を置くと、後ろからシャリオンが肩を掴み、静止させた。
「なぜです!あいつは……あいつらは……!」
「わかってる、でも……おそらく、あいつら、家族だろ」
「だから……なんです?まさか、同情してるんですか……?」
それを聞くとシャリオンは少し目を伏せ、静かに応える。
「まぁ、それに近いのかもな、やっぱり、悲しいよ……家族が、いなくなるのは」
なぜだろう、シャリオンの目からは、同情とはまた違う何かをヴォレットは感じた。
「シャリオン様……まさか、そのような経験が?」
「まぁ、そんなとこだ」
そんな話をしているとロコが額に穴の開いたゲノを丁寧に持ち上げ立ち上がる。
それに反応してヴォレットはシャリオンの静止の手を払いのけて思わず引き金を引く。
「…………懸命だな」
一言、静かにロコがそういうと片腕が紫色の炎に染まり、防御を図るが着弾箇所の炎がまるでコンクリートのように砕け、ロコの脇腹を貫く。
「―――ッ……やはりか……」
一瞬苦悶の表情を浮かべた後地面を蹴り、炎の軌跡を残して空の彼方へと消えた。
「逃した……!」
「いや、多分だけどあいつはもう襲ってこないよ……そう、思う……よ」
なんでわかるんですか。そう聞こうとしたとき、ドサッと音がした。
シャリオンが倒れたのだ。それはそうだろう、肩を抉られ血も大量に失い、右手も完治するかわからないほどに骨を折られたのだから意識を失うのも無理はないだろう。
「シャリオン様!大丈夫……ではないですよね、すぐに応急処置を……ひとまず安全なところへ……」
言いながら負傷していない方の左腕を肩に回し慎重に体を持ち上げる。
「アリアドネ様も重体です。横になれる場所はありますか?」
「―――!はい、案内します……」
アリアドネの悲惨な状態を見て一瞬言葉に詰まったが、無理やり冷静さを取り戻し、ヴォレットが目を覚ました場所である禁止魔具庫に案内した。
「あの、オリヴィア様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいですよ。なんでしょう?」
ヴォレットが道中オリヴィアにずっと頭から離れない疑問を言う。
「なぜ、私があの魔具を、魔銃を扱ってる姿を見て怯えておられたのですか?」
言うとオリヴィアは少しの間沈黙し、申し訳なさそうに口を開く。
「えぇ、そうですわね、あなたにはもう言うしかないですわね」
オリヴィアは意を決したように慎重に口を開く。
「その魔銃、いえ、正確には消滅の銃は、撃った対象全てを消滅させる、無限の銃なのです」
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