第二十三話 デメリット
「は?処刑場で殺すって……なんでだよ……!」
リョウマが半ば突き放すようにアルムに言った。
アルムはその反応に少し怒りを覚えるもすぐに冷静な表情に戻り、考える仕草をする。
「ん~、困りましたぁ……こんなにバカな人間は私ぃ、初めてですぅ」
数秒考えた後、あ、そうだと何か閃いたように人差し指をピンと立てた。
「この際だから教えて差し上げますわぁ」
「くっ……」
アルムが考えているその数秒の隙を見てリョウマは節々の痛みを堪え走り出す。
が―――
「通すとでも?」
突然目の前に現れたのはフードを被った大柄な男性であった。
「お前……誰だ!どけ!」
「…………」
男性がちらとアルムの方を見やり、頷く。
「さっさと―――」
リョウマが言いかけたその瞬間、視界が真白に、否真っ黒の方が正しいだろうか?とにかく、一瞬にして目の前が見えなくなり、気付くと先ほどリョウマが蹲っていた壁に再度体を轟音と共に打ち付けていた。
「く……はっ……な……んだ……」
コツコツと誰かが歩いてくる。恐らくアルムだろう。
「いぃいぃですかぁ?殺されてないだけぇましと思ってくださいぃ?」
額に青筋を浮かべながら血だらけになったリョウマの目の前に来てしゃがみ、顔を覗くようにして言う。
「あ、でももう死んでるぅ?きひゃ……きひゃひゃ」
「カハッ……」
「なぁんだ、つぅまんないの」
アルムは残念そうにわざとらしく肩を落とし、まぁいいやと自分に言い聞かせながらリョウマの両頬を持ち上げる。
「死ぬか、聞くか、どっちぃ?」
笑顔に言ったアルムだが、その言葉一つ一つに重みが感じられた。どうやら冗談ではないらしい。
「き、聞いて、や……るよ……」
その返答に満足したのかアルムはにこっと笑い頬を支えていた手を放し立ち上がる。
「では話を戻しますがぁ、つまりね?あなた自身の株という信用がこれぽっっちもないんですぅ、ま、先の皆々様の反応を見ればバカなあなたでもわかるでしょうが……」
「ゲホッ……あぁ」
堪えられず吐血したリョウマを見て苦い顔をしながら話を続ける。
「そこで寛大な私は考えたんです、チャンスを与えて差し上げようと……そしてその方法が、というよりこの方法しかもう残されていませんが……この国にある、世界に一つだけの殺しが許される場所、それが処刑場……そしてこの国の長であるあなたが咎人である玲を殺すとなると……まぁそれはそれは名声も株も爆上がりでしてよ?信頼も取り戻せますわぁ……きひゃひゃ……」
「お前……」
未だ立ち上がろうとするリョウマを見て、即座に近づき、長い爪を首元に当てる。
「立ち上がんなよ」
アルムはリョウマの耳元で今までの声とは裏腹に、脅すように低い声で言った。
その間にも爪が首に少し沈み、血が滴り落ちる。
「くっ……」
流石に抵抗は無駄だと悟ったのか、その腰を力なくその場に落とした。
「いいですわねぇ、さ、どうしますぅ?ここで私が玲を消してやってもいいんですがぁ……それだとあなたがこの先ずぅっと皆の信用を失ったままになっちゃいますぅ……」
「なぜそこまで……俺の信用を取り戻させたいんだ?」
そういうとニッコリと笑って見せた。
「簡単です。その方が、この国を潰せそうだから……ですぅ」
「あ?潰す?」
「そう、潰すの……あ、でも国を乗っ取るとかそんなつっまんないことじゃないですよぉ?あなたの信用がなくなり、混乱に陥ったところを……潰す……そうなると瞬く間に地図からこの国の名前は消えるでしょう……でもあなたが見事信用を取り戻しさえすれば、それを防げます~。こっちの方がゲームっぽくて楽しくないですかぁ?」
リョウマはその言葉に疑問を感じ、絶え絶えの息を無理やり落ち着かせ問う。
「なぜそんなことをする」
「そんなの決まってます。この国はつまんないからです。あ、いや違うか、つまんなくなりそう……のほうが正しいですかねぇ」
「つまらない?」
リョウマが訝し気な顔で聞くと、アルムは吹き出した。
「ぷっ……きひゃははは!あなた面白いですわねぇ、そう、つまらないの……とても……だってそうじゃない?国って、殺し、それを粛清し、初めて平和が訪れる……でぇもぉ……殺しや犯罪が一切ない今この状況って、本当に平和といえるのでしょうか?」
「どういうことだ」
「簡単なことです。数十万といるこの国で、誰も自分の欲を抑え、罪を犯していないだなんて……普通ならありえないですわよね?しかも、平和があるのなら……その反対も、ある必要があるんですよぉ……」
リョウマはそれを聞いて少し動揺したが、すぐに首を横にふった。
「それは違うだろう、何も罪が起きていないなら、誰も傷つかないのなら、それは平和だろう……」
「まるで思想家ですわね」
アルムは目を細め、何か考え込むように俯いた。
「では何が……平和なのでしょう?何か最悪なことがあって……それを打ち消す何かがあるからこそ人は、初めて平和を実感する……人って、そういうものなんです。ほら、人って、先にデメリットを言われた後、メリットを言われた方がその物の価値は上がりますわよね……」
アルムがさらに近づき、リョウマの耳元で囁く。
「この国には……デメリットがないんです……だから作る……」
溜息をつき、リョウマの体から離れたアルムは、再度にっこりと笑った。
「なら、この国に、最大のデメリット……というものを作り、それを正当化した上で潰す……最高のシナリオですわぁ……」
「デメリットを作る……?」
リョウマが重たい首を持ち上げる。
「気になる?気になるわよねぇ?」
「は?」
アルムは興奮したようにその身を震わせ、強引に話を続ける。
「そのデメリットってのはねぇ?あなたが最初の本当の咎人になることですわぁ!あなたが玲という偽の咎人を庇うことで、今までもそうやって隠ぺいしたのではと……皆は思いますよねぇ?するとどうでしょう、それを粛清した私の株が上がり、支持される……」
リョウマは背筋が凍った。
「罪など、隠ぺいしていない……!」
「えぇえぇ、わかってますわよぉ、本当にこの国は安全で、罪など本当に一切起きたことがないって……」
「ならどうして……!」
「だから言ったでしょう?つまらないって……何も起きない国?平和の国?反吐がでますわ。外では常に罪が起きているのに……のほほんと生きて……腹が立つんですわよねぇ」
リョウマはその言葉に少し苛立ちを覚えた。
「平和の何が悪い……なんでお前の思想のためだけにわざわざ犠牲にならなくちゃならない……!」
アルムは人差し指を顎にあて、少し考えるフリをした後、怪しげな笑みを浮かべる。
「理由は他にもあるんですよぉ?」
「は?」
「碓氷玲……彼を殺し、魔剣を奪うの……そして、真の平和、犯罪あっての平和を作るのぉ」
狂ってる……リョウマはそう思った。何も起きていないところに、わざわざデメリットを作るなんて……
それにやはり玲が狙いだった。それはそうだろう、魔剣というものは半魔剣の完全体。それにあんな威力を簡単に打てる。デメリットに固執しているアルムにとっては喉から手が出るほど欲しいものだろう。
どうやってそれを用いての平和を実現するのかはわからないが、玲に近づかせるのだけはダメだということはわかった。
「一頻り話して疲れたぁ……もう少し話したかったけど……ってあれ、玲は?」
首をコキコキと鳴らしたアルムは不意に違和感に気付き振り返ると先程までそこに蹲っていた玲がいなくなっていた。
「はぁ?おい、見てなかったのぉ?」
「一応見ていたつもりでしたが……申し訳ありません」
フードを被った大柄な男性にアルムが問い詰める。
「……チッ、まぁ、いいですわぁ、イラついたついでに、いいこと教えてあげる」
アルムがリョウマに不意にそんなことを言う。
「なんだ」
「じ・つ・はぁ、平和すぎる国ってぇ、ここ以外にもあるのよぉどこかわかるぅ?ねぇわかるぅ?」
リョウマの頭の中には疑問符でいっぱいになった。
なんだ、急にそんなことを……知るわけがない……いや、わざわざ聞いてきたということは知っている場所……
「―――ッ!」
「きひゃひゃひゃ!気づいた!?ねぇ!?気付いたんでしょぉ!?きひゃひゃひゃひゃ!」
「まさか……そんな……」
「そのまさかですわよぉおおおお!ずっと、つまらなくって、仕方なかったんですもの……これを機に……私好みにして差し上げますわぁ……」
そういうとバッと振り返り、人差し指を前に突き出し、手を拳銃のような形にし、魔力を込める。
「えいっ♡」
すると目の前が突然爆発し、砂埃が舞う。
「クソッ……」
砂埃がはけて見えたのは、玲を庇っているシュシュであった。
今まで見えてなかったのはおそらくシュシュ自信の魔法のおかげなのだろう。
「レイ様!逃げます!」
シュシュもばれたことに気付き、急いで玲の手を自分の肩に回し、二人三脚で逃げる。
「まてまてぇ~あ、リョウマのおバカさんはそこにいてね~」
すると同じように手を拳銃の形にし、詠唱無しで魔法を放つと、すでに穿っていた壁がリョウマもろともさらに凹み、轟音と共に爆発した。
「ガハッ!?……ゲホッ……ア、アリアドネ……さ……ん……」
その言葉と共に、ついには意識を失った。
アリアドネ達がカーロス国を出て三日。ついにアリアドネ国門前にたどり着いた。
だが、何かがおかしい。
「…………なんじゃ、これは……」
「…………一体何が……門も開け放たれたままです」
「災害があったってわけでもなさそうだな……」
門は開け放たれ、家は燃え、人が死んでいる。
アリアドネ達は、内心穏やかじゃないものの、状況を一早く整理しようと試みる。
「―――ッ!誰じゃ!」
荒れ果てた城下町を歩いていると、不意に異様な空気を感じ、振り向く。
「ヤッホ~、遅かったねぇ人質にしてたんだけどぉ、ほぼ一か月たったからさぁ?退屈で……殺しちゃった☆」
「汚いな……全く、早く来てくれればこんなことにはならなかったのに」
アリアドネの目線の先には、目と口の下にメイクなのだろうか、はたまた、今付いたものなのか、血のようなものが塗られており、アリアドネよりは少し背が高いぐらいの子供が燃えている家の屋根に座っていた。そしてその後ろに人形を手に抱え、頭の上にも熊のような人形をのせている青年らしき人物もそこに立っていた。その青年は何故か目の下と、口の両端を糸で縫われている。
「こんな人、見たことないですね。雇った覚えも、入国も許可した覚えないです」
「……何者じゃ…………!」
アリアドネが平然を装いその謎の人達に向かって静かに、しかし一言一言に怒りを込めて問う。
「え~言わなきゃだめ~?」
「言ってやれ、それが礼儀ってものだ。……無論、今から死ぬ者に対しても、それは必要だ」
青年にそう言われた子供は、諦めたように俯き、渋々立ち上がる。
「僕はゲノ・スケローイで~す」
「俺はロコ・ボッカだ」
アリアドネは怒りを何とか抑え、再度問う。
「何しに、来たんじゃ……殺戮か?それとも支配か?……言え……!」
「目的、かぁ……そうだなぁ……」
そう言いながらゲノは地面を蹴り、一瞬にしてアリアドネの顔の横に移動し、囁くように答える。
「僕たちは……『真の平和』を作るために……来たんだよ♪」
それを聞くや否や、アリアドネの視界は真っ黒に染まった。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第二十三話、いかがでしたでしょうか??
よければコメントやブクマお願いします!してくれたら作者が飛んで喜びます!
「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




